この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校の増築と既存不適格

既存部分をどこまで直す必要があるのか

教室が足りないので校舎を増築したい。この計画で最初に確認すべきなのが、既存部分の扱いです。

古い校舎は、建築当時は適法でも、その後の法改正で現行基準に合わなくなっていることがあります。これを既存不適格建築物といいます。違反建築物ではありません。

問題は、増築するときに既存部分まで現行基準に合わせる必要があるかどうかです。全部直せということになれば、増築の何倍もの費用がかかります。

建築基準法第86条の7は、この点について制限を緩和する規定を設けています。

この記事では、学校の増築における既存不適格の扱いを整理します。

原則と緩和

原則として、増築や改築を行う場合、建築物全体を現行基準に適合させる必要があります。

ただし法第86条の7により、政令で定める一定の範囲内であれば、既存不適格のまま増築等ができます。

緩和の考え方は大きく分けて2種類あります。

考え方内容
規模による緩和増改築の規模が小さければ、既存部分への遡及を免除する
部分による緩和工事する部分と工事しない部分を分けて考える

後者が実務では効きます。順に見ていきます。

規模による緩和

構造耐力規定に関する既存不適格建築物では、増改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の1/2を超えるかどうかが分岐点になります。

1/2を超える大規模な増改築については、平成24年9月の改正で構造方法が位置付けられました。大規模な地震で倒壊するおそれがない一定の安全性が確保されている既存建築物について、大規模な増改築を一層促進するためのものです。

増築歴がある場合の数え方に注意

見落とされやすい点です。

増改築に係る部分の床面積は、基準時以降の建築物が対象となります。増築を数回行っている場合、今回の計画部分だけでなく、基準時以降に増築した部分を積み上げて判断することになります。

学校は増築を繰り返している建物が多く、この積み上げで1/2を超えてしまうケースがあります。今回の増築だけを見て判断すると誤ります。

過去の増築履歴を先に整理してください。

部分による緩和(独立部分)

法第86条の7第2項は、いわゆる独立部分に関する緩和です。

法第20条または第35条の適用上、一の建築物であっても別の建築物とみなすことができる部分(独立部分)が2以上ある建築物について増築等をする場合、増築等をする独立部分以外の独立部分に対しては、遡及の規定を適用しないとされています。

学校で当てはまるのが、エキスパンションジョイントで構造的に分離された複数の棟が渡り廊下でつながっている構成です。片方の棟だけを増築する場合、増築しない棟は独立部分として、既存不適格のままでいられるかを判断できます。

校舎、体育館、特別教室棟がそれぞれ別棟で渡り廊下接続、という構成は学校に非常に多くあります。この構成であれば、増築の影響範囲を限定できる可能性があります。

ただし独立部分として扱えるかどうかは、構造的に相互に応力を伝えない構造になっているかなどの条件で判断されます。設計段階で建築士による確認が必要です。

なお、増築をする独立部分の遡及緩和を検討する際、増改築部分の規模条件を判断するときの「基準時における延べ面積」には、独立部分の全体が含まれます。遡及しない棟も面積の分母には入る、という点に注意してください。

令和7年に防火避難規定が緩和対象に追加された

これは比較的新しい動きです。

既存不適格建築物に係る増築等時における制限の緩和の対象に防火避難規定が追加されました。各規定の趣旨に応じ、小規模な増改築、規定の適用上別棟とみなすことができる部分の増築、屋根・外壁に係る大規模な修繕・模様替等、一定の範囲の増築等時においては、現行の基準に適合するための改修を行うことを不要としたものです。

小規模な増改築の要件は、増改築に係る対象床面積が50㎡以下かつ基準時における延べ面積の1/20であること、既存部分の危険性が増加しない等の条件を満たすことです。

国土交通省は「既存建築物の緩和措置に関する解説集」を公表しており、令和7年3月に第2版、令和7年11月に第3版が出ています。運用に当たってはこの解説集を参照することとされています。

あわせて「既存建築物の増築等に係る建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)」が令和7年3月26日付 国住指第517号で発出されています。

学校は特殊建築物であり、防火避難規定の適用が広く及びます。この緩和が使えるかどうかで、増築の可否が変わることがあります。最新の解説集で確認してください。

緩和が使えない場合

法第86条の7に記載されていない条項が既存不適格となっている場合、緩和は適用できません。

その場合は、増築時に既存不適格部分を改修し、現行の建築基準法に適合させることになります。

つまり、既存部分がどの規定に対して不適格なのかを先に特定する必要があります。ここが分からないまま増築の予算を組むと、後から大きな追加が発生します。

古い校舎で検査済証がない場合、そもそも既存不適格なのか違反建築物なのかの判断から始まります。進め方は検査済証がない校舎の改修(K206)で解説しています。

学校の増築で確認する順序

  1. 過去の増築履歴を整理する(基準時と、基準時以降の増築面積)
  2. 既存部分がどの規定に対して不適格かを特定する
  3. その規定が法第86条の7の緩和対象かを確認する
  4. 棟構成を確認し、独立部分として扱えるかを判断する
  5. 今回の増築面積が、規模による緩和の範囲に収まるかを計算する
  6. 緩和が使えない部分の改修費用を含めて予算を組む

この6が抜けると、予算が破綻します。増築費用だけで見積もると、既存部分の改修が丸ごと漏れます。

現況調査の内容と費用は現況調査の費用(K901)、用途変更を伴う場合は用途変更の確認申請(K204)をご覧ください。

よくある質問

Q. 増築すると既存部分も全部現行基準に直す必要がありますか。
A. 原則はそうですが、建築基準法第86条の7により一定の範囲で緩和されます。緩和の対象になる規定と、ならない規定があります。

Q. 別棟の体育館を増築する場合、校舎も直す必要がありますか。
A. エキスパンションジョイント等で構造的に分離されており、独立部分として扱える場合、増築しない棟には遡及しない扱いがあります。ただし判断は個別に必要です。

Q. 過去に何度も増築しています。面積はどう数えますか。
A. 基準時以降に増改築した部分を積み上げて判断します。今回の計画部分だけでは判断できません。増築履歴の整理が先です。

Q. 小規模な増築なら緩和されますか。
A. 防火避難規定については、増改築に係る対象床面積が50㎡以下かつ基準時における延べ面積の1/20であることなどの条件を満たす場合に、現行基準への改修が不要とされています。他の規定については別の要件があります。

Q. 判断は誰に依頼すればいいですか。
A. 建築士です。緩和が適用できるかどうかは条文と政令、告示、技術的助言を横断して判断する必要があります。計画の初期段階で確認してください。

まとめ

  • 既存不適格建築物の増築等は、建築基準法第86条の7で制限が緩和される
  • 緩和は「規模による緩和」と「部分による緩和(独立部分)」の2系統
  • 増改築に係る部分の床面積は基準時以降の増築を積み上げて判断する。今回分だけでは判断できない
  • エキスパンションジョイントで分離された棟は独立部分として扱える可能性がある。学校の棟構成では該当しやすい
  • 令和7年の改正で防火避難規定が緩和対象に追加された。小規模な増改築は50㎡以下かつ基準時の延べ面積の1/20が要件
  • 国土交通省「既存建築物の緩和措置に関する解説集」は令和7年11月に第3版が公表されている
  • 法第86条の7に記載されていない条項が既存不適格の場合、緩和は使えず改修が必要になる

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参考・出典

  • 建築基準法第86条の7、第3条第2項・第3項、第20条、第35条、建築基準法施行令第137条の2ほか第8章
  • 国土交通省「既存建築物の緩和措置に関する解説集(第3版)」令和7年11月(防火避難規定を緩和対象に追加、小規模な増改築の要件=対象床面積50㎡以下かつ基準時における延べ面積の1/20、別棟とみなすことができる部分の増築、屋根・外壁に係る大規模の修繕・模様替) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001967457.pdf
  • 国土交通省「既存建築物の緩和措置に関する解説集(第2版)」令和7年3月 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001847403.pdf
  • 国土交通省「既存建築物の増築等に係る建築基準法上の取扱いについて(技術的助言)」令和7年3月26日付 国住指第517号
  • 国土交通省「建築:既存不適格建築物の増築等について」(法第86条の7による制限緩和、関連告示・技術的助言) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk_000028.html
  • 日本ERI「既存不適格建築物の増改築について~構造規定の遡及適用を中心とした解説~」(独立部分の扱い、基準時における延べ面積の考え方、増築歴がある場合の面積の積み上げ、平成24年9月の改正) https://club.j-eri.jp/download/YKC-05.pdf

※記載の制度は公表時点のものです。緩和の適用可否は個別の建築物の状況により異なります。計画に当たっては必ず建築士および所管の特定行政庁にご確認ください。

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