学校施設のICT環境整備とは?一人一台時代を支えるインフラ工事と進め方を解説

GIGAスクール構想により、全国の学校で児童生徒一人一台端末の配備が完了しました。しかし多くの教育現場では、一斉に接続するとWi-Fiが落ちる、全教室で充電するとブレーカーが落ちる、配線が床を這って生徒が引っかかりそうになる——こうした建物側のインフラ不足によるトラブルが起きています。

ICT機器を活用するには、機器を置くだけでなく、それを支える建築・電気設備のインフラ整備が欠かせません。本記事では、ICT環境整備で見落とされやすい設備と空間の整備ポイントを、教育施設専門の立場で解説します。

いまは「整備」ではなく「更新」の時代──NEXT GIGA

まず前提の確認です。ICT環境整備は、すでに新規整備の段階から更新の段階へ移っています。

第1期GIGAスクール構想では、一人一台端末の整備に約2,800億円、高速大容量ネットワークの整備に約1,400億円などを含め、総額約4,800億円が投じられました。この整備はコロナ禍で前倒しされ、2020〜2021年度に一気に進みました。

そして2024年度から、第2期(NEXT GIGA)に入っています。第1期で導入した端末がバッテリー劣化・故障増加で更新時期を迎え、国は令和5年度補正予算で、公立学校の端末更新のため都道府県に基金(5年間)を造成し、令和7年度までの更新分(約7割)に必要な2,643億円を計上しました。国立・私立学校等の端末整備にも18億円が計上されています。

ここで重要なのは、端末の更新は5年ごとに繰り返されるということです。一度整備して終わりではありません。だからこそ、建物側のインフラは「更新のたびに壊さずに済む」構成にしておく必要があります。配線を壁の奥に埋め込み、点検口もなく仕上げてしまえば、次の更新のたびに内装を壊すことになります。

整備に不可欠な4つのインフラ

ICT環境整備では、インターネットを引くだけでなく、教室空間全体のレイアウトと安全性を考慮したインフラ工事が必要です。

整備のポイント従来の教室の課題具体的な工事と改善アプローチ
通信環境の構築家庭用Wi-Fiルーターでは、多数の端末による同時の動画視聴やデータ通信に耐えられず回線がダウンする。教室ごとに高密度の業務用アクセスポイントを天井や壁面に設置。LANケーブルの配管ルートを新設し、校内どこでも途切れない通信網を構築する。
電源と充電保管庫の設置コンセントの数が足りず、タコ足配線で火災リスクがある。クラス人数分の端末を保管・充電できる充電保管庫を設置。既存コンセントとは別の専用回路を分電盤から引き直し、過電流を防ぐ。
配線ルートの隠蔽と安全確保延長コードやLANケーブルが床に散乱し、生徒の転倒や機器の断線が起きる。床下に配線を隠すOAフロアへの改修や、壁面・天井裏への配管工事を実施し、足を引っかける危険を排除する。
大型提示装置の配置太陽光や照明が反射して画面が見えない、黒板との併用でスペースが圧迫される。照明配置やブラインドを調整。電子黒板の壁掛け化や、黒板の上をスライドするレール設置など、建築的アプローチで教室を有効活用する。

最大のボトルネックは「電気容量の壁」

ICT環境整備で計画が最も頓挫しやすいのが、電気容量の不足です。ここは具体的な数字で理解しておくべきところです。

GIGAスクール構想の標準仕様に対応した充電保管庫は、1台あたり定格100V・15A・1,500Wで、クラス40名分(42台程度)を収納する製品が主流です。この保管庫の多くが「輪番充電(じゅんばん充電)」——全台を一斉に充電せず、上段を充電してから下段へ、と時間をずらす方式を採用しています。

なぜわざわざ時間をずらすのか。一斉に充電すると電流が大きすぎて、学校の電気設備がもたないからです。製品側が「学校の電源設備にできるだけ負荷をかけない」ことを設計思想にしている——これは裏を返せば、学校の電気容量がそれだけ逼迫しているという現実を示しています。

各教室に充電保管庫を置き、さらに猛暑対策のエアコンを同時稼働させると、学校全体の消費電力は跳ね上がります。家庭のブレーカーが落ちるのと同じ理屈で、大元の受変電設備(キュービクル)の契約電力を超過すれば、学校全体が停電します。

したがって、ICT機器の選定を急ぐ前に、現在の建物の電気容量を正確に調査し、必要ならキュービクルの増強・更新をセットで計画することが、プロジェクト成功の絶対条件になります。受変電設備の更新は学校施設の受変電・電気設備の更新(K010)で詳しく解説しています。

充電保管庫は「建築付帯物」──置くだけの家具ではない

もう一つ見落とされやすい点があります。充電保管庫は、GIGAスクール構想において原則として教室に「固着」させることが求められています。財源が原則として「建築付帯物」を根拠にしているためです。

キャスター付きで動かせるように見えても、制度上は建物に固定する付帯設備です。1台あたり約80kgあり、古い校舎では一か所にまとめると床荷重の問題も生じます。「家具を買って置く」話ではなく、「電源と固定を伴う建築工事」だと理解する必要があります。

校内Wi-Fiは、通信工事ではなく建築工事

4つのインフラのうち通信環境は、特に建築との取り合いが深い領域です。

アクセスポイントを増やせば通信が安定するとは限りません。LANケーブルをどこに通すか、防火区画をまたぐ配線をどう処理するか、天井裏に配線の空間があるか、電波が鉄筋コンクリートの壁や防火戸で遮られないか——これらはすべて建築の判断です。ネットワーク業者は天井裏の構造や防火区画を触れません。

校内Wi-Fiを「通信工事」として発注すると、配線後に防火区画の貫通処理が未処理のまま残る、完成後の天井を再び開けることになる、といった問題が起きます。校内Wi-Fi整備を建築工事として設計する具体的な進め方は、学校施設の校内Wi-Fi整備(K013)で詳しく解説しています。

学ぶ空間そのものを再設計する

ICT環境が整うと、授業は「先生が前で板書する一方向」から、「生徒同士が端末を見せ合い、グループワークや発表を行う協働的なスタイル」へ変化します。

これに合わせて、空間レイアウト自体を見直すラーニングコモンズ化が重要になります。

  • 全員が前を向く固定式の重い机ではなく、キャスター付きの可動式デスクを採用する
  • 床のどこからでも電源が取れるようにする(ここでOAフロアが効いてくる)
  • 吸音材を配置し、話し合いの声が反響しすぎないようにする

単なる機器導入で終わらせず、学び方の変化に合わせた空間づくりまで一体で設計することで、ICT投資の効果が高まります。空間設計の考え方はラーニングコモンズの設計ポイント(K266)をご覧ください。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
電気容量の確認漏れ充電保管庫とエアコンの同時稼働で契約電力を超過。学校全体が停電し、キュービクル増強が設計終盤に判明して予算が破綻する機器選定の前に現況の電気容量と将来負荷を試算する。受変電設備の更新時期とICT計画を重ねる
機器を家具扱い充電保管庫を「置くだけ」と考え、専用回路も固着も計画しない。制度上の要件(建築付帯物・固着)を満たさず、古い校舎では床荷重の問題も生じる専用回路の増設と固着を建築工事として設計する。設置場所の床荷重を確認する
更新を考えない配線配線を壁や天井の奥に埋め込み、点検口もなく仕上げる。端末更新(5年ごと)やAP更新のたびに内装を壊すことになる予備配管・点検口・ケーブルラックを設け、機器だけを交換できる構成にする
通信を単独発注校内Wi-Fiを通信工事として発注し、防火区画の貫通処理や天井の復旧が抜ける。完成後に天井を再び開けることになる配線経路・区画貫通処理・天井復旧を建築工事として一体で設計する(K013参照)
内装改修と別工事にした天井を更新する計画があるのに、ICT整備を後から別工事で実施。同じ天井を二度開け、足場を二度架けることになる内装改修・空調更新とICT整備の工事範囲を重ね、天井を開けている間に配線を通す

ICT整備も、単独でやらず束ねる

ここまで見てきたとおり、ICT環境整備は「機器の設置」ではなく「建築・電気・通信を横断したインフラ工事」です。

充電保管庫を入れれば電気容量に手が入る。Wi-Fiを通せば天井を開ける。可動式レイアウトにすれば床の電源とOAフロアに手が入る。そしてこれらはすべて、老朽化改修・空調更新・LED化と同じ場所——教室の天井・壁・床・分電盤で起きています。

足場・仮設・養生は共通費です。天井を開ける工事は、まとめてやれば一度で済みます。ICT整備を単独工事として発注するほど、同じ天井を何度も開け、同じ電気工事を分割することになります。

この判断は、IT機器の専門業者だけでも、電気業者だけでもできません。電気容量の計算、受変電設備の増強、OAフロアやラーニングコモンズへの空間改修、そして端末更新を見据えた将来対応——建物全体のバランスを見て束ねられる立場が要ります。

株式会社光建舎にご相談ください

光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、電気容量の計算や受変電設備の増強といった電気工事から、OAフロア・ラーニングコモンズへの空間改修まで、建物全体を見据えたご提案をします。充電保管庫の電源が足りるか不安、ICT化に合わせて空き教室を改修したいなど、構想段階からのご相談を承ります。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で対応します。

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参考・出典

  • 文部科学省「GIGAスクール構想の実現について」(2026年7月確認)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
  • 文部科学省「基金による1人1台端末の更新について」(公立学校情報機器整備事業費補助金交付要綱ほか)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/mext_02624.html
  • 文部科学省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」(学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議)
  • GIGAスクール構想 標準仕様書(タブレット充電保管庫・電源キャビネットの仕様)

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。