学校施設の大規模修繕とは?補助メニューの現在地と進め方を解説

まず、多くの自治体が把握しきれていない事実からお伝えします。

「大規模改造(老朽)」は令和4年度をもって廃止されました。

これは「建築後20年以上経過した建物の大規模改造で、建物全体の改修を行う事業」——つまり、老朽化した校舎をまとめて直すときの、最も基本的な補助メニューでした。それが無くなった。

「うちは大規模修繕で申請する予定」と考えている学校は、まず自分が使おうとしているメニューが現存するかを確認する必要があります。この記事では、大規模修繕の全体像を、補助制度の現在地から整理します。

「大規模改造(老朽)」廃止の意味

文部科学省は令和5年2月20日付の事務連絡で、「大規模改造(老朽)」「木の教育環境整備事業」「ラグビー競技を実施できるスポーツ施設の整備に関する事業」について、国庫補助時限(令和4年度まで)を延長せず廃止することを通知しました。

何が起きたのか

大規模改造(老朽)事業は、建築後20年以上経過した建物の大規模改造で、建物全体の改修を行う事業を指していました。経年により劣化・損傷・故障等が生じた内外装材や設備等を改修・更新するなど、建設当時の状態に戻すことを主な目的としていた事業です。

これが無くなった以上、老朽化対策の受け皿は長寿命化改良事業に一本化されたと理解すべきです。

文部科学省の方針は明確です。「従来のように建築後40年程度で建て替えるのではなく、コストを抑えながら建て替えと同等の教育環境を確保することができる長寿命化改修への転換が求められている」——制度の側から、そちらへ誘導しているわけです。

「元に戻す」から「30年使えるようにする」へ

ここが本質です。

区分目的現状
大規模改造(老朽)経年劣化した内外装材や設備を改修・更新し、建設当時の状態に戻す令和4年度で廃止
長寿命化改良事業構造体の耐久性向上、ライフラインの健全化に加え、省エネ化や多様な学習形態に対応した教育環境の整備まで行い、今後30年以上使える状態にする現行の中心メニュー

「直す」だけでは補助されない時代になった、ということです。学校施設の長寿命化改修(K002)で詳しく解説しています。

現存する「大規模改造」メニュー

「大規模改造」という枠自体が消えたわけではありません。目的別のメニューは残っています。

メニュー算定割合
内部環境改善(断熱改修、内装木質化 等)1/3
トイレ改修1/3
空調設置1/3
体育館への空調の新設及び併せて実施する断熱性確保工事は1/2(令和7年度まで)
バリアフリー化1/2
防犯対策(不審者侵入防止対策)1/2(令和7年度まで)
教育内容及び方法の多様化等に適合させるための内部改造(質的整備)1/3
特別支援学校の教室不足解消に向けた事業1/2(令和9年度まで)

つまり「老朽化したから全部直す」では通らないが、「トイレを直す」「空調を入れる」「バリアフリー化する」という目的別なら通るという構造です。

詳細は学校施設環境改善交付金の使い方(K168)を参照してください。

周期の考え方

大規模修繕は、屋上防水・外壁・内装・設備(電気・給排水・空調など)を計画的にまとめて更新し、建物の寿命を延ばしつつ機能・安全性を底上げする工事です。場当たりの部分修理とは性質が異なります。

ただし「◯年ごと」という一律の答えはありません。建物の立地、気象条件、使用状況によって劣化の進行は大きく変わるためです。

文部科学省も、長寿命化改修の適否について「個々の建物の劣化状況等に応じて必要な補修及び対策は異なるため、一律に判断基準を示すことはできない」としています。周期も同様で、現況調査で建物の実態を把握することが出発点になります。

まとめる理由は「足場」

時期の近い工事をまとめる最大の理由は、足場・仮設・養生といった共通費です。

屋上防水も外壁補修も、足場が要ります。天井を触るLED化や空調のダクト工事も、高所作業車が要ります。これらを別々の年度に、別々の業者が、それぞれ仮設を組んでやる——公共施設ではこれが実際に起きています。

制度の側もそれを見越しており、防災・減災関連の一部メニューは「新増築、改築、長寿命化改良事業等とあわせて行う際に補助対象となる」という条件が付けられていました。制度設計そのものが「単独でやるな」と言っているわけです。

検討項目・課題・解決策

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
メニューの現存確認「大規模改造(老朽)」で予算要求しようとしても、制度が既に無い。数年前の資料や前例踏襲で動くと空振りする最新の運用細目・交付要綱を確認。老朽化対策は長寿命化改良事業で組み立て直す
「戻す」か「延ばす」か建設当時の状態に戻すだけの改修は、補助メニューが無くなった上に、30年後にまた同じ問題が起きる構造体の中性化対策・鉄筋腐食対策まで踏み込み、今後30年以上使える状態にする設計とする
時期の平準化複数校が同時期に更新時期を迎え、単年度の予算に収まらない。結果、全校で先送りが起きる中長期修繕計画で工事時期を平準化。個別施設計画と連動させて数年先まで見通す
仮設の重複外壁・屋上防水・LED・空調を別年度に発注し、足場や高所作業車の費用を何度も払う同じ場所を触る工事を束ねて発注。長寿命化改良の枠内に織り込むのが最も効率的
耐震性の確認改修に合わせて壁を撤去したところ、耐震性能に影響が出る耐震壁を撤去するなど耐震性能に影響を及ぼす工事の場合、工事後もIs値が確保できているか設置者が確認する
授業への影響仮設や騒音で授業が成立しない。工期が延びて次年度に食い込む長期休暇に工程を集中させる。棟別・階別の工区分けで、使いながら直す計画とする

実務の勘所

現況調査が全ての出発点

RC造であれば、コンクリートの中性化深さ、鉄筋の腐食状況、鉄筋のかぶり厚さの状況等を確認します。調査にあたっては耐力度調査の実施方法が参考になります。

過去に耐震診断を実施した学校であれば、その後著しく劣化が進んでいない限り、耐震診断時の中性化深さや鉄筋の腐食・かぶり厚さのデータを参考にできる場合があります。一般的に、中性化等の構造体の劣化は数年で急速に進行するものではないためです。

手元の資料を探すところから始めると、調査費を圧縮できることがあります。

設計費・調査費にも補助が出る

見落とされがちですが、実施設計費は原則として前年度支出分まで構造体の劣化状況等の調査費用は前々年度支出分までが国庫補助の対象になります(長寿命化改良事業の場合)。

自費で設計してから補助を申請する、という順序で動くと損をします。

「直す」から「価値を上げる」へ

制度が長寿命化に一本化されたということは、単に元に戻す工事には予算が付きにくくなったということです。

逆に言えば、省エネ化・バリアフリー化・多様な学習形態への対応といった「今の社会的要請に応える」要素を組み込めば、補助の道が開ける。同じ足場を組むなら、直すだけでなく、学校の価値を上げる改修にする。制度がそう設計されています。

株式会社光建舎にご相談ください

光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査から設計・施工管理までを一貫して対応します。大規模修繕は、補助メニューの現在地を踏まえて工事を束ねられるかどうかで総額が変わります。現況調査から改修範囲の設定、交付金を踏まえた事業計画づくりまでご相談ください。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、構想段階からのご相談を承ります。

関連記事

参考・出典

  • 文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部 事務連絡(令和5年2月20日)
    https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/r04/tb_r4fu_11mext_270.pdf
  • 文部科学省「国庫補助事業について」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm
  • 文部科学省「長寿命化改良事業Q&A」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/20200824-mxt_kouhou02_04.pdf
  • 文部科学省「学校施設の長寿命化改修の手引~学校のリニューアルで子供と地域を元気に!~」
    https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/027/toushin/1343009.htm
  • 文部科学省「公立学校施設の老朽化対策の推進」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm
  • 会計検査院「令和5年度決算検査報告」
    https://report.jbaudit.go.jp/org/r05/2023-r05-0125-0.htm
  • 文部科学省「学校施設環境改善交付金交付要綱」(平成23年4月1日 23文科施第3号 文部科学大臣裁定)

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。