工事の見積りは無料、調査と設計は有償です。
施工会社が工事を受注するために出す見積りは、営業活動の一部です。費用を請求されることは通例ありません。一方、建物の調査、設計、積算は業務であり、業務として発注すれば対価が発生します。
この境目が曖昧なまま進めると、2つの問題が起きます。無料の見積りに設計の内容まで期待して、出てきた提案が成立しない。あるいは、無料で何社にも図面を書かせて、どこも真剣に取り組まなくなる。
公共の工事では、この境目が制度として整理されています。
この記事では、①無料で出せる範囲、②有償になる業務、③公共工事での整理、④無料の見積りの限界、⑤依頼の仕方、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 施工会社が受注のために出す見積りは営業活動であり、通例は無料
- 調査、設計、積算は業務であり、業務として発注すれば対価が発生する
- 公共の工事では設計を分離して発注し、その成果に基づいて入札を行う形が一般的
- 無料の見積りは条件が揃っていないと比較できず、数量と仕様が示されていなければ金額だけが並ぶ
- 比較のためには、工事範囲、現況資料、調査結果、工事不可期間、補助の有無、発注方式の前提をそろえる必要がある
無料で出せる範囲はどこまでか?
概算と提案です。
| 範囲 | 無料か |
|---|---|
| 現地の概略の確認 | 通例は無料 |
| 概算の金額の提示 | 通例は無料 |
| 工事の提案 | 通例は無料 |
| 工程の案 | 通例は無料 |
| 既存図面に基づく数量の拾い | 内容により変わる |
| 詳細な調査 | 有償 |
| 設計図書の作成 | 有償 |
| 積算の成果物 | 有償 |
施工会社は工事を受注することで利益を得ます。そのための営業活動として、概略の確認と提案を無料で行うのが通例です。
無料には理由がある
無料の見積りは、受注を前提としています。受注の見込みがなければ、無料で詳細な検討を行う動機がありません。
したがって何社にも無料で詳細な提案を求めると、有力な会社から辞退されることがあります。相見積もりの社数の考え方は相見積もりは何社が適切か?で扱っています。
概算と見積りは別
概算は、過去の実績や面積から目安を出すものです。見積りは、数量を拾い、単価を掛けて積み上げたものです。
無料で出てくる金額が、どちらなのかを確認してください。概算を見積りとして扱うと、工事の段階で金額が変わります。
何を根拠にした金額か
既存図面を見て拾った数量か、現地を実測した数量か、過去の類似工事からの推定か。根拠によって精度が違います。
金額の根拠を聞いてください。「一式」で並んだ見積りでは、何が含まれているか分かりません。見積書の読み方は見積書はどこを見るのか?で扱っています。
有償になる業務は何か?
調査、設計、積算です。
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 劣化の調査 | 工事の範囲と数量を特定する |
| 構造の調査 | 構造体の状態と耐震性能 |
| 設備の調査 | 容量と機器の状態 |
| 法適合状況の調査 | 建築基準法令への適合 |
| 石綿の事前調査 | 石綿の有無と場所 |
| 基本設計 | 計画の骨格 |
| 実施設計 | 工事のための図書 |
| 積算 | 数量と金額の算出 |
| 工事監理 | 工事が設計どおりかの確認 |
調査は業務として発注する
補助の申請や設計に使う調査は、報告書という成果物を伴う業務です。施工会社が無料で行う概略の確認とは別です。
調査の種類と依頼の仕方は学校改修の現地調査は何をするのか?で扱っています。
設計の対価
設計は、計画を図面と仕様書にする業務です。工事の内容を決め、数量の根拠をつくり、所管行政庁との協議を行います。
この成果が補助の申請の材料になり、入札の前提になります。無料で求められるものではありません。
工事監理も業務
工事が設計どおりに行われているかを確認する工事監理も、業務です。施工会社の現場管理とは役割が異なります。
発注者側の立場で確認する者がいないと、設計と違う施工が見過ごされます。
建築士法上の手続き
設計と工事監理の委託には、建築士法に基づく手続きがあります。契約の締結前に重要な事項を説明することなどが定められています。
書面による契約を前提に進めてください。
公共工事ではどう整理されているのか?
設計を分離して発注します。
公共の工事では、設計を先に分離して発注し、その成果に基づいて工事の入札を行う形が一般的です。
| 段階 | 発注 |
|---|---|
| 調査 | 業務として発注 |
| 設計 | 業務として発注 |
| 工事 | 設計の成果に基づいて入札 |
| 工事監理 | 業務として発注(設計者が担う場合がある) |
入札では見積りを求めない
入札では、発注者が示した設計図書と数量に基づいて、各社が金額を提示します。各社が別々の内容で見積るわけではありません。
したがって「無料の見積りを集めて比較する」という進め方は、公共の工事では取りません。
設計と施工を分ける理由
設計を分離すれば、同じ条件で各社の金額を比較できます。設計と施工が一体であれば、各社の提案内容が違うため金額の比較が成立しません。
設計を分離すれば、工事の内容を発注者側が決めた状態で入札に進めます。
私立学校では一体の発注もある
私立学校では、設計と施工を一体で発注する形も選ばれます。この場合、各社の提案内容が異なるため、金額だけでは比較できません。
提案の内容と金額を合わせて評価する形になります。
業者選定のチェックポイント
発注の方式にかかわらず、施工会社を選ぶ際に確認する項目があります。業者選びの要点は学校改修の業者選びは何を見るのか?で扱っています。
無料の見積りの限界はどこか?
条件が揃っていないと比較できません。
| 揃えるべき前提 | 内容 |
|---|---|
| 工事範囲 | どこをどこまで直すか |
| 現況資料 | 既存図面、改修の履歴 |
| 調査結果 | 劣化、石綿、設備の状態 |
| 工事不可期間 | 授業と行事の予定 |
| 補助の有無 | 事業区分と申請の予定 |
| 発注方式 | 設計と施工を分けるか |
この6つが示されていなければ、各社は別々の前提で見積ります。結果として金額だけが並び、比較になりません。
金額の差が条件の差であることが多い
安い見積りは、工事範囲が狭い、石綿の除去が含まれていない、仮設の費用が入っていないことがあります。
安い理由を確認してください。同じ内容で安いのか、内容が違うのかが分かれ目です。
石綿が含まれていない見積り
調査の結果が出ていない段階では、石綿の除去費用を見積りに入れられません。この費用は後から加わります。
大気汚染防止法に基づき、令和4年4月1日から石綿の事前調査結果の報告が義務づけられています。解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上の解体工事と、請負代金の合計額が100万円以上(税込)の改修工事が対象です。
想定外の費用
既存の建物を触る工事では、想定外の劣化が見つかります。無料の見積りでは、この予備費が入っていないことがあります。
予算を組むときは、見積り額に予備費を加えてください。
相見積もりの前に前提をそろえる
社数を増やすより、前提をそろえることが先です。前提が同じであれば、2社でも比較が成立します。
前提が同じであれば、2社でも比較が成立します。
依頼はどうするのか?
段階を分けます。
| 段階 | 依頼の内容 |
|---|---|
| 1 | 概算の目安を聞く(無料の範囲) |
| 2 | 調査を業務として発注する |
| 3 | 設計を業務として発注する |
| 4 | 設計の成果に基づいて工事を発注する |
最初の相談は無料の範囲で
「この校舎の改修はどのくらいかかるか」という最初の相談は、無料の範囲で答えが返ってきます。予算の目安をつかむ段階です。
ただしこの金額は概算であり、確定した額ではありません。
調査と設計は業務として発注する
予算の目安がついたら、調査と設計を業務として発注してください。ここから先は無料では進みません。
無料で設計まで求めると、受注を前提とした提案になります。発注者側の判断材料としては、独立した立場の設計が必要です。
補助を使う場合は設計が前提
補助の申請には、工事の内容と事業費を示す図書が必要です。設計が進んでいなければ揃いません。
したがって補助を使う計画では、設計の発注が申請の前段にあります。
発注者側に判断する人を置く
調査の仕様、設計の範囲、工事の発注方式。これらを判断する人員が庁内に必要です。
担当が1人で他の業務と兼務している状態では、業者の提案を評価できません。
設計事務所への相談も段階がある
設計事務所に相談する場合も、無料で答えが返ってくる範囲があります。制度の説明、進め方の助言、概略の目安。
| 段階 | 扱い |
|---|---|
| 制度と進め方の相談 | 無料で答えが返ることが多い |
| 現地を見た概略の意見 | 無料の範囲になることがある |
| 図面の作成 | 業務 |
| 数量の算出 | 業務 |
| 所管行政庁との協議 | 業務 |
施工会社と同じく、受注の見込みのない相談に長時間を使う動機はありません。相談の段階で、業務として発注する意思があるかを伝えてください。
よくある質問
Q. 学校改修の見積りは無料ですか。
A. 施工会社が受注のために出す見積りは、営業活動として通例は無料です。一方、調査、設計、積算は業務であり、発注すれば対価が発生します。
Q. どこまで無料で頼めますか。
A. 現地の概略の確認、概算の金額の提示、工事の提案、工程の案までが通例です。詳細な調査、設計図書の作成、積算の成果物は有償です。
Q. 何社にも無料で見積りを頼めますか。
A. 社数を増やすと、有力な会社から辞退されることがあります。無料の見積りは受注を前提としているためです。社数より前提をそろえることが先です。
Q. 無料の見積りで予算を組めますか。
A. 目安にはなりますが、確定した額ではありません。石綿の除去費用や想定外の劣化への対応が入っていないことがあります。予備費を加えてください。
Q. 公共の工事ではどうなりますか。
A. 設計を分離して発注し、その成果に基づいて入札を行う形が一般的です。各社が別々の内容で見積るわけではありません。
Q. 安い見積りは何を確認しますか。
A. 工事範囲が狭い、石綿の除去が含まれていない、仮設の費用が入っていないことがあります。同じ内容で安いのか、内容が違うのかを確認してください。
まとめ
工事の見積りは営業活動として無料で出されるのが通例ですが、調査、設計、積算は業務であり有償です。この境目が曖昧なまま進めると、無料の見積りに設計の内容まで期待して提案が成立しない、または何社にも図面を書かせて誰も真剣に取り組まなくなるという問題が起きます。
無料で出せるのは、現地の概略の確認、概算の金額、工事の提案、工程の案までです。詳細な調査、設計図書の作成、積算の成果物は業務として発注してください。補助の申請や設計に使う調査は、報告書という成果物を伴う業務です。
公共の工事では、この境目が制度として整理されています。設計を分離して発注し、その成果に基づいて入札を行う形です。発注者が示した設計図書と数量に基づいて各社が金額を提示するため、「無料の見積りを集めて比較する」という進め方は取りません。
無料の見積りを比較する場合、6つの前提をそろえてください。工事範囲、現況資料、調査結果、工事不可期間、補助の有無、発注方式。これらが示されていなければ、各社は別々の前提で見積り、金額だけが並びます。
安い見積りには理由があります。工事範囲が狭い、石綿の除去が含まれていない、仮設の費用が入っていない。同じ内容で安いのか、内容が違うのかを確認してください。
進め方は段階を分けることです。最初の相談は無料の範囲で予算の目安をつかみ、次に調査と設計を業務として発注し、その成果に基づいて工事を発注する。この順序であれば、発注者側が判断できる材料が揃います。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築士法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000202
- e-Gov法令検索「建設業法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- e-Gov法令検索「公共工事の品質確保の促進に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC1000000018
- e-Gov法令検索「大気汚染防止法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097
- 国土交通省「建築設計業務委託の手引き等」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000064.html
記載の法令および制度は公表時点のものです。業務の範囲、発注の方式および対価の考え方は契約の内容と発注者の運用により異なります。個別の判断は所管部署、設計者および専門家にご確認ください。
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