定期報告制度と、点検結果を改修に繋げる考え方
学校が建築基準法上の特殊建築物であることは、改修の場面で何度も効いてきます。用途変更の確認申請、内装制限、避難規定、そして定期報告制度。
このうち定期報告制度は、改修の入口として機能します。点検で不具合が見つかれば、それが改修の根拠になるからです。
ただし、この制度は公立と私立で根拠条項が違います。ここを取り違えると、対象なのに未実施という状態が生まれます。
この記事では、学校における定期報告制度と、点検結果の使い方を整理します。
目次
特殊建築物としての学校
建築基準法上の特殊建築物には、学校・体育館、病院、診療所、老人ホーム、児童福祉施設等、劇場、公会堂、集会場、公衆浴場、旅館、ホテル、共同住宅、寄宿舎、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツの練習場などが含まれます。
不特定または多数の人が利用する建物であるため、一般の建築物より厳しい規定が適用されます。
改修に関わる主な場面は次のとおりです。
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 用途変更 | 特殊建築物への用途変更で200㎡超なら確認申請が必要 |
| 内装制限 | 用途と規模に応じて内装材に制限がかかる |
| 避難規定 | 廊下幅、階段、排煙、非常用照明などの要件 |
| 防火区画 | 異種用途区画を含む区画の要件 |
| 定期報告 | 一定の用途・規模で調査・検査と報告が義務 |
定期報告は公立と私立で根拠が違う
ここが実務で最も混乱する点です。
私立学校
私立学校、学校法人が所有する校舎は、原則として民間建築物側の定期報告制度を検討します。
建築基準法第12条第1項または第3項の対象に該当する場合、法令で定められた資格者による調査または検査を実施し、所管の特定行政庁へ報告します。
公立学校
国、都道府県または建築主事を置く市町村が所有または管理する特定建築物では、建築基準法第12条第2項や第4項に基づき、管理する機関の長などが資格者に定期点検をさせる仕組みが関係します。
公立の場合、外部の特定行政庁への定期報告書の提出という形にならないことがあります。しかし点検義務がないわけではありません。
一定の用途・規模を満たす公共建築物については、建築物、建築設備及び防火設備の劣化状況等の定期点検が義務づけられており、建築物の管理者または委任を受けた者は、定期に一級建築士等の資格を有する者に、損傷・腐食・劣化等の点検をさせなければならないとされています。
判断を誤りやすいポイント
公立学校だから必ず対象、あるいは行政への定期報告をしていないから対象外、という判断は避けてください。
確認すべきは、所有主体、管理主体、学校用途部分の面積、建築主事の設置状況、対象設備です。
また、建物を借りて運営している学校では、契約上、借主が点検費用や報告手続きを負担することがあります。ただし契約書に役割分担が記載されていても、それだけで建築基準法上の責任主体が自動的に置き換わるとは限りません。
行政からの通知の宛名だけで決めず、所有者・管理者・施設運営者の関係を整理し、誰が資格者へ依頼し、誰の名義で報告し、誰が是正を実施するのかを明確にしてください。
点検と報告は別物
定期点検は調べること、定期報告は行政に伝えることです。
点検をしただけでは足りず、報告までして初めて法令遵守になります。報告がなければ未実施と同じ扱いになります。
点検会社が行うのが点検であり、報告責任は所有者・管理者側にあります。
なお昇降機及び遊戯施設については、建築物の用途・規模に関わらず点検の対象になります。エレベーターを設置している校舎は、規模にかかわらず対象です。
点検項目は改修の起点になる
点検の対象は建築物、建築設備、防火設備に分かれます。建築物の内部では、防火区画、壁、床、天井、防火設備、照明、懸垂物、警報設備などが対象です。建築設備としては、換気設備、排煙設備、非常用照明装置、給排水設備などがあります。
ここで指摘された不具合は、そのまま改修の優先順位になります。
学校施設では、外壁タイルやモルタルの落下など、老朽化等に起因する事故や不具合等が相当数発生しており、その発生状況を見ると必ずしも維持管理が適切に実施されているとは言えない状況であると、文部科学省が通知の中で指摘しています。会計検査院報告でも、公立学校施設の維持管理の状況について指摘を受けたとされています。
つまり、点検で不具合が把握されていても改修に繋がっていない、という状態が全国的に起きています。
点検結果を予算要求に使う
改修の予算を通すとき、劣化の主張だけでは弱いことがあります。定期点検の指摘事項として記録されていれば、客観的な根拠になります。
改修計画を立てる際は、次の順序が有効です。
- 直近の定期点検・定期報告の指摘事項を整理する
- 未是正のまま残っている項目を洗い出す
- それらを改修計画の優先順位に組み込む
- 同じ部位を触る工事をまとめる
現況調査を新たに実施する場合も、点検記録があれば調査範囲を絞れます。調査の内容と費用は現況調査の費用(K901)で解説しています。
消防法の点検は別にある
建築基準法の定期報告とは別に、消防法に基づく点検があります。
消防法第17条第1項及び第17条の3の3の規定により、全ての学校の管理者は、消防用設備等が消火、避難等の消防活動に必要な性能を有するように設置するとともに、消防用設備等または特殊消防用設備等について、有資格者等による点検を定期に実施し、その結果を消防長または消防署長に報告することが義務づけられています。
こちらは全ての学校が対象です。建築基準法の定期報告の対象外であっても、消防法点検の義務はあります。
報告を怠った場合
建築基準法の定期報告を怠る、あるいは偽ると、建築基準法第101条の罰則規定の対象になります。100万円以下の罰金処分、督促状の送付、建築物の所有者・管理者が損害を賠償することが定められています。
外壁タイルの落下などで人的被害が生じた場合、点検・報告を怠っていた事実は責任の重さに直結します。
学校施設の維持管理という位置づけ
文部科学省は、学校施設は児童生徒等の学習・生活の場であるとともに、非常災害時には避難所として地域住民の避難生活の拠点としての役割も担うものであるため、日常のみならず災害時においても十分な安全性・機能性を有することが求められるとしています。
建築当初には確保されている性能も、経年劣化等により必要な性能を満たさなくなっているおそれがあることから、学校施設の管理者は当該施設が常に健全な状態を維持できるよう、適切に維持管理を行っていくことが必要とされています。
定期報告制度は手続きですが、その目的は事故の防止です。点検を通過することではなく、指摘を是正することに意味があります。
よくある質問
Q. 公立学校は定期報告の対象ですか。 A. 所有主体、管理主体、学校用途部分の面積、建築主事の設置状況、対象設備によって変わります。国、都道府県または建築主事を置く市町村が所有・管理する特定建築物では、第12条第2項や第4項に基づく定期点検が関係します。所管の特定行政庁にご確認ください。
Q. 私立学校はどうなりますか。 A. 原則として民間建築物側の定期報告制度を検討します。建築基準法第12条第1項または第3項の対象に該当する場合、資格者による調査・検査を実施し、所管の特定行政庁へ報告します。
Q. 校舎を借りて運営しています。誰が報告しますか。 A. 契約書の役割分担だけで建築基準法上の責任主体が置き換わるとは限りません。所有者・管理者・運営者の関係を整理し、誰が依頼し、誰の名義で報告し、誰が是正するかを明確にしてください。
Q. 点検さえすればいいですか。 A. 報告までして初めて法令遵守になります。点検のみでは未実施と同じ扱いです。
Q. 消防の点検とは別ですか。 A. 別です。消防法第17条第1項及び第17条の3の3に基づく点検は、全ての学校の管理者に義務づけられています。
Q. エレベーターだけの校舎も対象ですか。 A. 昇降機及び遊戯施設については、建築物の用途・規模に関わらず点検の対象になります。
まとめ
- 学校は建築基準法上の特殊建築物。用途変更、内装制限、避難規定、防火区画、定期報告が関わる
- 定期報告制度は公立と私立で根拠条項が異なる。公立は第12条第2項・第4項、私立は第1項・第3項が関係する
- 公立だから対象、報告していないから対象外という判断は誤り。所有主体・管理主体・面積・建築主事の設置状況・対象設備で判断する
- 点検と報告は別。報告までして初めて法令遵守になる
- 昇降機及び遊戯施設は用途・規模に関わらず点検対象
- 学校施設では外壁タイルやモルタルの落下など老朽化に起因する事故が相当数発生している
- 点検の指摘事項は改修の優先順位づけと予算要求の客観的根拠になる
- 消防法に基づく点検は別途あり、全ての学校の管理者が対象
光建舎にご相談ください
光建舎は教育施設の改修を専門とする建築会社です。グループ内に一級建築士事務所(ウイングスペース)を擁し、調査・設計・施工・工事監理までを一貫して対応しています。点検の指摘事項を改修計画に落とし込むところからご相談いただけます。
関連記事
- 用途変更の確認申請は200㎡から(K204)
- 検査済証がない校舎の改修(K206)
- 学校の増築と既存不適格(K216)
- 現況調査の費用(K901)
- 改修の進め方(K296)
参考・出典
- 建築基準法第12条、第101条
- 文部科学省「学校施設の維持管理の徹底について(通知)」(消防法第17条第1項及び第17条の3の3に基づく点検義務、外壁タイルやモルタルの落下など老朽化等に起因する事故や不具合が相当数発生、会計検査院報告における公立学校施設の維持管理に関する指摘、避難所としての役割) https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/maintenance/1369028.htm
- 札幌市「建築基準法(建築基準法第12条)における定期点検について」(一定の用途・規模を満たす公共建築物の定期点検義務、一級建築士等の資格者による点検、昇降機及び遊戯施設は用途・規模に関わらず対象、特殊建築物の範囲、点検項目) https://www.city.sapporo.jp/keizai/kanko/shiteikanrisya/documents/31sankousiryou5kentikukijyunhou.pdf
- 国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」
※記載の制度は公表時点のものです。定期報告の対象・報告先・頻度は特定行政庁により異なります。最新情報は所管の特定行政庁にご確認ください。
学校施設のご相談
株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00