目次
キャンパス再編と施設の優先順位
大学のキャンパスは、建物の数が多く、建てられた時期もばらばらです。研究棟、講義棟、図書館、体育館、学生寮、附属施設。それぞれ更新の時期が異なり、同時に対応することはできません。
一方で、学生数の変化、研究分野の再編、リモートを含む授業形態の変化により、必要な空間そのものが変わっています。老朽化した建物を同じ用途で建て替えるだけでは、答えになりません。
この記事では、①施設の現状、②国立大学の整備計画、③私立大学の事情、④再編の進め方、⑤改修の優先順位、の5点を整理します。
この記事の要点
- 国立大学法人等の保有面積は約1,292万平方メートル(2025年5月1日時点)
- そのうち経年25年以上は約646万平方メートル
- 第6次国立大学法人等施設整備5か年計画(令和8年3月31日公表)は、令和8〜12年度で約820万平方メートル、約1兆4,500億円
- 第5次計画は目標860万平方メートルに対し進捗約523万平方メートル(約61パーセント)
- 私立大学は595校中275校(46.2パーセント)が入学定員未充足(令和8年度)
大学の施設は今どうなっているのか?
老朽化した面積が積み上がっています。
文部科学省の資料によれば、国立大学法人等施設の保有面積は、2025年5月1日時点で約1,292万平方メートルです。このうち経年25年以上の面積は約646万平方メートルで、過半が老朽化した状態にあるとされています。
老朽化率は、第5次計画の開始時で33.6パーセント、第6次計画の開始見込みで37.8パーセント(附属病院を除く)とされています。改修が追いついていない状況が、数字に表れています。
進捗が計画に届いていない
同資料では、第5次5か年計画の進捗について、整備目標860万平方メートルに対して約523万平方メートル、進捗率は約61パーセントと推計されています。性能維持改修については、目標560万平方メートルに対して202万平方メートル、36パーセントです。
計画があっても、予算の規模がそれに追いついていないという構造です。各大学が自らの財源と優先順位で動く必要がある、ということでもあります。
国立大学の整備計画はどうなっているか?
第6次の5か年計画が動き出しています。
文部科学省が令和8年3月31日に公表した「第6次国立大学法人等施設整備5か年計画」は、令和8年度から令和12年度までを対象としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画期間 | 令和8〜12年度 |
| 整備量 | 約820万平方メートル |
| 所要額 | 約1兆4,500億円 |
| 主な内容 | 老朽改善整備、ライフラインの更新、新増築整備、附属病院整備 |
目指す方向として、イノベーション・コモンズ(共創拠点)の実装化と、地域の防災拠点の実現が掲げられています。
イノベーション・コモンズという考え方
建物を用途ごとに分けるのではなく、学内外の人が集まり、共同で研究や事業を生み出す場としてキャンパスを組み替える考え方です。
改修の実務としては、講義室を可変にする、実験室と交流空間を隣接させる、外部の企業や自治体が入れる区画を設けるといった形になります。既存の建物を使いながら、用途の境界を作り替える作業です。
予算の規模
同資料では、施設整備費補助金について、令和8年度当初予算案364億円、令和7年度補正802億円という数字が示されています。当初予算だけでは所要額に届かないため、補正予算や各法人の自己財源、寄附、民間資金の活用が組み合わされます。
民間資金の活用については学校のPPP/PFIとはにまとめています。
私立大学の事情はどう違うのか?
定員の充足状況が、投資の判断に直結します。
日本私立学校振興・共済事業団の「令和8(2026)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」によれば、集計対象の私立大学595校のうち、入学定員未充足は275校で46.2パーセントです。全体の入学定員充足率は102.74パーセントでした。
未充足校は前年度から41校減り、割合は7.0ポイント低下しています。改善の方向にはありますが、それでも4割を超える大学が定員を満たせていません。この二極化が、施設投資の判断を難しくしています。
| 状況 | 施設投資の考え方 |
|---|---|
| 志願者が安定している | 老朽化対応と機能更新を計画的に進められる |
| 定員が満たせていない | 面積の縮小、キャンパスの集約、用途の転換が選択肢に入る |
定員を満たせていない大学では、建物を減らす方向の検討が必要になります。使わない建物を持ち続けることが、維持管理費として毎年の支出になるためです。
私立大学が使える補助については私立学校施設整備費補助金の全体像を参照してください。
キャンパス再編はどう進めるのか?
面積の総量から入ります。
建物ごとの改修を積み上げても、全体は縮みません。まず、何年後に何平方メートル必要なのかを決めます。そのうえで、どの建物を残し、どれを減らすかを判断します。
- 学生数と教職員数の見通しを、10年、20年の単位で置く
- 現在の保有面積と、稼働状況(授業の利用率、研究室の使用状況)を調べる
- 建物ごとの経年、構造、設備の状態を評価する
- 残す建物、集約する建物、用途を変える建物、除却する建物に仕分ける
- 順序と財源を年度に割り付ける
稼働状況を測る
講義室の使用率は、思ったより低いことがあります。時間帯によって空いている、規模が合っていない、特定の棟に偏っている。データを取ると、面積を減らせる余地が見えてきます。
測る対象は、講義室の時間あたり利用率、座席の充足率、研究室の1人あたり面積、共用部の面積比です。感覚ではなく数字で示せると、学内の合意も得やすくなります。
除却という選択肢
老朽化した建物を除却すれば、維持管理費と将来の改修費が減ります。一方で、除却にも費用がかかり、財源の確保が必要です。
残す建物に投資を集中させる方が、結果として施設の水準は上がります。全部を少しずつ直す方法では、どれも中途半端になります。
建替えと改修の判断は学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。
改修の優先順位はどう付けるのか?
4つの層で考えます。
| 層 | 内容 | 先送りできるか |
|---|---|---|
| 安全 | 耐震、天井、外壁の落下防止、避難 | できない |
| ライフライン | 受変電、給排水、空調の基幹設備 | 止まると建物全体が使えない |
| 機能 | 実験室、講義室、共用空間の更新 | 教育研究の質に影響する |
| 快適性 | 内装、外構、サイン | 後回しにできる |
ライフラインは見えにくい部分ですが、更新の優先度は高くなります。受変電設備や給排水の基幹管が止まれば、その系統の建物がまとめて使えなくなるためです。
研究設備との関係
大学の建物は、研究設備と一体で使われます。大型の装置、特殊な排気、電源の容量、床の耐荷重。建物の改修と設備の更新を分けて発注すると、条件が合わないことがあります。
研究室の移転を伴う改修では、装置の移設が工程の中心になります。移設できない装置がある場合、その部屋を工事の範囲から外す判断も必要です。
長寿命化改修の進め方は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。
工事はどう進めるのか?
学期の区切りを使います。
大学には長期休業がありますが、研究活動は通年で続きます。学部の講義棟であれば休業中に集中できますが、研究棟は止まりません。
- 講義棟は、春休みと夏休みに工事を集中させる
- 研究棟は、フロアごとに仮移転して段階的に進める
- 実験系の建物は、排気と給水の停止時期を研究者と個別に調整する
- 附属病院は、診療を止められないため計画が長期化する
工事中の仮移転先をどこに確保するかが、工程を左右します。空いている建物があれば有利ですが、それがない場合は仮設の費用が発生します。再編の順序を決めるときは、最初に空きを作れる建物から着手すると、その後が回りやすくなります。
財源はどう組み合わせるのか?
補助金だけでは足りません。
国立大学法人では、施設整備費補助金のほか、各法人の自己財源、寄附金、民間資金の活用が組み合わされます。私立大学では、私立学校施設整備費補助金、自己資金、借入、寄附が中心です。
| 財源 | 特徴 |
|---|---|
| 国の補助金・交付金 | 対象事業と要件が定められ、年度の枠がある |
| 自己財源 | 使途の自由度は高いが、規模に限りがある |
| 寄附 | 同窓会、企業、個人。使途を指定される場合がある |
| 借入 | 返済の原資として、将来の収入の見通しが必要 |
| 民間資金の活用 | 施設の一部を民間が整備・運営する方式 |
寄附を前提にする場合の注意
記念事業や周年行事に合わせて寄附を募る大学は多くあります。ただし、目標額に届かない場合の対応を決めておく必要があります。
工事の契約を先に進めてしまうと、資金が不足したときに動けません。段階を分けて発注し、集まった額に応じて範囲を決める方法もあります。
維持管理費まで含めて見る
新しい建物は、初期費用だけでなく毎年の維持管理費が発生します。延べ面積が増えれば、光熱費も清掃費も点検費も増えます。
面積を増やす計画では、増えた分の年間経費を試算し、どの財源で賄うかを決めておきます。ここを詰めないまま建てると、後年度の運営を圧迫します。
公立大学はどうか?
設置団体の財政計画の中に位置づけられます。
公立大学法人の施設整備は、設置団体である自治体の財政と結びついています。公共施設等総合管理計画の対象に含まれることもあり、市町村や都道府県全体の施設の中で優先順位が付けられます。
地域の人材育成という役割が明確であれば、投資の理由を説明しやすくなります。一方、定員の充足状況が厳しい場合は、規模の見直しが議論になります。
よくある質問
Q. 国立大学の施設整備計画はどこで確認できますか。
A. 文部科学省が公表する国立大学法人等施設整備5か年計画で確認できます。第6次計画は令和8年3月31日に公表されました。
Q. 第6次計画の規模はどれくらいですか。
A. 令和8〜12年度で、整備量約820万平方メートル、所要額約1兆4,500億円です。
Q. 国立大学の施設はどれくらい老朽化していますか。
A. 保有面積約1,292万平方メートル(2025年5月1日時点)のうち、経年25年以上が約646万平方メートルです。
Q. 私立大学の定員はどうなっていますか。
A. 令和8年度は595校中275校(46.2パーセント)が入学定員未充足でした。全体の充足率は102.74パーセントです。
Q. キャンパス再編は何から始めますか。
A. 将来必要な面積の総量を決めることからです。建物ごとの改修を積み上げても、全体は縮みません。
Q. 研究棟の改修はいつ行いますか。
A. 研究活動が通年で続くため、フロアごとの仮移転による段階的な施工が現実的です。
まとめ
国立大学法人等施設の保有面積は約1,292万平方メートル(2025年5月1日時点)で、経年25年以上が約646万平方メートルを占めます。第5次5か年計画は目標860万平方メートルに対して進捗約523万平方メートル、約61パーセントにとどまりました。
第6次国立大学法人等施設整備5か年計画(令和8年3月31日公表)は、令和8〜12年度で約820万平方メートル、約1兆4,500億円を掲げ、イノベーション・コモンズの実装化と地域の防災拠点の実現を方向として示しています。
私立大学では、令和8年度に595校中275校(46.2パーセント)が入学定員未充足でした。前年度から41校減ってはいますが、4割を超える水準が続いています。定員の状況によって、施設投資の方向は大きく分かれます。
どの設置形態でも、出発点は同じです。将来必要な面積を決め、残す建物に投資を集中させること。全部を少しずつ直す方法では、老朽化の速度に追いつきません。
参考・出典
- 文部科学省「第6次国立大学法人等施設整備5か年計画」(令和8年3月31日公表) https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/kokuritu/1318409_00003.htm
- 文部科学省「国立大学法人等施設を取り巻く現状について」(国立大学法人等施設整備に関する検討会 参考資料) https://www.mext.go.jp/content/20260609-mxt_keikaku-000050364_10.pdf
- 日本私立学校振興・共済事業団「令和8(2026)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」 https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR8.pdf
記載の制度・数値は公表時点のものです。最新の内容は所管省庁等の公表資料でご確認ください。
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