この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

補助金の要件に設計はどう合わせるか?

手戻りを防ぐ設計条件の決め方

設計がほぼ固まった段階になって、この工事は補助の対象外だと分かる。学校の施設整備で起きがちな手戻りです。設計をやり直せば時間と費用がかかり、年度内の着工に間に合わなくなることもあります。避けられる失敗です。

補助制度には、対象となる工事の範囲、満たすべき性能、面積の扱いなど、設計に直接関わる要件があります。設計を始める前にこれらを整理しておけば、手戻りは避けられます。

この記事では、①制度が設計に与える影響、②長寿命化改良事業の要件、③補助基準額との関係、④設計者への伝え方、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 補助制度には、対象工事の範囲、性能の要件、面積の扱いなど、設計に直結する条件がある
  • 長寿命化改良事業では、今後30年以上使用する予定であることが要件とされている
  • 同事業では面積の増減は原則として国庫補助の対象外で、必要最小限の増減が例外的に対象とされる
  • 補助は基準額を基に算定されるため、仕様を上げるほど自己負担の割合が増える
  • 設計の初期段階で、どの制度のどの区分で申請するかを決めておくことが手戻りを防ぐ

補助制度は設計にどう影響するか?

4つの面で影響します。

影響する面内容
工事の範囲どの工事が対象で、どれが対象外か
性能耐震、省エネ、バリアフリーなどで満たすべき水準
面積増築・減築の扱い、補助対象となる面積の算定
金額補助基準額、下限額、限度額

これらは要綱や要領に書かれていますが、設計者が最初から知っているとは限りません。学校施設の補助制度は種類が多く、年度ごとに変わるため、発注者が設計条件として伝える必要があります。

設計者に制度の調査まで任せると、解釈の違いから後戻りすることがあります。制度の確認は発注者、設計への反映は設計者という役割分担にしておくと、責任の所在もはっきりします。

長寿命化改良事業ではどんな要件があるか?

代表的な制度で、要件が設計に強く関わります。

文部科学省の長寿命化改良事業のQ&Aでは、次のような考え方が示されています。

項目内容
使用年数今後30年以上使用する予定であること
判断の方法存置や統廃合が決まっている場合はその計画に応じて判断し、それ以外は計画・構想の熟度や方向性、可能性等を勘案して判断する
面積の増減原則として国庫補助の対象外
例外エレベーターの設置や障害児対応のトイレの設置など、今後30年以上使用するうえでやむを得ない場合の必要最小限の面積増減は対象

設計への影響

面積の増減が原則対象外ということは、「改修のついでに少し増築する」という計画が、そのままでは補助に乗らないことを意味します。増築が必要なら、対象となる工事と分けて計画するか、別の事業区分で整理する必要があります。

また、今後30年以上使用するという要件があるため、統廃合や集約の検討が進んでいる建物では、そもそもこの事業を使えるかが問題になります。学校の配置の方針と、改修の計画を同時に整理しておく必要があります。

逆に、残すと決めた建物については、30年以上使うという説明がしやすくなります。どの建物を残し、どれを手放すかを先に決めておくことが、制度を使ううえでも有利に働きます。

制度の概要は長寿命化改良事業(補助)の対象と進め方にまとめています。

補助基準額とはどう付き合うか?

仕様を上げるほど、自己負担の割合が増えます。

多くの制度では、実際の工事費ではなく、面積などに応じた補助基準額を基に補助額が算定されます。つまり、基準額を超える部分は全額が自己負担です。

設計段階での確認

  • 補助対象となる面積はどう算定されるか
  • 補助基準額はいくらか
  • 現在の設計の概算は基準額をどれだけ上回るか
  • 上回る部分を自己負担できるか、仕様を見直すか

仕様を上げる判断自体は悪いことではありません。問題は、それが自己負担になると知らないまま設計が進むことです。基本設計の段階で、基準額と概算の差を数字で把握し、理事会や財政部局に示しておきます。

資材費の上昇を織り込む

近年は資材費と労務費の上昇が続いています。基本設計時の概算のまま入札に進むと、予定価格を超えて不調になることがあります。設計の各段階で概算を更新し、差が出た場合に仕様のどこを調整するかを先に決めておきます。

対象工事と対象外工事はどう切り分けるか?

図面と内訳書の両方で分けます。

改修工事では、補助の対象になる工事と、ならない工事が同じ建物の中に混在します。

例扱い
構造体の補強耐震の区分で対象になることが多い
補強に伴う内装の復旧対象になる範囲が制度ごとに異なる
同時に行う別の部屋の内装更新対象外になることが多い
備品、什器別の区分か対象外
外構、植栽対象外になることが多い

設計図に、対象範囲を色分けして示しておくと、見積の内訳とも突き合わせやすくなります。実績報告でも同じ図面を使えます。切り分けの考え方は補助金の対象経費・対象外経費の線引きを参照してください。

工事を分離発注するか、1本の契約の中で内訳を分けるかも、早めに決めます。制度によっては、契約の単位が補助の判断に関わることがあります。分離発注にすると、工程の調整と責任の分担が複雑になる点も考慮します。

設計者にはどう伝えるか?

設計条件として、文書で渡します。

伝える内容

項目内容
使う制度制度名、事業区分、根拠となる要綱
対象工事の範囲補助の対象とする工事、対象外とする工事
満たすべき要件使用年数、性能、面積の扱い
金額の枠補助基準額、限度額、自己負担の上限
工程申請の時期、交付決定の見込み、着手できる時期、完了期限
成果物申請に必要な図面、数量表、概算の様式

要綱と様式の写しを渡しておくと、設計者が自分で確認できます。口頭で「補助を使うので」とだけ伝えると、制度の要件が設計に反映されないまま進みます。設計の各段階で、要件を満たしているかを確認する場を設けておくと確実です。

設計者から確認すること

  • 法令上の手続きの要否(確認申請、用途変更、既存不適格の扱い)
  • 補助の要件を満たすための仕様と、そのための費用
  • 要件を満たせない場合の代替案
  • 年度内完了が可能な工程か

どんな順番で進めるか?

5つの段階です。

1. 制度を選ぶ

自校の工事が、どの制度のどの区分に当たるかを確認します。複数の候補がある場合は、補助率、基準額、要件、時期を比べます。判断に迷う場合は、所管課に工事の概要を示して相談します。

2. 要件を設計条件に落とす

使用年数、性能、面積の扱いを、設計条件としてまとめます。この段階で所管課に相談し、解釈が分かれる点を確認しておきます。

3. 基本設計と概算

概算が補助基準額をどれだけ上回るかを確認します。上回る部分の扱いを決めてから、実施設計に進みます。ここで判断を先送りすると、後で仕様を削ることになります。

4. 申請

計画書と図面、内訳書を整えて申請します。書き方は補助金に採択されやすい計画書はどう作るか?にまとめています。

5. 交付決定後に着手

交付決定の前に契約や着工をすると、補助の対象外になります。工事の発注は決定を待ちます。入札の公告や見積の依頼をどの時点でできるかも、制度によって扱いが異なるため確認します。

性能の要件はどう扱うか?

制度によっては、満たすべき性能が具体的に定められています。

分野要件の例設計への影響
耐震構造耐震指標が所定の値を満たすこと補強の量と工法が決まる
省エネ・脱炭素一次エネルギー消費量の削減率断熱、設備の仕様が決まる
バリアフリー建築物移動等円滑化基準への適合経路、トイレ、エレベーターの計画が決まる
防災避難所としての機能電源、給水、トイレ、備蓄の計画が加わる

これらは、あとから付け足すことが難しい要件です。基本設計の段階で組み込まないと、実施設計で入れようとしても納まらない、あるいは費用が跳ね上がります。

補助の区分によっては、性能を満たしたことを示す計算書や第三者機関の評価が必要になります。評価の取得にかかる費用と期間も、工程と予算に含めておきます。

既存の建物特有の論点は何か?

改修では、新築にはない確認が必要になります。

現況の調査

図面と現況が一致しないことがよくあります。増築や改修を繰り返した校舎では、図面に残っていない変更が見つかります。設計に入る前に現況を調査し、数量の根拠を固めておきます。数量が変われば補助対象経費も変わります。

既存不適格の扱い

建築時の法令には適合していたが、その後の法改正で現行基準に合わなくなっている部分があります。改修の内容によっては、現行基準への適合が求められ、工事の範囲が広がります。設計者に早い段階で確認してもらいます。

アスベストなどの有害物質

天井材、吹付け材、配管の保温材にアスベストが含まれている場合、除去の費用と期間が加わります。調査の結果が出る前に工程を固めると、後戻りします。調査は設計の前に済ませておきます。

使いながらの工事

在校中に施工する場合、工区の分け方、仮設、動線の分離が設計条件になります。長期休業期間に集中させる工程では、工事費が割高になることもあります。

よくある質問

Q. 補助を使わない方が早く進む場合もありますか。

A. あります。金額が小さい工事や、緊急に実施する必要がある工事では、申請と交付決定を待つ時間が大きな制約になります。補助を使わずに実施する場合の総額と時期を比べたうえで判断します。

Q. 設計費は補助の対象になりますか。

A. 制度によります。実施設計費が対象となり、補助対象工事費の一定割合が上限とされている制度もあります。要綱で確認してください。

Q. 補助の要件に合わせると、使いにくい建物になりませんか。

A. 要件は最低限の条件です。教育上の要求を満たしたうえで要件を満たす設計は可能です。要件だけを追いかけて、使い方の検討が後回しにならないよう注意します。教職員からの要望は、設計条件として別に整理しておきます。

Q. 増築と改修を同時にやりたい場合はどうしますか。

A. 制度によって扱いが異なります。長寿命化改良事業では面積の増減は原則対象外なので、別の事業区分で申請するか、工事を分けて計画します。増築の規模によっては、建築確認や既存不適格の扱いも関係します。

Q. 設計が終わってから制度を探すのでは遅いですか。

A. 遅いことが多くあります。対象工事の範囲や性能の要件に合わせて設計を直す手戻りが発生し、申請の時期にも間に合わなくなります。制度の検討は基本設計の前に始めます。

Q. 複数の制度を組み合わせる場合はどうしますか。

A. 対象経費を明確に分けられることが前提です。同じ経費に重ねて補助を受けることは通常できません。設計の段階で、どの工事をどの制度で申請するかを図面上で分けておきます。

まとめ

補助制度は、対象工事の範囲、性能の要件、面積の扱い、金額の枠という4つの面で設計に影響します。長寿命化改良事業では、今後30年以上使用する予定であることが要件とされ、面積の増減は原則として国庫補助の対象外です。

補助は基準額を基に算定されるため、仕様を上げるほど自己負担の割合が増えます。基本設計の段階で、概算が基準額をどれだけ上回るかを把握し、上回る部分の扱いを決めておきます。

設計条件として、使う制度、対象工事の範囲、要件、金額の枠、工程を文書で設計者に渡すこと。これだけで、設計が終わってから制度に合わないと分かる手戻りは大きく減ります。

参考・出典

記載の制度・要件は公表時点のものです。最新の要件は所管省庁の公表資料と年度の要綱でご確認ください。

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