この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校統廃合の合意形成はどう進めるのか?

住民説明会と反対意見への向き合い方

情報を早く出すことが最も効きます。

統廃合の合意形成で失敗する典型は、検討の過程を閉じたまま結論だけを示す形です。説明会で「もう決まっているなら聞く意味がない」という反応になり、そこから信頼を取り戻すのに数年かかります。

文部科学省の手引は、学校規模適正化の検討は児童生徒の教育条件をより良くする目的で行うべきものとし、市町村が保護者や地域住民の理解と協力を得ながら丁寧に検討を進めることを求めています。

手引は令和8年8月5日に改訂されました(8文科初第1125号)。総合化の観点により首長部局を含めた検討が求められ、説明の範囲も教育の話だけでは足りなくなっています。

この記事では、合意形成の進め方を順に整理します。

この記事の要点

  • 情報を早く出す方が進む。結論だけを後から示す形は不信を招く
  • 反対の理由は通学条件・地域の将来・母校の喪失・手続きへの不信に分けて扱う
  • 就学前児童の保護者の意向を把握する。統合時に通うのはその層
  • 手引は小規模校を存続させる場合の章があり、統合しない選択肢も示す必要がある
  • 手引改訂(令和8年8月5日)により、まちづくりを含めた説明が求められる

合意形成の順番はどうなるのか?

情報の開示が先、結論が後です。

段階内容
1現状と将来推計の公表
2検討の枠組みと基準の公表
3選択肢の提示(統合案と存置案)
4説明会・アンケート・意見交換
5意見を踏まえた案の修正
6方針・計画の決定
7決定後の継続的な対応

推計を最初に出す

児童生徒数の将来推計を先に公表します。数値を共有しない状態で統合の話をすると、必要性そのものが争点になります。

出生数は確定しているため、小学校の入学者数は6年先までほぼ読めます。この数値は反論の余地が小さく、議論の土台になります。

基準を示してから案を出す

どの数値をどう評価するのかを先に示します。学校教育法施行規則第41条の標準学級数(小中学校12学級以上18学級以下)をどう扱うのか、通学距離の上限をどこに置くのか。

基準を後出しにすると、結論に合わせて基準を作ったと受け取られます。

統合しない案も並べる

手引には小規模校を存続させる場合の章があり、小規模校の利点を活かす方策と課題を緩和する方策が整理されています。

統合案だけを提示すると、説明会で「初めから統合が前提」と指摘されます。存置案も費用と教育条件を示して並べてください。

決定後も対応が続く

方針を決めた後も、統合の実施まで数年あります。この間の問い合わせ対応と情報提供を止めると、実施直前に反発が再燃します。

検討開始から開校までの全体の工程は学校統廃合はどう進めるのか?で扱っています。合意形成はそのうち最も時間がかかる段階です。

説明会はどう設計するか?

回数と時間帯で参加者が変わります。

項目考え方
回数地区ごとに複数回。1回では足りない
時間帯平日夜と休日の両方。同じ内容で開く
規模大人数より少人数の方が意見が出る
資料事前に配布・公開する
記録議事要旨を公開する

平日夜だけでは保護者が来られない

平日の夜に開くと、小さい子どもがいる保護者が参加できません。休日の日中にも同じ内容で開いてください。

参加できなかった層から後で反発が出ると、やり直しになります。

大規模な説明会では意見が出ない

100人規模の会場では、手を挙げて発言する人は限られます。本当の懸念が出てこないまま「意見はありませんでした」という記録が残ります。

地区ごと、学年ごとの少人数の場を設ける方が実質的な意見が集まります。

資料を事前に出す

当日に配って説明すると、参加者はその場で判断を求められます。事前に公開しておけば、読んだうえで質問が来ます。

資料の作り方は学校統廃合の説明資料の作り方で扱っています。

議事要旨を公開する

出された意見と、それに対する回答を公開してください。公開しないと「意見を言っても反映されない」という受け取りになります。

反映できない意見についても、できない理由を書いてください。

反対意見はどう扱うか?

理由を分けることが前提です。

反対の理由対応の方向
通学の負担距離・時間の実数、スクールバスの経路と便数
地域の衰退跡地の活用方針、学校以外の地域機能
母校の喪失新設型の検討、記念碑、記録の保存
手続きへの不信検討の経過の公開、判断の基準の明示
子どもへの影響統合前の交流、統合後の支援体制

「反対がある」でまとめない

理由を分けずに集計すると、打ち手が決まりません。通学の負担への不安ならバスの設計で応えられますが、手続きへの不信は情報公開でしか応えられません。

アンケートの設問を設計する段階で、理由を分けて取れる形にしてください。

通学の負担は実数で答える

「遠くなる」という不安には、その地区の実際の距離と所要時間で答えます。地図上の距離ではなく実測値です。

手引は通学距離を小学校おおむね4キロメートル以内、中学校おおむね6キロメートル以内とし、通学時間はおおむね1時間以内を一応の目安としたうえで各市町村が判断するとしています。

母校の喪失には新設型が効く場合がある

片方の校舎に統合する吸収型では、廃止される側の反発が強くなります。両方を廃止して新たに設置する新設型なら、双方が対等になり合意が得やすくなります。

建設費はかかりますが、合意形成の時間が短縮されるなら総合的に有利になる場合があります。

地域の衰退への懸念には跡地で答える

学校がなくなると人口流出が進むという懸念には、跡地の活用方針で応えます。方針が決まっていない状態で「検討します」と答えると、不安が残ります。

文部科学省の廃校施設活用状況実態調査(令和6年5月1日現在)では、現存7,612校のうち1,951校(25.6パーセント)が未活用です。活用の見通しを示せるかどうかが分かれ目になります。

対応の詳細

個別の反対意見への向き合い方は学校統廃合の反対意見への対応で扱っています。

アンケートはどう取るか?

対象の設定で結果が変わります。

対象理由
在校生の保護者統合の影響を直接受ける
就学前児童の保護者統合時に通うのはこの層
子育てを予定している世帯将来の利用者
地域住民地域機能としての学校
児童生徒本人学年に応じた設問で

就学前の保護者を外さない

在校生の保護者だけに聞くと、統合が実施される時期に在校していない層の意見になります。実際に統合校に通うのは就学前児童です。

手引も、学齢の児童生徒の保護者のみならず、就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向を適切に把握することを実施事例として明記しています。

設問で結論を誘導しない

「統合に賛成ですか」だけを聞くと、理由が分かりません。通学条件、教育環境、地域機能のそれぞれについて、何を重視するかを聞く形にしてください。

設計の実務は学校統廃合の住民アンケート設計で扱っています。

統合後も継続して取る

手引は、統合後に児童生徒や保護者の不安や悩みを把握するアンケートを継続的に実施することを示しています。

統合して終わりではありません。

手引改訂は合意形成に影響するか?

説明の範囲が広がります。

文部科学省は令和8年8月5日、8文科初第1125号「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の改訂等について(通知)」により、平成27年1月27日版を改訂しました。10年ぶりの改訂です。

観点合意形成への影響
広域化周辺市町村を含めた検討。説明の対象が自市町村内に収まらない場合がある
総合化まちづくり・公共交通・公共施設全体との関係を説明する必要がある
現代化ICTによる学校間連携を選択肢として示せる

教育の話だけでは足りなくなった

総合化の観点は、学校を設置する教育委員会の視点で検討するのではなく、首長部局も含めた各市町村全体でその地域の未来を考える視点で検討するという観点です。

したがって説明会でも、公共交通の見通し、他の公共施設の再編、地域の人口計画との関係を問われます。教育委員会だけで資料を作ると答えられません。

広域化は説明が難しい

隣接市町村との統合を検討する場合、住民の反発は域内の統合より強くなります。市町村をまたぐ通学、学校の設置者、費用負担。論点が増えます。

一方、改訂版が圏域での検討を求めているため、検討しなかったことの説明も必要になります。

数値の基準は変わっていない

標準学級数、通学距離、通学時間の基準は改訂版でも維持されています。したがって過去に示した基準を変更する必要はありません。

変わったのは検討の枠組みです。

よくある質問

Q. 合意形成で最も大事なことは何ですか。

A. 情報を早く出すことです。検討の過程を閉じたまま結論だけを示すと、説明会で手続きへの不信が争点になり、信頼の回復に数年かかります。推計の数値と判断の基準を先に公表してください。

Q. 説明会は何回開けばよいですか。

A. 回数を決めずに始めてください。地区ごとに複数回、平日夜と休日の両方で同じ内容を開きます。「3回で終わり」という前提で始めると途中で打ち切る形になります。

Q. 反対が多い場合はどうしますか。

A. 理由を分けて集計してください。通学条件への不安はバスの設計で応えられますが、手続きへの不信は情報公開でしか応えられません。「反対がある」とまとめると打ち手が決まりません。

Q. アンケートは誰に取りますか。

A. 在校生の保護者だけでは足りません。手引は就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向も適切に把握することを実施事例として明記しています。統合時に通うのはその層です。

Q. 統合しない選択肢も示す必要がありますか。

A. あります。手引には小規模校を存続させる場合の章があり、利点を活かす方策と課題を緩和する方策が整理されています。統合案だけを提示すると、初めから統合が前提と指摘されます。

Q. 手引改訂で説明の内容は変わりますか。

A. 範囲が広がります。総合化の観点により、公共交通や他の公共施設の再編、地域の人口計画との関係を問われます。教育委員会だけで資料を作ると答えられません。

まとめ

学校統廃合の合意形成で最も効くのは、情報を早く出すことです。検討の過程を閉じたまま結論だけを示す形は、説明会で手続きへの不信を争点にし、信頼の回復に数年かかります。児童生徒数の将来推計と判断の基準を先に公表し、そのうえで選択肢を提示してください。

反対意見は理由を分けて扱います。通学の負担、地域の衰退、母校の喪失、手続きへの不信、子どもへの影響。それぞれ応え方が違うため、「反対がある」とまとめると打ち手が決まりません。アンケートの設問を設計する段階で、理由を分けて取れる形にしてください。

通学の負担には実数で答えます。地図上の距離ではなく、その地区の実際の通学路の距離と所要時間です。手引は小学校おおむね4キロメートル以内、中学校おおむね6キロメートル以内とし、通学時間はおおむね1時間以内を一応の目安としたうえで各市町村が判断するとしています。

アンケートの対象では、在校生の保護者だけでは足りません。手引は就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向も適切に把握することを実施事例として明記しています。統合が実施される時期に通うのはその層です。あわせて統合後も継続的にアンケートを実施することが示されています。

令和8年8月5日の手引改訂(8文科初第1125号)により、説明の範囲が広がりました。総合化の観点では公共交通や他の公共施設の再編、地域の人口計画との関係を問われます。教育委員会だけで資料を作ると答えられないため、首長部局を含めた体制で臨んでください。数値の基準は維持されており、変わったのは検討の枠組みです。

参考・出典

記載の基準および手続きは公表時点のものです。合意形成の進め方は各市町村の実情により異なります。個別の検討は文部科学省および都道府県・市町村の教育委員会にご確認ください。

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