この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

専門学校の実習室を作る費用はどれくらいか?

金額を動かす5つの条件と、制度から読み取れる規模感

実習室をひとつ作るのにいくらかかるか。この質問に、坪いくらという形で答えるのは難しいと考えています。

同じ30坪の実習室でも、調理の実習室とIT系の演習室では工事の中身がまったく違います。ガス、給排水、排気フード、床の防水が必要な室と、床のOAフロアと電源容量があればよい室を、同じ単価で語ることはできません。

さらに、既存の建物が何を持っているかで金額が変わります。受電容量に余裕があるビルと、キュービクルの更新から必要なビルでは、同じ内装工事でも総額が大きく違います。

ただし、見当がまったくつかないわけではありません。国の補助制度は、どの程度の規模の工事を対象として想定しているかを、申請の下限額と上限額という形で公表しています。そこから逆算すると、制度が前提にしている工事の大きさが見えます。この記事では、費用を動かす条件を整理したうえで、その規模感の読み方をまとめます。

この記事の要点

実習室の費用を動かすのは、分野、既存建物の設備容量、用途変更の要否、在校中施工かどうか、養成施設の指定基準で求められる室数の5つです。

愛知県が公表する令和8年度の資料では、専修学校の施設環境改善整備事業の金額の範囲は200万円から5,000万円、情報通信ネットワーク環境整備は100万円から5,000万円とされています。

同じ資料では、専修学校の施設高機能化整備事業は1校(課程ごと)300万円以上、防災機能強化は専門課程で150万円以上とされています。

私立学校施設整備費補助金の交付要綱では、教育装置の単価の下限が専門課程で2,000万円、高等課程で400万円と定められています。

工事費の見積を依頼する前に、定員、既存建物の受電容量、給排水の口径、用途変更の要否の4点を確定させておくと、金額の精度が上がります。

専門学校の実習室の整備費用とは何か?

建築工事、電気設備工事、機械設備工事、什器・機器、設計監理、申請関係費用の合計です。

金額を見るときに混乱しやすいのは、この範囲が人によって違うことです。「実習室を作るのにいくら」と聞くとき、機器まで含むのか、設計料を含むのか、確認申請の手数料を含むのかで数字は変わります。

費目含まれるもの
建築工事間仕切り、床、壁、天井、建具、防水
電気設備工事幹線、分電盤、コンセント、照明、弱電
機械設備工事給排水、ガス、空調、換気、排気フード
什器・機器実習台、美容用椅子、調理機器、什器
設計監理設計料、工事監理料
申請関係確認申請手数料、用途変更の手続き費用

社内で予算を議論するときは、どの範囲の金額なのかを先に揃えてください。見積を比較する際も同様です。

費用を動かす5つの条件とは?

分野、設備容量、用途変更、在校中施工、指定基準で求められる室数です。

分野

実習の内容によって、必要な設備が根本的に違います。

調理と製菓は、ガスの容量、給排水、排気フード、床の防水と排水勾配が必要です。専門学校の中で最も設備の負荷が大きい室になります。

美容と理容は、シャンプー台の給排水と、ドライヤーやアイロンを多数同時に使うための電気容量が要点です。

医療・看護・歯科系は、設備そのものより室の構成が効きます。実習室のほかに準備室や器材室が必要になることが多く、面積が増えます。

IT、CG、映像、音響は、電気容量と発熱処理が中心です。空調の能力が普通教室とは別の計算になります。音響とスタジオは遮音が加わります。

既存建物の設備容量

既存のビルや校舎を使う場合、受電容量が足りるかどうかで金額が変わります。

容量が不足していれば、キュービクルの更新や幹線の引き直しが工事に含まれます。学校施設の受変電・電気設備の更新とは?目的・工法・進め方で扱っているとおり、受変電設備の更新は停電を伴う工事で、工期とコストの両方に影響します。

給排水も同じです。既存配管の口径が足りない、あるいは老朽化していて更新が必要となれば、その分が加算されます。

用途変更の要否

事務所や店舗だった建物を校舎に変える場合、学校は建築基準法上の特殊建築物に当たるため、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるときは用途変更の確認申請が必要になります。根拠は法第87条第1項です。

確認申請が必要になると、申請費用そのものよりも、申請に適合させるための工事が金額に効きます。既存不適格の是正、防火区画、避難経路の確保といった項目です。

在校中施工かどうか

授業を止めずに工事をする場合、仮設の動線、作業時間帯の制限、養生の範囲が増えます。

長期休暇に収める前提で工程を組むと、作業密度が上がり、人員の増員や夜間作業が必要になることがあります。同じ工事内容でも、工期の制約が費用に跳ね返ります。

指定基準で求められる室数

養成施設の指定基準は、室の数を規定していることがあります。

専門学校の実習室は何から決めるか?養成施設の指定基準と建築の与条件を突き合わせるで整理したとおり、調理師養成施設では普通教室と調理実習室を同時に授業を行う学級数を下らない数だけ専用で確保することとされています。学級数が2なら調理実習室も2室です。

1室あたりの単価より、必要な室数のほうが総額への影響が大きい場合があります。

制度はどの程度の規模を想定しているか?

補助金の申請下限額と上限額から読み取れます。

愛知県が公表している令和8年度の私立学校施設設備整備費補助金の資料には、専修学校に適用される金額の範囲が示されています。

事業区分専修学校の金額の範囲
施設環境改善整備200万円から5,000万円
情報通信ネットワーク環境整備100万円から5,000万円
教育装置400万円から5,000万円
施設高機能化整備事業1校(課程ごと)300万円以上
防災機能強化専門課程は150万円以上
ICT教育設備整備1校(課程ごと)100万円以上
エコキャンパス推進1,000万円以上

これは補助の対象となる工事費の範囲であり、実習室1室の工事費そのものではありません。ただし、国と都道府県が「このくらいの規模の工事が行われる」という前提で制度を設計していることは読み取れます。

下限額の意味も実務的です。施設環境改善整備事業なら200万円に満たない工事は申請できません。小規模な改修を補助で賄おうとしても、制度に乗らないということです。

教育装置の単価基準

私立学校施設整備費補助金の交付要綱では、教育装置について単価の下限が定められています。

区分単価の下限
大学4,000万円
短期大学・高等専門学校3,000万円
専修学校 専門課程2,000万円
専修学校 高等課程400万円

専門課程で2,000万円以上というのは、1台または1組の装置としての金額です。実習室に入れる機器がこの水準に達するかどうかで、補助の使える制度が変わります。

この基準からも、どのくらいの機器が想定されているかが見えます。

補助率

専門学校・専修学校で使える教育環境整備の補助金で扱っているとおり、補助率は事業区分と課程によって異なります。愛知県の資料では、国庫補助は原則3分の1以内、耐震改築やアスベスト対策などは県補助と合わせて2分の1以内とされています。

自己負担がいくらになるかは、補助率と、予算超過時の圧縮率の両方で決まります。申請額がそのまま交付されるとは限らない点に注意してください。

見積を取る前に何を確定させるべきか?

定員、受電容量、給排水の口径、用途変更の要否の4点です。

この4つが決まっていないと、見積は条件付きの概算にしかなりません。あとから条件が確定した段階で金額が動き、理事会に出した数字と変わることになります。

確定させる項目確認先
学科の定員学内。指定基準の収容人数の上限と突き合わせる
既存の受電容量受変電設備の銘板、電気主任技術者、電力会社との契約内容
給排水の口径と状態竣工図、配管の調査
用途変更の要否特定行政庁または指定確認検査機関

竣工図が残っていない建物では、調査そのものに費用と時間がかかります。専門学校の校舎改修|実習室整備と用途変更の進め方で扱っているとおり、検査済証がない建物では手続きが別の流れになることもあります。

概算を先に出したい場合

理事会の議案にするために、設計が固まる前の概算が必要になることがあります。

その場合は、前提条件を明記した概算にしてください。「受電容量が足りる前提」「用途変更が不要な前提」と書いたうえで金額を出し、条件が変わった場合の増額幅も併記します。条件を書かない概算は、後で必ず問題になります。

工事費以外にかかるものは何か?

設計監理料、申請費用、調査費用、機器の搬入設置費、仮設費用です。

設計監理料は工事費に対する割合で設定されることが多く、工事の規模と内容によって変わります。

申請費用には、確認申請の手数料のほか、用途変更に伴う調査や図書の作成費用が含まれます。既存の図面が不足していれば、現況調査の費用が加わります。

機器については、本体価格のほかに搬入と設置の費用がかかります。大型の調理機器や実習台は、エレベーターに乗らず、開口部からの搬入やクレーンが必要になる場合があります。ビル型の校舎では、この搬入計画が金額に効くことがあります。

仮設費用は、在校中施工の場合に大きくなります。仮設の間仕切り、養生、動線の確保、警備員の配置などです。

よくある質問

Q. 坪単価で教えてもらえませんか。

A. 分野と既存建物の条件で金額が大きく変わるため、坪単価で示すと実態から離れます。調理実習室とIT演習室では設備工事の比率が違い、同じ単価で計算すると数割の誤差が出ます。条件を確定させたうえで積算するほうが、結果的に早く正確な数字になります。

Q. 補助金はどのくらい使えますか。

A. 事業区分と課程によって補助率が異なります。愛知県の資料では国庫補助は原則3分の1以内とされていますが、申請が予算を超えた場合に圧縮率がかかることがあります。満額が交付される前提で資金計画を立てないでください。

Q. 機器の購入費も補助の対象になりますか。

A. 教育装置として単価の下限を満たせば対象になり得ます。専修学校の専門課程では1台または1組あたり2,000万円が下限です。これに満たない機器は別の区分を検討することになります。

Q. 工期はどのくらい見ておけばよいですか。

A. 工事の内容と、授業を止められるかどうかで変わります。長期休暇に収める場合は、休暇期間から逆算して設計と発注のスケジュールを組む必要があります。用途変更の確認申請が必要な場合は、その審査期間も見込んでください。

Q. 既存の実習室を別の分野に転用できますか。

A. 設備の構成が近ければ可能ですが、調理からITへの転用のように設備が大きく異なる場合は、既存設備の撤去費用が加わります。転用のほうが高くつくこともあるため、両方で比較してください。

Q. 複数の実習室をまとめて工事すると安くなりますか。

A. 仮設費用や諸経費を按分できるため、単独で行うより有利になる場合があります。ただし工期が長くなり、授業への影響が広がるため、運営面との兼ね合いで判断してください。

まとめ

専門学校の実習室の費用は、面積ではなく条件で決まります。分野、既存建物の設備容量、用途変更の要否、在校中施工かどうか、指定基準で求められる室数の5つです。

制度が想定している規模感は、補助金の金額の範囲から読み取れます。愛知県の令和8年度の資料では、専修学校の施設環境改善整備事業は200万円から5,000万円、情報通信ネットワーク環境整備は100万円から5,000万円。教育装置は専門課程で単価2,000万円以上が補助の対象です。

見積を依頼する前に、定員、受電容量、給排水の口径、用途変更の要否の4点を確定させてください。この4つが決まれば、概算の精度が大きく上がります。決まっていない状態で出した数字は、必ず動きます。

坪単価で答えられない質問ではありますが、条件を揃えれば金額は早く固まります。順序の問題です。

参考・出典

  • 愛知県「令和8年度 私立学校施設設備整備費補助金について」 https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/618757.pdf
  • 文部科学省「私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費)交付要綱」(昭和58年7月1日制定、令和8年2月27日最終改正)
  • 文部科学省「令和8年度 私立大学等研究設備整備費等補助金及び私立学校施設整備費補助金に係る事業募集について」(令和8年2月13日事務連絡) https://www.mext.go.jp/content/20260220-mxt_syogai01-000047578_1.pdf
  • 建築基準法第87条第1項(用途変更に対する準用)

本記事は公表時点の制度にもとづいて作成しています。補助率および金額の範囲は年度や都道府県によって異なるため、実際の計画にあたっては所管の都道府県私学主管課にご確認ください。

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