校舎の耐震診断とは?Is値の判定基準・1次〜3次診断・補強工法まで実務解説【2026年版】

「校舎の耐震診断を発注したいが、1次診断と2次診断のどちらを指定すべきか分からない」「Is値0.6と0.7、学校ではどちらが基準なのか整理できていない」——自治体や学校法人の施設担当の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。学校施設では、耐震診断は原則として2次診断以上、判定の目標値はIs値0.7以上が実務上の基準です。一般建築物で使われる「Is値0.6」とは意味も水準も異なり、取り違えたまま仕様書を作ると、成果品が補助要件を満たさないといった手戻りにつながりかねません。

本記事では、耐震診断の定義、Is値の読み方、1次〜3次診断の使い分け、診断から補強までの流れ、主な補強工法、公立学校の耐震化の現在地までを、文部科学省・国土交通省の一次情報(2026年7月時点)に基づいて整理します。仕様書づくりでお困りの場合は、校舎の耐震診断・耐震補強について光建舎に無料で相談するところから始めていただけます。

耐震診断とは?校舎で行う調査の定義

耐震診断とは、新耐震基準の施行以前に建てられた建物について、地震に対する安全性を構造力学上診断するものです。(出典:文部科学省「学校施設の耐震化推進について 相談窓口」)

ここでいう新耐震基準の施行日は、昭和56年(1981年)6月1日です。文部科学省は私立学校施設の耐震化に係る国庫補助の要件として「原則として耐震基準施行(昭和56年6月1日)以前に建築された建物」を対象と定めており、この日付が要否判断の分岐点になります。

診断の結果、構造耐震指標(Is値)が0.6未満の場合、「地震の震動及び衝撃に対して倒壊又は崩壊する危険性がある」とされています(平成18年国土交通省告示第184号/出典:文部科学省)。

なお、実務でしばしば混同されるのが「耐力度調査」です。耐力度調査は、建物の構造耐力、経年による耐力・機能の低下、立地条件による影響の3点を総合的に調査し、老朽化を評価するものです。所要の耐力度点数に達しないものは、建て替え(改築)の補助事業の対象となります。つまり、耐震診断は「地震に耐えるか」、耐力度調査は「建物として寿命か」を見るもので目的が異なります。改築を念頭に置く建物であれば耐力度調査から実施することも考えられる、と文部科学省の指針は述べています。

Is値とは?0.6と0.7の違いを正確に押さえる

Is値(構造耐震指標)とは、建物の耐震性能を表す指標です。地震力に対する建物の強度と、靭性(変形能力、粘り強さ)が大きいほど、この指標も大きくなります。同省の資料では、Is値は次の式で表されています(出典:文部科学省「耐震補強早わかり 地震に負けない学校施設」)。

  • Is = E0 × SD × T
  • E0:保有性能基本指標(=C:強度の指標 × F:粘り強さの指標)
  • SD:形状指標(1.0を基準に、建物形状や耐震壁の配置バランスが悪いほど小さくなる)
  • T:経年指標(経年劣化を考慮)

つまりIs値は「強い建物ほど高い」だけの指標ではありません。強度が小さくても粘り強い建物は高く評価され、形が歪んでいたり劣化が進んでいたりすると割り引かれます。

Is値の目安と学校の目標値

区分 Is値 評価(平成18年国土交通省告示第184号)
一般の判定 Is < 0.3 倒壊または崩壊する危険性が高い
一般の判定 0.3 ≦ Is < 0.6 倒壊または崩壊する危険性がある
一般の判定 0.6 ≦ Is 倒壊または崩壊する危険性が低い
学校施設の目標 おおむね0.7超 文部科学省が公立学校施設の耐震改修の補助要件として設定

重要なのは、0.6は一般的な閾値であり、学校施設ではそれを上回る0.7が求められるという点です。文部科学省は、地震時の児童生徒の安全性、被災直後の避難場所としての機能性を考慮し、補強後のIs値がおおむね0.7を超えることを補助要件としています。

あわせて押さえたいのがq値(保有水平耐力に係る指標)です。「学校施設耐震化推進指針」は、安全である(Is値が0.7以上)と判定するためには、q値が1.0以上(CtuSd値が0.3以上)の範囲でIs値を算定しなければならないと明記しています。Is値だけで「0.7を超えたから可」と判断するのは早計です。

1次・2次・3次診断の違いと選び方

耐震診断には第1次から第3次までの3種の診断レベルがあり、診断の目的と対象建物の構造特性に応じて選択します。「強度」と「粘り」を求める点は、どのレベルでも共通しています(出典:文部科学省「耐震補強早わかり」)。

診断次数 主に評価するもの 精度・手間 学校での位置づけ
第1次診断 柱・壁の断面積と建物重量から概略評価 簡易・短期間 壁式構造等の低層建物では1次診断で確認することも考えられる
第2次診断 断面積に加え鉄筋の配置を考慮し、部材の強度と靭性を評価 標準・実務の中心 緊急度判定でも原則としてこの結果を採用
第3次診断 梁の影響も考慮し、架構全体の保有水平耐力を評価 詳細・高負荷 2次と結果が異なる場合は原則2次を採用

※精度・手間・位置づけの欄は一般的な傾向です。個別建物での適用は構造設計者の判断によります。

文部科学省の「学校施設耐震化推進指針」には、判断の分岐点が示されています。壁式構造等で低層の建物については、1次診断により耐震性能の確認を行うことも考えられる。その場合、診断結果がIs≧0.9の場合は「耐震上問題が少ない」とするが、Is<0.9の場合は、引き続き第2次診断等を実施する、というものです。また同指針は、「2次診断と3次診断の結果で異なるランクになる場合は、原則として2次診断による分類を採用する」としています。

現場では「まず安いから1次診断で」というご要望を受けることがありますが、壁の少ない校舎では1次診断は耐力を低めに評価する傾向があるとされ、結局2次診断をやり直すことになりかねません。構造形式を確認したうえで次数を決めることが、費用と工期の両方を抑えると考えられます。

診断次数の選定や仕様書づくりでお悩みでしたら、校舎の構造形式に応じた診断次数の選び方を光建舎に相談することをご検討ください。

耐震診断から耐震補強までの流れ

公立学校施設では、耐震診断の実施主体は設置者(市区町村)であり、診断・補強設計それぞれについて所管行政庁の認定または公的機関の確認を受ける流れが定められています。文部科学省が示す手順は次のとおりです。

  1. 設置者(市区町村)が耐震診断を行う
  2. 設置者が耐震診断チェックリストを基に診断の内容確認を行う
  3. 耐震診断について、所管行政庁の認定又は公的機関の確認を受ける
  4. 設置者が耐震補強設計を行う
  5. 設置者がチェックリストを基に補強設計の内容確認を行う
  6. 耐震補強設計について、所管行政庁の認定又は公的機関の確認を受ける
  7. 都道府県がチェックリストを基に、設置者から内容聴取を行う

※診断と補強設計をまとめて行う場合は、認定・確認の前にチェックリストで内容確認を行います。(出典:文部科学省)

この前段には、基本調査(施設実態調査、設計図書等の確認、活断層や海溝型地震に関する資料収集、避難施設の指定状況の確認、統廃合計画等の把握)と、耐震化優先度調査(どの施設から診断すべきかの優先順位付け)が位置づけられています。

特に見落とされやすいのが統廃合計画等の把握です。指針は「所管する学校の統廃合・転用計画や市町村合併計画等を把握する」と明記しています。ここでの整理の有無で、事業全体の費用対効果は大きく変わります。

耐震補強の主な工法と選び方

耐震補強の考え方は大きく2つ、「強度を向上させる」か「粘り強さを改善する」かです。文部科学省の資料は、強度が大きくても粘り強さがない建物は限界を超えた力がかかったときに突然破壊が起こるとして、強度・粘り強さの2つの指標から考慮することが大切だと述べています。同省の事例集で紹介されている代表的な工法は次のとおりです。

工法 ねらい 概要 実務上の留意点(一般的な傾向)
耐震壁増設 強度の向上 既存の柱・梁の間に鉄筋コンクリートの壁を増設 開口部が塞がるため、採光・通風・動線への影響を検討する
鉄骨ブレース 強度の向上 架構内に鉄骨の筋かいを設置 開口を確保しやすい形式もある
構造スリット 靭性(粘り)の改善 腰壁・垂れ壁と柱の間に隙間を設け、柱の短柱化によるせん断破壊を防ぐ 比較的小規模な工事で効果を得られる場合がある

※上記は文部科学省「耐震補強早わかり 地震に負けない学校施設」に挙げられている工法です。適用可否・効果は建物ごとに構造設計者が判断します。単価・工期は条件により大きく異なるため、本記事では相場を示していません。

工法選定について、文部科学省の指針は「補強工事費等に留意しつつ個々の建物の特性や実状に応じた適切なものを選定することが大切である」とし、「学校施設の耐震補強マニュアル(RC造校舎編)2003年改訂版」等を参考とすることが望ましい、としています。

補強か、改築か

同指針は、耐震性能が著しく低い場合(緊急度ランク1:Is<0.3又はq<0.5)、コンクリート強度が著しく低い場合(強度試験値が13.5N/mm²以下、かつ設計基準強度の3/4以下)などにおいては、改築を選択することが望ましいとしています。一方で、耐震補強事業を大規模改造事業と同時に実施し、質的向上も併せて図ることが重要とも述べています。在校生がいる環境であれば、足場や仮設を一度で済ませられる同時実施には合理性があると考えられます。

公立学校の耐震化はいま、どの段階にあるのか

公立学校施設の構造体の耐震化と屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策は、平成27年度でおおむね完了しています。現在は未完了の一部設置者へのフォローアップ調査の段階です。同調査(令和7年4月1日現在)の主な結果は次のとおりです。

  • 小中学校の耐震化率:99.9%(111,706棟/111,799棟、非木造)
  • 耐震性がない建物:93棟(前年度135棟)。うちIs値0.3未満が24棟、第2次診断等が未実施が26棟
  • 耐震化が未完了の設置者:28設置者(前年度36設置者)
  • 屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策 実施率:99.7%(未実施85棟)
  • 吊り天井等以外の非構造部材:耐震点検実施率98.7%に対し、耐震対策実施率は71.0%

(出典:文部科学省「公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査の結果」令和7年12月10日公表)

注目すべきは最後の項目です。構造体の耐震化がほぼ完了する一方、天井材・窓ガラス・内外装材といった非構造部材の耐震対策は71.0%にとどまります。文部科学省も「老朽化した建物においてはガラスの破損や内外装材の落下など非構造部材の被害が拡大する可能性が高い」として、老朽化対策と一体での支援に言及しています。

つまり2026年現在、論点の重心は「構造体を診断して補強する」から「非構造部材の対策と老朽化対策をどう束ねるか」へ移りつつあると言えるでしょう。

校舎の耐震診断に関するよくある質問

Q1. 学校施設の耐震診断は義務ですか?

学校施設は「建築物の耐震改修の促進に関する法律」により、耐震診断及び耐震改修の努力義務が課せられています。加えて平成25年度の同法改正では、階数2以上かつ3,000㎡以上の小中学校等、階数2以上かつ1,500㎡以上の幼稚園(要緊急安全確認大規模建築物)に対して、耐震診断とその結果の報告が義務づけられました。また公立小中学校等施設は、「地震防災対策特別措置法」の平成20年6月改正により、設置者である地方公共団体に耐震診断の実施及び結果の公表が義務付けられています。(出典:文部科学省)

Q2. Is値0.6を超えていれば、学校としては安全と考えてよいですか?

一般の判定ではIs値0.6以上が「倒壊または崩壊する危険性が低い」とされますが、文部科学省は公立学校施設の耐震改修の補助要件として、補強後のIs値がおおむね0.7を超えることを求めています。児童生徒の安全性と避難場所としての機能性を考慮し、より高い水準が設定されています。あわせて、q値がおおむね1.0(CtuSd値は0.3)以上であることも要件とされています。

Q3. 耐震診断は誰が実施できますか?

公立学校施設については、「公立学校建物の耐震診断等実施要領」において、原則として一級建築士資格を有する者と規定されています(耐力度調査も同様)。なお構造設計一級建築士の関与は、国庫補助の要件として特に規定されてはいません。(出典:文部科学省)

Q4. 診断結果はどこで確認・認定を受ければよいですか?

実務としては、所管行政庁の認定または公的機関の確認を受ける流れになります。文部科学省は、「既存建築物耐震診断・改修等推進全国ネットワーク委員会」のホームページに掲載されている、評価・判定に係る委員会等の一覧を参照するよう案内しています。

Q5. 統廃合が検討されている校舎でも、耐震診断は必要ですか?

耐震性能の確認そのものは、児童生徒が使用している以上、切り離せない課題です。一方で文部科学省の指針は、基本調査の段階で統廃合・転用計画等を把握することを求めています。統合後に残さない校舎への投資判断は、緊急度ランクと統合時期の兼ね合いによるため一律には決められません。診断・耐力度調査・統廃合計画の三つを同じテーブルで検討されることをおすすめします。

まとめ:診断次数と目標値を最初に固めることが、手戻りを防ぐ

校舎の耐震診断について、要点を改めて整理します。

  • 対象は昭和56年(1981年)6月1日の新耐震基準施行以前の建物。Is<0.6で「倒壊または崩壊する危険性がある」とされる(平成18年国土交通省告示第184号)
  • ただし学校施設では、補強後のIs値がおおむね0.7超が文部科学省の補助要件。q値1.0以上とセットで確認する
  • 診断は1次〜3次の3レベル。学校では2次診断が実務の中心で、緊急度判定も原則2次の結果を採用
  • 公立小中学校の構造体耐震化率は99.9%(令和7年4月1日現在)。論点は非構造部材の対策(実施率71.0%)と老朽化対策へ移行しつつある

耐震診断は、単体で完結する調査ではありません。耐力度調査、長寿命化計画、そして学校統廃合の計画と接続してはじめて、限られた予算のなかで最適な打ち手が見えてきます。

当社は、内装仕上げ・改修を軸に、企画から設計・施工・アフターまで一貫対応する建設会社です(運営:株式会社ウイングスペース/一級建築士事務所)。全国対応で、学校・教育施設の改修に強みを持ち、在校生がいる環境での安全・工程管理から補助金・交付金の活用支援まで対応しています。

まずは現状の図面と施設台帳をお手元にご用意のうえ、校舎の耐震診断・耐震補強の進め方について光建舎に無料で相談するところからお気軽にお声がけください。

※本記事の記載は2026年7月時点の文部科学省・国土交通省等の公開情報に基づきます。制度・基準の運用は変更される場合があるため、事業実施にあたっては最新の要領・要綱および所管行政庁のご確認をお願いいたします。

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