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学校の耐震化に使える補助金・交付金|対象と進め方

学校の耐震化に使える国の支援は、公立と私立でまったく別の制度です。そして、どちらにも「率だけ見ると読み違える」構造があります。

公立では、算定割合が2/3でも工事費の2/3が出るとは限らない。私立では、令和8年度に補助率が1/2から1/3へ引き下げられ、さらに圧縮率が掛かる。

この記事では、両方の制度の実際の効き方と、補助率を上げるために設計でできることを整理します。

公立:学校施設環境改善交付金

公立学校の耐震化に使うのは、主に学校施設環境改善交付金です。根拠は義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律第12条および学校施設環境改善交付金交付要綱。

耐震化に関係する主なメニューの算定割合は次のとおりです。

事業算定割合対象
地震補強2/3(嵩上げ)地震による倒壊の危険性が高いもの(Is値0.3未満)
1/2(嵩上げ)地震による倒壊の危険性があるもの(Is値0.3〜0.7未満)
改築1/3構造上危険な状態にある建物、耐震力不足の建物等
1/2(嵩上げ)Is値0.3未満の建物のうち、やむを得ない理由により補強が困難なもの
防災機能強化1/3非構造部材の耐震対策、避難経路・備蓄倉庫の整備、避難所指定校への自家発電設備の整備等
長寿命化改良1/3構造体の劣化対策を要する建物の耐久性を高め、現代の社会的要請に応じる改修(複合化・集約化を行う場合は1/2)
統合改修1/2学校統合に伴って実施する既存施設の改修

すべてIs値で決まります。0.29と0.31で、2/3と1/2に分かれる。Is値の意味と診断レベルによる違いは耐震診断の流れと判定(Is値)の読み方(K212)で解説しています。診断を第1次でやるか第2次でやるかが、そのまま補助額に跳ね返ります。

「嵩上げ」という言葉に注意

上の表で、地震補強の2/3と1/2、改築の1/2には「嵩上げ」と付いています。これは本来の率に上乗せされた特例だという意味です。

根拠は地震防災対策特別措置法で、この嵩上げ規定には期限があります。同法の嵩上げは過去に何度も期限切れが迫るたびに延長されてきた経緯があり、恒久措置ではありません。

「いつでも2/3が出る」と考えて長期計画を組むのは危険です。申請時点で現行の期限を必ず確認してください。専門学校の補助が令和8年度に1/2から1/3へ引き下げられたように、制度は縮む方向にも動きます。

【最重要】算定割合2/3でも、工事費の2/3は出ません

ここが公立の交付金で最も誤解されるところです。

文部科学省の説明によれば、交付金の額は次のように算定されます。

交付額の算定

事業ごとに算出した配分基礎額 ×算定割合と、事業に要する経費の額 ×算定割合を比較して、少ないほうの額の総和に事務費を加えた額を、予算の範囲内で交付する。

※配分基礎額 = 配分面積 × 配分単価

読み解くと、こうなります。

国は「実際にいくらかかったか」だけを見ていません。「この面積の工事なら、国の単価ではいくらのはずか」という基準額(配分基礎額)を持っていて、実工事費と基準額の低い方に算定割合を掛けます。

つまり実勢価格が国の配分単価を上回れば、その差額は出ません。資材高・人件費高が続く局面では、この差が開きます。「算定割合2/3の工事だから1億円のうち6,667万円が交付される」——この計算は成立しないことがあります。

さらに末尾に「予算の範囲内で」と書かれています。予算が尽きれば、要件を満たしていても満額は出ません。

交付金の算定式は、実質的に3段構えの絞りです。①配分基礎額と実工事費の低い方 ②算定割合 ③予算の範囲内。この構造を理解せずに資金計画を立てると、自己負担が想定を大きく超えます。

交付金の全メニューと算定割合の詳細は学校施設環境改善交付金の使い方(K168)で解説しています。

私立:令和8年度に補助率が引き下げられました

私立学校の耐震化に使うのは私立学校施設整備費補助金です。こちらは令和8年度に大きな変更がありました。

事業(専修学校・専門課程の例)令和7年度令和8年度
学校施設耐震化事業(耐震改修)1/21/3(Is値0.3未満等は1/2)
防災機能強化事業(非構造部材の耐震点検・耐震対策、防災機能強化)1/21/3(耐震化工事と併せて行い、Is値0.3未満等の場合は1/2)
防災機能強化事業(アスベスト対策)1/32/9
施設環境改善整備事業1/21/3(上限5,000万円)

ここでも公立と同じ構造が出てきます。Is値0.3未満なら1/2が残っている。そして非構造部材の対策は、耐震化工事と束ねてIs値0.3未満等の場合にだけ1/2になります。

私立にも圧縮率がある

文部科学省の事業募集の事務連絡には、全体の交付希望額が予算額を上回った場合、補助対象経費に補助率を乗じた後、さらに一律の圧縮率を乗じた額を交付決定額とする旨が明記されています。

文科省が示している計算例です。

文科省が示す計算例

補助率1/2の事業メニューで、補助対象経費1,000万円を申請し、40%への圧縮が発生した場合:
10,000,000 × 1/2 × 0.4 = 2,000,000円

補助率1/2のはずが、実質1/5。文科省の資料にも「申請状況により、交付額が1/2以下になる可能性があります」と書かれています。

ただし、耐震補強工事、非構造部材の耐震点検・耐震対策、防災機能強化事業、アスベスト対策等は圧縮の対象外です。

これは重要な事実です。私立の補助金のなかで、耐震・防災系のメニューだけが圧縮から守られています。教育装置やICTは圧縮される。耐震はされない。国が何を優先しているかが、制度の作りに出ています。

私立の審査要件にも耐震が出てくる

専修学校の場合、予算額を上回る応募があったときの審査で、最初に来る要件が「事業計画書提出時点で、耐震化が完了している学校であること」です。

耐震化が終わっていない学校は、他のメニューでも不利になります。実習室を作りたい、ICTを入れたい——その前に耐震化を済ませておけ、という制度設計です。

私立学校の補助金の全体像は私立学校施設整備費補助金の全体像(K157)をご覧ください。

公立と私立の比較

公立私立
制度学校施設環境改善交付金私立学校施設整備費補助金
申請の主体地方公共団体(設置者)学校法人等(都道府県経由で提出)
耐震補強の率Is値0.3未満:2/3
Is値0.3〜0.7未満:1/2
原則1/3
Is値0.3未満等:1/2
額を絞る仕組み配分基礎額との低い方+予算の範囲内圧縮率+補助対象経費上限額+申請下限額
非構造部材防災機能強化(1/3)防災機能強化事業(1/3、耐震化と併せてIs値0.3未満等なら1/2)

公立のほうが率は高い。しかし配分基礎額という別の絞りがある。私立は率が低いが、実工事費ベースで算定される。単純にどちらが有利とは言えません。

非構造部材──ここに最大の穴が空いています

耐震補助の話で最も見落とされるのが、非構造部材です。

文部科学省の耐震改修状況フォローアップ調査(令和7年4月1日現在/令和7年12月10日公表)によれば、公立小中学校の状況は次のとおりです。

  • 構造体の耐震化率:99.9%(111,706棟/111,799棟)
  • 屋内運動場等の吊り天井等の落下防止対策:99.7%
  • 吊り天井等以外の非構造部材の耐震点検実施率:98.7%
  • 吊り天井等以外の非構造部材の耐震対策実施率:71.0%(19,261校/27,115校)

点検は98.7%なのに、対策は71.0%。約7,800校が「調べて分かっているのに直していない」状態です。構造体はほぼ終わり、非構造部材だけが残っている。

都道府県差も大きく、対策実施率は佐賀県32.6%、愛媛県39.0%、宮崎県39.7%、鳥取県42.9%、奈良県44.3%が下位。一方で大分県99.7%、島根県99.3%、兵庫県93.1%。同じ制度、同じ交付金の下でこの差が出ています。

そして非構造部材の対策は、防災機能強化事業で算定割合1/3です。耐震補強の2/3・1/2に比べて低い。率が低いから後回しにされ、後回しにされたまま点検結果だけが積み上がっている——これが7,800校の正体です。

補助率は、設計で上げられます

ここが本記事の核心です。補助率は与えられるものではなく、設計で動かせます。

1. 診断レベルの選択が率を決める

Is値0.29なら2/3、0.31なら1/2。そしてIs値は診断レベルによって変わります。第1次診断は壁の少ない建物で耐力を過少評価する傾向があり、第2次診断のほうが精度が高い。どちらの数字を根拠に申請するかで、率が変わりうる。

これは「低く出す」という話ではありません。正確に評価することが、結果として適切な率につながるという話です。第1次診断の値をそのまま使って補強設計に進むこと自体が実務上困難であり、学校ではRC造耐震診断基準でも原則として第2次診断によることとされています。

2. 束ねると率が上がる

私立の制度を見てください。非構造部材の対策は単独なら1/3。耐震化工事と併せて行い、Is値0.3未満等なら1/2。同じ工事が、束ね方で率が変わります。

公立でも同じ発想が使えます。長寿命化改良は1/3ですが、学校以外の公共施設との複合化・集約化を行う場合は1/2。統合改修は1/2。制度が「まとめてやれ」と言っています。

3. 物理的にも束ねるしかない

耐震補強は、足場を架け、教室を空け、養生をして行う工事です。この足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。

そして非構造部材とは、天井材・照明・窓ガラス・内外装材のことです。耐震補強で壁を触るとき、その周辺の内装は復旧します。天井を開けるなら、そこには空調のダクトもLEDの配線もWi-Fiの配線もある。

構造体の耐震補強と、非構造部材の耐震対策と、老朽化改修と、空調更新と、LED化は、物理的に同じ場所で起きています。別々に発注すれば、同じ足場を何度も架け、同じ天井を何度も開け、同じ夏休みを何年も使うことになります。

文部科学省も、基本的に全面建て替え(改築)方式から、工事費が安価で工期の短い改修方式による再生整備への転換を図るという考え方を示してきました。耐震化と質的整備を切り離さない、というのが制度の思想です。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
算定割合=交付率と誤解「2/3出る」前提で予算化したが、配分基礎額が実工事費を下回り差額が自己負担に。資材高の局面ほど差が開き、議会説明が破綻する配分面積×配分単価で基礎額を試算し、実工事費と比較する。差額を最初から自己負担として計上する
非構造部材を単独で発注公立は1/3、私立は1/3。耐震化と束ねられたはずの機会を逃す。しかも足場を二度架けることになる構造体の補強と非構造部材の対策を1つの事業として設計する。私立はIs値0.3未満等なら1/2になる
嵩上げを恒久措置と誤解地震補強の2/3・1/2は地震防災対策特別措置法に基づく時限の嵩上げ。長期計画の後半年度で率が変わり、財源計画が崩れる申請年度時点の期限を必ず確認する。長期計画では嵩上げが切れた場合の試算も併記する
診断レベルの取り違え第1次診断の値で申請・計画したが、第2次診断で結果が変わる。補強不要の建物に予算を積むか、逆に危険な建物を見逃す補強設計まで見据えるなら第2次診断で発注する。過去資料の数値は何次診断かを確認する
私立で内定前に着工交付内定日以降に着手した事業のみが対象。夏休み施工を急いで内定前に着工すると補助対象外になる内定日を見込んで工程を組む(参考:令和7年度の私立学校施設整備費補助金の交付内定日は令和7年8月4日)
スケジュールの逆算不足診断→補強設計→申請→内定→着工の流れで、少なくとも1年以上前から動く必要がある。私立は業者選定と3社見積りを申請前に終える必要がある前年度の早い時期に診断を実施する。耐震診断費のみなら私立は申請下限額の制限がない

「補助金があるから直す」ではなく「直すために制度を読む」

耐震化の補助制度を通して見えるのは、国が率でメッセージを送っているということです。

Is値0.3未満は2/3。0.3〜0.7未満は1/2。改築は原則1/3だが、補強困難なら1/2。複合化・集約化なら1/2。統合改修は1/2。太陽光発電等設置は1/2で時限なし。私立では耐震・防災系だけが圧縮の対象外で、審査要件の筆頭が耐震化の完了。

危険なものから、束ねて、まとめて直せ。制度全体が、一貫してそう言っています。

逆に言えば、単独の工事として発注するほど、制度上の不利を積み重ねることになります。非構造部材だけを1/3で。数年後に空調を別発注で。さらに数年後に外壁を別発注で。そのたびに足場を架け、そのたびに夏休みを使う。

この判断は、診断者だけでも、設備業者だけでも、補助金の申請代行だけでもできません。Is値を読み、工事範囲を設計し、どのメニューで申請するかを決め、他の改修と束ねる——法規と構造と設備と制度を、同じテーブルで見られる立場が要ります。

耐震化率99.9%の裏側で、非構造部材の対策が71.0%で止まっている。この数字の差は、技術の差ではなく、束ねられたかどうかの差です。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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