この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?

電気・給排水・空調の優先順位

内装がきれいに仕上がったのに、使い始めてから困る。廃校活用でよくある失敗です。

原因はたいてい設備です。学校の設備は、学校の使い方に合わせて設計されています。平日の昼間だけ使う。夏休みと冬休みは止まる。1学級40人が同時に使い、夜は誰もいない。この前提で容量も系統も決まっています。

転用後の使い方は違います。夜も使う、土日も使う、厨房を入れる、機械を動かす、人数は少ないが長時間いる。前提が変われば、必要な容量も系統も変わります。

そして設備は後から変えにくい。壁の中と天井裏を通っているからです。内装を仕上げた後で容量が足りないと分かると、やり直しになります。

この記事では、①最初に確認すること、②電気、③給排水、④空調、⑤通信と優先順位、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校の設備は、平日昼間のみ使用し長期休業で止まる前提で設計されている
  • 転用後の使い方を先に決めないと、必要な容量も系統も決まらない
  • 受変電設備の容量と、給水方式の確認が最初の分岐になる
  • 設備は壁の中と天井裏を通るため、内装の後では変えにくい
  • 部分活用では、使わない区画の系統を切り離せるかが維持費を左右する

最初に確認するのは何か?

転用後の使い方です。設備の図面より先に、使い方を決めます。

確認する項目なぜ必要か
使う時間帯夜間利用があれば照明と空調の運転時間が変わる
使う曜日土日も使うなら警備と空調の設定が変わる
同時に滞在する人数換気量、トイレの数、給排水の負荷
厨房・水まわりの有無給排水とグリストラップ、電気またはガスの容量
機械・設備の持ち込み電気容量に直結する
使う棟と階系統の切り分けと容量の配分

この6つが決まらないと、設備の検討は始まりません。逆にこれが決まっていれば、既存設備で足りるかどうかの判断は早く出ます。

既存の図面と点検記録を集める

設備の竣工図、改修の記録、受変電設備の点検報告書、水質検査の記録。学校は法定点検を受けているので、記録が残っています。

閉校後に点検を止めている場合、最後の記録がいつかを確認してください。止めてからの経過年数が長いほど、現況との差が大きくなります。

電気で何を見るのか?

受変電設備の容量が最初の分岐です。

項目内容
受電方式高圧受電か低圧受電か
キュービクルの容量契約電力と、転用後に必要な容量の比較
設置年更新時期を過ぎていないか
幹線の容量各棟・各階への配分
分電盤回路数の余裕
非常用電源設置の有無

学校は、教室の照明とコンセント、特別教室の機器、体育館の照明で容量が決まっています。空調を後から入れた学校では、その時点で容量を増やしていることもあります。

容量が足りなくなる転用

次のような用途では、既存の容量では足りないことがあります。

  • 厨房を入れる(電気調理器、冷蔵・冷凍設備)
  • 工場・作業場にする(動力設備)
  • データセンターや撮影スタジオにする(大容量)
  • 全館に空調を入れる

容量の増設は、キュービクルの更新と引込みの変更を伴います。電力会社との協議も必要で、期間がかかります。計画の初期に確認してください。

受変電・電気設備の更新は学校施設の受変電・電気設備の更新とは?で扱っています。

キュービクルの更新時期

受変電設備には更新の目安があります。学校として使っていた期間に加えて、閉校後の放置期間が加わります。

転用にあたって更新が必要かどうかは、点検記録と現況の確認で判断します。更新するなら、同時に容量の見直しもできます。

給排水で何を見るのか?

給水の方式と、排水の系統です。

項目確認すること
給水方式受水槽か直結か。受水槽の容量と状態
引込み管の口径転用後の同時使用量に足りるか
配管の材質と年数鋼管であれば錆と漏水のリスク
排水の系統汚水と雑排水の分け方、放流先
浄化槽の有無下水道が来ていない地域
グリストラップ厨房を入れる場合に必要

学校は受水槽方式が多く、校舎の屋上または地下に水槽があります。閉校後に使っていなければ、内部の清掃と水質の確認が必要です。

配管の更新が費用の山になる

昭和の校舎では、給水管に鋼管が使われていることがあります。経年で内部に錆が出ると、赤水や漏水の原因になります。

更新するには、壁や天井を開ける必要があります。内装を仕上げた後ではやり直しになるため、内装工事より先に判断してください。

給排水設備の更新は学校の給排水設備改修はどう進めるか?にまとめています。

トイレの数が足りないことがある

学校のトイレは児童生徒の人数で決まっています。転用後の用途によっては、必要な数も配置も変わります。

多目的トイレの新設は、給排水の経路の取り回しが問題になります。既存の配管から遠い場所に置くと、床を上げるか天井裏を通すことになります。

空調で何を見るのか?

熱源の方式が分かれ目です。

方式部分活用との相性
個別方式(各室に室外機)使う部屋だけ運転できる。相性が良い
中央方式(熱源を共用)1室だけ使っても熱源全体を動かす。効率が落ちる
未設置新設することになる。電気容量に影響

部分活用を前提とするなら、個別方式のほうが維持費は下がります。中央方式の建物で一部だけ使うと、部分負荷での運転になり効率が悪化します。

学校の空調は普通教室だけのことが多い

国の補助を使って普通教室に空調を入れた学校は多くありますが、特別教室や体育館は未設置のことがあります。

転用後に使う部屋が特別教室や体育館であれば、新設が必要です。体育館の空調は容積が大きく、費用も大きくなります。

空調の方式と進め方は学校の空調設置はどう進めるか?で扱っています。

換気も同時に見る

用途によって必要な換気量が変わります。厨房、作業場、多数が集まる部屋。機械換気の能力が足りるかを確認します。

昇降機と消防設備はどう絡むのか?

転用後の用途で要否が変わります。

設備変わり方
エレベーター上階を使う計画かどうか。新設は電気容量と構造に影響
自動火災報知設備特定防火対象物になれば現行基準で判断される
屋内消火栓・スプリンクラー同上。給水の容量にも影響
誘導灯用途を問わず現行基準が適用される
非常用の照明装置用途変更で準用される規定に含まれる

消防設備は、建築の設備工事とは別の業者が入ります。工程を分けて考えると、配線や配管の経路が後から競合します。設計の段階で一緒に検討してください。

受信機は分けにくい

自動火災報知設備の受信機は、通常1台で全棟を監視しています。部分活用で一部の棟だけ使う場合、使わない棟の感知器が作動したときに誰が確認に行くのかという問題が残ります。

受信機を分けるには工事が必要です。分けないなら、運用で対応する取り決めを先に決めておきます。

維持費はどこで決まるのか?

契約電力と、動かす設備の量です。

転用後に毎年かかる費用は、工事費と同じくらい計画を左右します。とくに自治体が所有したまま貸す方式では、どちらが何を負担するかで事業の成否が変わります。

項目維持費を押し上げる要因
電気の基本料金契約電力で決まる。使わなくても毎月かかる
空調の運転中央方式で部分利用すると効率が落ちる
受水槽の管理清掃と水質検査が定期的に必要
法定点検受変電設備、消防設備、建築設備
使わない区画最低限の換気、防犯、劣化対策

見落とされやすいのが電気の基本料金です。契約電力は過去の最大需要で決まるため、学校時代の契約のまま引き継ぐと、使っていなくても高い基本料金を払い続けることになります。

契約の見直しを先にする

転用後の使い方が決まったら、契約電力の見直しを電力会社に相談してください。容量を下げられれば、毎月の固定費が下がります。

逆に将来容量を増やす可能性があるなら、下げすぎないほうがいい場合もあります。ここは転用後の計画と合わせて判断します。

通信と優先順位はどうなるのか?

通信は後回しにできません。

項目確認すること
引込み光回線が来ているか。事業者の選択肢
主配線盤設置場所と容量
構内配線LAN配線の有無と規格
無線アクセスポイントの設置場所と電源

GIGAスクール構想で校内LANを整備した学校であれば、配線が残っています。これは転用で使える資産です。整備していない学校では、配線から始まります。

オフィスやサテライト拠点にする計画では、通信が成立しないと事業そのものが成り立ちません。立地によっては回線の選択肢が限られるため、早い段階で確認してください。

手をつける順序

順序内容理由
1受変電設備の容量足りなければ他の計画が崩れる
2給水の方式と配管壁と天井を開ける工事になる
3排水の系統厨房や水まわりの位置が決まる
4空調の方式部分活用の可否と維持費を左右する
5通信の引込み用途によっては事業の前提になる
6照明・コンセント内装と同時に進められる

1から3までが、内装より先に決めなければならない項目です。ここを後回しにすると、仕上がった内装を壊すことになります。

部分活用での系統の切り分けは廃校の部分活用と減築はどう判断するのか?で扱っています。

よくある質問

Q. 設備の検討はいつ始めますか。

A. 転用後の使い方が決まった直後です。内装の検討より先に、電気容量と給排水の確認を済ませます。

Q. 既存の設備はそのまま使えますか。

A. 使い方によります。学校は平日昼間のみの使用を前提に設計されているため、夜間や土日の利用、厨房の設置では容量が足りないことがあります。

Q. 電気容量の増設にはどれくらいかかりますか。

A. 規模と引込みの条件によります。電力会社との協議が必要なため、期間を見込んでください。

Q. 閉校後に点検を止めていますが問題ありますか。

A. 現況と記録に差が出ます。止めてからの経過年数を確認し、受変電設備と受水槽は現地で状態を見てください。

Q. 部分活用で維持費を抑えるには。

A. 空調が個別方式であれば使う部屋だけ運転できます。中央方式では熱源全体を動かすため効率が落ちます。

Q. 校内LANは使えますか。

A. GIGAスクール構想で整備していれば配線が残っています。転用で使える資産になるため、状態を確認してください。

Q. 消防設備はいつ検討しますか。

A. 建築の設備工事と同時です。業者が別になるため、後から検討すると配線や配管の経路が競合します。

Q. 使わない棟の火災報知設備はどうしますか。

A. 受信機が1台で全棟を監視している場合、分けるには工事が必要です。分けないなら、作動時の確認を誰が行うかを運用で決めておきます。

Q. 毎年の費用はどこが大きいですか。

A. 電気の基本料金と空調の運転です。契約電力は使わなくても毎月かかるため、転用後の使い方に合わせて見直してください。

Q. 民間に貸す場合、維持費の負担はどう決めますか。

A. 契約で定めます。法定点検、受水槽の管理、使わない区画の維持を誰が負うかを、公募要項の段階で示してください。

まとめ

廃校活用で使い始めてから困る原因は、たいてい設備です。学校の設備は、平日の昼間だけ使い、長期休業で止まる前提で設計されています。転用後の使い方が変われば、必要な容量も系統も変わります。

検討の出発点は設備の図面ではなく、転用後の使い方です。使う時間帯、曜日、同時に滞在する人数、厨房の有無、機械の持ち込み、使う棟と階。この6つが決まらないと設備の検討は始まりません。

最初の分岐は受変電設備の容量です。厨房、作業場、全館空調、大容量の機器。これらを入れる計画では既存の容量で足りないことがあり、増設には電力会社との協議と期間が必要です。

次が給水の方式と配管です。昭和の校舎では給水管に鋼管が使われていることがあり、更新には壁と天井を開けます。内装を仕上げた後ではやり直しになるため、順序を間違えないでください。

空調は方式が部分活用の可否を左右します。個別方式なら使う部屋だけ運転できますが、中央方式では一部の利用でも熱源全体を動かすことになり、維持費が膨らみます。

電気容量、給水、排水。この3つを内装より先に決めてください。後回しにすると、仕上がった内装を壊すことになります。

参考・出典

記載の内容は公表時点のものです。設備の容量および更新の要否は建物の状況により異なります。電気の引込み、給水の方式、排水の放流先の条件は所管の事業者および自治体により異なるため、個別にご確認ください。

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