この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校のラーニングコモンズ整備とは?計画と工事のポイント

学校内にラーニングコモンズを整備したいものの、「図書館を改修すればよいのか」「空き教室を転用できるのか」「家具を入れ替えるだけで成立するのか」と判断できず、計画が止まるケースがあります。

ラーニングコモンズは、単に机やソファを置いた交流スペースではありません。調べる、話し合う、制作する、発表する、個人で集中するといった異なる活動を、空間・設備・情報資源・人的支援によって支える学習環境です。

文部科学省の同志社大学に関する先行事例では、ラーニング・コモンズを高頻度で利用する学生ほど、「効果的に学ぶ技能」や「授業内容について理解」が高まったと感じていました。同資料は、その背景として、高頻度利用者が施設と人的支援を活用している可能性を挙げています。

この記事では、学校のラーニングコモンズ整備を「模様替え」ではなく、建築、内装、電気、ICT、空調、音、施工工程が関係する学校改修として解説します。

学校のラーニングコモンズとは

文部科学省は、ラーニング・コモンズを、複数の学生が電子情報や印刷物などの情報資源を用いて議論を進める学習スタイルを可能にする「場」と説明しています。

注目すべき点は、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、それらを使った自学自習を支援する図書館職員のサービスも含めていることです。

つまり、ラーニングコモンズは特定の家具や内装様式の名称ではありません。学習活動、情報資源、ICT環境、空間、人的支援を一体として機能させる仕組みです。

この定義は大学図書館を対象としています。ただし、文部科学省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」では、教室や図書館だけでなく、学校施設全体を学びの場として捉え直す方向性が示されています。

小学校、中学校、高等学校などで整備する場合も、図書館だけを切り離して考えるのではなく、多目的スペース、普通教室、特別教室、廊下、階段周辺、ラウンジなどとのつながりを検討する必要があります。

ラーニングコモンズは図書館だけに限られない

学校図書館は、資料と人的支援を集約しやすいため、ラーニングコモンズの中心になり得ます。ただし、学校図書館の内装だけを更新しても、学校全体の学習活動とつながらなければ利用は限定されます。

学校図書館とコンピュータ教室を組み合わせ、読書、学習、情報のセンターとなる空間へ転換する考え方が示されています。

また、教室と多目的スペースを連続させること、階段などの共用部を発表や表現の場として使うこと、特別教室を特定教科だけに限定しない創造的な空間へ転換することも例示されています。

そのため、整備場所は「図書館を改修するか、空き教室を改修するか」という二者択一ではありません。図書館を情報資源と人的支援の拠点にし、隣接室をグループワークに使い、廊下や共用部を展示・発表に使うなど、複数の空間を連携させる方法があります。

整備する部屋より先に学習活動を決める

最初に改修する部屋を決めると、既存の広さや形に使い方を合わせることになります。先に整理すべきなのは、学校が実現したい学習活動です。

  • 書籍、資料、端末を使って調査する
  • 少人数で話し合う
  • 文章、模型、映像などを制作する
  • 成果を発表し、相互に評価する
  • 作品や学習成果を展示する
  • 一人で集中して学ぶ
  • 教職員や支援者へ相談する

活動を整理したうえで、図書館、多目的スペース、空き教室、普通教室周辺などの候補を比較します。

話し合いと個人学習を同じ場所で行うなら、音を分ける計画が必要です。制作活動を行うなら、机の大きさだけでなく、材料の保管、清掃、換気、電源を検討します。発表を行うなら、映像設備、壁下地、照明、音響、観覧者の動線が必要です。

ラーニングコモンズ整備が「建築計画」になる理由

ラーニングコモンズは、家具販売会社だけでも、ICT業者だけでも完成しません。教育活動、建築、内装、電気、空調、通信、施工工程が互いに影響するためです。

学校改修では、「探究学習に使いたい」「生徒同士が話し合える場所がほしい」といった教育的な要望を、平面計画、音環境、電源、ICT、照明、空調、などの建築条件へ置き換えます。

この整理を行わずに家具や内装から決めると、設計終盤で配線や空調、防火区画との干渉が見つかり、配置変更や工事範囲の拡大につながります。

既存校舎には図面だけでは分からない制約がある

既存校舎では、竣工後の改修履歴が図面へ反映されていない場合があります。現地では、天井裏に梁、配管、ダクト、既存配線が重なり、新しい配線ルートを確保できないことがあります。

壁を撤去して図書館と隣接室をつなげたい場合も、その壁が構造体であれば簡単には撤去できません。構造壁でなくても、防火区画を構成している壁や、設備配管を内蔵している壁であれば、別の検討が必要です。

床用コンセントを増やす場合は、床下へ配線できるかを確認します。配線空間がない床でOAフロアを採用すると、床が高くなり、出入口の段差、建具、巾木、収納、バリアフリー動線へ影響します。

大型モニターを設置する場合は、壁面の位置だけでなく、機器の重量を受ける下地、電源、通信、配線の取り出し位置、保守スペースを確認します。既存壁へ下地がなければ、壁の解体と補強が必要です。

建築と設備を別々に発注すると取り合いが残る

家具、ICT、電気、内装を別々に検討すると、各業者の工事範囲の間に取り合いが残ります。

例えば、モニターはICT業者が設置しても、壁下地は建築工事です。アクセスポイントは通信業者が設置しても、天井開口や点検口は建築工事となります。床コンセントは電気工事ですが、床の補修やOAフロアの納まりは建築工事です。

工事区分が曖昧なまま進むと、「下地がないため機器を付けられない」「配線は通ったが点検できない」「家具を置くとコンセントが使えない」といった問題が完成直前に発生します。

設計段階で建築図、電気設備図、空調設備図、家具図、ICT機器配置図を重ね、工事区分と取り合いを整理する必要があります。

検討項目・課題・解決策

学校のラーニングコモンズ整備で、設計初期に確認すべき項目を整理します。

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
電源容量とコンセント端末、モニター、プリンターなどを追加すると、既存分電盤の回路や容量が不足する。設計終盤で判明すると、幹線や分電盤まで工事範囲が広がり、当初計画が成立しなくなる既存分電盤、幹線、回路構成、使用機器を調査し、壁コンセント、床用コンセント、配線モール、OAフロア、天井給電を比較する
ICT・Wi-Fi環境アクセスポイントを家具配置だけで決めると、壁や書架による電波の遮蔽、利用集中時の接続不良、電源やLAN配線の不足が起きる利用端末、同時利用の想定、既存ネットワーク、配線経路を整理し、アクセスポイントの位置と天井内の配線ルートを建築計画と同時に決める
音環境グループワークの会話が個人学習席や隣接教室へ広がり、双方が使いにくくなる。家具だけでは低い周波数の音や天井経由の音を十分に遮れない活動の音量に応じてゾーニングし、吸音天井、吸音壁、カーペット系床材、間仕切り壁、ガラス間仕切り、建具の遮音性能を組み合わせる
空調・換気間仕切り変更や利用人数の変化に既存空調が対応せず、場所によって暑さや寒さが偏る。壁を新設すると、吹出口と吸込口の位置関係が崩れる既存空調の方式、系統、吹出口、吸込口、換気経路を確認し、必要に応じてゾーニング変更、吹出口移設、個別空調化を検討する
避難経路と可動家具授業ごとに家具を動かす運用では、机やホワイトボードが通路へはみ出し、避難経路や出入口を塞ぐ可能性がある家具を移動した状態ごとのレイアウトを作成し、避難経路、出入口、消火設備、収納場所を確保する。床面や家具配置図で定位置を明確にする
施工時期と学校運営図書館や共用部を長期間閉鎖すると、授業、貸出、進路指導、学校行事へ影響する。騒音や粉じんを伴う工事は、授業中に実施しにくい長期休業中の集中工事、工区分け、仮設図書室、仮設動線、先行発注を組み合わせ、学校行事と工事工程を一つの表で管理する

ラーニングコモンズ整備の実務の勘所

天井を閉じる前に電気・通信・空調・防災を確定する

ラーニングコモンズでは、天井裏に電源、LAN、空調配管、ダクト、防災設備が集中します。内装の意匠だけを先に決めると、施工段階で設備の位置が合わなくなります。

特に、天井内配線を新設する場合は、既存梁の位置、点検口、照明、空調吹出口、感知器、スプリンクラーなどとの干渉を確認します。

天井を仕上げた後に配線不足が見つかると、完成した天井を再び開けることになります。露出配線へ変更すれば工事はできますが、見た目だけでなく、清掃性や破損防止にも影響します。

設計段階で設備機器の位置を確定し、建築図と設備図の不整合を解消してから天井工事へ進む必要があります。

可動家具は「自由に動かせる」だけでは選ばない

可動机や可動式ホワイトボードは、授業に合わせてレイアウトを変えられます。ただし、動かした家具を戻す場所がなければ、通路や壁際へ集積されます。

家具を選ぶ際は、使用時だけでなく、収納時、清掃時、発表時、試験時などの状態も確認します。キャスターの固定方法、床材との相性、転倒防止、電源コードの処理も必要です。

床コンセントを固定レイアウトに合わせて配置すると、家具を動かした際に使えなくなります。反対に、延長コードへ依存すると、つまずきや断線の原因になります。

家具計画と電源計画は同じ平面図で検討し、代表的な利用パターンごとに支障がないかを確認します。

空調は部屋の広さではなく使われ方で見直す

既存図書館の一部をグループワーク空間へ変えると、同じ室内でも利用密度や発熱量が変わります。端末やモニターの増加も室内環境へ影響します。

既存空調をそのまま使う場合でも、間仕切りや書架の位置によって空気の流れが遮られることがあります。静かな個人学習席と活動的なエリアを同じ空調系統にすると、利用状況に合わせた調整が難しくなります。

間仕切り変更を行う場合は、吹出口と吸込口の位置、換気経路、空調操作の区分を確認します。既存設備を残せるか、移設で対応できるか、系統変更が必要かを内装設計と同時に判断します。

長期休業だけで完了する前提にしない

学校工事では、騒音、振動、粉じん、停電を伴う作業を長期休業へ集めます。ただし、設計、機器選定、承認、製作、撤去、設備工事、内装工事、家具・ICT機器の設置をすべて同じ期間へ詰め込むと、工程に余裕がなくなります。

既存校舎では、解体後に図面と異なる状況が見つかることもあります。予備期間がなければ、始業時点で一部が使用できない状態になりかねません。

工事範囲が広い場合は、事前に天井裏や設備を調査し、休業前に実施できる作業と休業中に限定する作業を分けます。図書館を改修する場合は、資料の移動、仮設図書室、貸出停止期間、復旧作業も工程へ含めます。

大規模改修やICT更新と同時に行うと合理的な理由

ラーニングコモンズだけを単独で改修することは可能です。ただし、内装、ICT、空調、照明、電源などを近い時期に別々に更新すると、同じ天井や壁を繰り返し開けることになります。

校舎の大規模改修、長寿命化改修、図書館改修、校内ネットワーク更新、照明更新などの計画がある場合は、同時に検討したほうが工事の重複を減らせます。

例えば、内装改修に合わせて天井を撤去するなら、その時点で電源、LAN、空調、防災設備を更新できます。床を更新するなら、床配線やOAフロアの採用可否を検討できます。壁を更新するなら、モニターや書架を固定するための下地をあらかじめ施工できます。

ただし、同時施工の範囲を広げすぎると、休室期間や仮設計画への影響も大きくなります。工事をまとめるか段階的に整備するかは、学校行事、予算、老朽化状況、設備更新時期を重ねて判断します。

学校改修全体の進め方は、学校改修の進め方ガイド(K296)で整理しています。

自校の整備方針を判断するチェックポイント

構想段階では、次の項目を整理すると、必要な調査と工事範囲が見えやすくなります。

  • どの授業や学習活動で使うのか
  • 個人学習とグループワークを同じ場所で行うのか
  • 図書、端末、制作物をどこに保管するのか
  • 図書館、空き教室、共用部のどこを連携させるのか
  • 大型モニター、端末、プリンターなど何を使うのか
  • 会話や発表の音が隣接教室へ影響しないか
  • 電源、通信、空調、換気を既存設備でまかなえるか
  • 撤去したい壁が構造や防火区画に関係していないか
  • 可動家具を移動・収納しても避難経路を確保できるか
  • 工事中に図書館や対象室の代替場所を確保できるか
  • 完成後に誰が運営し、機器や資料を管理するのか

この段階で判断できない項目が多い場合は、家具や機器を選ぶ前に現況調査を行うべきです。

特に、壁の撤去、床コンセントの増設、空調変更、防火設備の移設を伴う計画は、内装工事だけでは完結しません。建築と設備をまとめて確認できる設計者へ相談する必要があります。

専門会社へ相談する際に用意したい情報

相談時点で詳細な図面や仕様が完成している必要はありません。次の情報があると、初期検討を進めやすくなります。

  • 実現したい授業や活動の内容
  • 整備候補となる部屋や範囲
  • 既存平面図、設備図、構造図
  • 過去の改修履歴
  • 現在使用している端末やICT機器
  • 対象室の利用時間と学校行事
  • 工事中に使用できる代替室
  • 将来予定している大規模改修や設備更新

既存図面が不足している場合も、現地調査によって整理できます。図面がある場合でも、改修履歴が反映されているとは限らないため、現況との照合が必要です。

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光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査から設計・施工管理までを一貫して対応します。ラーニングコモンズについても、学習活動の整理から電源・ICT・音・空調、学校運営に合わせた施工工程まで一体で検討します。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、構想段階からのご相談を承ります。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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