この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校統廃合の説明資料はどう作るのか?

目次の構成と7つの原則

数値と選択肢を示し、結論だけを示さないことが原則です。

説明会で詰まる資料には共通点があります。推計が古い、基準が示されていない、選択肢が1つしかない、通学距離が地図上の値、跡地の方針が「検討中」。いずれも「決まっているものを説明に来た」と受け取られます。

文部科学省の手引は、市町村に対し、標準規模の学校と比べた場合の具体的な制約や、現状と統合後を比べた場合の教育活動の可能性について、具体的なデータや資料に基づいた十分な情報提供を行うことが必要としています。

手引は令和8年8月5日に改訂されました(8文科初第1125号)。総合化の観点により、資料にまちづくりや公共交通との関係を含める必要が出ています。

この記事の要点

  • 手引は具体的なデータや資料に基づいた十分な情報提供を求めている
  • 選択肢を1つしか示さない資料は「決まっている」と受け取られる
  • 通学距離は実際の通学路で測る。地図上の距離では実態と乖離する
  • 跡地の方針が「検討中」では地域の不安が残る
  • 手引改訂(令和8年8月5日)により、まちづくりや公共交通との関係も資料に含める

資料の目次はどう組むか?

数値から入り、選択肢で終わります。

章内容
1検討の目的(教育条件の改善であること)
2児童生徒数の推計(現在から20年後まで)
3各学校の学級数の推移と施設の状況
4判断の基準(標準学級数、通学条件の考え方)
5国の考え方(手引の内容と改訂のポイント)
6選択肢(統合案と存置案を同じ精度で)
7各案の通学条件(地区別の実測値)
8各案の施設整備と財源(年度別)
9跡地の方針
10今後の進め方と意見の反映方法

目的を最初に書く

手引は、学校規模適正化の検討は児童生徒の教育条件をより良くする目的で行うべきものとしています。

資料の冒頭が財政の話から始まっていると、目的が財政に見えます。財政は制約条件として後ろの章に置いてください。

推計を2章目に置く

議論の土台は推計です。これを示さずに統合の話をすると、必要性そのものが争点になります。

小学校の入学者数は出生数から6年先までほぼ読めます。この部分は反論の余地が小さく、共通理解を作れます。

基準を選択肢より前に置く

どの数値をどう評価するのかを先に示します。基準を選択肢の後に置くと、結論に合わせて基準を作ったと受け取られます。

選択肢は複数示す

統合案だけの資料は「決まっている」と受け取られます。存置案を同じ精度で作り、並べてください。

手引には小規模校を存続させる場合の章があります。存置の方策も国が示している選択肢です。

跡地を資料に入れる

地域の関心は跡地にあります。方針がないと「使われないまま残るのでは」という懸念が残ります。

意見の反映方法を最後に書く

出された意見をどう扱うのか、次の説明会はいつか、決定はいつかを書いてください。これがないと「今日で決まるのか」という不安が出ます。

説明会の設計と合意形成の全体像は学校統廃合の合意形成はどう進めるのか?で扱っています。

7つの原則とは何か?

資料の作り方の指針です。

原則内容
1数値は出典と時点を書く
2推計は最新の出生数で引き直す
3通学距離は実際の通学路で測る
4平均値ではなく最も条件の悪い地区を示す
5選択肢を複数示し、同じ精度で作る
6課題を隠さず、打ち手とセットで書く
7専門用語に説明を付ける

原則1:出典と時点を書く

数値に出典と時点がないと、根拠を問われて答えられません。「文部科学省の調査(令和6年5月1日現在)」のように書いてください。

質疑で出典を聞かれて答えられないと、他の数値も疑われます。

原則2:推計を引き直す

検討に数年かかると推計が古くなります。出生数の減少が想定より速い場合、資料の前提が崩れています。

説明会の前に引き直してください。設計は学校統廃合の住民アンケートはどう設計するのか?と合わせて行います。

原則3:実際の通学路で測る

地図上の距離で資料を作ると、河川や幹線道路を迂回する地区では実態と乖離します。実際の通学路の距離と所要時間を測ってください。

手引は通学距離を小学校おおむね4キロメートル以内、中学校おおむね6キロメートル以内とし、通学時間はおおむね1時間以内を一応の目安としたうえで各市町村が判断するとしています。

原則4:最も条件の悪い地区を示す

平均の通学距離では、負担の大きい地区が見えません。地区ごとに最も遠い世帯の条件を示してください。

その地区の住民は必ず質問します。答えられないと信頼が落ちます。

原則5:選択肢を同じ精度で作る

統合案が詳細で存置案が粗いと、比較になりません。両案の費用、教育条件、通学条件を同じ項目で示してください。

これが検討の公平性を示す材料になります。

原則6:課題を打ち手とセットで書く

手引は、統合を行う場合も小規模校を存続させる場合も、デメリットをきめ細かく分析し関係者間で共有したうえで、最小化する工夫を計画的に講じる必要があるとしています。

課題を隠すと説明会で不信を招きます。認めたうえで打ち手を示す形が信頼されます。

原則7:専門用語に説明を付ける

複式学級、標準学級数、交付税措置、充当率。教育委員会の内部では自明な用語が、住民には伝わりません。

初出の箇所に短い説明を付けてください。

通学条件はどう示すか?

地区別の表が必要です。

示す項目内容
地区名自治会や町丁名の単位
現在の通学先と距離実際の通学路の距離
統合後の通学先と距離同じ測り方で
所要時間徒歩、自転車、バスのそれぞれ
通学手段スクールバスの有無、停留所の位置
乗車時間停留所を回る経路での実際の時間

地区ごとの表を作る

全体の平均ではなく、地区ごとの行を立てた表にしてください。自分の地区の数値を探せる形が必要です。

乗車時間を具体的に出す

直線距離が短くても、停留所を回る経路では片道40分から50分になる例があります。経路を設計して所要時間を出してください。

「バスで通学できます」だけでは、乗車時間への不安に答えていません。

便数と時刻を示す

朝夕各何便か、部活動の下校時刻に合わせた便があるか。中学校では部活動への対応が必ず質問されます。

冬季の条件を書く

積雪地では冬季の通学条件が制約になります。平時の数値だけでは不十分です。

変わらない地区も示す

通学先が変わらない地区も表に入れてください。「うちは関係ない」ことが分かると、不要な不安が減ります。

財源はどう示すか?

総額ではなく年度別と内訳です。

示す項目内容
総事業費契約見込額
対象事業費国の基準で算定される額
国庫補助額算定割合と額
地方債充当率と起債額
当年度の一般財源補助裏の残り
単独費対象事業費を超える部分
年度別の事業費どの年度にいくらかかるか
後年度の償還年度ごとの償還額

「補助率2分の1」で止めない

対象事業費は基準面積と国の単価で算定されます。設計面積が基準を超えたり契約単価が国の単価を上回ると、その差は全額が自治体の負担です。

総事業費と対象事業費の両方を示し、差額(単独費)を明示してください。

制度名と率を正確に書く

公立学校施設整備費負担金は原則2分の1、学校教育施設等整備事業債は充当率90パーセント(負担金事業・通常分)です。公共施設等適正管理推進事業債の集約化・複合化は充当率90パーセント・交付税措置率50パーセント。

率を曖昧に書くと、財政に詳しい参加者から指摘されます。

交付税措置を現金と書かない

交付税措置は元利償還金の一定割合を基準財政需要額に算入するものです。同額の現金が交付される仕組みではありません。

「国が7割負担します」という書き方は正確ではありません。

後年度の償還を示す

起債すると当年度の負担は軽くなりますが、償還は後年度です。年度ごとの償還額を示してください。

示さないと「安く済む」という誤解を与えます。

存置案の財源も示す

存置案にも改修費と維持管理費がかかります。長寿命化改良事業は学校施設環境改善交付金の対象で、算定割合は3分の1から2分の1です。

存置が制度的に不利ではないことを示してください。

手引改訂は資料に影響するか?

含める内容が増えます。

文部科学省は令和8年8月5日、8文科初第1125号「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の改訂等について(通知)」により、平成27年1月27日版を改訂しました。

観点資料に含めること
広域化周辺市町村との協議の有無と結果
総合化まちづくり、公共交通、公共施設全体の計画との関係
現代化ICTによる学校間連携の検討状況

平成27年版だけを引用しないこと

資料が平成27年版だけを根拠にしていると、改訂を知っている参加者から指摘を受けます。改訂の事実と3観点を資料に入れてください。

改訂の内容は学校統廃合の手引とは何か?で扱っています。

まちづくりとの関係を書く

総合化の観点により、学校の配置をまちづくり、公共交通、公共施設全体の計画と一体で説明する必要があります。

公共施設等総合管理計画との整合、公共交通の路線の見通し。教育委員会だけで資料を作ると空白になります。

広域化の検討状況を書く

圏域での検討を行ったか、行わなかったならその理由を書いてください。地理的に隣接校が遠い、協議して困難と判断した。

説明会で「隣の市と一緒にする選択はないのか」と聞かれます。

数値の基準は変わっていない

標準学級数、通学距離、通学時間の基準は改訂版でも維持されています。過去に示した基準を変更する必要はありません。

関係部署が同席する

資料に他部署の内容を含めるなら、説明会にも同席が必要です。資料だけ作って教育委員会だけで説明すると、質疑に答えられません。

対応は学校統廃合の反対意見にはどう向き合うのか?で扱っています。

よくある質問

Q. 説明資料で最も重要なことは何ですか。

A. 選択肢を複数示すことです。統合案だけの資料は「決まっている」と受け取られます。存置案を同じ精度で作り、費用と教育条件を並べてください。手引には小規模校を存続させる場合の章があります。

Q. 通学距離はどう示しますか。

A. 実際の通学路で測り、地区ごとの表で示します。地図上の距離では河川や幹線道路を迂回する地区で実態と乖離します。あわせて地区ごとに最も遠い世帯の条件を示してください。

Q. 「補助率2分の1」と書けば足りますか。

A. 足りません。対象事業費は基準面積と国の単価で算定されるため、設計面積が基準を超えると差額は全額が自治体の負担です。総事業費と対象事業費の両方を示し、単独費を明示してください。

Q. 交付税措置はどう書きますか。

A. 元利償還金の一定割合が基準財政需要額に算入される仕組みとして書いてください。同額の現金が交付されるわけではないため、「国が7割負担します」という書き方は正確ではありません。

Q. 課題は書かない方がよいですか。

A. 書いてください。手引は、統合する場合も存置する場合も、デメリットをきめ細かく分析し関係者間で共有したうえで最小化する工夫を計画的に講じる必要があるとしています。隠すと説明会で不信を招きます。

Q. 手引改訂は資料に反映すべきですか。

A. 反映してください。平成27年版だけを根拠にした資料は、改訂を知っている参加者から指摘を受けます。あわせて総合化の観点により、まちづくりや公共交通との関係も含める必要があります。

まとめ

学校統廃合の説明資料は、数値と選択肢を示し、結論だけを示さないことが原則です。手引は、標準規模の学校と比べた場合の具体的な制約や、現状と統合後を比べた場合の教育活動の可能性について、具体的なデータや資料に基づいた十分な情報提供を行うことが必要としています。

目次は、検討の目的、推計、学級数と施設の状況、判断の基準、国の考え方、選択肢、通学条件、施設整備と財源、跡地の方針、今後の進め方の順に組みます。目的を最初に書き、財政は制約条件として後ろに置いてください。冒頭が財政の話から始まっていると、目的が財政に見えます。

7つの原則は、出典と時点を書く、推計を引き直す、実際の通学路で測る、最も条件の悪い地区を示す、選択肢を同じ精度で作る、課題を打ち手とセットで書く、専門用語に説明を付けることです。とくに通学距離を地図上の値で作った資料は、該当地区の住民から必ず指摘されます。

財源は「補助率2分の1」で止めず、総事業費と対象事業費の両方を示して単独費を明示してください。交付税措置は基準財政需要額への算入であり、同額の現金が交付される仕組みではありません。あわせて後年度の償還額を年度ごとに示し、存置案の財源も同じ精度で作ってください。

令和8年8月5日の手引改訂(8文科初第1125号)により、資料に含める内容が増えました。改訂の事実と広域化・総合化・現代化の3観点、周辺市町村との協議の有無と結果、まちづくりや公共交通との関係です。平成27年版だけを根拠にした資料は指摘を受けます。他部署の内容を含めるなら、説明会にも関係部署の同席が必要です。

参考・出典

記載の基準および制度は公表時点のものです。資料の構成および示す内容は各市町村の実情により異なります。個別の検討は文部科学省および都道府県・市町村の教育委員会にご確認ください。

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