「地域の学校を統廃合ではなく残したい。でも、小規模校のままで教育の質は保てるのか」「複式学級や少ない学級数のデメリットに、どんな手を打てばよいのか」——学校の適正規模・適正配置の検討を進めるほど、自治体のご担当者はこうした問いに突き当たります。
学校統廃合は選択肢のひとつであって、結論そのものではありません。文部科学省の手引も、統合と並んで「小規模校を存置する場合の充実策」を検討することを明確に位置づけています。本記事では、小規模校を残すと判断した場合に取り得る充実策——複式学級への対応、ICTを活用した遠隔・合同授業、小中一貫・学校間連携、地域との協働——を、文部科学省の一次資料をもとに整理し、それらを成り立たせる「施設側の対応」まで踏み込みます。全国で学校・教育施設の改修や統廃合の上流支援に携わってきた当社の現場知見も交えました。存置か統合かの比較でお困りでしたら、小規模校の存置・充実策と施設対応について光建舎に無料で相談することもできます。制度・法令に関する記述は2026年7月時点の公表情報にもとづきます。
目次
小規模校を存置するとは?統廃合しない選択肢の基本
小規模校の存置とは、児童生徒数が少ない学校を統廃合せずに残し、小規模であることのメリットを最大化しつつデメリットを最小化する工夫を計画的に講じて教育環境を維持・充実させる選択のことです。 これは統廃合の「対極」ではなく、同じ検討プロセスの中で必ず比較される、もうひとつの正当な選択肢です。
文部科学省の「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引~少子化に対応した活力ある学校づくりに向けて~」(平成27年1月27日)は、市町村教育委員会が「学校統合の適否又は小規模校を存置する場合の充実策等」を検討する際の基本的な方向性をまとめたものです。つまり国は、統合か存置かの一方を推奨しているのではなく、地域の実情に応じて両方を土俵に載せて考えることを求めています。
とくに手引は、山間へき地や離島といった地理的要因や、学校が地域コミュニティの存続に決定的な役割を果たしている地域について、小規模校を存続させることが必要と考える市町村の判断も尊重される必要があると明記しています。ただしその場合は「学校が小規模であることのメリットを最大化するとともに、具体的なデメリットをきめ細かく分析し、関係者間で十分に共有した上で、それらを最小化するような工夫を計画的に講じていく必要がある」とされています(出典:文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」平成27年1月27日)。
存置は「何もしない現状維持」ではなく、充実策をセットで設計する責任を引き受けることです。統廃合の全体像を先に押さえたい場合は、関連記事「学校統廃合とは」や「学校統廃合のメリット・デメリット」もあわせてご覧ください。
【類型表】小規模校を存置する場合の充実策6つの型
小規模校の充実策は、手引の第4章「小規模校を存続させる場合の教育の充実」を軸に、大きく6つの型に整理できます。 手引はこれらを「メリット最大化策」と「デメリット緩和策」に分けて示しています。まず全体像を表で押さえましょう。
| 型 | 充実策の方向性 | 主な手立ての例 |
|---|---|---|
| ① 少人数を生かす指導 | 小規模のメリットを最大化 | きめ細かな個別指導、複式学級の指導技術の向上、リーダー経験・発言機会の確保 |
| ② 特色あるカリキュラム | 小規模のメリットを最大化 | 地域資源を生かした学習、教育課程特例校制度の活用、小規模特認校制度による通学希望の受け入れ |
| ③ 学校間連携・交流 | 社会性・多様性のデメリットを緩和 | 近隣校との合同授業・合同行事、学校訪問による交流、ICTを活用した児童生徒の交流 |
| ④ ICT・遠隔教育の活用 | 多様な指導・専門性のデメリットを緩和 | 遠隔合同授業、遠隔教育特例制度による受信側の指導、専科・多様な科目への対応 |
| ⑤ 小中一貫・小中連携 | 集団規模・接続のデメリットを緩和 | 義務教育学校・小中一貫による児童生徒数の確保、異年齢交流、中1ギャップの緩和 |
| ⑥ 地域との協働 | 地域の核としての機能を維持 | コミュニティ・スクール(学校運営協議会)、地域学習、地域による学校支援 |
これらはどれか一つを選ぶものではなく、地域の条件に合わせて組み合わせるものです。そして6つの型はいずれも、最終的に「校舎という器がその教育活動に対応できているか」という施設面の問いにつながります。次章以降で、実務上とくに論点になる型を順に見ていきます。
複式学級への対応——少人数を生かす指導と学級編制の基準
小規模校を存置するうえで最初の論点になるのが複式学級への対応です。 複式学級とは、児童生徒数が少ない場合に複数の学年を1つの学級に編制した学級のことです。
法令上、複式学級となる基準は決まっています。公立義務教育諸学校の学級編制の標準(いわゆる義務標準法)では、複式学級の1学級あたりの標準は、小学校が2個学年で16人以下(第1学年を含む場合は8人以下)、中学校が2個学年で8人以下とされています(出典:公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律第3条)。この人数を下回る学年が生じると、隣接学年と合わせて複式学級を編制することになります。
手引は、複式学級では直接指導(教員が子どもと直接関わる指導)と間接指導(子どもだけで学習を進めさせる指導)を組み合わせ、複数学年を教員が行き来しながら指導する必要があるとし、次のような課題を挙げています。
- 教員に特別な指導技術が求められる
- 複数学年分・複数教科分の教材研究や指導準備が必要で、教員の負担が大きい
- 単式学級と指導順が異なる場合、転出時などに未習事項が生じるおそれがある
- 実験・観察など長時間の直接指導が必要な活動に制約が生じる
一方で手引は、学級規模が小さいこと自体には、きめ細かな指導がしやすい、活動のリーダーを務める機会が増える、発言の機会を多く確保できるといったメリットがあることも示しています。存置の場合の充実策は、このメリットを伸ばし、複式指導の負担というデメリットを緩和する方向で設計します。具体的には、複式学級の指導技術に関する現職研修の充実や、独自の加配措置による単式学級の維持などが、全国で行われている工夫として整理されています。
なお手引は、小学校で1〜5学級、中学校で1〜2学級を「複式学級が存在する規模」とし、これらは一般に教育上の課題が大きいため統合等の適否を速やかに検討する必要がある一方、地理的条件等で統合が困難な場合は小規模校のメリットを最大化しデメリットを緩和する方策を積極的に検討・実施する必要があるとしています。適正規模の考え方の全体像は、関連記事「学校の適正規模・適正配置」で解説しています。
ICTを活用した遠隔・合同授業と学校間連携
社会性や多様性の確保という小規模校のデメリットに対して、いま最も現実的な打ち手が学校間連携とICTの活用です。 手引は、小規模校のデメリット緩和策として、他の学校と定期的に互いの学校を訪問して合同の活動を行ったり、ICTを活用して児童生徒の交流を行ったりするなど、学校同士の交流活動を積極的に行うことを示しています。近隣の小学校同士による合同授業・合同行事(いわゆる小小連携)は、集団の中で多様な考えに触れる機会を補う代表的な方法です。
さらに、対面での交流を補うのがICTを活用した遠隔授業です。中学校等については、令和元年8月から、一定の基準を満たすと文部科学大臣が認める場合に、受信側の教室に相当免許状を持つ教員がいなくても遠隔授業を行うことを可能とする「遠隔教育特例校制度」が設けられました。その後、令和6年4月からは、学校現場の創意工夫がより発揮され柔軟に実施できるよう、大臣による指定を不要とすることなどを内容とする制度改正が行われ、「遠隔教育特例制度」として運用されています(出典:文部科学省「遠隔教育特例制度」、学校教育法施行規則第77条の2)。
遠隔授業は、教職員数が限られる小規模校で専門性の高い指導や多様な学びの機会を確保する手段として期待されています。ただし「つなげば成立する」ものではありません。安定した通信環境、大型提示装置やカメラ・マイク、児童生徒用端末が教室にそろって初めて日常の学習活動として定着します。制度と機器と教室環境の3つがそろうことが前提になる点は、施設面の検討でも重要です。
小中一貫・学校間連携で集団規模を確保する
児童生徒の集団規模そのものを広げる充実策が、小中一貫教育や学校間の接続の高度化です。 手引は、地域の児童生徒数が少ない場合、小学校段階と中学校段階を一体的に捉えて一定の児童生徒数を確保することにより、学校行事の活性化や多様な学習集団の編成、異年齢交流の機会の大幅な拡大が可能となり、社会性の育成や多様な考え方に触れる機会の確保に大きな効果が期待できるとしています。
制度面では、平成27年に学校教育法等が改正され、平成28年度から、小中一貫教育を9年間一貫して行う「義務教育学校」が制度化されました。修業年限は9年で、6年+3年にとらわれない柔軟な教育課程の編成が可能です(出典:文部科学省「小中一貫教育の推進について」)。小規模化が進む地域では、小・中を一体的に運営して集団規模を確保し、いわゆる中1ギャップの緩和にもつなげる例が増えています。整備の施設面については、関連記事「小中一貫校・義務教育学校の整備」で解説しています。
あわせて手引は、特色を出す方法として、教育課程特例校制度を活用して現行の学習指導要領によらない教育課程を編成・実施することや、地域の文化・歴史・産業を生かした地域学習・ふるさと教育の充実も挙げています。存置する小規模校を「小さいけれど選ばれる学校」にする観点では、学校選択制を部分的に導入して域内のどこからでも通えるようにする小規模特認校制度も、手引が示す手立てです。
地域との協働——小規模校を「地域の核」として維持する
小規模校の存置は、教育の話であると同時に、地域コミュニティの核をどう維持するかという地域政策の話でもあります。 手引は、小・中学校が児童生徒の教育施設であるだけでなく、防災・保育・地域の交流の場など様々な機能を併せ持つ「地域コミュニティの核」としての性格を有することが多いと明記しています。
その中心的な仕組みが、保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)です。手引は、地域と学校が目標や課題を共有し、地域のニーズを学校の教育方針や活動に反映させることで、地域ならではの特色ある学校づくりにつながると位置づけています。地域住民が学校を支える体制ができれば、少人数だからこそ地域全体で子どもを育てるという小規模校の強みが際立ちます。
ここで見落とせないのが、地域との協働には「集まれる場所」が要る、という点です。地域開放を前提としたスペースや社会教育施設・福祉施設との複合化は、協働を器の面から支えます。つまり地域との協働という充実策は、次章の施設面の対応と一体で考える必要があります。
存置を支える施設面の対応——少人数対応の改修・ICT環境・地域開放
ここまでの充実策は、いずれも最終的に「校舎がそれに対応できているか」という施設面の問いに行き着きます。 どれほど優れた指導計画や連携の枠組みを描いても、教室環境が伴わなければ日常の教育活動として定着しません。存置を支える施設面の対応は、大きく次の3つです。
- 少人数・多様な学習形態に対応した改修——少人数指導、複式学級での直接指導と間接指導の並行、学級の枠を超えた集団編成に対応するため、可動間仕切りや多目的スペース、少人数教室への転用を視野に入れた改修が有効です。
- ICT・遠隔教育に対応した環境整備——遠隔・合同授業を日常化するには、安定した通信環境、大型提示装置、カメラ・マイク、端末の充電・保管環境を教室に整える必要があります。
- 地域開放・複合化に対応した施設づくり——手引は、施設の新増築・改修の際に地域開放を前提としたコミュニティスペースを設けることや、図書館・公民館などの社会教育施設、幼稚園・保育所等、福祉施設等との複合化を挙げています。
さらに手引は、校舎を新増築する方法だけでなく、なじみの深い既存校舎に近年の教育内容・方法へ適応する改修を施し、従来より長い期間有効活用する「長寿命化」の工夫も示しています。存置の充実策は、新築ではなく既存校舎を賢く直して長く使う発想と相性がよいのです。複合化や地域開放の具体像は、関連記事「学校施設の複合化・地域開放」でも扱っています。
在校生がいる環境での改修は、安全確保と工程管理が要になります。どの改修が本当に必要か、既存校舎で対応できるかを見極める段階でお困りでしたら、存置を支える少人数対応の改修とICT環境の実現性を光建舎の無料相談で確認する方法もあります。
小規模校を存置する場合の検討手順【7ステップ】
存置を選ぶ場合も、統合と同じ精度で検討プロセスを踏むことが、住民・保護者の理解を得る前提になります。 手引の考え方をもとに、実務の流れを7ステップで整理します。
- 現状と将来を可視化する——学級数・学校全体の児童生徒数・学年ごとの人数と将来推計を資料化し、複式学級の有無や発生見込みも確認します。
- 選択肢を並べる——統合、存置と充実、通学区域の見直し、小規模特認校制度など複数案を同じ形式で整理し、メリット・デメリットを示します。
- 存置した場合のデメリットを洗い出す——社会性・多様性の確保、複式指導の負担、教職員の専門性、部活動の選択肢など小規模ゆえの課題を列挙します。
- 6つの型から充実策を割り当てる——類型表を出発点に、地域の条件に合う手立て(学校間連携、ICT遠隔、小中一貫、地域との協働など)を組み合わせます。
- 施設面の対応を検討する——各充実策に必要な教室環境・ICT環境・地域開放スペースを洗い出し、既存校舎の改修・長寿命化で対応できるかを確認します。
- 概算費用と財源を確認する——改修や環境整備の概算と、活用できる国の補助・交付金の可否を早期に確認します。
- 住民・保護者と共有し修正する——検討委員会への地域・保護者代表の参画やアンケート・説明会を通じて、存置と充実の方針を共有し磨き上げます。
とくに5と6は、外から見えにくい部分の判断が結果を大きく左右します。検討の進め方全体は、関連記事「学校統廃合の進め方」や、専門家の関与を整理した「学校統廃合コンサルティング」もあわせてご参照ください。
よくある質問(小規模校の存置と充実策)
小規模校を残すことは、国の方針に反しますか
反しません。手引は、統合と並んで「小規模校を存置する場合の充実策」を検討することを明確に位置づけており、地理的要因や地域事情により小規模校を存続させることが必要と考える市町村の判断も尊重される必要があるとしています。ただし、その場合はメリットを最大化しデメリットを最小化する工夫を計画的に講じることが求められます(2026年7月時点)。
複式学級はどのくらいの人数で編制されますか
義務標準法では、複式学級の1学級の標準は、小学校が2個学年で16人以下(第1学年を含む場合は8人以下)、中学校が2個学年で8人以下とされています。この人数を下回る学年が生じると、隣接学年と合わせて複式学級を編制することになります。実際の運用は各都道府県・市町村の基準にもよります。
遠隔授業で他校とつなげば、教員が足りなくても授業は成立しますか
制度上は、令和6年4月の改正で、大臣による指定を不要とするなど遠隔教育の実施が柔軟化されています。ただし、遠隔授業には安定した通信環境や機器、受信側の運営体制が必要で、機器と教室環境が整って初めて日常的な学習活動として定着します。制度・機器・教室環境の3つをセットで準備することが前提です。
小規模校のままでも教育の質は保てますか
一律に保てる・保てないと言い切れるものではありません。手引は、実際に課題が生じるかどうかは地域や児童生徒の実態、教育課程や指導方法の工夫、教育委員会や地域・保護者からの支援体制など、学校が置かれた諸条件により大きく異なるとしています。充実策を計画的に講じられるかどうかが分かれ目になると考えられます。
存置を選んだ場合、校舎は建て替えが必要ですか
必ずしも建て替えが必要とは限りません。手引は、既存の校舎に近年の教育内容・方法へ適応するための改修を施し、従来よりも長い期間有効活用する長寿命化の工夫を示しています。少人数対応やICT環境の整備は、既存校舎の改修で実現できる場合が多く、現況調査で必要な範囲を見極めることが出発点になります。
まとめ——存置は「現状維持」ではなく「充実策の設計」
- 小規模校の存置は統廃合の対極ではなく、同じ検討プロセスで比較される正当な選択肢です。国の手引も「存置する場合の充実策」を明確に位置づけています
- 充実策は①少人数指導 ②特色あるカリキュラム ③学校間連携・交流 ④ICT・遠隔教育 ⑤小中一貫・小中連携 ⑥地域との協働の6つの型に整理し、地域の条件に合わせて組み合わせます
- 複式学級への対応、ICTを活用した遠隔・合同授業、小中一貫、地域との協働は、いずれも「校舎がそれに対応できているか」という施設面の問いに行き着きます
- 施設面の対応は、少人数・多様な学習形態への改修、ICT・遠隔環境の整備、地域開放・複合化の3つが柱。既存校舎の長寿命化改修と相性がよい選択肢です
- 存置を選ぶことは、充実策と施設対応をセットで設計する責任を引き受けることです(2026年7月時点で、国の手引は改訂の検討段階にあります)
存置か統合かの判断は、教育・地域・財政・施設の論点が絡み合う難しいテーマです。そして充実策の多くは、最終的に「校舎をどう直し、どう使うか」という施設の話に行き着きます。
光建舎は、全国で学校・教育施設の改修や大規模修繕、統廃合に伴う調査・計画・設計・施工の上流支援に携わってきました。在校中でも止めない安全・工程管理や補助金・交付金の活用支援も含め、少人数対応の改修・ICT環境整備・地域開放を前提とした施設づくりまで、自治体のご担当者に伴走します。小規模校を残す判断とその施設対応でお悩みでしたら、まずは光建舎の無料相談で存置の充実策と施設面の選択肢を整理するところから始めてみてください。