この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校統廃合のコスト削減効果とは?

ライフサイクルコスト試算の進め方

学校統廃合の検討が進むと、必ず財政部局や議会から「で、いくら減るのか」を問われます。ところが、この問いに一言で答えようとすると足元をすくわれます。統廃合は施設の維持管理費や更新費を減らす一方で、スクールバスや統合校の整備費、旧校舎の解体費という「増える費用」も同時に生むからです。しかも、いくら減るかは試算の前提(期間・単価・耐用年数の置き方)を変えるだけで大きく動きます。

この記事では、学校統廃合の財政効果を「どう試算し、どう説明するか」という方法論に絞って解説します。読み終えたときには、ライフサイクルコスト(LCC)の考え方、公共施設等総合管理計画や学校施設の長寿命化計画で実際に使われている国のコスト試算の枠組み、そして議会・住民説明で誤解を生まない数字の見せ方が整理できているはずです。学校・教育施設の改修と統廃合の上流支援を全国で手がける当社の実務経験をもとに、試算の型と落とし穴をまとめました。計画段階でのコスト試算にお困りの場合は、学校統廃合のコスト試算・現況調査について光建舎に相談するところから始めていただけます。

学校統廃合のコスト削減効果とは——2つのシナリオの差額のこと

学校統廃合のコスト削減効果とは、統合しなかった場合に将来必要となる費用と、統合した場合に必要となる費用を、同じ期間・同じ前提で比べたときの差額のことです。単独の数字ではなく、常に「2つのシナリオの比較」でしか表せません。

ここで比較の対象になるのがライフサイクルコスト(LCC)です。ライフサイクルコストとは、施設の企画・設計・建設から、運用中の維持管理・光熱水費、修繕・改修、そして最終的な解体・除却までにかかる費用の総額のことです。総務省の「公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針」では、これに近い概念として「トータルコスト」を「中長期にわたる一定期間に要する公共施設等の建設、維持管理、更新等に係る経費の合計」と定義しています(出典:総務省「公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針」平成26年4月22日策定・令和5年10月10日改訂)。

なぜ建設費だけを見てはいけないのか。文部科学省の学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議の報告では、施設の管理に係る経費のうち運用管理段階に発生する保全費・修繕費・改善費や運用費(光熱水費等)は、初期の建築費の4〜5倍に達する例もあると指摘されています(出典:文部科学省「学校施設の老朽化対策について〜学校施設における長寿命化の推進〜」平成25年3月)。つまり、統廃合の財政効果を語るときに新校舎の建設費だけを取り上げるのは、氷山の一角しか見ていないことになります。

そして重要なのは、この差額を「年間◯億円削減」と一言で断定できる場面はほとんどないという点です。後述するとおり、試算結果は目標使用年数の置き方、更新単価、対象期間で大きく振れます。財政効果は「幅」と「前提」をセットで語るのが実務の作法です。

「年間◯億円削減」と言い切れない理由——試算は前提の関数

結論から言えば、統廃合の削減額は「計算結果」ではなく「前提の選び方の結果」です。同じ自治体・同じ施設群でも、前提を変えれば数字は別物になります。だからこそ、断定的な削減額を先に出すと、後で前提を修正した瞬間に説明全体の信頼が崩れます。

前提が結果を左右する代表例は次の4つです。

  • 目標使用年数:60年で建て替えると置くか、80年まで長寿命化すると置くかで、40年間の必要額はまったく変わります
  • 更新単価:延床面積に掛ける㎡単価をいくらに置くか
  • 試算期間:10年・30年・40年のどれで切るか(先行投資と効果発現の時期がずれるため、期間が短いほど効果は小さく見えます)
  • 対象費目:施設整備費だけか、光熱水費・委託費・経常修繕費まで含めるか

国の試算ツールも、この不確実性を前提に設計されています。総務省の調査研究会報告書では、建築物の耐用年数を50年・60年・80年の3パターンで試算した結果の差が±10%程度に収まったことを確認したうえで、日本建築学会が示す標準的な耐用年数である60年を採用する、という手続きを踏んでいます(出典:財団法人自治総合センター「地方公共団体の財政分析等に関する調査研究会報告書」平成23年)。前提を選んだ根拠まで示す、という姿勢がここに表れています。

議会や住民に説明する立場としては、「◯◯という前提を置くと、40年間で△△程度の差が生じる見込み」という形にとどめ、前提を変えた場合の感度も併記するのが安全です。

減るコスト|ライフサイクルコストを5つの費目で捉える

統廃合で減り得るコストは、大きく5つの費目に分解できます。この分解をしないまま「維持費が減る」と言っても、財政部局は納得しません。費目ごとに「本当に減るのか」「どの年度から減るのか」を確認していくことが、試算の第一歩です。

文部科学省が令和5年3月に公表した「学校施設の長寿命化計画の見直しに向けたコスト試算等に係る解説書」(委託事業)は、学校施設に関わる費用を施設関連経費=施設整備費+その他施設整備費+経常修繕費+光熱水費・委託費等と整理しています。この区分は、そのまま「減るコスト」の棚卸しの枠組みとして使えます。

費目 内容 統廃合での減り方の性格
改築(建替え)費 目標使用年数の到達に伴う建替え 保有棟数が減れば将来の改築サイクルそのものが消える。効果は最も大きいが、発現は先
長寿命化改修・予防改修費 躯体を活かした機能向上改修、原状回復の予防保全 廃止対象校の改修が不要になる。10〜20年スパンで効いてくる
部位改修・経常修繕費 屋根・外壁・内部仕上・電気設備・機械設備の改修、日常的な補修 比較的早期に減りやすい。ただし廃止までの間は発生し続ける
光熱水費・委託費 電気・ガス・上下水道、清掃・警備・設備保守の委託 供用廃止の翌年度から減る。ただし面積比例では減らない(後述)
その他施設整備費 プール、グラウンド、受変電等の共用設備 統合により重複設備の更新が不要になる

現場でよくご相談をいただくのは、「改築費の削減効果は大きいが遠い未来の話で、住民には響かない」という悩みです。ここは、早期に効く光熱水費・委託費・経常修繕費と、中長期に効く改築・長寿命化改修費を別の軸で示すことで整理できます。前者は「毎年の予算がこう変わる」、後者は「40年間の総額と山の高さがこう変わる」という語り方です。

増えるコスト|統合で新たに発生する費用を漏らさない

削減効果の試算で最も批判されやすいのが、「増える側を小さく見積もっている」という点です。増えるコストを先に、しかも保守的に積むことが、結果的に試算全体の説得力を高めます。

増える側は次のように整理できます。

増える費目 主な内容 性格
統合校の整備費 新増築・改築、既存校舎の受入れ改修、教室不足解消、ICT・空調・バリアフリー化 一時的・先行投資型。国庫補助・地方債の対象になり得る
仮校舎・仮設費 工事期間中のリース校舎、備品移転 一時的。工程の組み方で増減する
解体・除却費 廃止する校舎・体育館の解体、アスベスト等の事前調査と処理 一時的。土地の扱い(売却・貸付・転用)と一体で判断
スクールバス等の通学対策費 車両購入・運行委託、遠距離通学費の補助、待合環境の整備 恒常的に増える。統合後も毎年発生し続ける
統合後の運営調整費 校名・校歌・制服の変更、閉校行事、通学路の安全対策 一時的だが軽視されやすい

このうち、財政効果の試算で扱いが難しいのがスクールバス等の通学対策費です。施設側の削減は年々効いていく一方、通学対策費は統合初年度から恒常的に発生します。したがって、施設費だけを見た「削減額」と、通学対策費を差し引いた「正味の効果」は別物になります。

なお、通学条件については文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(平成27年1月27日)が、徒歩・自転車の通学距離を小学校でおおむね4km以内・中学校でおおむね6km以内、交通機関を利用する場合の通学時間を「おおむね1時間以内」を一応の目安としたうえで、地域の実情に応じて設定することが望ましいとしています。この目安が、バス台数やルート数、ひいては運行経費の前提を決めます。通学計画の具体的な組み立ては「統合校のスクールバスはどう設計する?通学計画の立て方と国の補助【2026年版】」で詳しく扱っています。

また、統合等に伴うスクールバス・ボート等の購入費や、学校統廃合に係る遠距離通学の交通費については、文部科学省の「へき地児童生徒援助費等補助金」が補助対象としてきました。補助率は原則2分の1とされています(出典:文部科学省「へき地児童生徒援助費等補助金」平成27年度予算関係資料。要件・補助率は年度により変わり得るため、最新の要綱でご確認ください)。

試算の土台になる2つのツール——性格の違いを理解して使い分ける

学校統廃合の財政効果を試算するとき、ゼロから独自モデルを組む必要はありません。日本の自治体には、性格の異なる2つの公的な試算の枠組みが用意されています。この2つは目的も精度も違うため、どちらを使っているかを明示することが、説明責任の第一歩になります。

ひとつは、公共施設等更新費用試算ソフトです。これは財団法人自治総合センターの調査研究会報告書(平成23年)が示した「簡便な推計方法」を実装したもので、一般財団法人地域総合整備財団〈ふるさと財団〉が提供してきました。多くの自治体が公共施設等総合管理計画の初回策定時に用いた枠組みですが、同財団のサイトでは本ソフト(Ver.2.10)のサポートが2020年3月31日で終了した旨が案内されています(2026年8月時点)。既存計画がこのソフトの前提で組まれている場合、その前提を引き継ぐのか見直すのかを最初に決める必要があります。

もうひとつは、学校施設の維持・更新コストの試算ソフトです。文部科学省の委託事業「学校施設の長寿命化計画の見直しに向けたコスト試算等に関する調査研究」(令和5年3月)の解説書に付属するエクセルツールで、学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)の見直しを想定しています。

比較項目 公共施設等更新費用試算ソフト(ふるさと財団提供) 学校施設の維持・更新コスト試算ソフト(文科省委託事業)
主な用途 公共施設等総合管理計画。全施設を横断した概算 学校施設の長寿命化計画。棟単位の精査
試算期間 試算の翌年度から40年度分 基準年・計画の起算年を設定して長期試算
建築物の耐用年数の仮定 60年(建設後30年で大規模改修) シナリオで設定(初期設定は改築型60年・70年/長寿命化型80年・90年)
単価の考え方 用途別4段階の統一単価。学校教育系・子育て支援施設等は更新33万円/㎡、大規模改修17万円/㎡(大規模改修は建替えの6割と想定) 用途別・工種別に各教育委員会が設定。初期設定は改築40万円/㎡、長寿命化改修24万円/㎡、予防改修10万円/㎡
単価に含むもの 落札価格ではなく予定価格・設計価格を想定。建替えに伴う解体・仮移転費用・設計料等を含む想定。地域差は考慮しない 「廃止等」区分に解体費等を入力。プール・グラウンド・共用設備等は必要に応じて別途計上
老朽化の反映 耐用年数経過分は試算年から5年間で均等に更新すると仮定 棟ごとの構造躯体の健全性・部位別の劣化評価(A〜D)を反映
性格 団体間比較がしやすい簡便な概算 自団体の実績単価に置き換えて精緻化できる

(出典:財団法人自治総合センター「地方公共団体の財政分析等に関する調査研究会報告書」平成23年/文部科学省委託事業「学校施設の長寿命化計画の見直しに向けたコスト試算等に係る解説書」令和5年3月)

ここで押さえていただきたいのは、文科省委託事業のソフトの単価やシナリオは「初期設定」であり、各教育委員会が変更できるという点です。解説書自身が「エクセルソフトの初期設定の考え方であり、各教育委員会で変更可能」と明記しています。さらに「単価は、過去の工事内容とコストを整理し、部位別のコスト配分を分析することで、設定根拠を明らかにしておくことが望ましい」とも述べています。つまり、初期値をそのまま使った試算は出発点にすぎず、自団体の実績で単価を検証してこそ議会に耐える数字になります。

自団体の工事実績から単価を組み直したい、劣化状況調査の結果をコスト試算に反映させたい、という段階に入られたら、学校施設の劣化調査と維持・更新コスト試算について光建舎に相談することで、調査から試算・計画反映までを一体で整理できます。

総合管理計画が求める「対策の効果額」という考え方

学校統廃合の財政効果は、実は総務省の指針がすでに「書くべき事項」として求めています。ここを押さえておくと、試算の枠組みを一から考える必要がなくなります。

総務省「公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針」は、計画に記載すべき事項として次のように定めています。

公共施設等の現在要している維持管理経費、維持管理・更新等に係る中長期的な経費の見込み(施設を耐用年数経過時に単純更新した場合の見込み、長寿命化対策を反映した場合の見込み及び対策の効果額)及びこれらの経費に充当可能な地方債・基金等の財源の見込み等

(出典:総務省「公共施設等総合管理計画の策定等に関する指針」令和5年10月10日改訂/強調は筆者)

つまり国は、①単純更新した場合、②対策を反映した場合、③その差額(効果額)という3点セットでの記載を求めています。統廃合の財政効果も、この形式に乗せれば説明の型が決まります。

同指針はあわせて、中長期的な経費の見込みは30年程度以上の期間について記載することが望ましく、少なくとも10年程度は記載すること、普通会計と公営事業会計、建築物とインフラ施設を区分して経費区分ごとに記載することを求めています。また、計画に盛り込む基本的な方針として「統合や廃止の推進方針」を、数値目標として「公共施設の数・延べ床面積等に関する目標、トータルコストの縮減・平準化に関する目標」を記載することが望ましいとされています。

文部科学省側も同じ考え方です。個別施設計画の策定目的は「中長期的な維持管理等に係るトータルコストの縮減」「予算の平準化」「各施設に求められる機能・性能を確保」と整理されており(出典:文部科学省「個別施設計画の策定について」令和2年12月)、令和5年3月の解説書に付属する試算ソフトも、改築型と長寿命化型のシナリオを並べて比較できる設計になっています。計画体系の全体像は「学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)とは?計画体系・記載事項・改訂の進め方【2026年版】」で整理しています。

さらに実務上見落とせないのが、財政措置の側からも「効果の立証」が求められる点です。総務省の公共施設等適正管理推進事業債のうち集約化・複合化事業は、「延床面積や維持管理経費等が減少する場合に限る」とされ、集約化・複合化を行う前と比較して延床面積(非建築物の場合は維持管理費等)が減少することが要件に含まれています(出典:総務省「【令和8年度拡充】公共施設等適正管理推進事業債」)。削減効果の試算は、単なる説明資料ではなく、起債の可否に関わる実務資料でもあるということです。財源の全体像は「学校統廃合の財源と起債【2026年版】充当率・交付税措置と実質負担の考え方」をご参照ください。

財政効果を試算する7つの手順

ここまでの枠組みを、実際の作業手順に落とし込みます。文科省の解説書が示すステップ構成(全体把握→老朽化状況の把握→維持・更新コストの把握→直近の整備計画→複合化・共用化の検討)を、統廃合の財政効果試算向けに組み替えたものです。

  1. 対象範囲と期間を決める:対象校(廃止候補・統合先・存置校)と、試算期間(40年を基本に、10年・30年の中間断面も用意)を先に固定します。ここがぶれると比較になりません。
  2. 建物情報を棟単位で棚卸しする:学校施設台帳・固定資産台帳をもとに、棟ごとの建築年度・延床面積・構造・階数を一覧化します。学校単位ではなく棟単位にするのが要点です。
  3. 老朽化と劣化の状況を評価する:構造躯体の健全性(圧縮強度等)と、屋根・屋上/外壁/内部仕上/電気設備/機械設備といった部位ごとの劣化を4段階で評価し、長寿命化改修が可能な棟かどうかを判定します。
  4. 「統合しない場合」のシナリオを組む:全校を維持する前提で、改築・長寿命化改修・予防改修・部位改修の周期と単価を設定し、年度別の必要額を算出します。これが比較の基準線になります。
  5. 「統合する場合」のシナリオを組む:廃止する棟は「廃止等」の区分に置き、以後の改築・改修費を計上しない代わりに解体費を計上します。統合校側には新増築・受入れ改修の費用を積みます。
  6. 施設整備費以外のランニングコストを決算値から積む:光熱水費・委託費、経常修繕費、維持管理費を過去10年程度の決算から拾い、統合後の変化を見込みます。単価表からは出てこない部分なので、自団体のデータが唯一の根拠になります。
  7. 財政制約ラインと並べて差額を年度別に示す:過去5〜10年の施設関連経費の推移を参考に「今後、学校施設等の整備にかけられる経費」の水準を置き、2つのシナリオと並べて図示します。総額の差だけでなく、年度ごとの山(ピーク)がどう変わるかまで示すのが実務的です。

この7ステップのうち、2〜3は現地調査を伴う専門作業、6は財政・営繕部局との共同作業になります。文部科学省の「学校施設等の整備・管理に係る部局横断的な実行計画の解説書」(令和4年3月)も、教育委員会だけで対応するのではなく首長部局との横断的な検討体制を構築することの重要性を示しています。教育委員会単独で試算を抱え込むと、単価の根拠や財政制約ラインの設定で行き詰まりやすいのが実情です。

議会・住民に説明するときの3原則

試算ができても、伝え方を誤ると「数字合わせで統廃合を正当化している」と受け取られます。説明の場では次の3原則を守ることをおすすめします。

原則1:前提を先に、結論を後に出す
期間・単価・耐用年数・対象費目という4つの前提を最初のスライドで開示し、そのあとで差額を示します。順序を逆にすると、後から前提の話をしても言い訳に聞こえてしまいます。

原則2:単一の金額ではなく「幅」と「感度」で示す
目標使用年数を60年に置いた場合と80年に置いた場合、単価を統一単価にした場合と自団体実績にした場合、といった複数ケースを並べます。国の報告書自身が複数パターンを試算して差を確認しているのですから、自治体がそれに倣うのは自然な作法です。

原則3:削減額とサービス水準をセットで語る
総務省の指針も、公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進の前提として、当該団体としてあるべき行政サービス水準を検討することが望ましいとしています。「いくら減るか」だけを示すと、住民には教育条件の切り下げとしか見えません。統合によって確保できる学級数・教員配置・ICT環境・バリアフリー化といった教育環境の変化と並べて示すことで、はじめて財政効果が意味を持ちます。

なお、公立小中学校施設は令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要する状況にあり、また公立小中学校の約9割が地域の避難所となっています(出典:文部科学省「公立学校施設の老朽化対策の推進」)。これは統廃合の是非以前に、施設全体として避けて通れない更新需要が積み上がっていることを意味します。「統合しない場合も相応の費用がかかる」という事実を共有することが、建設的な議論の出発点になります。

試算でつまずきやすい5つの落とし穴

当社が計画段階から関わるなかで、繰り返し目にする試算の弱点が5つあります。いずれも、指摘されてから直すより、最初から避けるほうが圧倒的に楽です。

  1. 初期設定の単価をそのまま使う:ソフトの初期値は全国共通の目安であり、自団体の入札実績・地域の労務単価・仕様水準を反映していません。少なくとも直近の工事実績と突き合わせ、差があれば理由を説明できるようにします。
  2. 比較期間がそろっていない:統合校の新築は試算期間内に1回でも、既存2校を維持する場合は改築が2回来る、といった非対称が生じます。期間を短く取るほど統合側が不利に、長く取るほど有利に見える構造を理解したうえで、複数の期間で示します。
  3. 解体費・仮校舎費・アスベスト対応を落とす:廃止校舎を「費用ゼロ」で消してしまう試算は、必ず指摘を受けます。解体を先送りする場合も、その間の管理費(警備・除草・最低限の修繕)は残ります。
  4. 光熱水費が延床面積に比例して減ると仮定する:統合先の校舎は児童生徒数が増え、空調や給食、ICT機器の稼働も増えます。廃止校の分がそのまま純減するわけではありません。過去の決算値から「1校あたり」「1㎡あたり」「1人あたり」の複数の単位で確認するのが安全です。
  5. 効果の帰属年度がずれる:統合は先に整備費という支出があり、削減効果は後年度に現れます。単年度の収支で見ると「かえって増える」年が必ず出ます。年度別の推移と累積の両方を示さないと、初年度の数字だけが独り歩きします。

この5点は、そのまま第三者による計画チェックの観点でもあります。着工前に計画の前提を点検する進め方は「学校統廃合計画の妥当性検証とは?第三者が確認する6つの観点と予算精査の進め方」で詳述しています。

よくある質問

Q1. 「統廃合で年間◯億円削減できる」と説明してよいですか。
断定的な表現は避けることをおすすめします。削減額は目標使用年数・単価・試算期間といった前提に強く依存し、前提が変われば結果も変わるためです。「◯◯という前提で試算した場合、40年間で△△程度の差が見込まれる」という形で、前提とセットで示す方法が実務的です。総務省の指針が求める「単純更新した場合/対策を反映した場合/効果額」の3点セットで示すと、説明の筋が通ります。

Q2. 削減効果はいつから現れますか。
費目によって発現時期が違います。光熱水費・委託費・経常修繕費は供用廃止の翌年度から減り始める一方、改築費・長寿命化改修費の削減は、その校舎が本来更新を迎えるはずだった年度に現れます。逆に統合校の整備費や解体費は計画初期に集中するため、初期数年は支出が増える形になるのが一般的です。年度別推移と累積の両方を示すことが欠かせません。

Q3. 光熱水費はどの程度減りますか。
一般的な削減率を当てはめることは推奨できません。統合先校舎の規模・断熱性能・空調方式・稼働時間によって大きく変わるためです。試算では自団体の決算値(学校別の電気・ガス・上下水道費)を基礎データとし、廃止校の実績値と統合先の増加見込みを別々に置くのが確実です。省エネ改修を併せて行う場合の考え方は「学校のZEB・省エネ改修とは?断熱・木材活用・エコスクールと補助を自治体向けに解説【2026年版】」で扱っています。

Q4. スクールバスの費用に国の支援はありますか。
文部科学省の「へき地児童生徒援助費等補助金」が、へき地・学校統合・過疎地域等における通学条件の緩和のためのスクールバス・ボート等の購入費や、学校統廃合に係る遠距離通学の交通費等を補助対象としてきました。補助率は原則2分の1とされています(平成27年度予算関係資料による。要件・補助率は年度により変わり得ます)。ただし補助対象は主に購入費・通学費であり、運行委託費が恒常的に発生する点は試算に必ず織り込む必要があります。

Q5. 試算は庁内で完結できますか。外部委託が必要ですか。
台帳整理と決算値の集計は庁内で進められます。一方、棟ごとの構造躯体の健全性や部位別の劣化評価は現地調査と技術的判断を伴うため、専門的な支援が必要になる場面が多くなります。文科省の解説書も、コスト試算の前段として老朽化状況の把握を独立したステップに位置づけています。調査結果の精度が低いまま試算だけを精緻化しても、結論の信頼性は上がりません。

まとめ|「削減額」ではなく「前提と差額」を示す

学校統廃合のコスト削減効果は、単独の金額ではなく「統合しない場合」と「統合する場合」のライフサイクルコストの差額として表れます。そして、その差額は前提の関数です。

本記事で整理した要点をあらためて確認します。

  • 減るコストは、改築費・長寿命化改修費・部位改修/経常修繕費・光熱水費/委託費・その他施設整備費の5費目に分けて捉える
  • 増えるコスト(統合校整備費・仮校舎費・解体費・スクールバス等の通学対策費)を先に、保守的に積む
  • 試算の土台は、ふるさと財団の公共施設等更新費用試算ソフトと、文科省委託事業の学校施設コスト試算ソフト。目的も精度も違うため、どちらの前提で組んだかを明示する
  • 単価やシナリオの初期設定は変更可能。自団体の工事実績で検証してこそ議会に耐える
  • 総務省の指針は「単純更新した場合/対策を反映した場合/効果額」の記載を求めている。この型に乗せる
  • 集約化・複合化事業の起債は延床面積や維持管理経費等の減少が要件。効果の試算は起債実務にも直結する
  • 議会・住民には、前提を先に、幅と感度で、サービス水準とセットで説明する

コスト試算は、統廃合を正当化するための道具ではなく、選択肢を比較し、説明責任を果たすための共通言語です。数字を大きく見せる工夫より、前提を透明にする工夫のほうが、結果的に合意形成を早めます。

当社は、内装仕上げ・改修を軸に企画から設計・施工・アフターまで一貫して対応し、全国で学校・教育施設の改修や大規模修繕を手がけてきました。統廃合に伴う調査・計画・設計・施工の上流受託にも力を入れており、劣化状況調査からライフサイクルコスト試算、計画への反映、補助金・交付金の活用支援までをワンストップでご支援できます。試算の前提づくりや議会説明資料の組み立てでお困りでしたら、学校統廃合の財政効果試算と施設調査について光建舎の無料相談を利用するところからご相談ください。

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