学校施設のトイレ改修とは?目的・工法・進め方を解説

学校のトイレ改修は、子どもが毎日使う空間を直す工事です。そして「トイレに行くのを我慢する」という問題が、実際に起きている領域でもあります。

ただし、目標は「100%洋式化」ではありません。文部科学省は、一部に和便器を残す方針の学校設置者がいることを、理由とともに公表しています。

この記事では、洋式化の現在地と、改修工事として何を検討すべきかを整理します。

現在地──公立小中学校の洋便器率は68.3%

文部科学省の調査(令和5年9月1日現在)によると、公立小中学校のトイレの状況は次のとおりです。

区分数値
全便器数(公立小中学校)約1,326,338基
洋便器数/洋便器率905,447基/68.3%
和便器数/和便器率420,891基/31.7%

推移を見ると、洋式化は急速に進んでいます。

  • 平成28年度(2016年):43.3%
  • 令和2年度(2020年):57.0%
  • 令和5年度(2023年):68.3%(前回から11.3ポイント上昇)

校種別では、幼稚園81.0%、特別支援学校88.4%と進んでおり、小中学校の遅れが目立ちます。

整備方針も変わっている

教育委員会の方針調査では、「和便器よりも洋便器を多く設置する方針」の学校設置者が、小中学校で約92%(前回調査の約88%から約4ポイント増)。幼稚園94.3%、特別支援学校95.5%です。

方針の内訳は3段階に分かれています。

  • おおむね洋便器(洋式化率90%以上
  • 各階に1つ程度和便器を設置し、他は洋便器(洋式化率約80%以上
  • 各トイレに1つ程度和便器を設置し、他は洋便器(洋式化率60%以上

「全部洋式」ではなく、「どの程度残すか」が方針として選ばれています。

100%洋式化しない理由

文部科学省は、和便器を一部残すとした学校設置者の理由を、次のように公表しています。

  1. 駅や高速道路のトイレなど公共施設において和便器の使用が一定程度ある中で、教育上の観点から一部は和式トイレを残す必要がある
  2. 衛生面から便座に触れる洋式を望まない児童生徒も一定数いる

一方で、洋式化を進める側の事情も明確です。和式で用を足したことがないため、学校でトイレに行くのを我慢して体調を崩す——こうした事態が指摘されています。

つまりトイレ改修の設計は、「どちらか」ではなく「配分」の問題です。各階に1つか、各トイレに1つか、全廃か。この方針を先に決めなければ、器具数も配管計画も決まりません。

文科省の姿勢も、一律の目標値ではなく「各学校設置者の整備方針に応じ、引き続き必要な予算の確保に努める」というものです。

トイレ改修は「配管の工事」である

ここが工事としての本質です。便器を替えるだけの工事ではありません。

和便器から洋便器への変更は、排水位置が変わります。床下の排水管の位置、勾配、経路の見直しが必要になり、多くの場合床を解体します。そして床を開ければ、給水管・排水管の状態が見えます。

築40年前後の校舎では、配管そのものが更新時期を迎えています。便器だけ新しくして配管を残せば、数年後に漏水や詰まりで再び床を壊すことになります。トイレ改修は、給排水設備の更新と同時に検討すべき工事です。学校施設の給排水設備の更新/K011)

乾式化という選択

もう一つの論点が湿式(水を流して掃除する床)から乾式(水を流さない床)への変更です。

乾式化には、清掃性の向上、におい・カビの抑制、床の乾燥による転倒リスク低減といった効果が期待されます。ただし床仕上げと防水の納まり、排水口の処理、清掃方法の変更まで含めた設計が必要で、便器の交換とは別の検討になります。

ブースと手洗いも同時に

便器を替えれば、ブース(間仕切り)と手洗いの位置関係も見直しになります。洋便器は和便器より必要な奥行きが大きく、同じ面積に同じ数を並べられないことがあります。「洋式化したら器具数が減った」という結果を避けるには、平面計画からの検討が要ります。

デザイン面の考え方は学校トイレを快適にするデザインの勘所(K269)で解説しています。

バリアフリーと防災の観点

文科省は、洋式化を進める理由として「バリアフリー化、防災機能の強化などの観点」を挙げています。

バリアフリー:バリアフリートイレは原則として各階1以上とする基準が令和7年6月に施行されています。トイレ改修は、この整備と重ねて検討する場面が多くなります。(学校施設のバリアフリー化/K033)

防災:公立小中学校の約9割が避難所に指定されています。避難者が使うトイレは、和式では成立しません。高齢者や車椅子の利用を前提とすれば、洋式化とバリアフリー化は避難所機能の一部です。

補助制度

公立学校のトイレ改修は、学校施設環境改善交付金の「大規模改造(質的整備)」の対象です。

  • トイレ改修:算定割合 1/3
  • バリアフリー化:1/2(保有面積2,000㎡以上等の要件あり)

ただし算定割合=交付率ではありません。交付金は配分基礎額(配分面積×単価)×算定割合と、実工事費×算定割合の少ない方を基礎とし、予算の範囲内で交付されます。詳しくは学校施設環境改善交付金の使い方(K168)をご覧ください。

私立学校では、私立学校施設整備費補助金の施設環境改善整備事業に「トイレの改修整備」が含まれます。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
洋式化率の方針が未定「全部洋式」か「各階に1つ和式を残す」かが決まらないまま設計に入り、器具数と平面が確定しない設置者として方針を先に決める(90%以上/80%以上/60%以上の3段階が実際の選択肢)
便器だけ交換する築40年前後では配管も更新時期。便器だけ新しくすると、数年後に漏水や詰まりで再び床を壊すことになる床を開ける機会に給排水管の更新を同時実施する。配管の状態を事前に調査する
器具数が減る洋便器は和便器より必要な奥行きが大きく、同じ面積に同数を並べられない。休み時間に行列ができる平面計画から検討する。ブース・手洗いの配置を含めて器具数を確保する
工期と使用制限改修中はそのトイレが使えない。学年・階によっては生活が成立しなくなる階別・系統別に工区を分け、使えるトイレを常に確保する。山場は長期休暇に寄せる
バリアフリーとの調整不足バリアフリートイレは原則各階1以上。トイレ改修と別々に進めると、同じ場所を二度触ることになるバリアフリー化の計画と工事範囲を重ねる。算定割合も異なるため事業区分を確認する
乾式化の検討漏れ床仕上げ・防水・排水口の納まりを詰めずに乾式化し、清掃方法が現場に合わない清掃体制と合わせて仕様を決める。床防水と排水の納まりを設計で確定させる

トイレを直すなら、その系統ごと直す

トイレ改修は、単独工事として発注しやすい工種です。範囲が明確で、効果が目に見えて、予算規模も読みやすい。だからこそ単独で発注され、そして機会を逃しがちです。

床を開ければ、そこには給排水管があります。壁を壊せば、その裏にも配管があります。トイレは建物の中で、配管が最も集中している場所です。そして上階と下階のトイレは、同じ系統でつながっています。

1階のトイレだけを直しても、2階・3階の配管は古いままです。系統でつながっている以上、どこかで漏水すれば、直したばかりの1階に影響します。

さらに、トイレ改修で必要になる足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。外壁改修や長寿命化改修で足場を架けるなら、その機会にトイレも系統ごと片づけられます。

制度もその前提です。長寿命化改良事業では「ライフラインの更新」が必ず実施する工事に含まれており、給排水管の更新は本来そこに入るものです。学校施設の長寿命化改修/K002)

洋便器率68.3%という数字は、まだ3割以上のトイレが改修を待っていることを意味します。その改修を「便器の交換」として発注するか、「配管と床と壁を含む系統の更新」として設計するか——同じ予算でも、10年後に残るものが変わります。

株式会社光建舎にご相談ください

光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査から設計・施工管理までを一貫して対応します。洋式化率の方針づくり、配管を含む系統単位の改修計画、バリアフリー化との調整、使えるトイレを確保する工区分けまでご提案します。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、構想段階からのご相談を承ります。

関連記事

参考・出典

  • 文部科学省「公立学校施設のトイレの今後について」(2026年7月確認)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/mext_00944.html
  • 文部科学省「公立学校施設のトイレの状況について(令和5年9月1日現在)」(令和5年9月27日公表)
    https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00334.html
  • 文部科学省「公立学校施設のトイレ改修に関する支援制度」
    https://www.mext.go.jp/content/20201002-mxt_sisetujo-000010165_01.pdf
  • 文部科学省「学校施設環境改善交付金交付要綱」(最終改正 令和7年4月1日)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/unyou/20250410-ope_dev02-1.pdf
  • 文部科学省「長寿命化改良事業 Q&A」(ライフラインの更新)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/20200824-mxt_kouhou02_04.pdf

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。