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一部解体・区画分離の実務
廃校を丸ごと使える事業者は、そう多くありません。小学校でも延床面積は数千平方メートルあります。校舎3棟、体育館、プール、グラウンド。全部を使い切る計画を求めると、応募がゼロになります。
現実的な解は、使う範囲を絞ることです。校舎1棟だけを転用し、残りは解体する。あるいは2階と3階は閉鎖し、1階だけを使う。
ただし分けるには工事が必要です。電気も水も空調も、1棟を1つの系統として設計されています。半分だけ使うつもりでも、系統が分かれていなければ全館に電気を流すことになります。使っていない部分の光熱費を払い続ける構図です。
この記事では、①部分活用の型、②棟を切り離す判断、③設備系統の分離、④減築に伴う手続き、⑤進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 部分活用には、棟を絞る方法、階を絞る方法、区画を絞る方法がある
- 棟を切り離せるかは、構造的に独立しているか、渡り廊下でつながっているかで変わる
- 設備系統が分離されていないと、使わない部分の維持費が残る
- 建築物の除却は床面積10平方メートルを超える場合に建築基準法第15条の届出が必要
- 建築物の解体工事は床面積の合計80平方メートル以上で建設リサイクル法の届出が必要
部分活用とはどういう方法か?
建物の一部だけを使い、残りを閉鎖または解体する方法です。
廃校活用で全館を使う計画が成立しないとき、最初に検討する選択肢になります。使う面積が小さくなれば、改修費も維持費も下がります。事業者が負える規模に収まります。
| 型 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 棟を絞る | 校舎1棟だけ活用し、他を解体または閉鎖 | 棟ごとに構造が独立している |
| 階を絞る | 1階のみ活用し、上階を閉鎖 | 避難や設備の条件で上階が使いにくい |
| 区画を絞る | 1棟の一部を区画して活用 | 小規模な事業者が入る |
| 用途を分ける | 棟ごとに別の事業者が入る | 複数の提案を組み合わせる |
閉鎖と解体は別の判断
使わない部分を閉鎖するだけなら、工事費はかかりません。ただし建物は残るため、維持管理の責任と費用が残ります。雨漏り、外壁の剥落、不法侵入。放置すると近隣への危険が生じます。
解体すれば維持費はなくなりますが、解体費用が先に出ます。解体費用の構造は廃校の解体費用はいくらかかるのか?で扱っています。
| 選択 | 初期費用 | 継続費用 | リスク |
|---|---|---|---|
| 閉鎖 | ほぼ不要 | 点検、最低限の維持 | 劣化の進行、不法侵入、剥落 |
| 解体 | 解体費が発生 | 跡地の草刈り程度 | 将来の活用機会を失う |
判断の分かれ目は、将来使う可能性があるかどうかです。10年後に需要が出る見込みがなければ、早く解体したほうが総額は小さくなります。
棟を切り離せるかはどう決まるのか?
構造的に独立しているかどうかです。
学校の校舎は、増築を重ねて現在の形になっていることが多いです。昭和40年代の本館に、50年代の増築棟が接続している。この接続の仕方で、切り離しの難易度が変わります。
| 接続の形 | 切り離しやすさ |
|---|---|
| エキスパンションジョイントで分離 | 切り離しやすい。構造的に独立している |
| 渡り廊下で接続 | 渡り廊下を解体すれば分離できる |
| 躯体が連続している | 構造の検討が必要。切断面の補強が要る |
| 同一の屋根でつながっている | 切り離しは難しい |
図面で確認できる場合もありますが、現地での調査が必要になることが多いです。増築時の確認申請図書が残っていれば、接続部の処理が記載されています。
建築基準法上は一の建築物か
渡り廊下で接続された複数の棟が、建築基準法上1つの建築物として扱われているか複数として扱われているかは、確認申請の内容で決まっています。
1つの建築物として確認を受けている場合、一部を解体すると残る部分の扱いが変わります。建ぺい率、容積率、延焼のおそれのある部分の位置。これらを再確認する必要があります。
切断面に外壁が必要になる
棟の一部を解体すると、断面が外部に露出します。ここに外壁を新設します。
このとき延焼のおそれのある部分に該当すれば、開口部に防火設備が必要です。隣地境界線や道路中心線からの距離、そして解体後に残る他の棟との距離で判定されます。
解体して空いた場所に別の棟が近接して残る場合、互いが延焼のおそれのある部分に入ることがあります。解体計画を立てる段階で確認してください。
設備系統の分離はどこが問題になるのか?
受電と給水の引き込みが1か所であることです。
学校は1つの敷地に1つの引き込みで設計されています。校舎3棟分の電気が1つのキュービクルから供給され、水も1つのメーターと受水槽から配られています。
| 設備 | 分離の論点 |
|---|---|
| 受変電設備 | キュービクルが1基。棟別の計量ができない |
| 給水 | 受水槽と引き込みが1系統。メーターが1個 |
| 排水 | 合流して1か所で放流。棟別の把握ができない |
| 空調 | 熱源が共用の場合、1棟だけ使っても熱源全体を動かす |
| 受信機 | 自動火災報知設備の受信機が1台で全棟を監視 |
| 通信 | 引き込みと主配線盤が1か所 |
1棟だけを使う計画で、電気も水も全館の系統につながったままだと、使用量の切り分けができません。民間事業者に貸す場合、光熱費の按分でもめます。
子メーターを入れるのが現実的
系統を物理的に分けるには大きな工事が必要です。実務では、子メーターを設置して使用量を計測し、按分する方法が多く取られます。
ただし自動火災報知設備の受信機は分けられないことがあります。閉鎖した部分で感知器が作動したとき、誰が確認に行くのか。この取り決めを運用で決めておく必要があります。
熱源の共用が維持費を押し上げる
空調の熱源が共用の場合、1棟だけ使っても熱源機の運転が必要になります。部分負荷での運転効率は悪く、電気代が想定より高くなります。
部分活用を前提とするなら、個別方式の空調に置き換えるほうが維持費は下がります。改修の技術的な論点は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?にまとめています。
敷地を分けるとどうなるのか?
建ぺい率、容積率、接道の条件を再計算することになります。
一部を解体して跡地を売却する計画では、敷地を分割します。分割すると、残る建物が建つ敷地の面積が小さくなります。建ぺい率と容積率は敷地面積に対する割合なので、既存の建物が制限を超える状態になることがあります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 建ぺい率・容積率 | 分割後の敷地面積で既存建物が収まるか |
| 接道 | 分割後の各敷地が幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接するか |
| 日影規制・斜線制限 | 分割により隣地境界線の位置が変わる影響 |
| 延焼のおそれのある部分 | 新たな境界線からの距離で再判定 |
| 既存の設備 | 受水槽やキュービクルがどちらの敷地に残るか |
校地は広く、道路に接する部分が限られていることがあります。分割の仕方によっては、片方の敷地が接道義務を満たさなくなります。分割の線は、測量と並行して建築の検討を入れてから引いてください。
受水槽やキュービクルの位置も問題になります。売却する側の敷地に設備が建っていると、残る建物への供給が切れます。設備の位置を先に確認してください。
減築に伴う手続きは何が必要か?
除却の届出と、建設リサイクル法の届出です。
| 手続き | 根拠 | 対象 |
|---|---|---|
| 建築物除却届 | 建築基準法第15条 | 床面積の合計が10平方メートルを超える除却 |
| 分別解体等の届出 | 建設リサイクル法 | 建築物の解体工事で床面積の合計80平方メートル以上 |
| 石綿の事前調査結果の報告 | 大気汚染防止法、石綿障害予防規則 | 一定規模以上の解体・改修工事 |
| 財産処分の手続き | 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第22条 | 補助を受けた施設の取壊し |
校舎の一部解体であれば、床面積はいずれの基準も超えます。届出は必要という前提で工程を組んでください。
解体前の調査項目は学校の解体前調査は何をするのか?で一覧にしています。
確認申請は不要だが構造の検討は必要
除却そのものに確認申請は要りません。ただし残る部分の構造的な安全性は別問題です。
躯体が連続している棟を切断する場合、残る側の構造計算が必要になります。切断面の補強、水平力の伝達、基礎の処理。構造設計者の判断が入ります。
アスベストの調査を先に
昭和の校舎には石綿含有建材が使われています。吹付け材、保温材、成形板。解体前に調査が義務づけられており、結果によっては除去の工法と費用が変わります。
調査の結果が出る前に解体費用を確定させることはできません。工程に調査期間を見込んでください。
どう進めるのか?
使う範囲を決めるより先に、分けられるかを調べます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 図面の収集 | 当初および増築時の確認申請図書。設備の系統図 |
| 2. 棟の独立性の確認 | 構造的に分離しているか。接続部の処理 |
| 3. 設備系統の確認 | 受電、給水、排水、空調、受信機の系統 |
| 4. 耐震性能の確認 | 棟ごとのIs値。残す棟と解体する棟の振り分け |
| 5. 活用範囲の決定 | 使う棟・階・区画を決める |
| 6. 分離工事と解体の概算 | 系統分離、外壁新設、解体の費用 |
| 7. 届出と工事 | 除却届、建設リサイクル法の届出、石綿調査 |
4の耐震性能は、残す棟を決める一番強い判断材料になります。詳しくは廃校の耐震性能で活用の可否はどう決まるのか?で扱っています。
公募の前に範囲を決める
部分活用を前提に公募するなら、使える範囲を公募要項に明示してください。「校舎のうち活用可能な部分」という書き方では、事業者が計画を立てられません。
どの棟のどの階が使えるのか。設備はどこまで分離されているのか。光熱費はどう按分するのか。ここまで示せば、提案の精度が上がります。
よくある質問
Q. 使わない棟は閉鎖しておけばよいですか。
A. 維持管理の責任と費用が残ります。将来使う見込みがなければ、解体したほうが総額は小さくなります。
Q. 棟を切り離すには確認申請が必要ですか。
A. 除却そのものに確認申請は要りません。建築基準法第15条の除却届と、建設リサイクル法の届出が必要です。
Q. 床面積の基準は何平方メートルですか。
A. 除却届は10平方メートルを超える場合、建設リサイクル法の届出は80平方メートル以上です。
Q. 1棟だけ使う場合、光熱費はどうなりますか。
A. 系統が分かれていなければ全館分が請求されます。子メーターを設置して按分する方法が実務では多く取られます。
Q. 自動火災報知設備は分けられますか。
A. 受信機が1台で全棟を監視している場合、分離には工事が必要です。閉鎖部分の警報対応を運用で決めておく必要があります。
Q. 解体する棟を先に決めるべきですか。
A. 耐震診断の結果と設備系統を確認してから決めてください。使いたい棟が切り離せない場合があります。
Q. 跡地を売るために敷地を分割できますか。
A. 分割後の建ぺい率・容積率と接道義務を満たす必要があります。測量と並行して建築の検討を行ってください。
まとめ
廃校を丸ごと使える事業者は限られます。部分活用を前提に範囲を絞るほうが、提案は集まります。方法は棟を絞る、階を絞る、区画を絞る、棟ごとに別の事業者を入れる、の4つです。
棟を切り離せるかは構造で決まります。エキスパンションジョイントで分離されていれば容易ですが、躯体が連続している場合は切断面の構造検討と補強が必要になります。渡り廊下で接続された棟が建築基準法上1つの建築物として確認を受けている場合、一部解体で残る部分の扱いが変わります。
実務で見落とされるのは設備系統です。学校は1つの引き込みで全館に供給する設計になっています。1棟だけ使っても使用量を切り分けられず、光熱費の按分でもめます。子メーターの設置を前提に計画してください。熱源が共用の空調は、部分活用では効率が落ちます。
減築には届出が必要です。建築物除却届は床面積10平方メートルを超える場合、建設リサイクル法の分別解体等の届出は80平方メートル以上です。石綿の事前調査も義務づけられており、結果が出るまで解体費用は確定しません。
公募をかける前に、使える範囲と設備の分離状況を明示してください。範囲が曖昧なままでは、事業者は計画を立てられません。
参考・出典
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
- 国土交通省「建設リサイクル法について」 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/recycle/recyclehou/
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000104
- 大気汚染防止法、石綿障害予防規則
記載の制度・手続きは公表時点のものです。届出の要否、延焼のおそれのある部分の判定および構造の検討範囲は建物の状況と所管行政庁の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁および構造設計者にご確認ください。
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