目次
製造免許と排水・床の計画
廃校をクラフトビールの醸造所にする計画は、全国で提案されています。
校舎の区画された部屋に仕込みのタンクを置き、体育館や多目的室をタップルームにする。校庭を屋外席にする。地域の原料を使い、観光と結びつける。絵として成立しやすい構想です。
しかし酒類の製造には免許が必要で、免許には製造する数量の基準が関わります。趣味の規模では免許が下りません。そして醸造の排水は量も負荷も大きく、学校の排水設備では処理できないことがあります。
さらにタンクと水の重量が、床の条件を決めます。
この記事では、①製造免許、②排水、③床と重量、④タップルームを併設する場合、⑤設備と動線、の5点を整理します。
この記事の要点
- 酒類の製造には酒税法に基づく製造免許が必要
- 審査では、製造免許を受けた後1年間の製造見込数量が一定の数量に達しているかどうか(最低製造数量基準)が確認される
- 酒税法第10条が定める免許を与えない場合の要件に該当しないことも要件になる
- 醸造の排水は有機物の負荷が高く、放流先の条件が計画を左右する
- 仕込みタンクと水の重量は床の積載荷重に関わるため、1階または土間に置く構成が基本
製造免許は何が必要なのか?
数量の基準と、欠格事由に該当しないことです。
酒類を製造するには、酒税法に基づく製造免許が必要です。国税庁は、製造免許を受けた後1年間の製造見込数量が一定の数量に達しているかどうかを最低製造数量基準として審査するとしています。
| 審査の観点 | 内容 |
|---|---|
| 最低製造数量基準 | 免許を受けた後1年間の製造見込数量 |
| 欠格事由 | 酒税法第10条が定める免許を与えない場合に該当しないこと |
| 製造する酒類の種類 | 種類ごとに免許を受ける |
| 製造場の所在地 | 製造場ごとに免許を受ける |
| 設備と技術 | 製造の能力があるか |
| 申請の窓口 | 所轄の税務署 |
重要なのは、数量の基準があるという点です。少量だけ造って地域で売る、という規模では免許が下りないことがあります。
数量の基準は酒類の種類で異なる
基準となる数量は酒類の種類によって異なります。具体的な数量は所轄の税務署に確認してください。
醸造する酒類の種類を変えると基準も変わるため、何を造るのかを先に決める必要があります。
製造場ごとに免許を受ける
免許は製造場の所在地ごとに受けます。廃校を製造場とするなら、その所在地で申請します。
建物の計画が固まる前に、税務署に相談しておくことをすすめます。設備の配置と製造の工程が審査に関わります。
用途変更の扱い
学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。したがって醸造所への用途変更は類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。あわせて用途地域で工場に当たる用途が建築できるかを確認してください。
食品衛生法の許可も関わる
酒類の製造には酒税法の免許が、飲食の提供には食品衛生法の営業許可が必要です。タップルームを併設するなら両方が関わります。
令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。
排水はどう扱うのか?
有機物の負荷が高い排水です。
醸造の排水には、仕込みの残り、洗浄水、酵母などが含まれます。生活排水に比べて有機物の負荷が高く、量もまとまって出ます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 排水の量 | 仕込みと洗浄で発生する量 |
| 排水の負荷 | BOD、SS |
| 排水の時間的な偏り | 洗浄時に集中する |
| 放流先 | 公共下水道か、河川等か |
| 下水道の場合 | 下水道法の水質基準、除害施設の必要性 |
| 河川等の場合 | 水質汚濁防止法の排水基準 |
| 浄化槽の場合 | 人槽と能力の確認 |
公共下水道に放流する場合は、下水道法に基づく水質の基準があります。基準を超える排水を出す場合は、除害施設を設けて処理してから放流します。
河川等に放流する場合は、水質汚濁防止法の排水基準が関わります。1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上である工場または事業場に適用される項目があります。
浄化槽の校舎では能力を超える
郊外の学校は公共下水道に接続しておらず、浄化槽で処理していることがあります。浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、醸造の排水を前提にしていません。
能力を超える場合、浄化槽の更新または排水の前処理が必要です。これが計画の成否を決めることがあります。
排水の時間的な偏り
醸造の排水は、洗浄のタイミングに集中します。1日の平均では収まっても、短時間に集中すると処理設備の能力を超えます。
ピーク時の排水量を把握し、貯留してから均して流す構成が必要になることがあります。
粕と残渣の処理
仕込みの後に残る粕や麦芽の残渣は、固形の廃棄物として処理します。家畜の飼料や堆肥に回す例もありますが、引取り先の確保が前提です。
量が多いため、保管場所と搬出の計画が必要です。
床と重量はどう考えるのか?
タンクと水の重量です。
床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めています。校舎の教室は教室としての値で設計されており、仕込みタンクを置く前提ではありません。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 設計時の積載荷重 | 構造計算書で室種別の値を確認 |
| タンクの容量と重量 | 満水時の重量で検討する |
| タンクの設置位置 | 梁と柱の位置との関係 |
| 床の防水 | 洗浄で水を流す範囲 |
| 排水溝と勾配 | 床に勾配をつけて導く |
| 天井高 | タンクの高さと作業の余裕 |
タンクは1箇所に集中した重量になります。等分布の荷重ではなく、集中荷重としての検討が必要です。
1階または土間に置く
タンクは1階に置くのが基本です。地面に近い位置であれば、床スラブを介さず地盤に荷重を伝える構成が取れます。
2階以上に置く計画は床の補強が前提になり、漏水時の階下への影響も残ります。
天井高が制約になる
仕込みのタンクは高さがあります。教室の天井高では入らないことがあります。
天井を撤去して梁下まで使うか、体育館のような大空間を使うか。計画の初期に、導入する設備の寸法を確認してください。
床の防水と勾配
洗浄で水を流すため、床の防水と排水溝が必要です。教室の床は平らで排水口がないため、全面やり直しになります。
これが工事費の柱の1つです。
タップルームを併設する場合はどうなるのか?
飲食店としての扱いが加わります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 食品衛生法 | 飲食店営業の許可 |
| 消防法 | 飲食店は別表第一の(3)項ロ |
| 区画 | 製造場と飲食の場を分ける |
| 動線 | 来客と原料・製品の動線を分ける |
| トイレ | 来客用の確保 |
| 駐車場 | 来客用。飲酒運転への配慮 |
消防法では、学校は消防法施行令別表第一の(7)項で特定防火対象物に含まれませんが、飲食店は(3)項ロで該当します。製造場と飲食の場が混在すると、(16)項イの複合用途防火対象物として特定防火対象物になる可能性があります。
消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。
製造場と飲食の場を区画する
酒税法上の製造場の範囲と、食品衛生法上の飲食店の範囲は、区画して明確にする必要があります。見学の動線をどこまで入れるかも、この区画で決まります。
飲酒運転への配慮
郊外の廃校は、来客が自家用車で来ます。タップルームで提供する場合、飲酒運転への対応を計画に含める必要があります。
送迎、公共交通との連携、持ち帰りの販売。立地によって取れる手段が変わります。
設備と動線はどう組むのか?
熱源と電源、搬入経路です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受電容量 | 冷却、ポンプ、照明、空調 |
| 熱源 | 仕込みの加熱。ガスか、蒸気か |
| 冷却 | 発酵と貯蔵の温度管理 |
| 給水 | 仕込みと洗浄の水量、水質 |
| 搬入搬出 | 原料、資材、製品の経路 |
| 瓶詰・缶詰 | 工程を内製するか外注するか |
受電容量は計画の初期に確認すべき項目です。冷却設備は常時運転し、消費電力が大きくなります。
設備の更新の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。
水質の確認
仕込みに使う水の水質は、製品に影響します。井戸水を使う計画では、水量と水質の調査が必要です。
水道水を使う場合も、給水の容量を確認してください。
搬入経路を確認する
タンクなどの設備は、搬入時に建物の開口を通らないことがあります。既存の窓を開口に変える工事が必要になれば、構造の確認が伴います。
1階に製造場を置き、外部から直接搬入できる開口を設ける構成が基本です。
収支は数量から逆算する
最低製造数量基準を満たす数量を造り、それを売り切る体制が必要です。造れても売れなければ在庫になります。
収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。販路の見込みを確認してください。
よくある質問
Q. 酒類の製造に免許は必要ですか。
A. 必要です。酒税法に基づく製造免許を、製造する酒類の種類ごと、製造場の所在地ごとに受けます。
Q. 少量の製造でも免許は下りますか。
A. 審査では、製造免許を受けた後1年間の製造見込数量が一定の数量に達しているかどうかが確認されます。数量は酒類の種類により異なるため、所轄の税務署に確認してください。
Q. 排水で注意する点は何ですか。
A. 有機物の負荷が高く、洗浄時に集中します。浄化槽の校舎では能力を超えることがあり、更新または前処理が必要です。
Q. タンクは2階に置けますか。
A. 床の補強が前提になります。満水時の重量が1箇所に集中するため、1階または土間に置く構成が基本です。
Q. 教室の天井高にタンクは入りますか。
A. 入らないことがあります。天井を撤去して梁下まで使うか、大空間を使うかの判断になります。導入する設備の寸法を先に確認してください。
Q. タップルームを併設すると扱いが変わりますか。
A. 食品衛生法の営業許可が加わり、消防法では飲食店が別表第一の(3)項ロに該当します。製造場と混在すると(16)項イの複合用途になる可能性があります。
まとめ
廃校のブルワリー転用は構想として成立しやすい一方、免許と排水と床の3点で制約を受けます。
酒類の製造には酒税法に基づく製造免許が必要です。審査では、製造免許を受けた後1年間の製造見込数量が一定の数量に達しているかどうかが確認されます。趣味の規模では免許が下りません。数量は酒類の種類により異なるため、何を造るかを先に決めて税務署に相談してください。
排水は有機物の負荷が高く、洗浄のタイミングに集中します。公共下水道なら下水道法の水質基準、河川等なら水質汚濁防止法の排水基準が関わります。郊外の校舎では浄化槽の能力が論点になり、これが計画の成否を決めることがあります。
床については建築基準法施行令第85条の積載荷重を確認してください。タンクは満水時の重量が1箇所に集中します。1階または土間に置く構成が基本で、2階以上は補強が前提です。洗浄で水を流すため、床の防水と排水溝の新設が工事費の柱になります。
タンクの高さが教室の天井高に入らないこともあります。導入する設備の寸法と、搬入経路を計画の初期に確認してください。
タップルームを併設するなら、食品衛生法の営業許可と消防法上の扱いが加わります。製造場と飲食の場を区画し、来客と原料の動線を分け、郊外では飲酒運転への対応も計画に含めてください。そして最低製造数量基準を満たす数量を売り切る販路が、収支の前提になります。
参考・出典
- 国税庁「お酒に関する情報」 https://www.nta.go.jp/taxes/sake/index.htm
- 国税庁「酒類製造免許は誰でも受けることができるのですか。」 https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/03a/02.htm
- e-Gov法令検索「酒税法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000006
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「水質汚濁防止法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000138
- e-Gov法令検索「下水道法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000079
- 厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html
記載の法令および制度は公表時点のものです。最低製造数量基準の数量、免許の審査および排水の基準は酒類の種類、放流先および所管の運用により異なります。個別の適用は所轄の税務署、保健所、所管行政庁および設計者にご確認ください。
学校施設のご相談
その工事、補助金が使えるか無料でチェックします
トイレ・空調・体育館・玄関・耐震など、検討中の工事に使える国や都道府県の補助制度を、公表資料をもとに確認して3営業日以内にご回答します。「補助金が使えないか調べるよう言われた」という段階のご相談で構いません。
補助金の無料チェックを依頼する株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00