この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校図書館を居心地よくするには?

読書と調べ学習を支えるデザインの考え方

書架が増えて通りにくくなった図書室を、明るく使いやすい空間に変えたい。閲覧席を増やしたい一方で、蔵書を置く場所も足りない。学校図書館の改修では、家具の入替えだけでは整理できない課題が重なります。

休み時間に静かに読みたい児童生徒と、授業で資料を広げて話し合う学級では、必要な環境が異なります。落ち着いた内装に整えても、貸出し待ちの列が座席の近くにできたり、授業中は自由に使えなかったりすれば、使い勝手に課題が残ります。

居心地のよい学校図書館には、本を探せること、過ごし方を選べること、困ったときに相談できることが必要です。施設担当者は、蔵書計画と運営体制を確認したうえで、書架・座席・通路・設備の条件を具体化します。

この記事の要点

  • 文部科学省「学校図書館ガイドライン」(平成28年11月)は、読書・学習・情報の3つのセンター機能を示しています。静かな読書と授業利用の双方を計画に含めます。
  • 「学校図書館図書標準」(平成5年3月設定)の算定式では、小学校18学級で10,360冊、中学校15学級で12,160冊です。床面積や座席数を直接定める数値ではありません。
  • 「小学校施設整備指針」(令和4年6月)は、図書室に1学級相当以上の机・椅子を配置できる面積・形状を重要としています。書架だけで室内を埋めない計画が必要です。
  • 書架の高さ、棚間の通行、座席の向きは、実際の利用者と蔵書を踏まえて決めます。見通しと収納量を併せて検討します。
  • 改修前に、資料の整理、開館方法、貸出し・返却、授業利用を確認します。家具の選定と運営の見直しを一体で進めることが基本です。

学校図書館のデザインとは何か?

学校図書館のデザインとは、資料を探し、読み、学び、相談する活動を支えるために、空間と使い方を整えることです。

学校図書館法は、学校図書館を教育課程の展開と児童生徒の教養の育成に寄与する設備として位置付けています。同法の対象となる小学校・中学校・高等学校等には、学校図書館の設置義務があります。公立か私立かにかかわらず、資料を利用できる教育環境として捉える必要があります。

文部科学省「学校図書館ガイドライン」(平成28年11月)は、学校図書館に読書センター、学習センター、情報センターの3つの機能を示しています。この機能の整理を、部屋の使い方を検討する出発点にできます。

例えば、静かに本を読みたい児童生徒には、通行が気になりにくい席が必要です。調べ学習では、資料を比較できる机や、必要な本へ行き来できる配置を検討します。相談対応には、話しかける場所が分かることも大切です。

内装の色や素材は、こうした使い方を支える条件として選びます。見栄えのよい家具を先に決めると、蔵書の収納量や授業で使う机の広さが後回しになるおそれがあります。まず活動と必要な場所を整理し、その後に意匠を具体化する順序が実務的です。

蔵書と座席の配分はどう決める?

蔵書と座席の配分は、必要な資料量と授業・日常利用の場面を確認して決めます。

文部科学省の「学校図書館図書標準」は、平成5年3月に公立義務教育諸学校の蔵書の標準として設定されました。同省が示す算定式では、小学校13〜18学級は7,960+400×(学級数-12)、中学校13〜18学級は10,720+480×(学級数-12)です。小学校18学級では10,360冊、中学校15学級では12,160冊となります。私立学校や高等学校の一律の法定蔵書数として扱うことはできません。

一方、文部科学省「小学校施設整備指針」(令和4年6月)の図書室に関する記述は、1学級相当以上の机・椅子と、児童数等に応じた家具を使いやすく配置できる面積・形状を重要としています。蔵書冊数と、学級で利用できる場所の双方を確認する必要があります。

確認するもの計画時の扱い注意する点
図書標準対象校の学校種・学級数に応じた蔵書計画に使う床面積や書架の台数へ直接置き換えない
現在の蔵書分野、判型、資料の状態、配架場所を把握する総冊数だけで必要な棚の量を決めない
授業利用学級の人数、机上で行う活動、資料の配布を確認する着席できても資料を広げられない配置を避ける
自由利用読書、資料探し、相談などの利用場面を調べる授業中の利用可否も整理する
運営作業返却本、修理、登録、展示準備の場所を確保する閲覧机を常時作業台として占有しない

現在の冊数をそのまま収納計画にしない

改修前には、司書教諭や学校司書等と資料の状態を確認します。傷んだ本、内容の更新が必要な本、保存すべき学校資料では扱いが異なります。図書館担当者の判断を経ずに、内装の見栄えや棚の都合で処分を決めないことが重要です。

棚の必要量は、分野ごとの資料構成から検討します。大型の図鑑と小型の読み物では、同じ冊数でも収納の条件が変わります。表紙を見せる展示や、授業用にまとめた資料の一時置きも含め、通常の配架と区別して図面に示します。

調査値は自校の蔵書点検の背景として読む

文部科学省「令和2年度『学校図書館の現状に関する調査』結果」の令和元年度末現在の値では、図書標準を達成した公立小学校は18,849校中13,416校、71.2%です。公立中学校は9,120校中5,572校、61.1%でした。これらは同調査の物的整備に関する集計値で、現在の各校の状況を表すものではありません。

また、標準の達成状況は、蔵書の新しさや資料の探しやすさを直接評価する数値ではありません。改修では、自校の資料構成と利用状況を改めて確認します。冊数を確保する計画と、必要な資料へアクセスできる計画を併せて考えます。

静かな読書と調べ学習をどう両立させる?

静かな読書と調べ学習は、活動の場所と利用時間の両方を調整して両立させます。

まず、室内で生じる音と人の動きを図面に書き込みます。入口、貸出し・返却、相談、読み聞かせ、グループ活動は、会話や移動が発生する場所です。静かに読みたい席を、その動きの中心から外せるか検討します。

次の表は、配置検討のための例です。各場所を必ず独立した部屋にするという意味ではありません。

場所主な活動配置で確認する点
入口・案内入館、展示を見る、目的の場所を確かめる通り抜けと立ち止まる場所が重ならないか
貸出し・相談手続、資料の相談、返却待つ人と本を運ぶ人の動きが交錯しないか
静かな閲覧席個人で読む、考える会話や通行が近くに集中しないか
学習用の机資料比較、筆記、端末利用、話合い机上の広さと周囲への音の影響はどうか
くつろぐ席短時間の読書、気持ちを切り替える利用状況を把握でき、移動もしやすいか

空間が限られる場合は時間の使い方も変える

小さな図書室では、静かな活動と会話を伴う活動を十分に離せない場合があります。そのときは、話合いを行う時間帯を決める、発表は別の学習空間で行うなど、運用上の選択肢を比較します。

授業予約が入ると自由利用を全面的に止める運用になっていないかも確認します。自習席を残す方法や、授業で必要な資料を別室へ運ぶ方法が可能かを、教員と図書館担当者で検討します。空間の共用には、利用調整の担当者と手順が必要です。

学び合いを支える共用空間との役割分担は、ラーニングコモンズの設計ポイント|学び合いを生む空間も参考になります。学校図書館に置く活動と、他の場所で補う活動を整理すると、必要な改修範囲を絞りやすくなります。

家具で区切る場合は音と見通しを別々に考える

低い書架は場所を緩やかに分ける選択肢ですが、それだけで会話音を十分に抑えられるとは限りません。音の問題が残る場合は、天井・壁などの仕上げや隣接室との関係を設計者に確認してもらいます。

背の高い家具や囲いを増やす案では、見守りや相談のしやすさも確認します。静かに過ごせることと、利用者の様子が全く分からなくなることは同じではありません。座った位置からの落ち着きと、運営側からの把握のしやすさを実物で確かめます。

本を探しやすい書架と案内はどう設計する?

書架と案内は、入口から目的の資料まで利用者が自分でたどれるように設計します。

入口で全体の配置を把握でき、書架の見出しで分野が分かり、棚で本を選べるという順序を意識します。室内の配架図、書架の表示、蔵書検索の分類や所在表示に食い違いがないかを確認します。

案内表示は、デザインをそろえるだけでなく、読む位置から見えるかを確かめます。色を使う場合も、文字や記号を併用し、色だけで分野や場所を区別しない計画にします。低学年が利用する図書室では、表示の言葉や読みやすさも教員と検討します。

書架の高さは利用者と運営方法から決める

書架を高くすれば収納量は増やせますが、利用者が手を伸ばして本を取る動作や、室内の見通しへの影響を確認する必要があります。頻繁に使う本をどこに置くか、届かない資料を誰が取り出すかまで整理します。

書架の間隔は、棚に向かって立つ人だけでなく、その後ろを通る人や車椅子等の利用も踏まえて検討します。棚の前に展示台を追加する場合も、設計時に確保した通行部分を狭めないか確認します。具体的な寸法は、建物条件と利用者の動作を踏まえて設計者が判断します。

既存書架を再利用する場合は、固定方法、部材の状態、設置場所との適合を確認します。移設する書架に本を満載したまま動かすといった作業を前提にせず、資料の搬出入も含めて工程を組みます。

展示は更新の手間まで計画する

入口付近の展示には、入れ替える担当者、展示物の保管場所、固定方法を決めておきます。新着本や授業に関係する資料を置く場合は、展示を見た後に関連書架へ進める配置を検討します。

掲示の追加を続けると、案内と装飾の区別がつきにくくなる場合があります。長く使う案内と期間限定の掲示は、場所や表示方法を分けると管理しやすくなります。展示面を増やす前に、何を誰に伝える場所なのかを確認します。

居心地を左右する光・家具・設備はどう選ぶ?

光・家具・設備は、座って読む、資料を広げる、移動するという実際の動作に合わせて選びます。

文部科学省「小学校施設整備指針」(令和4年6月)は、図書の日照による劣化への配慮や、小空間・コーナーなどの居場所、運営作業の空間を示しています。窓辺を閲覧席にする場合も、明るい印象だけで決めず、本や利用者への日差しを確認する必要があります。

照明の検討では、机上の読みやすさに加えて、書架の下段や本の背表紙の見え方を確かめます。端末を利用する席では、画面への映り込みも確認します。遮光方法を変える案では、資料を選ぶ場所まで暗くならないかを併せて検討します。

家具は、体格や姿勢の違いを踏まえて比較します。ソファやベンチを採用する場合も、通常の机・椅子で読める席を残すか、立ち上がりや移乗はどうかを確認します。床座の場所を設ける場合は、靴の扱い、清掃、段差、利用できない児童生徒への配慮が検討事項になります。

紙の資料と端末を併用する机には、実際の本や機器を置いて広さを確かめます。電源や通信は、想定する席で使えるかを確認し、床を横切る配線が通行を妨げない計画にします。機器を導入した後の保管や充電の方法も発注前に整理します。

室温や空調の気流も、席の使われ方と合わせて確認します。特定の席だけ利用を避けられている場合は、家具の見た目に原因を求めず、日差し、音、気流、人通りなどを調べます。利用者の感想を聞き、設備調査につなげる進め方が実務的です。

改修を発注する前に何を整理する?

発注前には、蔵書計画、利用方法、運営作業、工事中の代替方法を整理します。

設計の打合せには、施設担当者に加え、司書教諭、学校司書等の図書館担当者、授業で利用する教員が参加できる形を検討します。児童生徒には、好きな家具だけを聞くのではなく、本を探しにくい場所や座りにくい席など、具体的な経験を尋ねます。

検討段階整理する内容発注条件に反映するもの
現状調査蔵書、利用時間、混雑、室内環境、設備必要な収納量、残す機能、調査対象
配置の試行書架、座席、相談、教材の運搬家具寸法、配置、通行、作業場所
仕様・工程の検討資料の移動、休館、代替利用、再開準備工事範囲、担当区分、搬出入の工程
利用開始後資料探し、読書、授業、日常管理の支障配置調整、表示の更新、設備への対応

資料の移動と再配架を工期に含める

図書室の工事には、本を運び出し、保管し、戻す作業が伴います。工事が終わった日をそのまま利用再開日にせず、書架への配架、所在情報の確認、案内表示の更新などの準備を見込みます。

仮保管の場所では、資料を識別できる梱包方法や取り出し方も決めます。授業で使う予定の資料は、保管中に必要になる可能性があります。工事期間中に使える資料と利用を止める資料を、教員と図書館担当者で共有します。

見積りは内装・家具・設備・移転の範囲をそろえる

同じ「図書室改修」でも、書架の固定、照明、通信、資料の移転が見積りに含まれるかで内容は変わります。担当者間で同じ配置図を使い、誰がどこまで行うのかを明確にします。既存家具を残す場合は、補修や再設置の範囲も示します。

調査と工事の進め方は、学校の図書館・図書室改修とは?計画と工事のポイントを専門会社が解説で確認できます。床・壁・天井などを含む改修範囲の整理には、学校施設の内装リフォームとは?対象・効果・進め方を専門会社が解説も参照できます。

よくある質問

Q. 居心地をよくするために、書架を減らしてもよいですか?

A. 必要な資料と収納量を確認して判断します。見た目の開放感だけで減らすと、蔵書を置けなくなるおそれがあります。資料の整理は図書館担当者が関わって行い、配架方法や他の場所との役割分担も検討します。

Q. 学校図書館図書標準を満たせば、十分な図書館になりますか?

A. 冊数以外の条件も確認する必要があります。資料の内容、探しやすさ、閲覧席、授業利用、相談への対応は、蔵書冊数だけでは評価できません。標準の達成確認と実際の利用上の支障の把握を併せて行います。

Q. ソファを置けば利用者が増えますか?

A. ソファの設置だけで利用増加を保証することはできません。置く目的、利用する人、清掃や管理の方法を整理し、試用して判断します。席を増やした結果、資料を探す通路が狭くならないかも確認します。

Q. 調べ学習の話し声が読書の妨げになる場合はどうしますか?

A. 活動場所の配置と利用時間を見直します。音の問題が続く場合は、室内の仕上げや隣接する空間との関係を設計者に確認してもらいます。家具による区切りだけで十分な遮音ができるとは限りません。

Q. 改修後の使いやすさは何で確かめますか?

A. 改修前に把握した困り事が改善したかで確かめます。資料を探す動き、貸出し待ち、席の利用、授業準備などを観察し、利用者の声を聞きます。貸出冊数が変化しても、内装だけの効果と断定しない整理が必要です。

まとめ

学校図書館のデザインでは、資料を探す、読む、調べる、相談するという活動をつなげて考えます。文部科学省「学校図書館ガイドライン」(平成28年11月)の3つのセンター機能を踏まえ、静かな読書と授業利用を両立させる計画が基本です。

「学校図書館図書標準」(平成5年3月設定)の算定式では、小学校18学級で10,360冊、中学校15学級で12,160冊です。対象とする学校の範囲を確認し、蔵書計画と座席・通路・作業場所の配分を併せて検討します。

改修前には、資料と利用の現状を調べ、配置を試し、運営方法を決めます。家具や内装の選定に加え、資料の移転、再配架、利用開始後の調整まで計画することが、使い続けられる学校図書館につながります。

参考・出典

記載の制度・指針は公表時点のものです。最新の内容は所管省庁の公表資料でご確認ください。

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