学校の基本設計と実施設計の違い|段階別の成果物と発注者の確認点

学校の改築や大規模改修、統合校の整備を担当することになったとき、「基本構想・基本計画・基本設計・実施設計と言葉は並んでいるけれど、それぞれ何をどこまで決める段階なのか」が分からず、進め方に迷っていませんか。設計者から「この段階で決めてください」と言われても、判断の材料が手元にないまま会議が進んでしまう——自治体の施設担当者から、そうしたお悩みをよく伺います。

この記事では、学校施設の整備が「基本構想 → 基本計画 → 基本設計 → 実施設計 → 工事 → 運用」とどう流れるのか、各段階で何を決め、何が成果物として手元に残るのかを整理します。そのうえで、発注者(教育委員会・施設担当・財政担当)が各段階で確認すべきポイントと、「変更がまだ効く段階」「効きにくくなる段階」の見極め方まで踏み込みます。設計業務の内容と成果図書については、国土交通省が建築士法第25条に基づいて定めた業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)の別添一を一次情報として参照しています。読み終えるころには、設計者との打合せで「今どの段階にいて、次に何を決めるべきか」を自分の言葉で言えるようになるはずです。

なお、設計者の選び方や発注方式そのものについては別の記事で扱っています。本記事は「設計段階の中身」と「発注者としての関わり方」に絞ってお伝えします。設計段階の進め方や体制づくりで迷われている場合は、学校施設の基本設計・実施設計の進め方について光建舎に相談するところから始めていただくのも一つの方法です。

学校の基本設計と実施設計の違い|結論から整理する

基本設計とは、建築主から示された条件を設計条件として整理したうえで、配置計画、平面と空間の構成、各部の寸法や面積、備えるべき機能・性能、主な使用材料や設備機器の種別と品質、内外の意匠などを検討し、建物の全体像を確定させる設計業務のことです。 これに対して、実施設計とは、工事施工者が設計図書の内容を正確に読み取って設計意図どおりの工事を的確に行えるように、また工事費の適正な見積りができるように、基本設計に基づいて設計意図をより詳細に具体化する設計業務のことです(出典:国土交通省 令和6年国土交通省告示第8号 別添一)。

ひとことで言えば、基本設計は「どんな学校をつくるかを決める段階」、実施設計は「それをどうつくるかを決める段階」です。前者では発注者が主役として条件を出し、合意を積み上げます。後者では、決めたことを動かさずに固めていく作業が中心になります。この主客の入れ替わりを理解しているかどうかで、発注者としての関わり方は大きく変わります。

両者の違いを表に整理します。

観点 基本設計 実施設計
目的 建物の全体像(配置・平面・規模・性能・主要仕様)を確定する 工事の実施と適正な見積りができる詳細を作り込む
主に決めること 諸室の構成、配置、階数、面積、構造の考え方、設備方式、意匠の方向性 部材の寸法・納まり、仕上げ、工事材料や設備機器の種別と品質、特に指定が必要な施工上の情報
成果図書(総合の例) 計画説明書、仕様概要書、仕上概要表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図、工事費概算書 建築物概要書、仕様書、仕上表、矩計図、展開図、天井伏図、平面詳細図、部分詳細図、建具表、各種計算書、確認申請に必要な図書 ほか
建築確認申請との関係 基本設計に必要な範囲で関係機関と事前打合せ 実施設計に基づき建築確認申請図書を作成
発注者の主な役割 設計条件を示し、関係者と合意をつくる 示した条件を確定させ、みだりに動かさない
概算工事費 基本設計図書の完成時点で工事費概算書を作成 実施設計図書の完成時点で工事費概算書を作成

(成果図書・業務内容は令和6年国土交通省告示第8号 別添一に基づく。戸建木造住宅以外の建築物の場合。建築物の計画に応じ作成されない図書がある場合があります)

現場でよく起きるのは、「基本設計の説明会で図面を見た地域や学校の関係者から、実施設計の途中になって新しい要望が出てくる」というケースです。要望の中身が悪いのではなく、それを出す機会が基本設計の段階に用意されていなかっただけ、ということが少なくありません。段階ごとの意味を発注者側が理解しておくと、意見を集める時期の設計そのものが変わります。

学校施設整備の全体フロー|基本構想から運用まで

学校施設の整備は、一般に「基本構想 → 基本計画 → 基本設計 → 実施設計 → 工事(施工)→ 引渡し・運用」という段階を踏みます。このうち基本設計・実施設計・工事監理は建築士法に基づく業務報酬基準(告示第8号)で業務内容と成果図書が定められている一方、基本構想・基本計画は同告示のように業務内容と成果物が国の基準として定められているわけではなく、自治体が事業の準備段階として位置づけて進めるのが一般的です。 ここを混同すると、「基本計画で決まっているはずのことが決まっていない」という食い違いが起きます。

文部科学省も、施設整備の各段階を「基本計画段階」「基本設計段階」「実施設計・発注段階」「施工・引渡し段階」に区分し、それぞれの主な検討項目例を整理しています(出典:文部科学省「効率的かつ効果的な学校施設の整備に関する事例集」平成31年2月)。段階を分けて考えるのは、国の資料でも共有された前提だとお考えください。

段階ごとの整理は次のとおりです。

段階 主な目的 主な成果物 この段階で決めること
基本構想 整備の方針と対象を定める 基本構想(方針文書) 適正規模・適正配置の考え方、対象校、改築か長寿命化改修か統合かの方向性
基本計画 施設に求める機能・性能の要求水準と、概算・工程を固める 基本計画書 想定規模、必要諸室、配置の考え方、概算事業費、全体スケジュール、財源
基本設計 建物の全体像を確定する 基本設計図書(計画説明書、配置図、平面図、断面図、立面図など)と工事費概算書 平面・断面の構成、面積、構造の考え方、設備方式、主要な仕様
実施設計 工事と積算ができる図書を整える 実施設計図書、建築確認申請図書、各種計算書、工事費概算書 詳細寸法、納まり、仕上げ、工事材料・設備機器の種別と品質
工事(施工) 設計図書どおりに造る 工事監理報告書等 施工段階で行うことに合理性がある材料・機器の色柄形状等の選定
引渡し・運用 性能を確認し、使いながら維持する 完成図書、検査記録等 維持保全体制、記録の保存

文部科学省は同事例集で、「効率的かつ効果的に学校施設の整備を進めるためには、まずは基本構想、基本計画の段階において、学校の現状等を踏まえた諸条件を把握の上、施設に求める機能・性能等の要求水準を明確にすることが何より重要」とし、これが整理されていないと「設計の見直しや予算の増額等が生じてしまう例や、入札の不調・不落に至る例なども見受けられます」と指摘しています。設計に入ってからの苦労の多くは、実は設計より前の段階に原因があるということです。

基本構想・基本計画の中身については、当サイト内の記事「学校統廃合の基本計画とは?基本構想との違い・記載項目・委託仕様」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

基本設計で決めること|業務内容7項目と成果図書

基本設計の標準業務は、告示第8号 別添一で7つの項目として定められています。発注者にとって重要なのは、このうち4項目が「発注者との協議・説明」に関する業務だという点です。 基本設計は設計者が一人で描く作業ではなく、発注者との往復で成り立つ業務として制度上も設計されています。

基本設計の標準業務内容は、次の順序で進みます。

  1. 設計条件等の整理:耐震性能や設備機能の水準など、建築主から提示されるさまざまな要求その他の諸条件を設計条件として整理します。要求が不明確・不適切だったり、内容に相互矛盾がある場合、または整理した設計条件に変更がある場合は、建築主に説明を求め、または建築主と協議することとされています。
  2. 法令上の諸条件の調査と関係機関との打合せ:基本設計に必要な範囲で、建築や条例上の制約条件を調査し、建築確認申請に必要な事項を関係機関と事前に打ち合わせます。
  3. 上下水道・ガス・電力・通信等の供給状況の調査と関係機関との打合せ:敷地に対するインフラの供給状況等を調査し、必要に応じて関係機関と打ち合わせます。
  4. 基本設計方針の策定:設計条件に基づき、さまざまな基本設計方針案の検証を通じて考え方を総合的に検討し、業務体制・業務工程を立案したうえで、基本設計方針を策定して建築主に説明します。
  5. 基本設計図書の作成:基本設計方針に基づき、建築主と協議のうえ基本設計図書を作成します。
  6. 概算工事費の検討:基本設計図書の作成が完了した時点で、その図書に基づく建築工事に通常要する費用を概算し、工事費概算書を作成します。
  7. 基本設計内容の建築主への説明等:基本設計を行っている間、作業内容や進捗状況を報告し、必要な事項について建築主の意向を確認します。図書の完成時点では、設計意図と基本設計内容の総合的な説明を行います。

(出典:国土交通省 令和6年国土交通省告示第8号 別添一 第1項第一号)

成果図書は、意匠等をとりまとめる「総合」、「構造」、「設備」の分野ごとに定められています。総合では、計画説明書、仕様概要書、仕上概要表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図、工事費概算書。構造では、構造計画説明書、構造設計概要書、工事費概算書。設備では、電気設備・給排水衛生設備・空調換気設備・昇降機等のそれぞれについて、計画説明書、設計概要書、工事費概算書、各種技術資料が挙げられています。

ここで発注者に押さえていただきたいのは、基本設計の成果図書には「工事費概算書」が含まれているという点です。つまり基本設計が終わった時点で、全体像と概算のセットが手元に揃うことが標準です。文部科学省の事例集も、「事業の初期段階にできるだけ精度の高い概算を算出するとともに、事業計画の各段階で設計内容と工事費の調整を適切に行いながら、概算工事費が予算の範囲内で必要な性能を確保できているか確認する必要があります」としています。基本設計の完了報告を「図面が出てきた」で終わらせず、必ず概算と予算を突き合わせる場にしてください。

学校の場合、この段階で決まるのは「教室の数と広さ」「特別教室や多目的スペースの持ち方」「体育館・給食施設・地域開放エリアの配置」といった、教育活動そのものに直結する事項です。学校現場・教育委員会・地域が意見を出せるのは、実質的にここが最後の大きな機会になります。

実施設計で決めること|業務内容6項目と成果図書

実施設計の標準業務は6項目で構成され、その中心は「実施設計図書の作成」です。ここでは、工事施工者が施工すべき建築物およびその細部の形状、寸法、仕様、工事材料・設備機器等の種別と品質、そして特に指定する必要のある施工に関する情報(工法、工事監理の方法、施工管理の方法等)を具体的に表現することとされています(出典:令和6年国土交通省告示第8号 別添一 第1項第二号)。

実施設計の標準業務内容は次のとおりです。

  1. 要求等の確認:実施設計に先立ち、または実施設計期間中に建築主の要求等を再確認し、必要に応じて設計条件の修正を行います。基本設計以降の状況変化により要求に変化がある場合、施設の機能・規模・予算等の基本的条件に変更が生じる場合、すでに設定した設計条件を変更する必要がある場合は、建築主と協議します。
  2. 法令上の諸条件の調査と関係機関との打合せ:基本設計の内容に即した詳細な調査を行い、建築確認申請に必要な事項を関係機関と事前に打ち合わせます。
  3. 実施設計方針の策定:意匠・構造・設備の各要素を検討し、建築主と協議して合意に達しておく必要のあるもの、基本設計の内容に修正を加える必要があるものを整理して「実施設計のための基本事項」を確定させ、実施設計方針を策定して建築主に説明します。
  4. 実施設計図書の作成:実施設計方針に基づき、建築主と協議のうえ、技術的な検討と予算との整合の検討等を行って実施設計図書を作成します。あわせて建築確認申請図書を作成します。
  5. 概算工事費の検討:実施設計図書の完成時点で工事費概算書を作成します。
  6. 実施設計内容の建築主への説明等:進捗を報告し、完成時点で設計意図と実施設計内容の総合的な説明を行います。

成果図書は、基本設計に比べて格段に増えます。総合分野だけでも、建築物概要書、仕様書、仕上表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図(各面)、矩計図、展開図、天井伏図(各階)、平面詳細図、部分詳細図、建具表、工事費概算書、各種計算書、その他確認申請に必要な図書が挙げられています。構造では仕様書、構造基準図、伏図(各階)、軸組図、部材断面表、部分詳細図、構造計算書など。設備では、電気設備・給排水衛生設備・空調換気設備・昇降機等のそれぞれについて系統図・平面図・屋外設備図・各種計算書などが定められています。

注目すべきは、実施設計の入口に「実施設計のための基本事項の確定」という業務が置かれていることです。ここは、基本設計から実施設計へ移る際の「締め切り線」にあたります。発注者としては、この確定作業を単なる形式ではなく、庁内・学校・地域を含めた合意の最終確認の場として使うことをおすすめします。逆にいえば、ここを越えたあとの変更は、後述するとおり手戻りが大きくなります。

実務でよく伺うのは、「実施設計の途中で備品や什器の希望が出てきて、コンセントや下地の位置を直すことになった」というご相談です。細かく見えて、平面詳細図・展開図・電気設備平面図が連動して直る話であり、設計の工数にも工程にも影響します。備品や運用のイメージは、基本設計の段階で一度たな卸ししておくと安全です。

工事が始まっても設計者の業務は続く|設計意図伝達と工事監理

設計は実施設計で終わりではありません。告示第8号は、設計に関する標準業務の3つ目として「工事施工段階で設計者が行うことに合理性がある実施設計に関する標準業務」(いわゆる設計意図伝達業務)を定めています。 これは、工事施工段階において設計者が設計意図を正確に伝えるため、実施設計図書に基づいて質疑応答、説明、工事材料・設備機器等の選定に関する検討や助言等を行う業務です。

具体的には、次の2つが挙げられています。

  • 設計意図を正確に伝えるための質疑応答、説明等:工事施工段階において、設計意図を正確に伝えるための質疑応答・説明等を、建築主を通じて工事監理者と工事施工者に対して行います。また、設計意図が正確に反映されていることを確認する必要がある部材・部位等に係る施工図等の確認を行います。
  • 工事材料、設備機器等の選定に関する設計意図の観点からの検討、助言等:工事施工段階で行うことに合理性がある工事材料・設備機器等やそれらの色、柄、形状等の選定について、設計意図の観点から検討し、必要な助言等を建築主に対して行います。

これとは別に、工事監理の標準業務があります。工事監理とは、実施設計の成果図書に基づき、工事を設計図書と照合し、設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認するために行う業務です。標準業務としては、(1)工事監理方針の説明等、(2)設計図書の内容の把握等(質疑書の検討を含む)、(3)設計図書に照らした施工図等の検討及び報告、(4)工事と設計図書との照合及び確認、(5)照合及び確認の結果報告等、(6)工事監理報告書等の提出、の6項目が定められています。

さらに「その他の標準業務」として、請負代金内訳書の検討及び報告、工程表の検討及び報告、設計図書に定めのある施工計画の検討及び報告、工事と工事請負契約との照合・確認・報告、工事請負契約の目的物の引渡しの立会い、関係機関の検査の立会い等、工事費支払いの審査が挙げられています(出典:令和6年国土交通省告示第8号 別添一 第2項)。

発注者にとっての実務的な意味は明快です。工事が始まってからも、設計者・工事監理者・施工者・発注者の4者で情報が回る前提になっているということです。学校の工事では、色柄の選定ひとつでも学校現場の意見を聞きたい場面が出てきます。誰が誰に何を確認し、誰が決めるのかを、工事着手前の顔合わせで決めておくと、後半の判断が速くなります。

発注者が各段階で確認すべきこと|段階別チェックリスト

発注者の役割は「設計者に任せる」ことではなく、「決めるべきことを、決めるべき時期に決める」ことです。ここでは段階ごとに、自治体の担当者が確認しておきたい事項を整理します。 公共の設計業務では、国の「公共建築設計業務委託共通仕様書」(平成20年3月31日国営整第176号、最終改定 令和6年3月26日国営整第213号)が、一般業務の内容を告示別添一第1項に掲げるものとし、範囲は特記によると定めています。つまり「どこまでを委託するか」は特記仕様書で発注者が決める事項です。

基本計画段階で確認すること

  1. 要求水準(施設に求める機能・性能)が文書として整理されているか
  2. 児童生徒数の見通しと、必要学級数・必要諸室が結びついているか
  3. 概算事業費と財源(起債・交付金等)の見通しが立っているか
  4. 全体スケジュールに、設計期間と工事期間が現実的な長さで確保されているか
  5. 教育委員会・財政・施設管理・防災・地域担当など、関係部局の体制が組まれているか

基本設計段階で確認すること

  1. 設計条件として整理された内容が、こちらの意図と一致しているか(条件整理の書面を必ず受け取る)
  2. 基本設計方針の説明を受け、複数案の検討経緯が示されているか
  3. 平面計画が、学校の運営(時間割・動線・管理区分・地域開放)と整合しているか
  4. 工事費概算書が予算の範囲に収まっているか、収まらない場合の調整案が示されているか
  5. 維持管理担当者の意見が反映されているか(点検ルート、更新のしやすさ、清掃性)
  6. 学校現場・保護者・地域への説明を、この段階で実施したか

実施設計段階で確認すること

  1. 「実施設計のための基本事項」の確定内容が書面で共有されているか
  2. 建築確認申請の手続きと工程が明示されているか
  3. 仕上げ・建具・設備機器の種別と品質が、維持管理の観点から妥当か
  4. 工事費概算書が更新され、予算・入札条件と整合しているか
  5. 工事の区分(工区分け、仮設計画、既存校舎の使用範囲)が図書に反映されているか
  6. 追加業務が発生した場合の取り扱いが、契約上どうなっているか

工事段階で確認すること

  1. 設計意図伝達業務と工事監理業務を、誰がどこまで担うのか
  2. 施工段階で選定する事項(色柄・機器の最終仕様等)の決定手順と決定者
  3. 定例協議の頻度と、記録の残し方
  4. 変更が生じた場合の協議・記録・承認のルート

「公共建築設計業務委託共通仕様書」では、打合せの内容はその都度受注者が書面(打合せ記録簿)に記録し、相互に確認しなければならないとされています。学校の設計は関係者が多く、担当者の異動もあります。記録が残っていることが、後から効いてきます。 段階ごとの確認項目や庁内のチェック体制づくりでお困りの際は、学校施設の設計段階の確認体制づくりについて光建舎に無料で相談することで、抜けやすい論点を早めに洗い出しやすくなります。

「変更が効く段階」はどこまでか|手戻りを防ぐ3つの原則

結論から言えば、変更が最も効きやすいのは基本計画から基本設計の前半までで、実施設計に入ってからの変更は工程・費用の両面で負担が大きくなります。ただし「変更してはいけない」わけではありません。告示第8号の標準業務には、基本設計・実施設計のいずれにも「設計条件の変更等の場合の協議」が組み込まれており、変更が起こりうることは制度上も想定されています。 大切なのは、変更を協議と記録の手順に乗せることです。

一方で、変更には次のような扱いがあることも知っておく必要があります。告示第8号 別添四は、標準業務に付随して実施される追加的な業務を例示しており、その中に「設計の変更に伴い発生する業務」が挙げられています。また国土交通省の改正業務報酬基準説明会資料では、委託者都合や契約時点では予測されない事由に起因する設計変更、設計条件変更等による設計期間の変更に伴う追加の設計・監理業務は、追加的業務にあたるとされています。つまり、発注者都合の変更は、原則として追加の業務量として扱われうるということです。

これを踏まえて、手戻りを防ぐための実務的な原則を3つ挙げます。

  1. 決める順番を守る:要求水準 → 規模 → 配置・平面 → 仕様 → 詳細、の順に固めます。順番を飛ばして「仕上げの色」を先に議論し、「必要な教室数」が後から動くと、すべてやり直しになります。
  2. 意見は基本設計の中で回しきる:学校現場・保護者・地域からの意見聴取は、基本設計期間中に完了させる設計にします。説明会の日程を、基本設計の工程表に最初から書き込んでおくのが確実です。
  3. 変更の手順を契約と最初の定例で決めておく:変更の申し出は誰から誰へ、どの書式で、どこまでに、誰が決裁するか。そして追加業務になる場合の取り扱いをどうするか。これを最初に決めておくと、変更が起きたときに「協議の可否」ではなく「変更の中身」に議論を集中できます。

文部科学省の事例集も、施設に求める機能・性能等が十分に整理されていないと工期や工事費が不確実になり、設計の見直しや予算の増額、入札の不調・不落に至る例が見受けられると指摘しています。手戻りは、担当者の力量の問題というより、決める順番と時期の設計の問題です。

なお、既存校舎の改修では、解体してみないと分からない事項が出てくるため、施工段階での設計変更が新築より起こりやすい傾向があります。これは発注者の落ち度ではありません。改修事業では「変更は起こるもの」と前提を置き、事前調査を厚くし、変更協議の手順を最初から用意しておくことが現実的です。

基本設計と実施設計を分けて発注するか、一括で委託するか

学校の設計業務では、基本設計と実施設計を一括で委託する場合と、段階を分けて別々に発注する場合があります。どちらが正しいという話ではなく、事業の性格と庁内の体制で選ぶものです。判断の前提として、両者の業務量の比重を知っておくと議論がしやすくなります。

国土交通省の業務報酬基準ガイドラインでは、設計業務の一部のみを行う場合の参考として、実態調査に基づく業務比率が示されています。第1類の建築物の場合、総合は基本設計28%・実施設計等72%、構造は24%・76%、設備は23%・77%です。学校は告示 別添二の「七 教育施設(幼稚園、小学校、中学校、高等学校等)」に分類され、第1類にあたります。また、この「実施設計等」には、前述の設計意図伝達の業務が含まれます(出典:国土交通省 改正業務報酬基準説明会資料)。

つまり、設計業務全体のうち、業務量としては実施設計側のほうが大きいというのが実態調査に基づく整理です。基本設計だけを先行させて予算化し、翌年度に実施設計を発注する、といった進め方をとる場合は、この比重を頭に入れて年度間の予算配分と工程を組む必要があります。

分けて発注する場合に見落とされやすいのが、分割そのものに伴って発生する業務です。国土交通省の説明会資料では、一部の業務のみを行うことに伴い発生する業務——たとえば、そのほかの業務を行う者との調整、データ形式の変換、手戻りへの対応など——は追加的な業務として、個別に業務量を算定して標準業務に係る業務量に付加することが必要とされています。基本設計と実施設計で受託者が変わる場合、この「引き継ぎと調整のコスト」は必ず発生すると考えておくのが安全です。

判断の軸を整理すると、次のようになります。

  • 一括委託が向く場面:設計者の一貫した関与を重視したい、基本設計から実施設計への引き継ぎロスを避けたい、工程を圧縮したい場合
  • 分割発注が向く場面:基本設計の結果を見て事業規模や予算を判断したい、年度ごとの予算措置の制約がある、基本設計段階の合意形成に時間をかける必要がある場合

なお、業務報酬基準の考え方や設計料の算定方法そのものについては、当サイト内の記事「学校の設計事務所の選び方|実績・体制・監理の見方と設計料の考え方」で詳しく解説しています。発注方式(プロポーザル・コンペ・入札)の選び方は「学校設計のプロポーザルとは?発注方式の違いと公募型の流れ・評価基準」をご覧ください。

学校ならではの進め方|在校しながら、地域と合意しながら

学校の設計が他の公共施設と決定的に違うのは、「使いながら整備する」ことと、「使う人の合意が事業の前提になる」ことです。この2点は、設計の段階割りそのものに影響します。

まず、在校生がいる状態での改修・改築では、工事の区分けが設計条件になります。どの棟をいつ止めるか、仮設校舎を建てるのか近隣施設を使うのか、騒音や振動を伴う作業を長期休業中に集中させるのか。これらは工事段階の話に見えて、実際には基本設計の段階で平面計画・工程・概算に織り込んでおくべき事項です。文部科学省の事例集でも、既存校舎の継続利用や近接校・近接公共施設の利用可能性を踏まえた仮設校舎の必要性の検証、配置・建て替え計画の検討が挙げられています。

次に、合意形成の時間です。統廃合を伴う整備では、保護者説明会や地域協議の日程が事業全体の工程を規定します。設計工程だけを短く組んでも、合意が追いつかなければ設計は止まります。逆に、合意の場に持っていく資料(平面図、面積表、概算)は基本設計の成果図書そのものです。説明会の時期と、基本設計の中間・最終の節目を、同じ工程表の上で重ねて管理することをおすすめします。

学校施設の計画・設計に関する国のガイドラインとしては、文部科学省の「学校施設整備指針」があります。学校種ごとに策定され、令和4年6月24日に改訂されており、1人1台端末環境のもとでの個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実や、インクルーシブな学びの環境づくりの観点が盛り込まれています(2026年8月時点)。基本設計の与条件を整理する際の参照先として押さえておくと、庁内の議論の土台がつくりやすくなります。空間の中身をどう考えるかについては、当サイト内の記事「統合校の学校づくり|設計の要点を空間テーマ別に解説」も参考になります。

株式会社光建舎は、一級建築士事務所(運営:株式会社ウイングスペース)として、学校・教育施設の改修に特化した実績とノウハウを全国で積み重ねてきました。調査・設計・施工までをワンストップで対応できる体制を持ち、在校中・営業中でも止めない安全・工程管理を強みとしています。補助金・交付金の活用支援も含め、上流の調査・計画から下流の施工まで一貫してお手伝いできる点が、設計段階の判断を支える力になります。

よくある質問

Q. 基本設計と実施設計は、それぞれどんな成果物が納品されるのですか。
A. 令和6年国土交通省告示第8号 別添一に、成果図書が分野別に定められています。基本設計(総合)は計画説明書、仕様概要書、仕上概要表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図、工事費概算書。実施設計(総合)はこれに加えて、矩計図、展開図、天井伏図、平面詳細図、部分詳細図、建具表、各種計算書、確認申請に必要な図書などが含まれます。ただし建築物の計画に応じて作成されない図書がある場合があり、実際の納品物は契約の特記仕様書で定まります。

Q. 基本計画と基本設計は、どう違うのですか。
A. 基本計画は、施設に求める機能・性能の要求水準、想定規模、概算事業費、スケジュールなどを固める事業側の検討で、告示第8号のように業務内容と成果図書が国の基準として定められているものではありません。基本設計は、建築士法第25条に基づく業務報酬基準(告示第8号)で業務内容と成果図書が定められた設計業務で、平面や断面を具体的に描いて建物の全体像を確定させる段階です。「何を求めるか」を決めるのが基本計画、「それをどんな建物にするか」を決めるのが基本設計、と整理すると分かりやすいと思います。

Q. 実施設計に入ってから設計を変更することはできますか。
A. 制度上は可能です。告示第8号の実施設計の標準業務には、基本設計以降の状況変化により建築主の要求等に変化がある場合や、施設の機能・規模・予算等の基本的条件に変更が生じる場合、すでに設定した設計条件を変更する必要がある場合には建築主と協議する、という業務が含まれています。ただし、設計の変更に伴い発生する業務は同告示 別添四で追加的な業務として例示されており、業務量・工程・費用への影響が生じ得ます。変更の手順を契約段階で決めておくことをおすすめします。

Q. 基本設計と実施設計は、別々の事業者に発注してもよいのでしょうか。
A. 自治体の方針により、一括で委託する場合と段階を分けて発注する場合があります。分割する場合は、国土交通省の説明会資料が示すとおり、他の業務を行う者との調整やデータ形式の変換、手戻りへの対応といった、分割に伴って発生する業務が別途生じます。基本設計段階での合意形成に時間をかけたい統合校の整備などでは分割が選ばれることもありますが、引き継ぎの負担も見込んだうえで判断するのが実務的です。

Q. 工事が始まったあとも、設計者に関わってもらう必要はありますか。
A. 告示第8号は、設計に関する標準業務の一つとして「工事施工段階で設計者が行うことに合理性がある実施設計に関する標準業務」(設計意図伝達業務)を定めています。質疑応答や説明、施工図等の確認、工事材料・設備機器等やそれらの色・柄・形状等の選定に関する検討・助言などが含まれます。これは工事監理業務とは別の業務です。学校では施工段階で現場の意見を反映したい場面が出やすいため、誰がどこまで担うのかを契約段階で明確にしておくと安心です。

まとめ|段階の意味が分かれば、決める時期が見えてくる

学校施設の整備は、基本構想で方向を決め、基本計画で要求水準を固め、基本設計で建物の全体像を確定し、実施設計で工事ができる詳細を作り込み、工事で形にしていきます。このうち基本設計・実施設計・工事監理は、建築士法第25条に基づく業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)で業務内容と成果図書が定められており、「何が納品されるのか」「発注者はいつ協議を求められるのか」は制度上も明確です。

発注者としての要点は3つに集約されます。第一に、要求水準は設計より前に固めること。第二に、学校現場・地域・維持管理担当の意見は基本設計の中で回しきること。第三に、変更が起きたときの協議・記録・決裁の手順を、最初に決めておくこと。この3つが押さえられていれば、設計の途中で慌てる場面は大きく減ります。

そして、設計は「任せるもの」ではなく「一緒に決めていくもの」です。段階ごとに何を決めるのかが分かっていれば、設計者との打合せは確認の場から意思決定の場に変わります。

株式会社光建舎は、学校・教育施設の改修に特化した実績とノウハウをもとに、調査・設計・施工までワンストップで自治体の事業を支えてきました。在校中でも止めない安全・工程管理と、補助金・交付金の活用支援を含めた上流からの伴走が強みです。基本計画から基本設計・実施設計への進め方、段階ごとの確認事項、既存校舎の改修における変更リスクの抑え方などでお悩みの際は、学校施設の調査・計画・設計・施工について光建舎に無料で相談することをご検討ください。論点の整理からご一緒します。

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