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長寿命化改良事業(補助)の対象と進め方|築40年以上の校舎に

公立学校施設は、これまで老朽化の進行に伴い建築後およそ40年程度で改築されてきました。しかし文部科学省は、劣化等の状況に応じて必要な対策・改修等を行えば、技術的には70〜80年程度使用することが可能としています。

この転換を支えるのが長寿命化改良事業です。しかもこの事業、改築の約6割の経費で実施できるとされています。

ただし、対象になるには具体的な要件があります。この記事では、文部科学省が公表しているQ&Aに基づいて、実務で迷いやすい論点を整理します。

まず区別する──「長寿命化事業」と「予防改修事業」は別物

長寿命化改良事業という名前は総称で、中身は2つに分かれています。ここを混同すると要件を取り違えます。

長寿命化事業予防改修事業
築年要件建築後40年以上建築後20年以上
ねらい従来なら改築していた老朽施設の再生健全な状態に保ち、致命的な損傷を事前に防ぐ
工事範囲原則として建物一棟全体(内部・外部共)の全面的な改修屋上防水層の全面改修、躯体の長寿命化を目的とした外壁改修などの外部改修
内容構造体の耐久性向上、ライフラインの健全化、省エネ化、多様な学習形態に対応した教育環境の整備適切なタイミングでの予防的な改修

築40年以上でも予防改修事業を使えるか——これはQ&Aで扱われており、将来的に長寿命化事業を実施する予定の有無や建物の劣化状況等を確認するため、文部科学省へ事前に相談することとされています。

「築40年」の起算点

意外に間違えやすいのがここです。

  • 起算点は竣工時
  • 事業の交付決定年度時点で40年以上経過していることが必要

設計時点でも、着工時点でもありません。交付決定年度が基準です。築39年の建物で計画を立てるときは、交付決定がいつになるかを逆算してください。

【必須要件】RC造で「必ず実施する工事」

長寿命化事業には、構造区分に応じた「必ず実施する工事」が定められています。RC造の場合は次の3つです。

RC造で必ず実施する工事(いずれか1つ以上)

  1. コンクリートの中性化対策
  2. 鉄筋の腐食対策
  3. 鉄筋のかぶり厚さの確保

加えて、水道・電気・ガス管等のライフラインの更新も「必ず実施する工事」に含まれます。

ここで重要なQ&Aがあります。「調査の結果、大きな問題は見られず、クラック補修程度の対策でよいとなった場合でも対象になるのか」という問いに対して、文科省はこう答えています。

現状ではクラック補修程度でよくても、今後30年以上の使用を見据えて中性化対策を実施すると設置者が判断するのであれば、対象とすることができる。

つまり「劣化しているから直す」ではなく「今後30年使うために手を打つ」という判断が認められているということです。ここは長寿命化事業の思想が最もよく表れている部分です。

耐震性がない建物の扱い

耐震性のない建物を長寿命化事業で工事する場合は、原則として耐震性を確保するための工事も併せて実施することとなっています。

そして工事後のIs値について、Q&Aは実務的な線引きを示しています。

  • 耐震性能に影響がない内壁等を撤去する場合 → 工事後のIs値を再度確認する必要はない
  • 耐震壁を撤去するなど耐震性能に影響を及ぼす工事を予定している場合 → 工事後も耐震性能が確保できていることを学校設置者で確認

間取りを変える改修では、この判断が必要になります。Is値の考え方は耐震診断の流れと判定(Is値)の読み方(K212)をご覧ください。

【最重要】50%ルール──築40年未満の棟も対象にできる

実務で最も効く規定です。

Q29の回答

長寿命化事業の対象建物と対象外建物を併せて工事する場合、工事実施面積のうち長寿命化事業の対象面積が50パーセント以上を満たせば、築40年未満でも国庫補助対象となる。

Q&Aには建物パターン別の可否図が6つ示されており、いずれも「長寿命化事業の対象面積が過半を占めるため、建物全体に長寿命化事業適用可」という判断になっています。逆に過半に満たない場合は建物全体への適用が不可です。

これは工事範囲の設計そのものです。校舎が増築を繰り返していて、築45年の棟と築30年の棟が渡り廊下でつながっている——こうしたケースで、どこまでを一体の工事範囲とするかによって、補助対象になるかどうかが変わります。

面積の取り方ひとつで、築40年未満の棟まで含めて改修できるか、それとも対象外になるか。設計段階の判断が、そのまま補助の可否を決めます。

誤解されやすい5つの論点

1. スケルトンにする必要はない

「建物一棟全体の全面的な改修」と聞くと、内外装をすべて撤去して構造体だけにするイメージを持たれがちですが、スケルトンの状態にまですることは補助要件になっていません。

今後30年以上使用することを前提に、各部位の劣化・損傷の状況に応じて改修範囲を決めればよい、というのが文科省の説明です。

2. ライフラインは「全部更新」とは限らない

原則として全て更新する必要がありますが、例外があります。

  • 今後計画的に更新することが決まっているライフライン → 当該計画に基づき更新することとして、長寿命化改修時に実施する必要はない
  • 設置者が今後30年以上の使用に耐え得ると判断する場合 → 必ずしも全て撤去・新設する必要はない
  • 今後10年や20年程度の使用に耐え得ると判断されるもの → 改めて更新計画を策定することで対象となる

「更新計画を作る」ことが、工事を免除する根拠になる。ここは計画づくりの実務に直結します。

3. 過去に補強・改修した箇所は除いてよい

耐震補強や非構造部材の耐震対策、トイレ改修等を実施したばかりの箇所や、設備機器の更新など今後計画的に改修を実施する予定としている箇所を除いて、それ以外の部分を全面的に改修し、今後30年以上使用する場合は対象になります。

耐震補強後10年未満の校舎でも、ブレースや耐力壁に手を加えずに長寿命化事業が使えます。

4. ライフライン更新「だけ」は対象外

逆方向の注意点です。水道・電気・ガス管等のライフラインの更新だけでは国庫補助対象になりません。予防改修事業でも同じで、屋上防水の全面改修や外壁改修が対象であり、ライフライン更新のみでは対象外です。

また予防改修事業の「全面」とは、予防改修を行う棟の全面を指します。部分的な屋上防水の改修は対象外です。

5. 複数年にわたる工事も対象

1年目に外壁工事、2年目に内装工事、というように契約が分かれる場合も、工事全体で補助要件を満たすものであれば、Ⅰ期工事・Ⅱ期工事の継続事業として国庫補助対象になります。

ただし注意書きがあります。Ⅱ期目以降の事業は、他の事業同様、予算の範囲内で交付されるものであり、交付を担保するものではありません。複数年計画は、後年度分が確約されていないことを前提に組む必要があります。

補助対象になる調査費・設計費

見落とされやすい実務論点です。

経費国庫補助対象となる範囲
実施設計費原則、前年度支出分まで(前々年度支出分は対象外。ただし国庫補助申請の調整により申請年度を繰り延べた事業で、特に必要と認められた場合は対象)
構造体の劣化状況等の調査費用前々年度支出分まで

調査は設計より1年早く動けるということです。前々年度に劣化調査、前年度に実施設計、当該年度に工事——この組み立てが制度上想定されています。

調査の中身と、再調査の要否

RC造では、コンクリートの中性化深さ・鉄筋の腐食状況・鉄筋のかぶり厚さの状況等を調査します。実施方法は耐力度調査の実施方法を参考とすることとされています。

そして実務的に効くのが再調査の扱いです。

  • 過去に耐震診断を実施した学校で、その後著しく劣化が進んでいなければ、耐震診断時の中性化深さや鉄筋の腐食・かぶり厚さの状況等を参考にできる
  • 調査資料の有効期限は設けられていない。中性化等の劣化は数年で急速に進行するものではないため、特別な場合を除き再調査は必要ないとされている
  • ただし調査実施時から相当な年数が経過している場合は、部分的な確認調査等で劣化状況を把握することが必要

過去の耐震診断が資産になります。診断データを保管していれば、長寿命化の検討で調査費を圧縮できます。

改築か長寿命化か──判断基準

「うちの校舎はどちらが適切か」という問いに、Q&Aは一律の基準を示していません。

有識者会議では、「劣化が著しく進行し、建物として崩壊寸前の廃墟状態にあったとしても、現在の技術をもって補修・改修・補強を行えば、再び使用できる状態にすることも可能」とされる一方で、改築とするか長寿命化改修とするかは「整備とその後の維持にかかる費用の比較が判断基準になる」とされています。

技術ではなく費用で決まるということです。「もう古いから建て替え」でも「まだ使えるから改修」でもなく、整備費と維持費の合計を比較する。この考え方は、中長期修繕計画がないと成立しません。

実際、長寿命化事業では今後30年以上使用することを見越した工事を行うことが前提となるため、中長期修繕計画を作成することとされています。計画づくりは学校の長寿命化計画(個別施設計画)の立て方(K239)をご覧ください。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
築年の起算を誤る竣工から40年の到達を設計時点で判断したが、交付決定年度時点で40年に届かず対象外に。1年待つことになり、工程全体がずれる竣工年から起算し、交付決定年度時点で40年以上かを確認する。届かない場合は予防改修事業を検討する
工事範囲を棟単位で切る築40年以上の棟だけを対象にして計画。隣接する築30年台の棟が対象外となり、数年後に別途改修することになる。足場も二度架ける50%ルールを前提に工事範囲を設計する。対象面積が過半を占めれば建物全体に適用できる
ライフライン更新だけを計画給排水・電気の更新のみで申請しようとして対象外に。単独では長寿命化事業にも予防改修事業にも該当しない構造体の対策と内外装改修を含む全面的な改修として組み立てる。単独更新が必要なら別事業を検討する
調査費の年度を外す劣化調査を実施設計と同年度に発注し、補助対象の年度要件(調査は前々年度支出分まで)を活かせない前々年度に劣化調査、前年度に実施設計、当該年度に工事、の3年計画で逆算する
耐震壁を撤去する改修間取り変更で耐震壁を撤去し、工事後のIs値が確保できていない。教育環境は改善したが耐震性能が落ちる耐震性能に影響する工事は工事後のIs値を設置者が確認する。構造と意匠を同じテーブルで検討する
複数年計画の前提Ⅱ期以降の交付を前提に資金計画を組んだが、Ⅱ期目以降は予算の範囲内で交付されるもので担保されていない後年度分が確約されない前提で年度ごとに完結する工事区分にする。Ⅰ期で最優先箇所を押さえる

長寿命化は「工事の種類」ではなく「使い続ける判断」

この事業の要件を通して見えるのは、制度が求めているのが工事の内容ではなく、判断とその根拠だということです。

今後30年以上使うのか。その判断の根拠は何か。中長期修繕計画はあるか。整備費と維持費を比較したか。ライフラインを更新しないなら、いつ更新する計画か。すべて「説明できるか」を問われています。

そして工事範囲の設計が、そのまま補助の可否と金額を決めます。50%ルールをどう使うか。過去に補強した箇所を除いてどこまで一体で改修するか。耐震壁に手を入れるならIs値をどう確保するか。これは積算の作業ではなく、設計の作業です。

物理的にも同じです。建物一棟を全面的に改修するなら、足場を架け、内装を剥がし、天井を開ける。そのとき空調も電気もLEDも非構造部材の耐震対策も、すべて同じ場所にあります。足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。長寿命化改良事業は、その「まとめてやる」を制度として用意したものだと言えます。

改築の約6割で再生できる——この数字が意味を持つのは、束ねて一度で終わらせた場合です。分割して何度も足場を架ければ、その差は簡単に消えます。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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