授業で端末を使い始めると通信が止まる。教室によって接続の安定性が違う。廊下ではつながるのに、特別教室へ移動すると通信が不安定になる。
こうした問題が起きたとき、回線契約やアクセスポイントだけを見直しても、解決しない場合があります。学校の通信環境は、外部回線、校内ネットワーク、無線機器、配線経路、電源、天井や壁の構造までが連続した一つの設備だからです。
文部科学省が公表した資料では、必要なネットワーク速度を満たす公立学校の割合は63.9%です。校内にWi-Fiが設置されていても、授業で必要な性能を発揮できているとは限りません。
学校Wi-Fi整備では、通信機器の選定だけでなく、どこに配線を通し、どこに機器を設置し、将来の更新にどう備えるかまで検討する必要があります。本記事では、自校で必要な対応を判断できるよう、建築工事との関係を中心に解説します。
目次
学校Wi-Fi整備の現状
学校では、端末やクラウドサービスの利用を前提とした教育環境が定着しています。一方で、ネットワーク速度が不十分な学校が残っており、文部科学省も通信ネットワークの改善を課題として挙げています。
注意したいのは、通信速度の問題が、外部回線だけで決まらない点です。
校内の幹線、スイッチ、アクセスポイント、接続端末の集中、配線の劣化、設置位置、壁や扉による電波の遮蔽など、複数の要因が重なって性能低下を引き起こします。
学校施設の校内Wi-Fi整備とは
学校Wi-Fi整備とは、校舎内で無線通信を利用できるようにアクセスポイントを取り付ける工事だけではありません。
外部から引き込んだ通信回線を校内へ分配し、各教室や特別教室、職員室、図書室、体育施設などへ安定して届けるためのネットワーク全体を整備する工事です。
主な対象には、次のようなものがあります。
- 外部回線と校内ネットワークの接続部分
- 校内の幹線ケーブルと分岐配線
- ネットワークスイッチや通信ラック
- 無線アクセスポイント
- アクセスポイントへ給電する電源設備
- 機器を管理するための設定環境
- 天井、壁、床を含む配線経路
ネットワーク業者だけでは判断しにくいのが、建築部分との取り合いです。
配線を天井裏に通せるのか。火や煙の拡大を防ぐ壁や床を貫通するのか。既存天井を開口できるのか。露出配線が避難経路や日常利用の妨げにならないか。アクセスポイントを取り付ける下地があるのか。
これらを確認せずに機器配置を決めると、設計後半や施工中にルート変更が発生します。結果として、配線が遠回りになり、点検しにくく、将来の更新にも支障が残ります。
学校Wi-Fi整備で確認すべき範囲
外部回線だけでなく、校内のボトルネックを確認する
通信が遅いと、最初に外部回線の契約を見直しがちです。しかし、原因が校内側にある場合、外部回線を変更しても教室内の状況は改善しません。
通信ラック内の機器、校内幹線、各階への分岐、アクセスポイントまでの配線、同時利用時の負荷を順番に確認します。必要なのは、単独の機器確認ではなく、回線の入口から利用場所までを追うネットワークアセスメントです。
電波調査と建築図面を重ねて検討する
アクセスポイントは、教室の数に合わせて配置すればよいわけではありません。
鉄筋コンクリートの壁、鋼製建具、防火戸、収納、移動間仕切りなどは、電波の届き方に影響します。吹き抜けや階段室では、想定していない階へ電波が広がることもあります。
現地で電波状況を確認し、平面図、天井伏図、建具の位置、壁の仕様と重ねて配置を決めます。改修後に間仕切りを変更する予定がある場合は、完成後の状態を前提に検討しなければなりません。
配線経路を建築工事として設計する
校内Wi-Fi整備では、多くの配線が天井裏や壁内を通ります。
既存校舎では、天井裏に十分な空間がない、既存設備が密集している、点検口が不足しているといった問題が起こります。配線を通すために天井材を撤去すると、復旧工事や仕上げ調整も必要です。
露出配線とする場合も、配線モールの位置、児童生徒が触れにくい場所、建具との干渉、掲示物との重なりまで確認します。
防火区画をまたぐ配線には処理が必要
防火区画とは簡単にいえば、火災の影響を一つの範囲にとどめ、隣の階や別の区域へ広がるまでの時間を確保する仕組みです。
学校では、階段室の周囲、各階の床、廊下と室の境界、用途の異なる部分の境界などが防火区画になっている場合があります。
校内Wi-Fi整備では、LANケーブルや配管を通すため、防火区画となっている壁や床に穴を開けることがあります。
開口したままにすると、その隙間が火や煙の通り道になります。壁や床そのものに防火性能があっても、ケーブルの周囲に隙間が残れば、本来の区画性能を保てません。
そのため、配線後はケーブルや配管の周囲を専用の材料で塞ぐ「区画貫通処理」が必要です。使用する材料や施工方法は、壁や床の構造、開口の状態、通すケーブルや配管の種類に合わせて選定します。
問題になりやすいのは、通信業者が配線を終えたあと、壁の防火性能や開口部の復旧まで確認されていないケースです。完成後に処理不足が判明すると、天井や壁を再び開けて補修しなければなりません。
設計段階で防火区画の位置を確認し、配線ルートと区画貫通処理を図面や施工要領に明記します。既存図面だけで判断できない場合は、現地調査や建築確認関係図書の確認が必要です。
学校改修に関係する法規の基本は、学校の改修で関わる建築基準法の基礎(K202)でも解説しています。
機器の電源と発熱を確認する
アクセスポイントやネットワークスイッチは、通信設備であると同時に電気を使用する設備です。
既存の通信ラックへ機器を追加すると、電源や収納スペースが不足することがあります。機器が密集すれば、ラック内に熱がこもり、通信障害や機器寿命の低下につながります。
通信ラックの設置場所についても、換気、保守スペース、水漏れ、ほこり、施錠管理を確認します。空調のない物置や、給排水管の近くに安易に設置するべきではありません。
検討項目・課題・解決策
| 検討項目 | 課題・発生するリスク | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 校内ネットワーク全体の性能 | 外部回線だけを増強しても、校内幹線やスイッチがボトルネックとなり、教室内の通信速度が改善しない。 | 外部回線、幹線、分岐、スイッチ、アクセスポイントを一連の経路として調べるネットワークアセスメントを行う。 |
| アクセスポイントの配置 | 壁、扉、収納、移動間仕切りによって電波が遮られ、教室内や特別教室に通信の弱い場所が生じる。 | 現地の電波調査と建築図面を重ね、完成後の間仕切りや家具配置を前提に設置位置を決める。 |
| 天井裏の配線経路 | 既存の空調、照明、消防設備と配線が干渉し、施工段階で予定したルートを通せない。無理な迂回により保守性も低下する。 | 天井伏図と設備図を照合し、点検口、ケーブルラック、配管、配線モールを含めて経路を先に設計する。 |
| 防火区画をまたぐ配線 | 火や煙の拡大を防ぐ壁や床にケーブル用の穴を開けたままにすると、隙間が火や煙の通り道になる。完成後に処理不足が判明すると、天井や壁を再び開けて補修することになる。 | 設計時に防火区画の位置を確認し、壁や床の仕様に適合する区画貫通処理を選定する。配線工事と建築側の復旧工事を施工図・施工要領で一体管理する。 |
| 既存天井・壁の撤去 | 配線工事の途中で下地の不足や既存材の劣化が判明し、天井や壁の復旧範囲が広がる。既存仕上げと部分補修の色が合わないこともある。 | 事前に点検口から天井裏を確認し、必要に応じて部分解体調査を行う。内装復旧を通信工事とは別項目で設計する。 |
| 通信ラックと電源 | 既存ラックに機器を追加できず、電源不足や発熱による停止が起きる。給排水管の漏水や無施錠による機器トラブルも考えられる。 | ラック容量、電源、換気、保守空間、防水上の安全性、施錠方法を確認し、必要に応じて通信機器室を再配置する。 |
| 将来の更新と増設 | 配線が天井や壁の奥に埋まり、機器更新のたびに内装を壊す。増設用の経路がなく、露出配線が校内に増えていく。 | 予備配管、点検口、ケーブルラック、更新可能な機器取付下地を設け、機器だけを交換できる構成にする。 |
学校Wi-Fi整備における実務の勘所
内装改修と同時に行うと、配線を隠しやすい
教室や廊下の天井を更新する計画がある場合、Wi-Fi整備を別工事として後から行うより、同時に設計した方が合理的です。
天井を撤去している期間に配線経路を確保できるため、完成後の天井を再び開口する必要がありません。照明、空調、消防設備とアクセスポイントの位置も、天井伏図上で調整できます。
特に注意したいのが、天井中央へ設備が集中する場合です。照明、空調吹出口、感知器、スピーカー、アクセスポイントを個別に配置すると、完成時に位置が揃わず、教室の見た目が乱れます。
通信性能だけでなく、天井全体の設備配置として整理することが、教育施設を一体で設計する会社の役割です。
休業期間中の施工でも、事前調査は授業期間中に必要になる
施工を長期休業期間中に行う場合でも、電波調査や天井裏調査、通信ラックの確認は事前に必要です。
ただし、授業中と休校中では端末の利用状況が異なります。利用者がいない状態だけを確認しても、授業時の通信負荷は把握できません。
現状調査では、利用が集中する時間帯、通信が不安定になる教室、使用している教材やクラウドサービス、教職員の運用状況を聞き取ります。設備を測るだけでなく、実際の使われ方を把握します。
アクセスポイントの位置は、家具と授業形態を踏まえて決める
改修設計では、通信設備の図面が内装計画より先に進むことがあります。しかし、教室の使い方が変われば、端末が集中する場所も変わります。
固定席中心の教室なのか、机を移動してグループ学習を行うのか、可動間仕切りで複数の教室を一体利用するのかによって、適切な配置は異なります。
アクセスポイントは、空いている天井面へ取り付けるのではなく、授業時の端末分布を想定して位置を決めます。家具配置、内装計画、ネットワーク設計を同じ図面上で調整します。
既存校舎では、配線前に天井材と下地を確認する
既存校舎の天井裏には、過去の改修で使われなくなった配線や設備が残っていることがあります。図面と現況が一致しないケースもあります。
また、アクセスポイントを天井材へ直接固定できない場合は、上部の下地や吊り材から支持を取る必要があります。取付方法が不十分だと、機器の落下や天井材の変形につながります。
既存建物では、施工図だけで判断せず、点検口からの確認や必要な範囲の部分解体調査を行います。古い仕上げ材を扱う場合は、着工前に必要な調査も整理します。
学校側で整理しておきたい判断材料
専門会社へ相談する前に、学校側で次の情報を整理しておくと、調査と計画が進めやすくなります。
- 通信が不安定になる教室や時間帯
- 授業で同時に使用する端末の状況
- 特別教室、体育施設、図書室などでの利用予定
- 既存のネットワーク構成図と機器一覧
- 校舎の平面図、天井伏図、設備図
- 今後予定している内装改修や間仕切り変更
- 工事可能な期間と校内行事
- 将来の増築、用途変更、教室再編の予定
ただし、資料が揃っていなくても、整備を断念する必要はありません。既存図面がない場合は、現地調査から配線経路や設備構成を整理します。
学校改修全体の進め方については、学校改修の進め方ガイド(K296)をご覧ください。
学校Wi-Fi整備を専門会社へ相談すべきケース
次のような状況では、ネットワーク機器の更新だけでなく、建築・電気・通信を横断した検討が必要です。
- 通信が不安定な原因を特定できていない
- 複数の校舎や増築部分にネットワークが分かれている
- 天井や壁の改修と同時にWi-Fiを整備したい
- 配線が露出し、校内の安全性や美観に課題がある
- 防火区画をまたぐ配線の処理状況を確認できていない
- 通信ラックの設置場所や電源に不安がある
- 教室再編や可動間仕切りの導入を予定している
- 将来の更新で内装を壊さない構成にしたい
学校Wi-Fi整備では、通信性能だけを満たしても十分ではありません。授業中に工事ができる場所、児童生徒が触れる範囲、避難経路、防火区画、天井の納まり、将来の保守まで含めて計画する必要があります。
施工会社を選ぶ際の確認項目は、失敗しない施工会社の選び方(K297)も参考にしてください。
関連記事
- 学校改修の進め方ガイド(K296)
- 失敗しない施工会社の選び方(K297)
- 学校の改修で関わる建築基準法の基礎(K202)
参考・出典
- 文部科学省「学校ネットワークの状況について」令和7年度調査、令和8年3月公表。
- 文部科学省「GIGAスクール構想の推進について」令和7年3月公表。
※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。
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