目次
判断の前に押さえる比較
建替えか、改修か。学校施設の計画で、最も大きな分岐点です。
比較の材料として挙がるのは、工事費、工期、児童生徒への影響、将来の児童生徒数。ここに法規の観点が加わると、判断の精度が上がります。
新築は自由度が高い一方、すべてが現行基準の対象になります。改修は制約が多い一方、既存の状態を前提にできる部分があります。どちらが有利かは、建物の状態によって変わります。
この記事では、①適用される基準の違い、②確認申請の違い、③省エネ基準の違い、④費用の読みやすさ、⑤判断の材料、の5点を整理します。
この記事の要点
- 新築は、すべての規定が現行基準で適用される
- 改修では、既存不適格の部分に現行規定が適用されない場合がある
- 増築や大規模の修繕・模様替では、建築基準法第86条の7による既存部分の制限の緩和がある
- 省エネ基準は、新築が適合義務、修繕・模様替は適合義務の対象外
- 改修は、調査をするまで費用が確定しない
新築では何が適用されるのか?
すべての規定が、現行の基準で適用されます。
構造、防火、避難、採光、換気、省エネ。設計の時点で、そのすべてを満たす計画を作ります。既存の建物に引きずられる部分がないため、計画の自由度は高くなります。教室の配置や動線も、今の使い方に合わせて決められます。
| 項目 | 新築の扱い |
|---|---|
| 構造 | 現行の構造基準で設計 |
| 防火・避難 | 現行の規定で計画 |
| 省エネ | 原則として適合義務の対象 |
| 確認申請 | 必要(法第6条第1項の対象となる場合) |
| バリアフリー | 現行の基準を前提に計画 |
制約が少ない代わりに、基準を満たすための費用はすべて新築の工事費に含まれます。昔の基準だから免除される、という部分がありません。求められる性能が上がるほど、単価も上がります。
改修では何が変わるのか?
既存の状態を前提にできる部分があります。
建築基準法第3条第2項により、法令の施行または適用の際に現に存する建築物で、規定に適合しないものについては、その規定が適用されません。これが既存不適格です。
さらに、同法第86条の7は、増築、改築、大規模の修繕または大規模の模様替をする場合について、既存の建築物に対する制限の緩和を定めています。2以上の独立部分を有する建築物では、増築等をする独立部分以外には適用しない規定もあります。
つまり、改修では、現行の基準には合わないが直さなくてよい部分が残せる場合があります。この扱いがあるからこそ、既存の建物を使い続けられます。すべてを現行基準に合わせることを求めれば、古い建物は使えなくなります。
既存不適格の考え方は学校の増築と既存不適格にまとめています。
ただし条件がある
緩和の範囲は、工事の内容と規模によります。大規模の修繕や大規模の模様替に当たる工事、増築の規模が大きい工事では、求められる対応が増えます。
また、用途変更を伴う場合は、防火や避難に関する規定が遡及して適用されます。改修だから軽い、とは限りません。工事の区分の判断によって、必要な対応が変わります。
確認申請の扱いはどう違うのか?
対象となる工事の範囲が違います。
| 工事 | 確認申請 |
|---|---|
| 新築 | 法第6条第1項の対象となる建築物は必要 |
| 増築・改築 | 同上 |
| 大規模の修繕・大規模の模様替 | 同上 |
| 内装や設備の更新のみ | 不要な場合がある |
| 用途変更 | 変更後の用途と面積による |
学校の改修では、屋上防水、外壁、内装、設備の更新が中心になります。これらが大規模の修繕・模様替に当たるかどうかで、手続きの有無が変わります。主要構造部の一種以上について、過半の修繕や模様替に当たるかどうかが目安です。
判断は工事の内容によります。設計者を通じて所管行政庁に確認してください。建築基準法の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。
省エネ基準の扱いはどう違うのか?
ここが最も分かりやすい差です。
令和7年4月1日以後に工事に着手する建築物は、原則としてすべて省エネ基準への適合が義務となりました。10平方メートル以下の建築物は対象外です。
| 工事 | 省エネ基準の適合義務 |
|---|---|
| 新築 | 対象 |
| 増築・改築 | 増改築を行った部分が対象 |
| 修繕・模様替 | 対象外 |
新築では、省エネ基準に適合しなければ確認済証が交付されません。設計の前提条件になります。断熱と設備の仕様を、計画の早い段階で固めることになります。
一方、学校の改修で多い修繕・模様替は、適合義務の対象外です。義務はありませんが、断熱と設備の更新を行うかどうかは、その後の光熱費と教育環境を左右します。改修の機会は限られるため、その時に何をやるかの判断が重要になります。詳しくは学校の省エネ基準はどう変わったか?にまとめています。
費用の読みやすさはどう違うのか?
新築の方が読みやすくなります。
新築は、図面のとおりに造ります。地中の障害物や地盤の問題を除けば、数量は設計の段階で確定します。
改修は、開けてみないと分からない部分があります。
- 躯体の劣化の程度
- 隠れた配管や配線の状態
- 石綿やPCBなどの有害物質の有無
- 図面と現況の食い違い
調査で分かる範囲を広げれば、精度は上がります。ただし、天井や壁を開けなければ分からない部分は残ります。使用中の校舎では、調査のために開けられる範囲にも制約があります。
適法性の確認が必要になる場面は適法改修とは何をする工事か?で扱っています。
予備費の考え方
改修では、工事費とは別に予備の枠を持っておく組み立てが現実的です。新築と同じ精度で予算を固めると、追加が出たときに動けなくなります。年度をまたぐ工事では、補正や繰越の手続きも関わります。
設計と工程の前提はどう違うのか?
進め方そのものが変わります。
新築は、敷地の条件と要求水準が決まれば、設計を進められます。工事は更地から始まるため、工程も組みやすくなります。
改修は、既存の建物を調べるところから始まります。調査の結果によって、設計の方針が変わることもあります。調査の期間を確保しないと、設計の途中で手戻りが発生します。
| 項目 | 新築 | 改修 |
|---|---|---|
| 設計の前提 | 敷地条件と要求水準 | 既存建物の現況と法適合の状況 |
| 調査 | 地盤調査が中心 | 躯体、設備、有害物質、法適合 |
| 工事中の学校 | 仮校舎または別敷地 | 使いながら行うことが多い |
| 工程の読みやすさ | 比較的読みやすい | 開けてからの判断が入る |
使いながら工事をする制約
改修では、児童生徒が校舎を使いながら工事をすることが多くなります。騒音と振動の制限、動線の分離、作業時間の制約。これらが工期を延ばします。
長期休業中に集中させる計画では、工事のできる期間が限られます。数年に分けて施工する組み立てが必要になることもあります。分割すると、その都度の仮設費が重複します。
仮設の費用
新築で仮校舎を建てる場合、その費用と用地の確保が必要です。校庭に建てれば、体育の授業や行事に影響します。改修で使いながら工事をする場合は、仮設の費用は抑えられますが、工期が延びます。どちらにも費用が発生する形です。
判断の材料は何か?
法規の観点からは、4つあります。
既存の建物がどれだけ現行基準に近いか
昭和56年6月1日以後の新耐震基準で建てられ、その後の改正にも大きく外れていない建物であれば、改修で対応できる範囲が広くなります。古い建物ほど、直す範囲が広がります。現況の調査で、どの規定から外れているかを一覧にしておくと比較しやすくなります。
用途を変えるかどうか
用途変更を伴うなら、遡及して適用される規定への対応が必要です。この部分の費用が大きければ、新築との差は縮まります。避難階段の増設のように、建物の構造に関わる工事は特に影響が大きくなります。
増築を伴うかどうか
増築の規模によって、既存部分に及ぶ範囲が変わります。緩和が使える範囲を設計の初期に確認すると、計画の組み立て方が見えてきます。
将来どれだけ使うか
20年使うのか、50年使うのか。省エネ性能の差は、使用する期間が長いほど効いてきます。児童生徒数の見通しと、統廃合の計画をあわせて見る必要があります。建替えか改修かの総合的な判断は学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。
公立と私立で違いはあるか?
財源の仕組みが判断に影響します。
公立学校
新築(改築)と長寿命化改修では、国庫補助の制度上の扱いが異なります。補助の対象となる範囲と割合、必要な要件が制度ごとに定められています。
法規上は改修で対応できる場合でも、財源の確保のしやすさで判断が変わることがあります。制度の要件を、早い段階で確認しておきます。地方債の充当や交付税措置の扱いも、あわせて財政部局に確認します。
私立学校
自己資金と借入が中心になります。初期費用を抑えられる改修が選ばれやすい一方、募集への影響を考えて新築を選ぶ判断もあります。校舎の印象は、学校説明会や見学の場で直接効いてきます。
省エネ性能の差は、毎年の光熱費として残ります。在籍者数が減っても大きくは減らない支出であるため、長期の収支に効いてきます。
よくある質問
Q. 改修なら現行基準に合わせなくてよいのですか。
A. 既存不適格の部分については適用されない規定があります。ただし、工事の内容と規模によって、対応が必要になる範囲が変わります。
Q. 大規模改修でも省エネ基準は必要ですか。
A. 修繕・模様替は適合義務の対象外です。増築や改築に当たる部分があれば、その部分は対象になります。
Q. 内装の更新だけなら確認申請は不要ですか。
A. 大規模の修繕・模様替に当たらなければ不要な場合があります。判断は工事の内容によります。
Q. 改修の方が安いとは限らないのですか。
A. 建物の状態によります。直す範囲が広がれば、新築との差は縮まります。
Q. 法規の観点で新築が有利になるのはどんな場合ですか。
A. 用途を大きく変える場合や、既存の建物が現行基準から大きく外れている場合です。
Q. どの段階で比較すればよいですか。
A. 現況の調査が終わった後です。調査の前に比較しても、前提が定まりません。
Q. 大規模の修繕とは何を指しますか。
A. 建築基準法第2条第14号では、建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕とされています。
Q. 改修を数年に分けても手続きは同じですか。
A. 各年度の工事の内容によって、手続きの要否が分かれます。全体の計画を設計者と共有しておきます。
Q. 一部を新築し、残りを改修することはできますか。
A. できます。増築として扱われる部分と、既存部分の扱いを整理する必要があります。
Q. 建替えの方が補助を受けやすいのですか。
A. 制度によって対象と要件が異なります。改築と長寿命化改修のどちらにも制度があります。
まとめ
新築は、すべての規定が現行基準で適用されます。自由度は高い一方、基準を満たす費用はすべて工事費に含まれます。
改修では、建築基準法第3条第2項による既存不適格の扱いと、同法第86条の7による既存部分の制限の緩和があります。この仕組みがあるため、既存の建物を使い続けられます。ただし、工事の内容と規模、用途変更の有無によって、求められる対応は変わります。
省エネ基準は、新築が適合義務の対象、修繕・模様替は対象外です。改修では義務がない分、断熱と設備をどこまでやるかが設置者の判断に委ねられます。
法規の観点で比較するには、現況の調査が前提になります。建物がどれだけ現行基準に近いか、用途を変えるか、増築を伴うか、何年使うか。この4点を並べたうえで、工事費と工期の比較に進むのが順序です。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 神奈川県「令和7年(2025年)4月からの建築物省エネ法・建築基準法に関するお知らせ」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz4/cnt/f6916/yosizawa.html
- 札幌市「【令和7年(2025年)4月施行】建築物省エネ法改正」 https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/kankyou/shouene/2025kaisei.html
- 建築基準法第3条、第6条、第86条の7、第87条、建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律
記載の制度は公表時点のものです。個別の適用は所管の行政庁にご確認ください。
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