目次
自治体が直面する8つの実務課題
最も時間がかかるのは合意形成で、最も費用が読めないのは跡地の処理です。
学校統廃合は、計画を決めれば進むものではありません。保護者・地域への説明に数年かかり、使わなくなった校舎の扱いが決まらないまま残る例が全国にあります。
文部科学省の廃校施設活用状況実態調査(令和6年5月1日現在)では、現存7,612校のうち1,951校(25.6パーセント)が未活用です。令和3年調査の未活用理由では、老朽化が46パーセント、要望がないが42パーセント、財源が19パーセントでした。4分の1が使われないまま残っているのが実態です。
さらに手引が令和8年8月5日に改訂され、周辺市町村を巻き込んだ圏域での検討という新しい課題が加わりました。
この記事では、自治体が実際に詰まる8つの課題を、起きる順に整理します。
この記事の要点
- 最も時間がかかるのは合意形成。数年にわたる例が珍しくない
- 廃校の未活用は現存7,612校のうち1,951校(25.6パーセント)
- 統合後の校舎は普通教室が足りなくなり、転用や増築が必要になる
- 条例改正の議会日程が統合の時期を決める
- 手引改訂(令和8年8月5日)により広域化への対応が新たな課題になった
課題1:合意形成に時間がかかる
実務上、最長の工程です。
| 反対の理由 | 内容 |
|---|---|
| 地域の衰退 | 学校がなくなると人口流出が進むという懸念 |
| 通学の負担 | 距離が伸びる、バス通学になる |
| 愛着 | 校名・校歌・母校が失われる |
| 手続きへの不信 | 決定が先にあり説明は形式だという受け取り |
数年にわたる例が珍しくない
説明会を1回開いて終わる話ではありません。地区ごとに複数回、数年にわたる協議が必要になる例が多くなります。
したがって統合の目標年度から逆算すると、検討の開始は想定よりかなり早くなります。
結論を先に決めると反発を受ける
統合する前提で検討を始めると、説明の場で「決まっているなら聞く意味がない」という反応になります。
手引の考え方は教育条件の改善であり、統合はその手段のひとつです。複数の選択肢を並べ、それぞれの利点と課題を示す形で進めてください。小規模校を残す方策も手引に書かれています。
情報を早く出す方が合意に近づく
検討の途中は情報を出しにくいという判断になりがちですが、結論だけを後から示す形は不信を招きます。
推計の数値、検討している選択肢、判断の基準。これらを早い段階から共有する方が進みます。合意形成の進め方は学校統廃合の合意形成、反対への向き合い方は学校統廃合の反対運動で扱っています。
なお反対の理由が通学条件なのか、地域の将来なのか、手続きへの不信なのかで対応は変わります。理由を分けずに「反対がある」とまとめると打ち手が決まりません。
課題2:通学条件が悪化する
距離と時間の両方が論点になります。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 通学距離 | 手引の目安は小学校おおむね4km以内、中学校おおむね6km以内 |
| 通学時間 | おおむね1時間以内を一応の目安とし、各市町村が判断 |
| 乗車時間 | 停留所を回る経路では距離が短くても時間がかかる |
| 通学路の安全 | 歩道の有無、横断箇所、交通量 |
| 冬季の条件 | 積雪地では冬季に徒歩が困難になる地区がある |
距離の基準は超えられるが費用が増える
スクールバスを導入すれば距離の制約は緩みます。手引もスクールバス等の活用による通学条件の確保を示しています。
ただし車両の購入または借上げ、運行の委託、乗降場所の整備が必要になります。これらは統合後に毎年発生する費用です。
乗車時間が想定より長くなる
直線距離が短くても、停留所を回る経路では片道40分から50分になる例があります。低学年の児童には負担が大きくなります。
経路と便数の設計を、統合の判断と同時に詰めてください。通学手段の検討はスクールバスによる通学で扱っています。
課題3:跡地と旧校舎の扱いが決まらない
費用が最も読めない部分です。
| 選択肢 | 論点 |
|---|---|
| 他用途への転用 | 建築基準法・消防法の適合、改修費 |
| 貸付 | 借主が見つかるか、賃料で維持費を賄えるか |
| 売却 | 買主が見つかるか、処分制限期間と国庫納付 |
| 解体 | 解体費の財源、跡地の使い道 |
| 暫定的に残す | 法定点検、安全対策、保険の維持費 |
4分の1が未活用で残っている
廃校施設活用状況実態調査(令和6年5月1日現在)では、累計8,850校のうち現存7,612校、活用5,661校(74.4パーセント)、未活用1,951校(25.6パーセント)です。
未活用の理由は、老朽化46パーセント、要望がない42パーセント、財源19パーセント(令和3年調査)でした。活用したいが条件が合わないという状態が多数です。
用途変更には建築基準法の制約がある
学校を他の用途に転用する場合、建築基準法上の確認が必要になることがあります。令第137条の18の11区分に学校は含まれないため、多くの転用で「類似の用途」には当たりません。
延べ面積200平方メートルを超える特殊建築物への用途変更は確認申請の対象です。消防法施行令別表第一の項区分も変わります。
国庫補助を受けた施設は処分の制限がある
財産処分手続ハンドブック(令和7年3月)では、処分制限期間はRC造47年、木造22年とされています。
完了後10年以上経過し無償で処分する場合は報告のみで足りますが、有償の場合は国庫納付が原則です。ただし学校施設整備費の基金に積み立てる場合は不要とされています。
解体費の財源は限られる
公立学校施設の解体に使える国庫補助は限られます。公共施設等適正管理推進事業債の除却事業は充当率90パーセントですが、単独の除却には交付税措置がありません。
複数施設の統合に伴う除却は、充当率90パーセント・交付税措置率50パーセントの対象です。この区分に当たるかで負担が大きく変わります。
課題4:財源が組めない
補助率だけでは負担が読めません。
| 財源 | 内容 |
|---|---|
| 公立学校施設整備費負担金 | 原則2分の1(統合に伴う新増築) |
| 学校施設環境改善交付金 | 改築1/3〜1/2、大規模改造1/3〜1/2 |
| 学校教育施設等整備事業債 | 充当率90パーセント(負担金事業・通常分) |
| 公共施設等適正管理推進事業債 | 集約化・複合化90パーセント・措置率50パーセント |
| 過疎対策事業債 | 充当率100パーセント・措置率70パーセント |
対象事業費と契約額の差が負担になる
対象事業費は基準面積と国の単価で算定されます。設計面積が基準を超えたり、契約単価が国の単価を上回ると、その差は全額が自治体の負担です。
したがって「補助率2分の1だから負担は半分」ではありません。この差が実質負担の最大の変動要因です。
補助金は原則後払い
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律は、第14条で実績報告、第15条で額の確定を定めています。工事中の資金は起債や一時借入金で回します。
実績報告の後に対象外の経費が精査され、補助金が減ることもあります。
償還が後年度に集中する
起債すると当年度の負担は軽くなりますが、償還は複数年度にわたります。複数校の整備が重なると、ある年度に償還が集中します。
年度ごとの償還額を並べて、他の事業の予算を圧迫しないか確認してください。財源の組み立ては学校統廃合の財源と起債で扱っています。
計画への位置づけが前提になる
公共施設等適正管理推進事業債は公共施設等総合管理計画等への位置づけを前提とします。計画に載っていなければ起債の対象から外れます。
計画の変更には期間がかかるため、事業の検討と並行して進めてください。
課題5:統合後の校舎が手狭になる
受入れ側の整備が見落とされます。
| 不足するもの | 対応 |
|---|---|
| 普通教室 | 特別教室の転用、増築、仮設校舎 |
| 特別教室 | 転用した分の代替をどう確保するか |
| 職員室・事務室 | 教職員数の増加に対応した面積 |
| 下足室・昇降口 | 児童生徒数の増加で滞留が起きる |
| 体育館・運動場 | 使用時間の割り振り |
| 駐輪場・駐車場 | 通学手段の変化に対応 |
普通教室の数を数え直す
2校を1校にまとめると学級数が増えます。現在の普通教室で足りるかを、統合後の学級数で確認してください。
足りない場合、特別教室を転用するか増築します。転用すると特別教室が足りなくなるため、連鎖的に調整が必要になります。
転用には確認が必要な場合がある
教室の用途を変える工事が、建築基準法上の大規模の修繕・模様替に当たる場合があります。令和7年4月1日施行の改正により、2階建て又は延べ面積200平方メートル超の建築物では構造によらず構造関係規定等の審査が必要になり、大規模な修繕・模様替も建築確認の対象となりました。
設計の段階で確認してください。
昇降口と下足室が詰まる
児童生徒数が増えると、朝と下校時に昇降口で滞留が起きます。下足箱の数も足りなくなります。
図面では見えないため、統合前に現地で混雑の状況を確認してください。
課題6:議会日程が統合の時期を決める
条例改正が必要なためです。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 学校設置条例の改正 | 廃止と設置。議会の議決が必要 |
| 都道府県教育委員会への届出 | 学校教育法施行令第25条 |
| 添付書類 | 廃止に関する条例の写しを求める都道府県がある |
条例が先に成立している必要がある
都道府県の規則では、廃止の届出に「廃止に関する当該地方公共団体の条例の写し」の添付を求める例があります。つまり届出の前に条例が成立していなければなりません。
議案の提出時期から逆算する
条例改正の議案を提出する時期から、説明と協議の期間を逆算してください。合意が得られていない状態で議案を出すと、議会で否決または継続審議になります。
工期と手続きが並行する
校舎の工事、通学手段の確保、教職員の配置、児童生徒の転校手続き。これらは条例改正と並行して進みます。
どれか1つが遅れると統合の時期がずれます。工程表を1枚にまとめて管理してください。
課題7:児童生徒と教職員への配慮が抜ける
制度の議論に集中すると見落とされます。
| 対象 | 配慮すべきこと |
|---|---|
| 児童生徒 | 人間関係の再構築、学校文化の違い、不安 |
| 保護者 | PTA組織の統合、行事の変更 |
| 教職員 | 配置の変更、指導方針の統一 |
| 卒業生 | 校名・校歌・同窓会名簿の扱い |
統合前の交流が効く
統合の前に児童生徒の交流を行う例があります。合同行事、合同授業、校舎の見学。
初日に初対面という状態を避けるだけで、不安はかなり下がります。
学校文化の違いが表面化する
持ち物の決まり、宿題の量、行事の進め方。学校ごとに積み上がった慣習が違います。
統合前に教職員間で調整しておかないと、統合後に保護者から「前の学校と違う」という声が出ます。
課題8:広域化への対応が新たに加わった
令和8年8月5日の手引改訂によるものです。
文部科学省は令和8年8月5日、8文科初第1125号「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の改訂等について(通知)」により、平成27年1月27日版の手引を改訂しました。10年ぶりの改訂です。
令和8年3月26日の「議論のまとめ」で示された方向性が、改訂版に反映されています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 広域化 | 各市町村がそれぞれの域内だけを念頭に検討するのではなく、周辺の市町村を巻き込んだ圏域で検討する観点 |
| 総合化 | 学校を設置する教育委員会の視点で検討するのではなく、首長部局も含めた各市町村全体でその地域の未来を考える視点で検討する観点 |
| 現代化 | 学習指導要領の改訂、GIGAスクール構想の推進等学校教育の状況が変化していることを踏まえ、それに対応した学校教育となる記載に改める観点 |
標準学級数や通学距離は変わっていない
基本的な考え方の妥当性は維持されており、数値の基準も変わっていません。変わったのは検討の枠組みです。
周辺市町村との協議が課題になる
広域化の観点に対応するには、隣接市町村との協議が必要です。相手方の検討状況と方針を把握するだけでも時間がかかります。
組合立学校の設置、事務の共同処理といった選択肢が検討の範囲に入ります。市町村の境界に近い学校では、域内だけで考えると選択肢が狭くなります。
すでに方針を作った団体も見直しの対象
改訂前に基本方針を策定している団体でも、3観点を踏まえた見直しが論点になります。議会や住民への説明では、改訂版を踏まえているかを問われる可能性があります。
よくある質問
Q. 学校統廃合で最も時間がかかるのはどの工程ですか。
A. 保護者・地域への説明と協議です。地区ごとに複数回、数年にわたる協議が必要になる例が多くなります。統合の目標年度から逆算すると、検討の開始は想定よりかなり早くなります。
Q. 廃校はどれくらい活用されていますか。
A. 文部科学省の廃校施設活用状況実態調査(令和6年5月1日現在)では、現存7,612校のうち活用5,661校(74.4パーセント)、未活用1,951校(25.6パーセント)です。4分の1が使われないまま残っています。
Q. 統合後の校舎はそのまま使えますか。
A. 使えない場合があります。2校を1校にまとめると学級数が増え、普通教室が不足します。特別教室の転用や増築が必要になり、転用が建築基準法上の大規模の修繕・模様替に当たる場合は建築確認の対象です。
Q. 解体費に補助金は使えますか。
A. 公立学校施設の解体に使える国庫補助は限られます。公共施設等適正管理推進事業債の除却事業は充当率90パーセントですが、単独の除却には交付税措置がありません。複数施設の統合に伴う除却は充当率90パーセント・交付税措置率50パーセントの対象です。
Q. 手引の改訂で何が課題として増えましたか。
A. 広域化への対応です。令和8年8月5日の改訂(8文科初第1125号)により、周辺の市町村を巻き込んだ圏域で検討する観点が加わりました。隣接市町村との協議には時間がかかるため、検討の初期段階で打診する必要があります。
まとめ
学校統廃合で自治体が直面する課題は、合意形成、通学条件、跡地の処理、財源、統合後の校舎、議会日程、児童生徒と教職員への配慮、広域化への対応の8つです。
最も時間がかかるのは合意形成です。地区ごとに複数回、数年にわたる協議が必要になります。統合する前提で検討を始めると説明の場で反発を受けるため、複数の選択肢を並べて利点と課題を示す形で進めてください。推計の数値や判断の基準を早い段階から共有する方が、結論だけを後から示す形より進みます。
最も費用が読めないのは跡地と旧校舎の処理です。現存7,612校のうち1,951校(25.6パーセント)が未活用で、理由は老朽化46パーセント、要望がない42パーセント、財源19パーセントでした。用途変更には建築基準法と消防法の制約があり、国庫補助を受けた施設には処分制限期間(RC造47年、木造22年)があります。使わない建物を残すにも法定点検と安全対策の費用がかかるため、解体費と維持費を並べて判断してください。
財源では、対象事業費と実際の契約額の差が最大の変動要因です。対象事業費は基準面積と国の単価で算定されるため、設計面積が基準を超えると差は全額が自治体の負担になります。「補助率2分の1だから負担は半分」ではありません。
見落とされやすいのは受入れ側の校舎です。学級数が増えて普通教室が不足し、特別教室の転用や増築が必要になります。
令和8年8月5日の手引改訂により、広域化への対応が新たな課題として加わりました。周辺市町村との協議には時間がかかるため、基本方針を固める前に打診してください。改訂前に方針を策定している団体でも、3観点を踏まえた見直しが論点になります。
参考・出典
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の改訂等について(通知)」(8文科初第1125号、令和8年8月5日) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tekisei/1413885_00007.htm
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引~少子化に対応した活力ある学校づくりに向けて~」(平成27年1月27日) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/07/24/1354768_1.pdf
- 文部科学省「廃校施設等活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm
- 文部科学省「財産処分手続ハンドブック」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shobun/1289170.htm
- 総務省自治財政局財務調査課「公共施設マネジメントの推進」 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/suisinkaigi/joukyou_dai15/siryou7-2.pdf
- e-Gov法令検索「学校教育法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000340
- e-Gov法令検索「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000179
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
記載の制度および数値は公表時点のものです。対象事業の判定、用途変更の取扱いおよび手続きは所管部署の運用により異なります。個別の適用は文部科学省、都道府県・市町村の教育委員会および所管の建築主事にご確認ください。
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