この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校のZEB化はどこまで費用に見合うか?

4つの水準と改修費の実例

脱炭素の要請が強まり、学校施設でもZEB化という言葉を聞く機会が増えました。ただ、ZEBと一口に言っても水準は4段階あり、どこを目指すかで工事の範囲も費用もまったく変わります。

また、ZEB化の効果として語られる光熱費の削減は、実際には数字で示しにくい面があります。判断するには、どの水準を目指すのか、そのためにいくら上乗せが必要なのかを具体的に把握する必要があります。

この記事では、①ZEBの4つの水準、②学校に適用される基準、③工事費の実例、④進め方の優先順位、⑤効果の確かめ方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • ZEBは『ZEB』『Nearly ZEB』『ZEB Ready』『ZEB Oriented』の4段階に区分される
  • ZEB Readyは、再生可能エネルギーを除いて基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減が要件
  • 学校等は、延べ面積10,000平方メートル以上でZEB Orientedの対象となり、40%以上の削減が要件
  • 文部科学省の手引きでは、外皮断熱、高効率空調、高効率照明へのコスト上乗せで実現可能とされ、大規模改修時は断熱工事を優先すべきとされている
  • 同手引きの改修事例では、工事費が1平方メートル当たり42,783円の例から317,588円の例まで幅がある

ZEBとは何か?

ZEBは、快適な室内環境を保ちながら、建物で消費する年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロに近づける建築物です。

環境省は、達成の度合いに応じて4つの水準を定めています。

区分定量的な要件
『ZEB』再エネを除いて50%以上削減、かつ再エネを含めて100%以上削減
Nearly ZEB再エネを除いて50%以上削減、かつ再エネを含めて75%以上100%未満の削減
ZEB Ready再エネを除いて50%以上削減(外皮の高断熱化と高効率な省エネ設備)
ZEB Oriented延べ面積10,000平方メートル以上が対象。学校等は40%以上削減。未評価技術の導入が必須

削減率は、基準となる一次エネルギー消費量からの削減の割合です。設計上の計算値であり、実際の光熱費の削減率とは別の指標である点に注意が必要です。

学校はどの区分に当たるか

学校等は建物用途の区分の一つとして位置づけられ、延べ面積10,000平方メートル以上の場合はZEB Orientedの対象になり、40%以上の削減が要件とされています。小規模な学校であれば、ZEB ReadyやNearly ZEBを目標に据える形になります。

学校のZEB化は何から進めるのか?

断熱から進めるのが基本です。

文部科学省が令和6年3月に公表した「学校施設のZEB化の手引き」では、外皮断熱、高効率空調、高効率照明にコストを上乗せすることでZEB化を実現できるとされ、大規模改修の機会には断熱工事を優先すべきとされています。

優先順位の考え方

順番内容理由
1外皮の断熱(屋根、外壁、窓)設備の容量そのものを小さくできる。更新周期が長い
2高効率な空調消費エネルギーが大きく、削減の効果が出やすい
3高効率な照明更新が比較的容易で、効果が分かりやすい
4再生可能エネルギーの導入上の3つで消費を減らしてから検討する

断熱を後回しにして設備だけを更新すると、大きな容量の機器が必要になり、更新のたびに費用がかさみます。建物の寿命に対して設備の更新周期は短いため、長期の費用で見ると断熱を先に行う方が有利になりやすい構造です。

照明の更新は学校施設の照明のLED化とは?、空調の更新は学校施設の空調設備の更新とは?で扱っています。

工事費はどれくらいかかるか?

手引きに掲載された事例の工事費は、次のとおりです。

区分事例1平方メートル当たりの工事費
新築那須塩原市立箒根学園(校舎)441,957円(太陽光を含む)
新築蔵波小学校477,726円(太陽光を含む)
改修上山市立南小学校42,783円
改修槻沢小学校317,588円
改修東北大学厚生会館・図書館399,821円(太陽光を含む)

改修の事例でも、1平方メートル当たり42,783円から317,588円まで幅があります。工事の範囲、既存建物の状態、目指す水準によって、必要な費用は大きく変わるということです。

自校の見込みを立てるには、既存の断熱性能、窓の仕様、設備の残存年数を調べたうえで、水準ごとに試算する必要があります。事例の単価をそのまま当てはめることはできません。

なお、新築の事例の単価には校舎の建築費そのものが含まれます。ZEB化のための上乗せ分だけを示した数字ではない点に注意してください。上乗せ分を知りたい場合は、同じ設計で標準的な仕様とした場合の概算と比べます。

光熱費はどれだけ下がるのか?

効果を数字で示すのは簡単ではありません。

文部科学省の手引きでも、光熱費の削減額を数値化することは困難であり、説明がしづらいとされています。学校の光熱費は、在籍者数、授業の実施日数、空調の運転時間、気象条件、電気料金の単価によって大きく変わるためです。改修前後で条件がそろわないため、単純な比較では効果を説明しにくくなります。

比較できる形で記録する

効果を確かめるには、改修の前後で条件をそろえた記録が必要です。

  • 延床面積当たりの光熱水費(年額)
  • 在籍者1人当たりの光熱水費
  • 空調の運転期間と設定温度
  • 電気・ガスの単価の推移

単価が上がっている年度に改修すると、消費量が減っていても支出額は下がらないことがあります。金額だけでなく、使用量(キロワット時、立方メートル)でも記録しておくと、効果を分けて説明できます。費用の把握の方法は学校施設の維持管理コストはどう見える化するか?にまとめています。

光熱費以外の効果も並べる

ZEB化で得られるのは光熱費の削減だけではありません。手引きでは、脱炭素化への貢献に加え、教育環境としての質の向上が期待できるとされています。断熱性能が上がれば、夏の暑さと冬の寒さが和らぎ、空調の効きも安定します。

投資の判断では、光熱費の削減額だけで回収を計算せず、教育環境の改善と設備更新費の平準化を合わせて評価します。長期の費用の比べ方は施設投資のROIはどう考えるか?を参照してください。

断熱改修では何をするのか?

学校の校舎で手を入れる部位は、主に4つです。

部位主な工事留意点
屋根・屋上断熱材の追加、防水と一体で施工防水の改修時期に合わせると効率的
外壁外張り断熱、内断熱外部足場が必要。外壁改修と合わせる
窓内窓の設置、複層ガラスへの交換開口部からの熱の出入りが大きい
床・ピロティ上部断熱材の追加1階の寒さ対策に効く

内窓の設置は、既存の窓を残したまま行えるため、在校中でも比較的施工しやすい工事です。外壁の断熱は足場が要るため、外壁改修や屋上防水と同じ時期に行うと、仮設費の重複を避けられます。

断熱を行うと、同じ空調機でも室温が安定しやすくなり、機器の稼働時間が短くなります。空調の更新を予定している場合は、断熱後の負荷で容量を計算すると、機器そのものを小さくできることがあります。

どう判断すればよいか?

3つの手順で整理します。

1. 目指す水準を決める

ZEB Ready、Nearly ZEB、ZEB Orientedのどれを目指すかで、工事の範囲が決まります。延べ面積や既存の性能によっては、ZEBの水準に届かなくても、断熱と設備の更新だけで十分な効果が得られる場合があります。

2. 改修の時期と合わせる

屋上防水や外壁の改修、空調の更新の時期に合わせて断熱を行うと、仮設や足場の費用を重複させずに済みます。工事による授業への影響も一度で済みます。単独でZEB化の工事を行うより、長寿命化改修などの機会に組み込む方が効率的です。

3. 資金計画に織り込む

上乗せ分の費用をどう賄うかを決めます。国や自治体の補助、地方債、自己資金を組み合わせます。省エネや脱炭素を目的とした補助は、文部科学省以外の省庁が所管するものもあるため、年度ごとの募集を確認します。学校法人の場合は、基本金の組入れと減価償却費の増加が決算に与える影響も確認します。学校法人会計で施設整備はどう処理するか?を参照してください。

設計と評価はどう進むか?

ZEBの水準は、計算で確かめます。

一次エネルギー消費量の計算

建物の用途、面積、外皮の性能、設備の仕様を入力して、基準となる一次エネルギー消費量と、設計した建物の消費量を計算します。この計算結果を基に、削減率がどの水準に当たるかが決まります。計算は設計者が行うため、設計の初期段階で目標の水準を伝えておくことが重要です。

第三者の評価

設計内容について第三者機関の評価を受け、達成した水準の表示を受ける仕組みがあります。補助制度の要件になっている場合や、地域や保護者への説明に使う場合は、評価の取得も工程と費用に含めます。

完成後の検証

計算上の削減率と、実際の使用量は一致しません。運転の方法、在籍者数、気象条件で変わるためです。完成後は使用量を記録し、想定と大きく違う場合は運転方法を調整します。

よくある質問

Q. 小規模な学校でもZEB化できますか。

A. できます。ZEB Orientedは延べ面積10,000平方メートル以上が対象ですが、ZEB ReadyやNearly ZEBには面積の要件がありません。小規模な学校では、建物の形が単純なため、断熱と設備の更新で高い削減率を達成しやすい面もあります。

Q. 太陽光発電を付ければZEBになりますか。

A. なりません。ZEB ReadyもNearly ZEBも、再生可能エネルギーを除いた状態で50%以上の削減が要件です。まず消費を減らすことが前提になります。

Q. 既存校舎の断熱改修はどこから手をつけますか。

A. 屋根と窓の効果が大きいのが一般的です。ただし建物の形状や方位によって変わるため、設計者に検討してもらいます。窓の改修は在校中でも施工しやすく、先行して取り組める場合があります。

Q. 木造校舎でもZEB化できますか。

A. 構造の種類で可否が決まるわけではありません。外皮の性能と設備の効率で判断されます。木造では断熱の納まりが取りやすい面もあるため、設計者に検討してもらいます。

Q. ZEB化の効果はどう説明すればよいですか。

A. 一次エネルギー消費量の削減率は設計上の計算で示せます。光熱費は条件に左右されるため、使用量の推移と合わせて示すのが確実です。

Q. 工事費の上乗せはどれくらい見ればよいですか。

A. 事例では改修で1平方メートル当たり42,783円から317,588円まで幅があります。既存の性能と目指す水準によって変わるため、複数の案で試算してから判断します。

まとめ

ZEBは4段階に区分され、ZEB Readyは再生可能エネルギーを除いて50%以上の削減、学校等のZEB Orientedは延べ面積10,000平方メートル以上で40%以上の削減が要件です。

文部科学省の「学校施設のZEB化の手引き」では、外皮断熱、高効率空調、高効率照明へのコスト上乗せで実現できるとされ、大規模改修の機会には断熱工事を優先すべきとされています。掲載された改修事例の工事費は、1平方メートル当たり42,783円から317,588円まで幅があります。

光熱費の削減額は条件に左右されるため、数値化が難しいとされています。効果を示すには、金額だけでなく使用量で記録し、教育環境の改善と設備更新費の平準化も合わせて評価することが現実的です。

参考・出典

記載の制度・事例は公表時点のものです。最新の要件・補助制度は、環境省・文部科学省の公表資料でご確認ください。

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