「統廃合の検討を始めたいが、まず何年先までの児童生徒数を、どうやって出せばよいのか」——学校の適正配置を担当する教育委員会・施設担当・財政担当の方から、こうしたご相談を数多くいただきます。
結論から申し上げます。児童生徒数の将来推計は、統廃合検討の「最初の作業」であると同時に、計画全体の説得力を決める作業です。 推計が粗いまま学校規模の議論に入ると、住民説明会で「その数字の根拠は」と問われた瞬間に議論が止まります。逆に、手法と前提が明示された推計があれば、統合の要否も建替えか改修かの判断も、同じ土俵で議論できます。
この記事では、コーホート要因法とコーホート変化率法の違い、必要なデータと所管、進め方、推計期間、宅地開発による狂い、精度の限界までを国の一次資料にもとづいて整理します。全国で学校・教育施設の改修や統廃合の上流支援に携わってきた当社の現場知見も交えました。推計の設計でお悩みでしたら、統廃合の前提となる児童生徒数推計の進め方について光建舎に無料で相談することも可能です。なお、制度・統計に関する記述は2026年7月時点の公表情報にもとづきます。
目次
児童生徒数の将来推計とは——すべての計画の土台になる作業
児童生徒数の将来推計とは、現在の乳幼児人口・児童生徒数を出発点に、進級・転出入・出生などの変化を織り込んで、各学校・各学年の在籍見込み数を年度ごとに算出する作業のことです。 学校単位・通学区域単位で行う点が、自治体全体の人口推計との大きな違いです。
なぜこの作業が土台なのか。文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(平成27年1月27日)は、学校規模の適正化の検討に当たっては「国の学校規模の標準の単位である学級数のみに着目するのではなく、学校全体の児童生徒数やその将来推計に基づき、具体的にどのような課題が生じているのかや、生じる可能性があるのかを明らかにする必要があります」としています。同手引は、市町村が検討する際に「中長期的な児童生徒数の予測」なども踏まえた総合的な判断が望まれるとも述べています。
つまり国の考え方でも、「今12学級を切っているか」ではなく「この先どう推移するか」が判断材料です。学校規模の標準は学校教育法施行規則第41条で小学校12学級以上18学級以下(中学校は第79条で準用)と定められていますが、「特別の事情のあるときはこの限りでない」とされる弾力的な基準です。標準に照らす前に、まず将来の在籍数という共通の事実を用意する。この順番が実務では重要になります。
なお、学校規模の基準そのものの考え方は「学校の適正規模・適正配置とは」の記事で、推計を含めた計画文書への落とし込みは「学校統廃合の基本計画とは」の記事で扱っています。本記事は推計という作業そのものに絞って解説します。
推計手法の比較——コーホート要因法・コーホート変化率法・社人研推計の準拠
日本の自治体で使われる将来人口推計の代表的な手法は、コーホート要因法とコーホート変化率法の2つです。 コーホートとは「同じ年に生まれた集団(同時出生集団)」を指し、どちらもこの集団を繰り上げていく点は共通しています。違いは、変化を要因別に分解するかどうかです。
コーホート要因法とは、ある年の男女・年齢別人口を基準として、そこに出生・死亡・移動に関する仮定値を当てはめて将来人口を計算する方法のことです(出典:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局ほか「地方版総合戦略の策定等に向けた 人口動向分析・将来人口推計の手引き(令和6年6月版)」)。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」もこの手法を用い、2020年国勢調査の市区町村・男女・年齢5歳階級別人口を基準人口に、生残率・純移動率・子ども女性比・0-4歳性比を設定して計算されています。
一方、コーホート変化率法とは、2つの時点間における年齢階層ごとの人口変化率に着目し、その変化率が将来も維持されると仮定して将来人口を推計する方法のことです(参考:三重県統計課「Hello!とうけい」vol.258、令和2年5月27日)。死亡と移動を分けず「合わせた変化率」で計算するため、必要なデータが少なく表計算ソフトでも扱いやすいのが特徴です。
| 観点 | コーホート要因法 | コーホート変化率法 | 社人研推計の準拠・按分 |
|---|---|---|---|
| 考え方 | 出生・死亡・移動の要因別に仮定値を置く | 過去の変化率がそのまま続くと仮定 | 公表済みの推計値を学齢人口に割り戻す |
| 必要データ | 基準人口、生残率、出生率(子ども女性比)、移動率 | 2時点以上の年齢階級別人口のみ | 社人研の年齢5歳階級別推計値 |
| 手間 | 大きい | 小さい | 小さい |
| 前提の説明しやすさ | 高い(要因ごとに根拠を示せる) | 中(変化率の期間設定に依存) | 高い(公表推計を根拠にできる) |
| 向いている場面 | 中長期、政策効果を比較したいとき | 短中期、簡易に傾向を掴みたいとき | 長期の上限・下限の幅を示すとき |
| 留意点 | 仮定値の設定次第で結果が動く | 過去に特異な変動があると歪む | 学校単位・通学区域単位には直接使えない |
実務では、この3つを排他的に選ぶというより、短期は住民基本台帳ベースの積み上げ、中長期はコーホート系の手法、超長期は社人研推計との整合確認、と役割分担させる進め方が取られることが多いといえます。前掲の文科省手引でも、社人研の「日本の地域別将来推計人口」を基に数十年先までの行政区ごとの学齢人口を推計した資料を作成・配布している例が紹介されています。
推計に必要なデータと所管——どこから何を取り寄せるか
推計の質は、手法よりもまず「入力データの質」で決まります。 特に足元3〜6年分は、統計ではなく実在する個人の記録から積み上げられる点が、一般的な人口推計との決定的な違いです。
| データ | 所管・出典 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 住民基本台帳(年齢別・町丁字別人口) | 市区町村(根拠法:住民基本台帳法/昭和42年法律第81号) | 0〜5歳の未就学児数の把握、通学区域別の集計 |
| 学齢簿 | 市区町村教育委員会(学校教育法施行令第1条・第2条) | 翌年度の就学予定者の確定的な把握 |
| 学校基本調査 | 文部科学省(基幹統計調査。毎年5月1日現在) | 在籍者数の実績・全国および自治体の趨勢確認 |
| 国勢調査 | 総務省統計局 | 基準人口、年齢5歳階級別の構成把握 |
| 人口動態統計 | 厚生労働省 | 出生数・合計特殊出生率の実績確認 |
| 日本の地域別将来推計人口 | 国立社会保障・人口問題研究所 | 長期の年少人口見通しとの整合確認 |
| 住宅開発・立地適正化の情報 | 都市計画・建築部門 | 宅地開発による転入増の補正 |
| 私立・国立への進学状況 | 教育委員会の内部資料等 | 公立就学率の設定 |
学齢簿は特に重要です。学校教育法施行令第1条は、市町村の教育委員会が学齢児童・学齢生徒について学齢簿を編製することを定め、その編製は当該市町村の住民基本台帳に基づいて行うものとしています。さらに同令第2条により、就学予定者については毎学年の初めから5月前までにあらかじめ学齢簿を作成することとされ、その基準日は学校教育法施行規則第31条で10月1日現在と定められています。つまり、翌年度の新1年生は10月時点でほぼ確定できるわけです。ここを起点に住民基本台帳の0〜5歳児を繰り上げれば、向こう6年程度の入学者数は相当の確度で見通せます。
全国の趨勢も押さえておきましょう。文部科学省「令和7年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値」(令和7年5月1日現在、令和7年12月26日公表)によると、小学校の在学者数は581万2千人で前年度より12万9千人減少し過去最少、中学校は310万5千人で3万6千人減少し過去最少です。厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)」の出生数は68万6173人、合計特殊出生率は1.15と、いずれも統計上の最少・最低の水準となっています。すでに生まれている子どもの数は動かせません。この事実が、6年後・12年後の在籍数を規定します。
児童生徒数推計の進め方【7ステップ】
推計は「集計単位を決める」ことから始まります。 自治体全体の人口推計をそのまま学校に当てはめても、配置の議論には使えません。以下の順序で組み立てると、後工程の説明に耐える推計になります。
- 集計単位を確定する — 学校ごと、通学区域ごと、町丁字ごとの3層で持つと、通学区域変更の検討にも耐えられます。
- 基準日と実績データを揃える — 住民基本台帳の年齢別・町丁字別人口、学齢簿、直近数年の学校別在籍実績を同じ基準日で揃えます。
- 短期(1〜6年)を積み上げる — 0〜5歳の実在児童を学年ごとに繰り上げ、就学率・区域外就学の実績を掛けて入学者数を出します。
- 中長期(7年以降)の手法を選ぶ — コーホート要因法かコーホート変化率法かを選び、変化率を取る期間(直近5年・10年など)を明示します。
- 仮定値と補正を設定する — 純移動率、公立就学率、宅地開発による増加見込みなどを、根拠とセットで文書化します。
- 複数ケースで幅を持たせる — 標準・上位・下位の3ケース程度を作り、社人研推計との整合も確認します。
- 学級数に換算する — 学年別の推計人数を、学級編制の標準に沿って学級数へ換算し、学校規模の議論に接続します。
このうち実務で最も差が出るのは、手順5の「文書化」です。仮定値を表計算ソフトの中だけに置くと、担当者が異動した瞬間に再現できなくなります。 前提一覧を1枚にまとめ、計算シートと一緒に保管しておきましょう。当社にも「前回の推計の根拠が追えず、最初からやり直したい」というご相談が寄せられます。
推計から先の作業——配置案の作成、施設の現況調査、概算事業費の算定までを一連で組み立てたい場合は、児童生徒数推計から配置案・概算事業費の検討までを光建舎に相談することができます。
推計期間の考え方——短期・中期・長期で精度も使い道も違う
推計期間は1本で決めるものではなく、性格の異なる3つのレンジを重ねるものです。 期間が延びるほど精度は落ちますが、施設整備の判断には長期の見通しが欠かせません。
- 短期(おおむね6年程度):すでに生まれている子どもだけで小学校の入学者が説明できる範囲です。学齢簿と住民基本台帳を根拠にでき、最も確度が高いレンジといえます。
- 中期(おおむね10〜12年程度):中学校卒業までを見通す範囲です。将来の出生見込みが入るため仮定値の影響が出始めます。統合の実施時期や仮校舎の要否を検討する際の主軸になります。
- 長期(20〜40年程度):校舎の耐用年数や長寿命化改修の判断に対応する範囲です。単一の数値ではなく上限・下限の幅で示すのが現実的です。社人研の地域別将来推計人口は2020年国勢調査を基準に2050年までを5年ごとに推計しており、参照値として使えます。
校舎を建てるか改修して使い続けるかという判断は、数十年先の在籍数と切り離せません。この論点は「学校の建替え・改修・統合の判断基準」の記事で扱っています。
宅地開発が推計を狂わせる——補正の考え方
推計が現実と乖離する原因として実務上よく挙がるのが、大規模な宅地開発・共同住宅の供給です。 コーホート系の手法は「過去の傾向が続く」ことを前提にしているため、区域内で数百戸規模の住宅供給があると、その学校だけ推計が下振れします。逆に、開発を過大に見込んで教室を確保したものの想定ほど児童が増えなかった、という失敗もありえます。
補正の実務では、次のような手順が取られます。
- 都市計画部門・建築部門から、開発許可・建築確認・地区計画の情報を定期的に受け取る仕組みを作る
- 供給戸数に、住戸タイプ別の「1戸あたり児童数」の実績値を掛けて増加見込みを試算する
- 入居のタイミングを年度別に配分し、該当する通学区域の推計に上乗せする
- 開発による増加は一過性である可能性を踏まえ、10年後・20年後の減衰も併せて示す
注意したいのは、開発による増加分を「恒久的な増加」と読み替えないことです。 一斉入居した世帯の子どもは同時に卒業していくため、その学校の在籍数は10年程度で山を越えることが少なくありません。ピークだけを見て校舎規模を決めると、将来の余剰につながる可能性があります。1戸あたり児童数の設定値と増加が続くと見る期間は、必ず前提として明示しておきましょう。
推計精度の限界と、よくある落とし穴
推計は予言ではなく、「前提を置いた場合の見通し」です。 社人研の推計についても、内閣官房の前掲手引は「現在の傾向が変わらなかったとすれば」という前提に基づくものであり、住民の今後の選択と判断によって実際の人口は異なりうる、という趣旨を明記しています。この性格を共有しないまま数字だけが一人歩きすると、後で「推計が外れた」という批判を招きます。
現場で見聞きする落とし穴を整理します。
- 自治体全体の推計をそのまま学校に按分している — 通学区域ごとに年齢構成や転出入の傾向は大きく異なり、按分では実態と乖離しやすくなります。
- 変化率を取る期間が短すぎる/長すぎる — 直近に特異な変動があると将来まで延長されます。複数期間で試算し差を確認するのが安全です。
- 公立就学率を「全員が公立」として計算している — 国立・私立への進学や区域外就学の実績を反映しないと過大推計になります。
- 1ケースしか作っていない — 幅がないと、住民説明で前提の妥当性を問われた際に答えられません。
- 更新されず放置される — 出生数の実績は毎年出ます。年1回の更新と、計画改定時の全面見直しが望まれます。
- 学級数への換算を省いている — 人数の減少幅と学級数の減少幅は連動せず、人数だけでは教育条件の議論になりません。
推計の妥当性をどう検証し説明するかは、統廃合の議論全体の進め方と不可分です。「学校統廃合の進め方」の記事も併せてご覧ください。
推計結果を適正配置案にどう反映するか
推計は作って終わりではなく、配置案の選択肢を生み出す材料として使います。
まず、学年別の推計人数を学級数へ換算し、学校ごとに「どの年度に、どの規模帯に入るか」を一覧化します。次に、規模帯の推移に応じて、存置・通学区域の変更・統合・小中一貫化といった対応の選択肢を並べます。ここで初めて、複数の配置パターン(シミュレーション)が作れます。
各パターンについて、必要教室数、既存校舎の受け入れ可能量、増改築の要否、通学距離・時間の変化、概算事業費、実施年度を並べて比較します。推計値が同じでも、どの学校を残すかで必要な投資額と通学負担は変わります。この比較表が住民説明・議会説明での説得力につながります。
当社では、推計の精度に加えて「その推計で本当に施設が足りるのか」を建物側から検証する視点を重視しています。推計上は収容可能でも、既存校舎の教室配置や特別教室の数、バリアフリー対応の状況によっては受け入れられないことがあるためです。計画づくりの全体像は「学校統廃合とは」「学校統廃合コンサルティングとは」の記事でも解説しています。
よくある質問
Q1. コーホート要因法とコーホート変化率法、どちらを選ぶべきですか。
A. 一概には決められません。要因ごとに根拠を示して議論したい場合や、出生率・移動率の政策効果を比較したい場合はコーホート要因法が向いています。データや体制の制約があり、まず傾向を掴みたい段階ではコーホート変化率法も選択肢になります。いずれも選んだ理由と前提を計画書に明記しておくことが重要です。
Q2. 推計は何年先まで出せばよいですか。
A. 用途によります。統合の実施時期を検討するなら10年程度、校舎の建替えか長寿命化かを判断するなら20〜40年程度の見通しが必要になると考えられます。長期は単一の数値ではなく上位・下位の幅で示す方法が現実的です。
Q3. 推計はどのくらいの頻度で更新すべきですか。
A. 出生数などの実績は毎年更新されるため、年1回の更新を基本とし、計画の改定や大規模な宅地開発の判明時には全面的に見直す運用が望ましいと考えられます。更新履歴を残しておくと、数字が変わった理由を説明できます。
Q4. 推計は外部に委託すべきですか。庁内でできますか。
A. 短期の積み上げは庁内でも十分可能です。中長期の手法選定、複数ケースの設定、学級数換算と配置案・概算事業費への接続までを一体で行う場合は、外部の支援を受ける例が多くみられます。委託する場合は計算シートと前提一覧の提出を求め、庁内で再現・更新できる状態にしておくことをおすすめします。
Q5. 推計値と実績がずれた場合、計画は作り直しですか。
A. 必ずしもそうとは限りません。重要なのは、ずれた要因(想定外の転入、開発、出生の変動など)を特定し、次回の仮定値に反映することです。あらかじめ幅を持たせておけば、実績が想定の範囲内かどうかで判断でき、計画全体の見直しを避けられる場合もあります。
まとめ——推計の透明性が、統廃合の議論を前に進める
児童生徒数の将来推計は、統廃合検討のすべての出発点です。ポイントを整理します。
- 学級数だけでなく、児童生徒数とその将来推計にもとづいて課題を明らかにすることが国の手引でも求められています
- 手法はコーホート要因法とコーホート変化率法が代表的で、短期は住民基本台帳・学齢簿からの積み上げが最も確度の高いレンジです
- 宅地開発の影響は補正が必要で、増加を恒久的なものと読み替えないことが重要です
- 推計は前提を置いた見通しであり、複数ケース・年1回の更新・前提の文書化が信頼性を支えます
- 学級数に換算し、配置パターンごとの事業費・通学条件と並べて比較して初めて意思決定に使えます
数字そのものよりも、「どういう前提で、どう計算したかを説明できる状態」が、住民説明や議会説明の場面で効いてきます。当社は全国で学校・教育施設の改修や統廃合の上流支援に携わり、調査・設計・施工までをワンストップでお引き受けしています。推計から配置案、施設整備までを一貫して検討したい場合は、児童生徒数推計にもとづく適正配置シミュレーションについて光建舎に問い合わせることができます。ご相談は無料です。