公立小中学校の構造体の耐震化率は99.9%。吊り天井の落下防止対策も99.7%。どちらもほぼ完了しています。
一方で、吊り天井等以外の非構造部材の耐震対策実施率は71.0%。天井材、照明器具、窓ガラス、外装材、内装材——これらの対策が、約3割の学校で終わっていません。
「学校の耐震化は済んだ」という認識は、半分正しく半分間違いです。この記事では、令和7年度の最新調査にもとづき、いま実際に残っている課題を整理します。
目次
【最新データ】どこまで終わり、何が残っているか
文部科学省が令和7年12月10日に公表した調査結果(令和7年4月1日現在)です。
| 対策項目 | 実施率 (小中学校) | 残り |
|---|---|---|
| 構造体の耐震化(非木造) | 99.9% (111,706棟/111,799棟) | 93棟/28設置者 |
| 屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策 | 99.7% (31,067棟/31,152棟) | 85棟/40設置者 |
| 吊り天井等以外の非構造部材の耐震点検 | 98.7% (26,771校/27,115校) | 344校 |
| 吊り天井等以外の非構造部材の耐震対策 | 71.0% (19,261校/27,115校) | 7,854校 |
構造体は99.9%、非構造部材は71.0%。この差が、いまの学校耐震化のすべてです。
点検と対策の「30ポイントの谷」
最も注目すべきはここです。
非構造部材の点検実施率は98.7%。ほぼ全ての学校が点検を済ませています。しかし対策実施率は71.0%。
つまり「点検して、危険があると分かっているのに、直していない」学校が約3割あるということです。7,854校。知らないのではなく、知っていて放置されている。
文部科学省も、老朽化した建物ではガラスの破損や内外装材の落下など非構造部材の被害が拡大する可能性が高いとして、非構造部材の落下防止を含めた老朽化対策の取組を支援するとしています。
都道府県格差が極端
非構造部材の耐震対策実施率(小中学校)の全国平均は71.0%ですが、都道府県別に見ると差が激しい。
| 下位 | 実施率 |
|---|---|
| 佐賀県 | 32.6% |
| 愛媛県 | 39.0% |
| 宮崎県 | 39.7% |
| 鳥取県 | 42.9% |
| 奈良県 | 44.3% |
| 三重県 | 45.5% |
一方、上位は大分県99.7%、島根県99.3%、兵庫県93.1%、北海道92.8%。3倍の開きがあります。
財政規模の問題だけではありません。埼玉県49.1%、愛知県51.8%と、財政力のある県も下位に並んでいます。優先順位の問題だということです。
なぜ非構造部材が後回しになるのか
構造体の耐震化は「倒壊する/しない」という分かりやすい基準があり、Is値という数値で示され、補助率も手厚い(後述)。だから進みました。
非構造部材は違います。天井材、照明器具、窓ガラス、外装材、内装材——それぞれ別の部位で、まとめて発注しにくい。「倒壊」ではなく「落下」なので、危機感が伝わりにくい。金額も中途半端で、単独では予算化しにくい。
しかし東日本大震災では、構造体が無事でも天井や照明の落下で被害が出ました。避難所として使えなくなった体育館もあります。公立小中学校の約9割が避難所に指定されている以上、ここが残っていることの意味は小さくありません。
構造体で残っている93棟の中身
ほぼ完了とはいえ、93棟は残っています。その内訳が示唆的です。
- Is値0.3以上:43棟
- Is値0.3未満:24棟(倒壊の危険性が高い水準)
- 第2次診断等が未実施:26棟
Is値0.3未満が24棟残っています。これは「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い」とされる水準です。
また診断すら未実施が26棟。耐震性が分からないまま使われている校舎が、まだあるということです。
完了の見通し
| 時点 | 未完了の設置者 | 残棟数 |
|---|---|---|
| 令和6年4月1日 | 36設置者 | 135棟 |
| 令和7年4月1日 | 28設置者 | 93棟 |
| 令和8年4月1日(見込み) | 22設置者 | 70棟 |
| 令和9年4月1日(見込み) | 14設置者 | 47棟 |
年間40棟前後のペースです。完全終息にはまだ数年かかります。
検討項目・課題・解決策
| 検討項目 | 課題・発生するリスク | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 非構造部材 | 対策実施率71.0%。点検で危険が判明していても、単独では予算化しにくく放置される。地震時に天井材・照明・外装材が落下すれば人身事故に直結し、避難所としても機能しなくなる | 長寿命化改修・大規模改造の中に織り込む。天井を触る工事(LED化・空調・ダクト)と同時施工すれば足場・仮設が共通化できる |
| 診断の先行 | 診断を飛ばして補強を急ぐと、必要な箇所を外したり過剰投資になったりする。全国でまだ26棟が第2次診断未実施 | 必ず耐震診断から始める。Is値をもとに補強の要否と程度を判断する |
| 工法の選定 | 教室を使いながら工事できるかで選択肢が変わる。内部からの補強は授業に支障が出る | 外付けフレーム工法なら教室を使いながら施工しやすい。建物の構造・劣化状況・予算・工期で総合判断する |
| 長寿命化との関係 | 耐震性のない建物を長寿命化事業で工事する場合、原則として耐震確保の工事も併せて実施する必要がある。想定外だと予算が足りない | 長寿命化改修とセットで計画。足場・工期を共有でき、トータルコストを抑えられる |
| 工事後のIs値 | 改修で耐震壁を撤去すると、耐震性能が下がる | 耐震性能に影響を及ぼす工事の場合、工事後も性能が確保されているか設置者が確認する。内壁等の撤去で影響がなければ再確認は不要 |
| 在校中の工事 | 粉塵・騒音・動線の安全対策が不十分だと事故やトラブルにつながる | 長期休暇の活用、工事範囲の厳密な区切り、資材搬入の時間帯調整。学校現場特有の配慮が要る |
補助制度:耐震は最も手厚い
学校施設環境改善交付金において、地震補強の算定割合は全メニュー中で最も高く設定されています。
| 区分 | 算定割合 | 対象 |
|---|---|---|
| 地震補強 | 2/3(嵩上げ) | 地震による倒壊の危険性が高いもの(Is値0.3未満) |
| 地震補強 | 1/2(嵩上げ) | 地震による倒壊の危険性があるもの(Is値0.3〜0.7未満) |
| 改築 | 1/2(嵩上げ) | Is値0.3未満のうち、やむを得ない理由により補強が困難なもの |
| 防災機能強化 | 1/3 | 非構造部材の耐震対策、避難経路・備蓄倉庫の整備、避難所指定校への自家発電設備の整備 等 |
非構造部材の耐震対策は「防災機能強化」メニュー(1/3)に位置づけられています。構造体の2/3と比べると差がありますが、使える制度がないわけではありません。
詳細は学校施設環境改善交付金の使い方(K168)を参照してください。
実務の勘所
非構造部材こそ「束ねて」やる
天井材・照明器具・窓ガラス・外装材——これらは、それぞれ単独では小さな工事です。だから後回しになる。
しかし考えてみてください。天井を触る工事は、LED化も、空調のダクトも、Wi-Fiの配線も同じ場所です。外装材を触るなら、外壁改修も屋上防水も足場が共通です。
非構造部材の対策を単独事業として立てるから予算が付かない。長寿命化改修や大規模改造の中に組み込めば、共通費は一度で済み、優先順位も上がります。
学校施設の長寿命化改修(K002)と併せて検討する価値があります。
診断結果の公表義務
あまり知られていませんが、耐震診断の結果は公表が求められています。文部科学省の調査でも、ホームページ等を通じて広く公表していない設置者、耐震性がない建物について保護者や地域住民への説明が未実施の設置者が、それぞれ5設置者として名指しで公表されています。
診断して終わりではなく、説明責任まで含めて制度が設計されています。
旧耐震の見分け方
建物の耐震性を考えるうえで基準となるのが、1981年(昭和56年)6月の建築基準法改正です。それ以降を「新耐震基準」、それ以前を「旧耐震基準」と呼びます。
ただし、耐震化率99.9%という数字が示すとおり、旧耐震だから危険とは限りません。既に補強済みの建物が大半です。問題は「補強したか」であって「いつ建てたか」ではない段階に来ています。
詳細は旧耐震・新耐震とは?学校施設の見分け方(K211)で解説しています。
調査データの再利用
耐震診断を過去に実施した学校であれば、その時の中性化深さや鉄筋の腐食・かぶり厚さの状況等のデータを、長寿命化改修の検討に参考として使える場合があります。一般的に構造体の劣化は数年で急速に進行するものではないためです。
手元の資料を探すところから始めると、調査費を圧縮できることがあります。
よくある失敗
「診断を飛ばして補強だけ急ぐ」ケースです。正確な診断なしの補強は、必要な箇所を外したり、逆に過剰投資になったりします。耐震補強は必ず診断から始めるのが鉄則です。
代表的な耐震補強の工法
- 耐震壁・ブレース(筋かい)の増設:建物の強さそのものを高める、基本的で比較的コストを抑えやすい方法
- 柱の補強(鋼板巻き・炭素繊維巻きなど):柱の粘り強さを高め、急な破壊を防ぐ
- 外付けフレーム工法:建物の外側に補強架構を設けるため、教室を使いながら施工しやすい
- 制震・免震:揺れ自体を抑える高度な方法。コストは上がるが性能も高い
どの工法が適切かは、建物の構造(RC造・S造など)、劣化状況、予算、工期、そして「授業を続けながら工事できるか」で変わります。複数の工法を組み合わせることも珍しくありません。
株式会社光建舎にご相談ください
光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、耐震診断から補強設計、在校中の安全に配慮した施工管理までを一貫して対応します。いま残っている課題は非構造部材です。単独では予算化しにくいこの対策を、他の改修とどう束ねるかからご相談ください。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、「まず校舎の状態を見てほしい」という段階からご相談いただけます。
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- 学校施設環境改善交付金の使い方(K168)
- 学校改修の進め方ガイド(K296)
参考・出典
- 文部科学省「公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査の結果をお知らせします」(令和7年12月10日公表/調査時点:令和7年4月1日現在)
https://www.mext.go.jp/content/20251204-mxt_sisetujo-000046041_01.pdf - 文部科学省「公立学校施設の耐震化の推進」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/taishin/index.htm - 文部科学省「令和7年度 公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査結果(全体版)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2025/attach/1419963_00001.html - 文部科学省「国庫補助事業について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm - 文部科学省「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック」(平成27年3月改訂版、平成31年3月追補版)
- 文部科学省「長寿命化改良事業Q&A」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/20200824-mxt_kouhou02_04.pdf - 建築基準法(昭和56年6月の耐震基準の改正)
※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。