この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校の長寿命化計画(個別施設計画)の立て方|見直しの実務

個別施設計画は、公立学校施設についてほぼ全ての設置者が策定を完了しています。「まだ作っていない」という自治体は、もうほとんどありません。

ところが、文部科学省の委託調査(令和7年3月公表)が示す実態は厳しいものです。

  • 計画どおりに進んでいる(進捗率100%)自治体は1割程度
  • 今後必要な維持・更新コストと財政制約ラインのかい離は平均4.2倍
  • 見直しを実施した自治体は13%

いま問われているのは「作ること」ではなく「実行できる計画に直すこと」です。この記事では、全国調査のデータをもとに、何が計画を止めているのか、どう見直すのかを整理します。

まず前提──計画の位置づけと目的

個別施設計画は、平成25年11月のインフラ長寿命化基本計画を出発点とする体系の中にあります。

インフラ長寿命化基本計画(平成25年11月)
 ↓
公共施設等総合管理計画(平成28年度までに策定)=施設全体の基本方針
 ↓
個別施設計画(令和2年度までに策定)=施設ごとの具体的な整備内容・時期・費用

目的は明確です。中長期的な維持管理等に係るトータルコストの縮減および予算の平準化を図りつつ、学校施設に求められる機能・性能を確保すること。

ここでいう機能・性能には、安全性だけでなく、新しい時代の学びに対応する教育環境、そして今日的な要請であるバリアフリー化・防災機能強化・脱炭素化への対応も含まれます。

そして文科省は明確にこう述べています。個別施設計画はひとたび策定すれば十分とは限らず、要請や状況の変化に応じて随時必要な見直しがなされるべきもの。

【データで見る】なぜ計画は進まないのか

① 老朽化が想定を超えて進んでいる

令和5年度時点で、公立小中学校の築40年以上の校舎は全体の57%(8,796万㎡)。うち約7割が改修を要する状況(6,467万㎡)です。

そして5年後の令和10年度には、さらに1,762万㎡が加わり、築40年以上が全体の67%になります。

アンケート調査では、すべての建物の健全度の平均が75点以下の自治体が51.9%と過半を占めています。これは「安全上・機能上、不具合発生の兆しである広範囲の劣化が平均1箇所以上ある状態」を意味します。

② 事業費が1.5〜2.0倍に急騰している

ここが計画を最も直接的に壊しています。

近年実施した工事のコスト分析に基づく計画の時点更新では、コストが1.5〜2.0倍に急騰している事例が見られる、と報告されています。しかもこの事業費高騰は一時的な現象ではなく恒常化することも考えられ、従来の予算水準では施設整備を行えなくなりつつあるという認識が示されています。

③ 進捗率は1割

アンケート調査による進捗率(策定年度〜令和5年度)です。

事業進捗率0%の自治体進捗率100%の自治体
建替え55.3%(585団体)9.1%(96団体)
長寿命化42.7%(451団体)8.2%(87団体)
部位改修28.5%(301団体)11.8%(125団体)

長寿命化について、4割超の自治体が「一件も着手できていない」。これが計画の実態です。

進まない理由として挙げられているのは、財源不足、適正配置が進んでいない、資材・労務費の上昇、建設業の人手不足と庁内の技術者不足、そして「計画に盛り込んでいなかった事業や優先順位が高い事業(トイレ改修、空調設置、バリアフリー、GIGA対応など)を実施」したこと。

最後の点は重要です。計画外の緊急ニーズが、計画を押しのけているということです。

④ 財政制約ラインとのかい離が平均4.2倍

最も深刻な数字です。今後30〜40年間に必要な維持・更新コストの平均額と、財政制約ライン(基本的には過年度の平均支出額)とのかい離は、平均で4.2倍。10倍以上と答えた例を除いても平均2.2倍です。

報告書はこう結論づけています。老朽化対策の工夫(建替えから長寿命化改修への転換等)のみでは十分ではなく、施設の保有の在り方自体の見直しや、様々な財源の確保工夫が必要。

「長寿命化すれば足りる」という前提が、すでに崩れています。

見直しが進まない理由

これだけ課題が明確なのに、見直しを実施した自治体は130団体(13%)にとどまります。見直し予定ありが48%、予定なしが39%。

しかも実施済みの多くは「計画で定める見直し時期を迎えた」という理由で、計画の時点更新にとどまっていると分析されています。

見直せない理由として挙げられているのは、現計画の期間中(340団体)、人手が不足している(53団体)、計画を見直す合意が取れない・予算がつかない(30団体)、見直し方が分からない(18団体)。

そして「見直しにあたって気になる点」では、次のような回答が並びます。

  • 財政制約とのかい離をおさめる方法がわからない(317団体)
  • 財政部局との折衝がうまくいかず、具体的な予算計画として提示できない(304団体)
  • 効果検証の具体的な方法が分からない・PDCAのやり方が分からない(281団体)
  • 過去計画のデータが散逸して、計画の効果検証や振り返りができない(132団体)

「作ったが、直し方が分からない」——これが全国的な状況です。

見直しの5つのチェックポイント

報告書は、自治体が自らの状況を類型化するための5つのチェックポイントを示しています。これは計画を見直すときの診断項目としてそのまま使えます。

チェックポイント見るもの読み取れること
① 学校施設の整備状況経年別保有面積、旧耐震の割合、劣化状況「学校が古く一般公共施設が新しい」=都心部に多い型/「ともに満遍なく」=地方中核市型 など
② 施設整備方針長寿命化型/建替えと改修の併用型/中規模改修型/当面は修繕で後に建替え自校の計画がどの型か。それぞれ固有のリスクがある(下記参照)
③ 児童生徒数の将来変化横ばい/減少/域内での偏在中学校区・学校別の推計が必要。域内で増加地域と減少地域が混在する
④ 公共施設の保有量人口当たり保有量(全国平均3.64㎡/人)、公共施設に占める学校の割合(同37.7%)、児童生徒1人当たり学校面積(同19.3㎡/人)保有量が多い・学校割合が高いなら複合化・共用化が効果的
⑤ 財政制約ラインとのかい離かい離が大きい/当面は整合/小さい大きい場合は適正規模・適正配置や複合化を含む抜本的対応が必要

⚠️ 整備方針別のリスク(特に注意すべき2つ)

「長寿命化型」のリスク——既存建物に原則として長寿命化改修を施し、建替え時期を築80年程度まで延ばす方針。報告書は「将来の建替えコストの増加に備えた対応が求められる」としています。先送りではなく、後年度に山が来るだけという認識が必要です。

「当面は劣化対応の修繕でその後建替え」のリスク——ここが最も危険です。報告書は明確にこう警告しています。

長寿命化改修を先送りしている間に、タイミングを逸して建替え以外の選択肢がなくなってしまうというリスクがあるため、将来の方向性を見据えた計画の見直しが必要です。

長寿命化改修は改修後30年以上の使用が前提のため、築50年程度を過ぎると要件を満たせなくなります。方向性が決まらないまま部位改修を続けることが、選択肢を消していきます。詳しくは学校施設の長寿命化改修(K002)をご覧ください。

見直しで踏み込むべき論点

1. 学校規模の見直しは避けて通れない

アンケート調査では、学校教育法施行規則に定める標準(小中学校とも12学級以上18学級以下)を下回る12学級未満の小中学校が全体の48%に達しています。しかもこれは過疎地だけの話ではなく、特別区や政令市などの人口規模の大きな団体にも一定数存在しています。

ただし報告書は釘を刺しています。学校規模の適正化の検討は、あくまでも児童生徒の教育条件の改善のために行われるべきもの。統廃合で極端に長距離の通学が求められることは問題であり、地域の事情により統廃合が困難な場合や小規模校として存続させる場合もある、と。

統廃合と跡地活用については学校統廃合にともなう施設・跡地の活用(K234)で解説しています。

2. 複合化・共用化は「コスト」だけの話ではない

興味深いのは、課題認識の低さです。「総合管理計画との整合性確保」「学校と他の公共施設との複合化・共用化への対応」は、他の項目より課題認識がやや低いと分析されています。理由として、総合管理計画や一般公共施設の管理は首長部局が主導しているため、教育委員会としての課題意識が高まりづらいことが挙げられています。

しかし複合化・共用化は、施設保有量削減の観点だけでなく、世代間交流等による教育的効果の発現や地域コミュニティの強化等につながり得る取組とされています。

そして制度面でも有利です。学校施設環境改善交付金では、学校以外の公共施設との複合化・集約化を行う場合、改築・長寿命化改良の算定割合が1/3から1/2に上がります。詳しくは学校施設環境改善交付金の使い方(K168)をご覧ください。

3. 検討体制を教育委員会の外に開く

報告書が繰り返し強調しているのが、部局横断的な検討体制です。想定される参画者として、教育委員会の各担当課に加え、財政部局、地域政策部局、まちづくり部局、建設部局、防災部局、学校教育・建築の専門家、教職員・保護者・地域住民が挙げられています。

そして公表の重要性も明記されています。計画を積極的に公表し情報共有を図ることで、双方向のコミュニケーションが生まれ、結果的に学校施設の整備に対する満足度も向上するという考え方です。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
単価が実勢と合っていない策定時の単価で試算したままのため、実際の工事費が1.5〜2.0倍になり計画が破綻。着手できない年度が続く実施した工事の計画と実績の差異分析を行い、上昇要因・上昇率を特定して単価を更新する
財政制約とのかい離必要コストが財政制約ラインの平均4.2倍。長寿命化への転換だけでは埋まらず、計画が絵に描いた餅になる適正規模・適正配置、複合化・共用化を含む保有量の見直しまで踏み込む。財政部局と協議して制約ラインの設定自体を見直す
先送りによる選択肢の消失方向性が決まらず部位改修を続けるうちに築50年を超え、長寿命化改修の要件を満たせなくなる。建替えしか選べなくなり費用が跳ね上がる学校別に「いつまでに方向性を決めるか」の期限を計画に明記する。判断期限は工事着手期限より数年手前にある
計画外事業への対応トイレ改修・空調設置・バリアフリー・GIGA対応など計画外の優先事業が入り、長寿命化が後回しになるこれらを長寿命化改修の工事範囲に取り込んで一体で実施する。別発注すれば足場も工期も二重になる
データの散逸過去計画のデータが失われ、効果検証や振り返りができない(132団体が課題として回答)施設情報を一元化する仕組み(データベース等)を構築する。劣化調査・耐震診断の報告書を体系的に保管する
児童生徒数を全体で見る自治体全体の推計だけで判断し、域内の偏在を見落とす。増加地域で教室不足、減少地域で過大な施設が同時に発生する中学校区・学校別に将来推計を行い、地域別の方向性を計画に反映する

計画は「作る書類」ではなく「使う道具」

策定率ほぼ100%、進捗率1割、見直し実施率13%——この3つの数字が示しているのは、個別施設計画が「提出物」として作られ、その後使われていないという現実です。

しかし、この計画には他の書類にない性質があります。ここで決めた方針が、そのまま補助の可否と割合を決めるということです。

複合化・集約化を計画に位置づければ算定割合が1/3から1/2になる。学校統合に伴う改修なら1/2。長寿命化改良事業は中長期修繕計画の作成が前提。補助メニューの多くが、計画との整合を要件にしています。計画は補助金の入口です。

そして計画の質は、建物のデータの質で決まります。築年、劣化状況、耐震診断の結果、過去の改修履歴、設備の更新時期——これらが揃っていない計画は、コスト試算の精度が出ず、財政部局との折衝で通りません。「財政部局との折衝がうまくいかず、具体的な予算計画として提示できない」と答えた304団体が直面しているのは、おそらくここです。

計画の見直しは、机上の作業ではありません。建物を調べ、劣化を評価し、工事範囲を設計し、実勢価格で積算し、複数案を比較する——この作業の積み重ねが計画になります。逆に言えば、設計と積算ができる立場でなければ、実行可能な計画は作れません。

4.2倍のかい離は、計画書の書き方では埋まりません。束ねられる工事を束ね、複合化で割合を上げ、先送りで失う選択肢を計算に入れる——実際の設計判断の積み重ねでしか埋まらない数字です。

株式会社光建舎にご相談ください

光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査・劣化評価から、実勢価格を踏まえたコスト試算、複数案の比較、工事範囲の設計、補助メニューを見据えた事業計画づくりまで一貫して対応します。グループのリノベティ(不動産)と連携し、跡地・余剰施設の活用まで含めたご提案が可能です。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、計画の見直し段階からご相談を承ります。

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参考・出典

  • 文部科学省委託事業「学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)の充実・見直しに係る取組事例集」(令和7年3月/受託:株式会社ファインコラボレート研究所)
    https://www.mext.go.jp/content/20250801-mxt-sisetujo-100003127_002.pdf
  • 文部科学省「公立学校施設の老朽化対策の推進」(長寿命化計画策定に係る手引・解説書、コスト試算等に係る解説書)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm
  • 文部科学省「学校施設の個別施設計画策定支援事業」
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1360476.htm
  • インフラ長寿命化基本計画(平成25年11月 インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議決定)
  • 文部科学省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」最終報告
  • 学校教育法施行規則(学校規模の標準:小中学校とも12学級以上18学級以下)

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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