この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?

用途区分別の要件と協議の進め方

廃校活用の見積りで、建築工事より消防設備の金額が大きくなることがあります。転用後の用途が特定防火対象物になる場合です。

学校は消防法上、比較的緩やかな扱いを受けてきました。不特定多数が泊まるわけでもなく、避難の訓練をしている利用者が使う施設だからです。ところが福祉施設や宿泊施設、物販店舗に変えると扱いが変わります。

変わり方は建築基準法と違います。建築基準法では既存不適格が原則として維持されますが、消防法では転用後の用途によって消防用設備等が現行基準に引き戻されます。スプリンクラー設備や自動火災報知設備が全館で必要になると、金額は一気に増えます。

この記事では、①用途区分の考え方、②特定防火対象物とは何か、③遡及適用の仕組み、④用途を問わず必要になる設備、⑤協議の進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校は消防法施行令別表第一の(7)項で、特定防火対象物には含まれない
  • 特定防火対象物は(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イ
  • 消防法第17条の2の5により既存の防火対象物は原則として従前の規定でよいが、特定防火対象物である場合は現行基準が適用される
  • 消火器、簡易消火用具、避難器具、漏電火災警報器、非常警報器具および非常警報設備、誘導灯および誘導標識は用途を問わず現行基準が適用される
  • 用途が混ざると(16)項イの複合用途防火対象物として特定防火対象物になる場合がある

消防法上の用途区分とは何か?

消防法施行令別表第一が定める、防火対象物の分類です。

この表の区分によって、必要な消防用設備等、防火管理者の選任義務、点検報告の頻度が決まります。建築基準法の別表第一とは別の表であり、区分も一致しません。両方を確認する必要があります。

学校は(7)項に位置づけられています。小学校、中学校、高等学校、大学、専修学校、各種学校がここに入ります。

学校と消防法の関係は学校と消防法はどう関わるのか?で扱っています。

転用後の用途を先に決める

消防の協議は、転用後の用途が確定しないと始まりません。「地域交流施設」「多目的スペース」といった計画上の呼び名では、どの項に当たるか判定できません。

実際に行う活動の中身で判定されます。飲食を提供するのか、物を売るのか、宿泊させるのか、福祉サービスを提供するのか。ここを曖昧にしたまま設計を進めると、後から設備が追加されます。

特定防火対象物とは何か?

不特定多数の人が出入りする、または避難が困難な人が利用する防火対象物です。

該当するのは、消防法施行令別表第一の(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、および(16)項イです。

区分主な用途特定防火対象物
(1)項劇場、映画館、公会堂、集会場該当する
(2)項キャバレー、遊技場、カラオケボックス等該当する
(3)項料理店、飲食店該当する
(4)項百貨店、マーケット、店舗、展示場該当する
(5)項イ旅館、ホテル、宿泊所該当する
(6)項病院、診療所、福祉施設、幼稚園、特別支援学校該当する
(7)項小学校、中学校、高等学校、大学、各種学校該当しない
(8)項図書館、博物館、美術館該当しない
(9)項イ蒸気浴場、熱気浴場該当する
(12)項工場、作業場、映画スタジオ該当しない
(16)項イ特定用途を含む複合用途防火対象物該当する

廃校活用でよく検討される用途のうち、福祉施設、宿泊施設、飲食店、物販店舗はすべて特定防火対象物です。一方、図書館や博物館、工場や倉庫は特定防火対象物に当たりません。

幼稚園は学校だが扱いが違う

(6)項には幼稚園と特別支援学校が入っています。学校教育法上は学校ですが、消防法では避難に配慮が必要な施設として特定防火対象物に分類されています。

廃校を保育所や認定こども園として再利用する計画では、ここが効きます。転用の要点は廃校を福祉施設に転用する要点は?にまとめています。

遡及適用はどういう仕組みなのか?

消防法第17条の2の5が原則を定め、例外として現行基準が適用される場合を列挙しています。

原則は不遡及です。既存の防火対象物については、従前の規定に適合していればよいとされています。建築基準法の既存不適格と似た考え方です。

ただし次の場合は現行基準が適用されます。

例外内容
特定防火対象物である場合用途が特定防火対象物に該当すれば現行基準
政令で定める消防用設備等用途を問わず現行基準
従前の規定に違反している場合違反状態のものは現行基準
増築、改築、大規模の修繕または大規模の模様替えを行う場合政令で定める規模のものは現行基準
現行基準に適合することとなった場合一度適合した設備は現行基準

用途変更についても、消防法第17条の3が特例を定めています。考え方は第17条の2の5とほぼ同じで、特定防火対象物になる場合には特例が及びません。

学校から特定防火対象物への転用が最も重い

学校(7)項から福祉施設(6)項に変える場合、転用後が特定防火対象物になるため、消防用設備等は現行基準で判断されます。

スプリンクラー設備、自動火災報知設備、屋内消火栓設備。校舎の規模によっては、これらを新設することになります。既存の設備が使えないわけではありませんが、能力や警報区域の見直しが必要です。

大規模の修繕も引き金になる

転用後の用途が特定防火対象物でなくても、工事の規模で遡及することがあります。資料では、大規模の修繕について主要構造部である壁の過半の修繕と整理されています。

内装を全面的に作り替える計画では、工事の内容が大規模の修繕や大規模の模様替えに当たるかを確認してください。該当すれば消防設備も現行基準になります。

用途を問わず必要になる設備は何か?

比較的安価で後付けしやすい設備です。

消火器、簡易消火用具、避難器具、漏電火災警報器、非常警報器具および非常警報設備、誘導灯および誘導標識。これらは用途を問わず現行基準が適用されます。

設備遡及適用
消火器、簡易消火用具用途を問わず現行基準
避難器具用途を問わず現行基準
漏電火災警報器用途を問わず現行基準
非常警報器具・非常警報設備用途を問わず現行基準
誘導灯・誘導標識用途を問わず現行基準
自動火災報知設備特定防火対象物では現行基準
スプリンクラー設備特定防火対象物では現行基準
屋内消火栓設備特定防火対象物では現行基準

図書館や工場など、特定防火対象物に当たらない用途への転用であれば、上段の設備だけで済む場合があります。これが用途選択の判断材料になります。

用途が混ざる場合はどうなるのか?

複合用途防火対象物として判定されます。

校舎の一部を地域交流施設に、一部を飲食店に、一部を物販にという計画はよくあります。この場合、特定用途が含まれるかどうかで扱いが変わります。

特定用途を含む複合用途防火対象物は(16)項イに当たり、特定防火対象物として扱われます。つまり飲食や物販を1区画でも入れると、建物全体の判定が変わる可能性があります。

構成判定
図書館+工房のみ特定用途を含まない
図書館+カフェ特定用途を含む。(16)項イの可能性
福祉施設を含む特定用途を含む

ただし主たる用途に従属する部分は、独立した用途として扱わない運用があります。来館者向けの小さな喫茶コーナーが飲食店として独立判定されるかは、規模と運営形態によります。所管の消防本部に確認してください。

収益化と設備費のトレードオフ

廃校活用では、収益を得るためにカフェや物販を入れる計画が多く作られます。その判断が消防設備の金額を押し上げることがあります。

カフェを入れることで得られる収入と、それによって増える設備費と維持費を並べて比較してください。転用の全体像は廃校活用の事例と進め方は?にまとめています。

協議はどう進めるのか?

転用後の用途を仮に固めて、消防本部に相談するのが最初です。

段階内容
1. 用途の仮決めどの活動を行うか。区画ごとの用途を整理する
2. 既存設備の調査設置されている消防用設備等と点検記録
3. 消防本部への事前相談令別表第一の項の判定、必要な設備の確認
4. 不足設備の洗い出し新設・更新が必要な設備を特定する
5. 概算と計画の調整金額が見合わなければ用途構成を見直す
6. 着工前の届出工事整備対象設備等着工届、設置届

3の段階で項の判定を受けておくと、後の手戻りが減ります。判定は消防本部によって運用が異なるため、他の自治体の事例をそのまま当てはめることはできません。

建築との同時協議が必要

建築基準法の用途変更と消防法の協議は、別の窓口で進みます。防火区画の位置と自動火災報知設備の警報区域、排煙と内装制限。これらは相互に影響します。

片方だけで設計を固めると、もう片方で成り立たないことがあります。改修の技術的な論点は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?で扱っています。

よくある質問

Q. 学校は特定防火対象物ですか。

A. (7)項であり特定防火対象物には含まれません。ただし幼稚園と特別支援学校は(6)項で特定防火対象物に当たります。

Q. 用途変更すると必ずスプリンクラーが必要ですか。

A. 用途と規模によります。特定防火対象物に転用する場合は現行基準で判断されるため、設置が必要になる場合があります。

Q. 図書館への転用なら設備は不要ですか。

A. 不要ではありません。消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。

Q. カフェを1区画入れるだけでも扱いが変わりますか。

A. 変わる可能性があります。特定用途を含む複合用途防火対象物として判定される場合があります。従属扱いになるかは所管の消防本部の判断です。

Q. 工事の規模でも遡及しますか。

A. します。政令で定める規模の増築、改築、大規模の修繕または大規模の模様替えを行う場合は現行基準になります。

Q. 他の自治体の廃校活用事例と同じ設備で済みますか。

A. 用途の判定は消防本部ごとに運用が異なります。必ず所管の消防本部に確認してください。

まとめ

廃校の転用で消防設備の金額が膨らむのは、転用後の用途が特定防火対象物になる場合です。学校は消防法施行令別表第一の(7)項で特定防火対象物に含まれませんが、福祉施設、宿泊施設、飲食店、物販店舗はいずれも特定防火対象物です。

消防法第17条の2の5は原則として既存の防火対象物に従前の規定の適用を認めていますが、特定防火対象物である場合には現行基準が適用されます。用途変更についても第17条の3が特例を定めており、考え方は同じです。

消火器、簡易消火用具、避難器具、漏電火災警報器、非常警報器具および非常警報設備、誘導灯および誘導標識は、用途を問わず現行基準が適用されます。図書館や工場など特定防火対象物に当たらない用途への転用であれば、負担はこの範囲に収まる場合があります。

注意が必要なのは用途を混ぜる計画です。特定用途を含む複合用途防火対象物は(16)項イに当たり、特定防火対象物として扱われます。収益化のためにカフェや物販を入れる判断が、建物全体の設備要件を変えることがあります。

用途の判定は消防本部ごとに運用が異なります。転用後の用途を仮に固めた段階で事前相談に行き、項の判定を受けてから設計と概算を進めてください。

参考・出典

記載の制度・基準は公表時点のものです。消防法上の用途の判定、従属用途の扱いおよび必要な消防用設備等は所管の消防本部により運用が異なります。個別の適用は所管の消防署にご確認ください。

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