この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校統廃合はどう進めるのか?

目次

検討開始から開校までの7段階

7段階です。最も時間がかかるのは住民協議で、最も期限が動かないのは条例改正です。

統廃合は計画を決めれば進むものではありません。保護者・地域への協議に数年かかり、その合意を前提に条例を改正します。

さらに令和8年8月5日に文部科学省の手引が改訂されました(8文科初第1125号)。広域化と総合化の観点が加わり、検討体制そのものを組み替える必要が出ています。これから着手する団体は、最初の段階から改訂版を前提に設計してください。

この記事では、7つの段階を順に、それぞれで決めることと詰まる点を整理します。

この記事の要点

  • 進め方は現状把握、検討体制、基本方針、住民協議、基本計画、条例改正と届出、施設整備の7段階
  • 最も時間がかかるのは住民協議。数年にわたる例が珍しくない
  • 条例改正は議会の議決を経るため、議会日程が統合時期を決める
  • 手引改訂(令和8年8月5日)により、検討体制に広域化と総合化の観点が加わった
  • 標準学級数や通学距離の数値は改訂版でも維持されている

全体の流れはどうなっているのか?

7段階で、後半は並行して進みます。

段階内容目安の期間
1現状把握と将来推計数か月
2検討体制の構築数か月
3基本方針の策定半年から1年
4住民・保護者への説明と協議1年から数年
5基本計画の策定半年から1年
6条例改正と都道府県への届出議会日程に依存
7施設整備・通学手段の確保・開校準備1年から3年

全体で5年から10年かかる

検討の開始から開校まで、小規模な統合でも数年、複数校が関わる再編では10年近くかかる例があります。

したがって目標年度から逆算すると、着手の時期は想定よりかなり早くなります。

後半は並行する

5から7は並行します。基本計画を固めながら施設の設計を進め、条例改正の議案を準備する形です。

工程表を1枚にまとめて、どれかが遅れたときに何がずれるかを見えるようにしてください。

やり直しが効かない段階がある

条例を改正して廃止を決めた後に方針を変えると、議会と住民の双方に説明が立ちません。したがって4の協議が終わっていない状態で6に進まないことが原則です。

段階1:現状把握と将来推計をどう行うか?

将来推計が出発点です。

調べること内容
児童生徒数の推計出生数と転入転出の傾向から10年後、20年後を推計
学級数の推移推計から各校の学級数を算出
施設の状況築年数、改修履歴、耐震診断の結果、改築の時期
通学の実態地区ごとの実際の距離と所要時間
財政の見通し改築費と維持管理費の総額

現在の数ではなく推計で判断する

現在の児童生徒数で統合を決めると、統合した直後に再び小規模化することがあります。

出生数は過去の実績として確定しているため、小学校の入学者数は6年先までほぼ読めます。まずそこを押さえてください。

施設の状況を同時に並べる

学級数だけでなく、校舎の築年数と改築の時期を並べます。どの学校をいつ改築するかの計画と、配置の計画は一体です。

複数校の改築が同じ時期に重なると分かった段階で、統合の検討が現実的になります。

通学の実態は実測する

地図上の直線距離ではなく、実際の通学路の距離と所要時間を測ります。地区ごとに最も遠い世帯の条件を確認してください。

平均値では負担の大きい地区が見えません。説明会でその地区の実数を示せるかどうかで、信頼が変わります。

段階2:検討体制はどう組むか?

手引改訂で求められる範囲が広がりました。

構成要素役割
庁内の検討組織教育委員会を中心に、企画・財政・都市計画・公共交通の担当を含める
検討委員会(審議会)保護者、地域住民、学識経験者、学校関係者
事務局教育委員会の教育総務課など
周辺市町村との連絡圏域での検討の可能性を探る

総合化が体制に影響する

令和8年8月5日の改訂(8文科初第1125号)で、総合化の観点が加わりました。学校を設置する教育委員会の視点で検討するのではなく、首長部局も含めた各市町村全体でその地域の未来を考える視点で検討するという観点です。

したがって教育委員会単独の体制では足りません。公共施設等総合管理計画の所管部署との調整が起点になります。

広域化は早めに打診する

改訂版は、各市町村がそれぞれの域内だけを念頭に検討するのではなく、周辺の市町村を巻き込んだ圏域で検討する観点を示しています。

隣接市町村の学校との統合、組合立学校の設置、事務の共同処理。これらが検討の範囲に入ります。相手方の検討状況を把握するだけでも時間がかかるため、基本方針を固める前に打診してください。

改訂の内容は学校統廃合の手引とは何か?で扱っています。

検討委員会の構成で議論の質が変わる

委員の構成が偏ると、答申の説得力が落ちます。統合に賛成の委員だけで固めた委員会は、説明会で「結論が決まっていた」と受け取られます。

事務局の負担を見積もる

資料作成、会議運営、説明会の開催、問い合わせ対応。既存の業務に上乗せできる範囲を超える場合、外部委託や人員の配置が必要です。

段階3:基本方針では何を決めるか?

判断の基準と進め方の原則です。

決めること内容
検討の目的教育条件の改善であることを明記する
適正規模の考え方学校教育法施行規則第41条の標準学級数をどう扱うか
通学条件の考え方距離と時間の上限、スクールバスの方針
検討の対象どの学校を検討の対象とするか
進め方の原則住民との協議の方法、情報公開の範囲
小規模校を残す場合の方策存置の選択肢も明記する

目的を教育条件の改善に置く

手引は、学校規模適正化の検討は児童生徒の教育条件をより良くする目的で行うべきものとしています。

財政の都合を前面に出す説明は手引の考え方と合いません。財政の話は必要ですが、目的としてではなく制約条件として扱ってください。

標準学級数は弾力的に扱う

学校教育法施行規則第41条は小中学校12学級以上18学級以下を標準とし、義務教育学校は18学級以上27学級以下です。ただし「ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りでない」という規定があります。

したがって「12学級を下回ったら統合」という基準を方針に書くと、手引の考え方から外れます。

統合しない選択肢も方針に書く

手引には小規模校を存続させる場合の章があります。方針に統合だけを書くと、説明会で「初めから統合が前提」と指摘されます。

存置の方策も並べて書いてください。

段階4:住民協議はどう進めるか?

最長の工程です。

方法内容
説明会地区ごとに複数回。平日夜と休日の両方
アンケート保護者、就学前児童の保護者、地域住民
意見交換会少人数で意見を出しやすい場
パブリックコメント方針・計画の案に対する意見募集
ニュースレター検討の経過を定期的に知らせる

情報を早く出す方が進む

検討の途中は情報を出しにくいという判断になりがちですが、結論だけを後から示す形は不信を招きます。

推計の数値、検討している選択肢、判断の基準。これらを早い段階から共有する方が合意に近づきます。進め方は学校統廃合の合意形成で扱っています。

反対の理由を分けて扱う

通学条件なのか、地域の将来なのか、母校が失われることなのか、手続きへの不信なのか。理由によって打ち手が変わります。

「反対がある」とまとめると打ち手が決まりません。

就学前の保護者の意見を取る

在校生の保護者だけでなく、就学前児童の保護者の意向を把握してください。統合が実施される時期に通うのはその層です。

手引も実施事例として明記しています。

段階5:基本計画では何を決めるか?

対象校と時期と施設の整備です。

決めること内容
統合の対象校どの学校とどの学校を統合するか
統合の方式吸収型(片方の校舎を使う)か新設型か
統合の時期年度と月
使用する校舎既存校舎の改修か新築か
通学手段スクールバスの導入、経路、便数
跡地の方針転用、貸付、売却、解体のいずれか
財源国庫補助と地方債の組合せ

吸収型と新設型で費用が変わる

吸収型は既存校舎を使うため費用が抑えられます。新設型は校名や校歌を新しくするため地域の合意が得やすい一方、建設費がかかります。

方式費用合意
吸収型抑えられる廃止される側の反発が出やすい
新設型大きい双方が対等になり合意しやすい

受入れ側の校舎は手狭になる

2校を1校にまとめると学級数が増え、普通教室が足りなくなります。特別教室の転用、増築、仮設校舎の設置が必要です。

転用が建築基準法上の大規模の修繕・模様替に当たる場合、建築確認の対象になります。令和7年4月1日施行の改正により、2階建て又は延べ面積200平方メートル超の建築物では構造によらず構造関係規定等の審査が必要になりました。

跡地の方針を同時に決める

計画の段階で跡地の方針を決めないと、統合後に使われない校舎が残ります。

文部科学省の廃校施設活用状況実態調査(令和6年5月1日現在)では、現存7,612校のうち1,951校(25.6パーセント)が未活用です。令和3年調査の未活用理由は老朽化46パーセント、要望がない42パーセント、財源19パーセントでした。

財源の試算を計画に入れる

公立学校施設整備費負担金は原則2分の1、学校教育施設等整備事業債は充当率90パーセント(負担金事業・通常分)。対象事業費を超えた部分は全額が自治体の負担です。

組み立ては学校統廃合の財源と起債で扱っています。

基本構想との違いを整理する

基本構想は方向性、基本計画は実施の内容です。両者の記載事項は学校統廃合の基本計画とはで扱っています。

段階6:条例改正と届出はどうするか?

議会日程が統合の時期を決めます。

手続き内容
学校設置条例の改正廃止と設置。議会の議決が必要
都道府県教育委員会への届出学校教育法施行令第25条
添付書類廃止に関する条例の写しを求める都道府県がある

条例が先に成立している必要がある

都道府県の規則では、廃止の届出に「廃止に関する当該地方公共団体の条例の写し」の添付を求める例があります。つまり届出の前に条例が成立していなければなりません。

届出であり認可ではない

学校教育法施行令第25条は、市町村の教育委員会または公立大学法人の理事長が、設置する小学校、中学校または義務教育学校について一定の事由があるとき、都道府県の教育委員会に届け出なければならないと定めています。

事由は、設置または廃止しようとするとき、新たに設置者となるまたはやめようとするとき、名称または位置を変更しようとするとき、分校を設置または廃止しようとするとき、二部授業を行おうとするときです。

学校教育法第4条の認可が必要になるのは私立学校など別の区分です。ただし都道府県の規則で手続きと添付書類が定められているため、早めに照会してください。

議案の提出時期から逆算する

合意が得られていない状態で議案を出すと、否決または継続審議になります。協議の完了時期と議会日程を突き合わせてください。

通学区域の変更も必要になる

統合により通学区域が変わります。通学区域は教育委員会規則などで定められているため、こちらの改正も必要です。条例改正と並行して手続きを進めてください。

段階7:施設整備と開校準備は何をするか?

工事と事務が並行します。

項目内容
校舎の改修・新築設計、入札、工事
通学手段の確保車両の調達、運行の委託、乗降場所の整備
開校準備委員会校名、校章、校歌、校旗、PTA組織
児童生徒の交流統合前の合同行事、合同授業
教職員の調整配置、指導方針の統一
転校の手続き指定校の変更、学籍の処理

工事中の授業への影響を設計する

受入れ側の校舎を改修しながら授業を続けることになります。夏休みに集中させる、棟ごとに分ける、仮設校舎を建てる。

いずれも工期と費用に影響します。設計の段階で学校と調整してください。

統合に伴う事務は多い

校名、校章、校歌、校旗、通学区域、PTA組織、同窓会名簿の整理。手引には統合の前後に発生する事務が例示されています。

見落としやすい項目が並んでいるため、チェックリストとして使ってください。

学校文化の違いを事前に調整する

持ち物の決まり、宿題の量、行事の進め方。学校ごとに積み上がった慣習が違います。統合前に教職員間で調整しておかないと、統合後に保護者から「前の学校と違う」という声が出ます。

よくある質問

Q. 学校統廃合は検討開始から何年かかりますか。

A. 小規模な統合でも数年、複数校が関わる再編では10年近くかかる例があります。最も時間がかかるのは住民協議で、数年にわたる例が珍しくありません。目標年度から逆算すると着手の時期は想定よりかなり早くなります。

Q. どの段階から住民に知らせるべきですか。

A. 早い方が進みます。検討の途中は情報を出しにくいという判断になりがちですが、結論だけを後から示す形は不信を招きます。推計の数値や検討している選択肢を早い段階から共有してください。

Q. 条例改正はいつ行いますか。

A. 住民協議が完了した後です。都道府県への届出に「廃止に関する条例の写し」の添付を求める例があるため、届出の前に条例が成立している必要があります。議会の議決を経るため、議案の提出時期から逆算して工程を組んでください。

Q. 都道府県の認可は必要ですか。

A. 市町村立の小中学校については届出です。学校教育法施行令第25条により都道府県の教育委員会に届け出ます。ただし都道府県の規則で手続きと添付書類が定められているため、早めに照会してください。

Q. 手引改訂は進め方に影響しますか。

A. 影響します。令和8年8月5日の改訂(8文科初第1125号)で広域化と総合化の観点が加わり、検討体制の組み方が変わりました。周辺市町村との協議と、首長部局を含めた体制の構築が必要になります。

Q. 統合しない選択肢も検討すべきですか。

A. 検討してください。手引には小規模校を存続させる場合の章があります。方針に統合だけを書くと、説明会で結論が決まっていたと指摘されます。

まとめ

学校統廃合の進め方は、現状把握と将来推計、検討体制の構築、基本方針の策定、住民・保護者への説明と協議、基本計画の策定、条例改正と都道府県への届出、施設整備と開校準備の7段階です。全体で5年から10年かかります。

出発点は将来推計です。現在の児童生徒数で統合を決めると、統合した直後に再び小規模化することがあります。出生数は確定しているため小学校の入学者数は6年先までほぼ読めます。あわせて校舎の築年数と改築の時期、地区ごとの実際の通学距離を実測で把握してください。

令和8年8月5日の手引改訂(8文科初第1125号)で、検討体制の組み方が変わりました。総合化の観点により教育委員会単独の体制では足りず、首長部局を含めた検討が求められます。広域化の観点により周辺市町村との協議が検討の範囲に入ります。協議には時間がかかるため、基本方針を固める前に打診してください。

最も時間がかかるのは住民協議です。情報を早く出す方が進み、反対の理由を通学条件・地域の将来・手続きへの不信に分けて扱うと打ち手が決まります。就学前児童の保護者の意向も把握してください。統合が実施される時期に通うのはその層です。

条例改正は議会の議決を経るため、議会日程が統合の時期を決めます。住民協議が完了していない状態で議案を出すと否決または継続審議になります。届出は学校教育法施行令第25条によるもので認可ではありませんが、都道府県の規則で添付書類が定められているため早めに照会してください。

参考・出典

記載の基準および手続きは公表時点のものです。設置・廃止の手続および添付書類は都道府県の規則により異なります。個別の適用は文部科学省および都道府県・市町村の教育委員会にご確認ください。

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