この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校活用の収支計画はどう立てるのか?【2026年版】事業性評価と維持管理費の見積り

廃校活用が止まる場所は、だいたい決まっています。改修費ではなく、その後の維持費です。

改修費は一度きりです。補助金を使える場合もあり、見通しも立てやすい。問題は、使い始めてから毎年かかる費用のほうです。

校舎は床面積が大きい。小学校でも数千平方メートルあります。そのうち実際に使うのが3割でも、電気の基本料金は契約電力で決まり、法定点検は建物全体にかかり、屋根と外壁は全体が劣化します。

使っていない部分にも費用がかかる。これが廃校活用の構造的な難しさです。

この記事では、①計画に入れる項目、②初期投資、③毎年の費用、④収入の見方、⑤判断の仕方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 収支計画は初期投資、毎年の費用、収入の3つを長期で並べて判断する
  • 校舎は床面積が大きく、使わない部分にも光熱費と点検費がかかる
  • 電気の基本料金は契約電力で決まるため、使用量が少なくても固定費として残る
  • 大規模修繕は15年から20年の周期で発生するため、計画期間に入れる
  • 事業が終わったときの解体費を誰が負うかを決めておく

収支計画には何を入れるのか?

3つの要素を長期で並べます。

要素 内容
初期投資 改修工事、設計、什器、開業準備
毎年の費用 光熱水費、点検、修繕、人件費、賃料
収入 利用料、賃料、物販、委託料、補助金

期間は20年程度を取ります。大規模修繕が1回入る長さだからです。10年だと修繕の山が見えず、楽観的な計画になります。

自治体が自ら運営する場合も、民間に貸す場合も、構造は同じです。誰がどの費用を負うかが違うだけです。

貸付なら自治体側にも計画が要る

民間に貸すから収支は事業者の問題、とはなりません。所有者として残る費用があります。

自治体に残る費用 内容
建物の大規模修繕 屋根、外壁、構造に関わる部分
固定資産税相当の機会費用 売却していれば得られた収入
契約終了後の処理 解体または次の活用
使わない棟の維持 部分貸付の場合

貸付の賃料収入と、これらの費用を並べて初めて、貸すことが得かどうかが分かります。

初期投資には何が含まれるのか?

工事だけではありません。

項目 内容
調査 耐震、石綿、土壌、法適合状況
設計 基本設計、実施設計、各種申請
改修工事 内装、設備、外装、耐震補強
解体 使わない棟の解体、減築
什器・備品 家具、機器
開業準備 広報、人員の確保

調査が先に来る点が重要です。調査の結果が出るまで工事費が確定しないため、調査費だけを先に予算化する必要があります。

補助金を当てにしすぎない

廃校活用に使える補助制度はありますが、採択が前提の計画は危険です。採択されなかった場合に事業が成立するかを、別に試算しておきます。

解体費の構造は廃校の解体費用はいくらかかるのか?で扱っています。

毎年の費用はどこが大きいのか?

光熱水費と点検です。

項目 内容 面積に比例するか
電気の基本料金 契約電力で決まる しない。契約で決まる
電気の従量料金 使用量 使う範囲に比例
水道 基本料金と使用量 一部
空調の運転 熱源の方式による 方式による
法定点検 受変電、消防、建築設備 建物全体
清掃 使う範囲 使う範囲
警備 建物全体または区画 設定による
保険 建物の規模 する
小修繕 不具合への対応 する

使わない部分にもかかるのが、電気の基本料金と法定点検と保険です。ここが面積の大きい校舎で効いてきます。

契約電力の見直しを忘れない

学校時代の契約電力をそのまま引き継ぐと、使っていなくても高い基本料金を払い続けます。転用後の使い方に合わせて見直してください。

設備の見直しについては廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?にまとめています。

大規模修繕を計画に入れる

屋根の防水、外壁、設備の更新。これらは15年から20年の周期で来ます。20年の計画期間なら、1回分は必ず入ります。

この金額を見込んでいない収支計画は、実態と合いません。毎年の積立てとして計上するか、発生年に一括で計上するかは、どちらでも構いません。入れることが重要です。

人件費をどう見るのか?

運営を担う人の費用が、収支を決めます。

施設を開けておくには人が要ります。受付、管理、清掃、設備の対応。無人で運営できる施設は限られます。

体制 想定される性格
常勤1名+パート数名 最小限。開館時間が限られる
常勤2〜3名+パート 週6日、長時間の運営が可能
指定管理で委託 指定管理料として自治体が負担する
地域団体が無償で担う 当初は回るが持続性に課題が残る

小規模な施設ほど人件費の比率が高くなります。延床1,000平方メートルでも3,000平方メートルでも、受付に1人は要るからです。面積が小さいほど、1人あたりが生む収入は小さくなります。

無償の労力を前提にしない

地域団体が善意で運営する計画は、数年は回ります。しかし担い手が高齢化し、代替わりができないと止まります。

最初から人件費を計上し、収入でまかなえるかを見てください。まかなえないなら、差額を自治体が負担するのか、運営の規模を縮小するのかを決めることになります。

開館日数を減らすという選択

週7日開ける必要がない施設なら、週3日や4日の運営にすると人件費が大きく下がります。

利用者の利便性とのバランスですが、赤字を続けて5年で閉めるより、週3日でも10年続くほうが地域のためになります。

収入はどう見積もるのか?

楽観しないことです。

収入の種類 見積もるときの注意
施設の利用料 稼働率を現実的に。開業初年度は低い
賃料 テナントが埋まらない期間を見込む
物販・飲食 来館者数×単価×購買率。3つとも楽観しやすい
指定管理料・委託料 自治体の予算に左右される
イベント収入 継続性が低い
補助金 期限がある。終了後の収支を別に見る

来館者数の見積りが最も外れます。開業時の話題性で初年度は数字が出ても、2年目以降に落ちます。3年目の数字で事業が成立するかを見てください。

立地が収入の上限を決める

廃校は、統廃合で生まれます。統廃合が起きるのは子どもが減った地域です。つまり人口が減っている場所にあります。

集客を前提とする事業は、この条件と戦うことになります。地域内の需要だけで成立する規模にするか、外から人を呼ぶ理由をつくるか。どちらかの答えが必要です。

活用の類型は廃校活用の事例と進め方は?にまとめています。

使える補助や財源はあるのか?

複数の制度が関わります。

廃校活用に単独で充てられる制度があるわけではなく、転用後の用途に応じた制度を探すことになります。

財源の種類 内容
転用後の用途に対応する国の補助 福祉、産業振興、観光など所管省庁が分かれる
地方債 公共施設等適正管理推進事業債など、総務省の制度
民間の資金 事業者が負担する改修費
寄附・クラウドファンディング 地域に関わる人からの資金
使用料・賃料収入 運営開始後の収入

国の制度は、転用後の用途を所管する省庁にあります。福祉施設なら厚生労働省、産業系なら経済産業省、観光なら観光庁。文部科学省の制度は学校としての整備が対象であり、転用後の施設には使えません。

補助の有無で事業の可否が変わるなら危ない

補助が取れなければ成立しない計画は、脆弱です。採択の可否は自治体の努力だけでは決まりません。

補助なしでも最低限の形で成立する計画を持ったうえで、補助が取れたら規模を広げる。この順序にすると、計画が止まりません。

補助期間の終了後を見る

補助金には期間があります。3年、5年の補助が終わった後に、自立して運営できるか。ここを見ていない計画は、補助が切れた年に行き詰まります。

収支計画の20年のうち、補助がない17年分で成立するかを確認してください。

どう判断するのか?

3つの案を並べます。

案 初期投資 毎年の収支 20年の累計
全棟を活用する 大きい 維持費も大きい 比較する
一部の棟だけ活用し、残りを解体する 中程度 維持費を抑えられる 比較する
全て解体して敷地として活用する 解体費のみ ほぼ発生しない 比較する

3案を同じ条件で並べると、判断の材料になります。感覚的に「もったいない」で残す判断を避けられます。

使わない部分を抱えないという選択

2の案が有力になることが多いのは、使わない部分の維持費を切れるからです。

部分活用と減築の考え方は廃校の部分活用と減築はどう判断するのか?で扱っています。

事業が終わったときの費用

20年後、事業が終わったら建物はどうなるか。解体するなら、その費用を誰が負うか。

民間に貸す場合、契約終了時の原状回復と解体の責任を定めておかないと、自治体に戻ってきます。収支計画の最後に、この費用を置いてください。

撤退のラインを決めておく

何年連続で赤字なら見直すか。利用者数が何人を下回ったらどうするか。開始前に決めておくと、判断が遅れません。

うまくいかなかった場合に止められない仕組みが、一番費用を食います。

よくある質問

Q. 計画期間は何年にしますか。

A. 20年程度です。大規模修繕が1回入る長さを取らないと、修繕の山が見えません。

Q. 民間に貸す場合も自治体に収支計画は要りますか。

A. 要ります。建物の大規模修繕、使わない棟の維持、契約終了後の処理は所有者に残ります。

Q. 毎年の費用で一番大きいのは何ですか。

A. 光熱水費と法定点検です。とくに電気の基本料金は使用量に関係なく契約電力で決まります。

Q. 来館者数はどう見積もりますか。

A. 3年目の数字で判断してください。開業初年度は話題性で数字が出ますが、2年目以降に落ちます。

Q. 補助金を前提にしてよいですか。

A. 採択されなかった場合に成立するかを別に試算してください。また補助期間の終了後の収支も見る必要があります。

Q. 解体案と比較する意味はありますか。

A. あります。同じ条件で並べると、残す判断が感覚ではなく数字に基づくものになります。

Q. 廃校活用に使える補助制度はありますか。

A. 転用後の用途を所管する省庁の制度を探すことになります。文部科学省の制度は学校としての整備が対象で、転用後の施設には使えません。

Q. 補助が取れない場合に備える方法は。

A. 補助なしでも最低限の形で成立する計画を持ち、取れたら規模を広げる順序にしてください。

Q. 補助期間が終わった後はどう見ますか。

A. 20年の計画のうち、補助がない期間で成立するかを確認してください。補助が切れた年に行き詰まる計画が多くあります。

Q. 人件費はどう見積もりますか。

A. 最初から計上してください。小規模な施設ほど人件費の比率が高くなります。無償の労力を前提にした計画は、担い手の高齢化で止まります。

Q. 赤字が続く場合はどうしますか。

A. 開館日数を減らす選択があります。週3日でも10年続くほうが、赤字を重ねて5年で閉めるより地域のためになります。

まとめ

廃校活用が止まるのは、改修費ではなく維持費です。校舎は床面積が大きく、使わない部分にも電気の基本料金、法定点検、保険がかかります。使うのが3割でも、費用は3割になりません。

収支計画は、初期投資、毎年の費用、収入の3つを20年で並べます。20年にするのは、大規模修繕が1回入る長さだからです。10年の計画では修繕の山が見えず、楽観的になります。

初期投資には調査費を含めてください。耐震、石綿、土壌、法適合状況。調査の結果が出るまで工事費は確定しないため、調査費だけを先に予算化する必要があります。

収入で一番外れるのは来館者数です。開業初年度は話題性で数字が出ても、2年目以降に落ちます。3年目の数字で成立するかを見てください。廃校は人口が減っている地域にあるという前提も忘れないことです。

全棟活用、一部活用、全部解体の3案を同じ条件で並べてください。使わない部分を抱えない判断が、結果として有力になることが多くあります。そして事業が終わったときの解体費を誰が負うかを、最初に決めておいてください。

参考・出典

記載の内容は公表時点のものです。費用および収入の水準は施設の状況と地域により大きく異なります。個別の試算は実際の施設の調査結果に基づいて行ってください。

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