この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校施設の省エネ・ZEB化とは?光熱費削減と脱炭素の進め方を解説

省エネ・ZEB化と聞くと、まず太陽光発電を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし全国で初めてZEBを達成した中学校は、太陽光を一切使わない「省エネ手法だけ」で、エネルギー消費量を50%削減しています。

そして学校には、オフィスビルとは違う特性があります。学校でエネルギー消費が最も大きいのは、空調ではなく照明です。

この記事では、学校固有の省エネの構造と、使える制度を整理します。

ZEBの4段階──「ZEB」は1つではない

まず用語を整理します。ZEB(Net Zero Energy Building)は、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物です(環境省)。

ただし実務では、達成度に応じた段階があります。学校で目標になるのは主にZEB Readyです。

区分考え方
『ZEB』省エネ+創エネで、一次エネルギー消費量の収支をゼロ以下に
Nearly ZEB『ZEB』に近い水準
ZEB Ready創エネを除き、省エネだけで基準から50%以上削減した状態(学校等では省エネ基準から40%削減/BEI=0.6 を目安とする運用もあります)
ZEB Oriented大規模建築物向けの区分

ZEB Readyが重要なのは、太陽光を載せる前の「建物そのものの性能」を示す指標だからです。ここが弱いまま太陽光を増やしても、コストばかりかかります。

なお国の方針として、2030年には新築される建築物はZEB基準の水準の省エネ性能を目指すこととされています(地球温暖化対策計画)。

【事例】瑞浪北中学校──太陽光なしで50%削減

岐阜県瑞浪市立瑞浪北中学校は、市内3校の統合再編で平成31年4月に開校した中学校です。文部科学省のスーパーエコスクール実証事業の認証を受け、全国の小中学校施設として初めてZEBを達成しました。

実測期間1年目(2019年9月〜2020年8月)の内訳が、この記事で最も重要な数字です。

瑞浪北中学校の一次エネルギー消費量削減

  • ① 様々な省エネ手法の効果により ▲50%(=創エネなし、建物性能だけで半減)
  • ② 太陽光発電の発電量を学内で消費し ▲72%
  • ③ 余剰電力を電力会社へ売電(地域の省エネに寄与)。この効果も加味して ▲101%

一般的な中学校のエネルギー消費量364MJ/㎡年に対する比較です。2年目(2020年9月〜2021年8月)も97%削減を達成しています。

読み取るべきは①です。創エネを一切使わず、設計と断熱と自然エネルギーの活用だけで半分。残りの50%を太陽光で埋めた、という構造です。

逆に言えば、省エネが不十分な建物に太陽光を載せても、必要な発電容量が膨らむだけです。順番を間違えると、投資効率が大きく落ちます。

何をやったのか

瑞浪北中学校で採用された主な手法です。特別な機器より、建築の工夫が中心である点に注目してください。

  • 最上階の普通教室は南北両面から自然光が入る設計
  • 中間階の特別教室にライトシェルフを設置し、室内に自然光を多く採り込む
  • この自然採光とLED照明・明るさセンサによる照明制御を組み合わせて照明エネルギーを削減
  • クールウォームロッカー——普通教室の後ろの壁に、ロッカーと自然換気、空調設備を一体化。上部の吹出スリットから、クールウォームトレンチを通った涼風と、太陽集熱による温風が出る
  • 創エネ:太陽光発電120kW、風力発電1.0kW、ペレットストーブ3.0kW

【学校の特性】エネルギー消費が最も大きいのは照明

ここが学校施設のZEB化を考えるうえで決定的な事実です。

環境省のZEB PORTALは、こう述べています。一般に、小中高校では照明に使われるエネルギー消費量が最も多く、ZEBの実現にはその削減が重要。

オフィスビルや商業施設とは構造が違います。学校は、

  • 使用時間が昼間に限られる(夜間・休日の稼働が少ない)
  • 1人あたりの床面積が大きく、天井が高い
  • 普通教室は外周部に面しており、自然光を採りやすい

この特性は、そのまま設計の方向を決めます。「自然光を最大限使い、足りない分をLEDと制御で補う」——これが学校の省エネの本丸です。LED化の考え方は学校施設の照明のLED化(K009)をご覧ください。

そして採光は建築の設計そのものです。窓の位置と大きさ、庇、ライトシェルフ、天井の高さ、内装の反射率。照明器具を替えるだけでは、ここには手が届きません。

断熱は、空調を小さくするための工事

もう一つの柱が断熱です。そしてこれも「省エネのため」より前に、設備を小さくするための工事と理解したほうが正確です。

文部科学省の試算(東京・延床930㎡の体育館・令和5年9月時点)では、断熱の有無で必要な冷房能力が128kW → 70kWに変わります。室内機は8台から5台へ。電気代は年間280万円から140万円へ。40年で5,500万円の経費削減と試算されています。

詳しくは学校施設の空調設備の更新(K008)で解説しています。

制度──エコスクール・プラスと単価加算8%

省エネ・ZEB化を後押しする枠組みがエコスクール・プラスです。

文部科学省・農林水産省・国土交通省・環境省が連携し、市町村等がエコスクールとして整備する学校を認定する制度で、2024年3月現在で1,974校が認定されています。認定を受けると、関係各省の補助事業で優先採択などの支援を受けられます。

単価加算8%の要件(注意点あり)

最も分かりやすい支援が建築単価の8%加算ですが、要件を正確に押さえる必要があります。

エコスクール・プラスの認定を受けた事業について、文部科学省の支援措置(単価8%加算)の対象は、ZEB Readyが達成できる事業かつ、脱炭素先行地域の学校、または将来的に『ZEB』が達成できる計画のある学校となります。

「ZEB Readyを達成すれば8%」ではありません。ZEB Readyに加えて、脱炭素先行地域であるか、将来『ZEB』に到達する計画があることが必要です。単発の省エネ改修では要件を満たさない可能性があります。

なお令和4年度の改正で、「エネルギー消費量を削減する事業」と「木材を利用する事業」は、いずれも標準的に実施することが望ましい事業として建築単価に包含されました。木質化については木質化(木のぬくもり)を取り入れた校舎(K276)をご覧ください。

交付金側のメニュー

学校施設環境改善交付金では、太陽光発電等の整備が算定割合1/2(時限なし)、大規模改造(質的整備)の内部環境改善——断熱改修・内装木質化等——が1/3とされています。詳しくは学校施設環境改善交付金の使い方(K168)、環境省・経産省系の補助は学校の省エネ・脱炭素改修に使える補助金(K162)で解説しています。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
太陽光から始める建物の省エネ性能が低いまま創エネを載せるため、必要な発電容量が膨らむ。投資効率が落ち、屋上の耐荷重や防水にも負担がかかる断熱・採光・照明制御で消費を下げてから創エネを検討する。瑞浪北中学校は省エネだけで50%削減している
照明を器具交換だけで済ませる学校は照明のエネルギー消費が最大。LED化だけでは自然採光の効果が取り込めず、削減幅が限定される窓・庇・ライトシェルフ・内装反射率を含む採光設計と、明るさセンサによる制御を組み合わせる
単価加算8%の要件誤認ZEB Ready達成だけで8%加算されると想定して予算化。脱炭素先行地域または将来『ZEB』計画の要件を満たさず、加算が受けられない要件を申請年度時点で確認する。将来『ZEB』に至る段階計画を先に描いておく
屋上の条件確認漏れ太陽光パネルを載せる屋上の耐荷重と防水層の状態を確認せず設計。後から防水改修が必要になり、パネルの撤去・再設置が発生する屋上防水の更新時期とパネル設置を同時期に計画する。構造の耐荷重を先に確認する
効果の検証をしない改修後の実績を測定せず、投資効果を説明できない。次の予算要求の根拠が作れない光熱水費の実績データを継続的に記録する。瑞浪北中学校は実測で効果を公表している
単独工事として発注断熱・LED・空調・太陽光をそれぞれ別年度に発注。足場と仮設を何度も架け、天井を何度も開けることになる長寿命化改修や大規模改造の工事範囲に取り込み、一度の足場でまとめて実施する

省エネは「設備の話」ではなく「建物の話」

この記事で一貫して言えることが1つあります。学校の省エネで効くのは、機器より建築です。

瑞浪北中学校が太陽光なしで50%削減できたのは、高効率な機器を並べたからではありません。南北両面からの採光、ライトシェルフ、自然換気、断熱、そしてロッカーと空調を一体化した造作——すべて建築の設計です。

そして学校で最大の消費を占める照明を減らす手段は、窓と庇と天井高と内装の反射率にあります。断熱で空調を小さくするのも、屋根と外壁の工事です。設備業者だけでは、この領域に手が届きません。

さらに、これらの工事範囲は完全に重なります。断熱改修は屋根と外壁——屋上防水と外壁改修と同じ場所。照明制御は天井——空調ダクトとLAN配線と同じ場所。太陽光は屋上——防水層と耐荷重の問題。足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。

制度もそう設計されています。エコスクール・プラスでは省エネと木材利用が「標準的に実施することが望ましい事業」として建築単価に包含され、交付金では太陽光発電等が1/2、断熱・内装木質化が大規模改造の対象になっています。省エネを単独メニューとして切り出すのではなく、改修に織り込む前提です。

光熱費の削減額は、毎年積み上がります。断熱していない体育館なら年140万円の差。その差は、改修のたびに固定される40年分の判断です。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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