目次
対象・設問・公表の実務
対象の設定と設問の分け方で、結果が変わります。
在校生の保護者だけに聞くと、統合が実施される時期に在校していない層の意見になります。賛否だけを聞くと、反対の理由が分からず打ち手が決まりません。
文部科学省の手引は、保護者や地域住民のニーズや意見を聴取するためにアンケートや公聴会、パブリックコメント等を行っている事例が相当数に上ることを示しています。あわせて学齢の児童生徒の保護者のみならず、就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向も適切に把握することを実施事例として明記しています。
さらに統合後も、児童生徒や保護者の不安や悩みを把握するアンケートを継続的に実施することが示されています。
この記事では、対象、設問、回収率、公表の実務を整理します。
この記事の要点
- 手引は就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向把握を実施事例として明記
- 賛否だけを聞くと反対の理由が分からず打ち手が決まらない
- 通学条件・教育環境・地域機能のそれぞれについて何を重視するかを分けて聞く
- 回収率は配布の方法で決まる。学校経由と郵送で差が出る
- 統合後も継続的にアンケートを実施することが手引に示されている
誰に聞くのか?
在校生の保護者だけでは足りません。
| 対象 | 聞く理由 |
|---|---|
| 在校生の保護者 | 統合の影響を直接受ける |
| 就学前児童の保護者 | 統合時に通うのはこの層 |
| 子育てを予定している世帯 | 将来の利用者 |
| 地域住民 | 地域機能としての学校 |
| 児童生徒本人 | 学年に応じた設問で |
| 教職員 | 運営の実態 |
就学前の保護者を外さない
統合の検討から実施まで数年かかります。在校生の保護者だけに聞くと、統合時には卒業している層の意見になります。
手引も、学齢の児童生徒の保護者のみならず、就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向を適切に把握することを実施事例として明記しています。
把握の方法が難しい
就学前児童の保護者には学校経由で配れません。保育所、幼稚園、認定こども園を通じた配布、乳幼児健診の機会、子育て支援センターでの配布。
複数の経路を使う必要があります。
地域住民の範囲を決める
対象を全世帯にするか、該当地区の世帯にするか、自治会経由にするか。範囲によって結果が変わります。
範囲とその理由を公表してください。範囲を示さないと、結果の解釈に疑問が出ます。
児童生徒本人にも聞く
学年に応じた設問にすれば、児童生徒本人からも意見が取れます。統合への不安、楽しみにしていること、心配なこと。
保護者の意見とは異なる傾向が出ることがあります。
教職員の実態も取る
小規模校の運営上の課題は、教職員が最もよく知っています。研修の代替が組めない、教科の専門性が確保できない。
数値では見えない実態が出てきます。
設問はどう作るのか?
賛否ではなく、何を重視するかを聞きます。
| 設問の型 | 例 |
|---|---|
| 現状の評価 | 現在の学校の規模について、どう感じていますか |
| 重視する項目 | 次の項目のうち、重視するものを3つ選んでください |
| 条件付きの意向 | 通学時間が片道30分以内なら、統合をどう考えますか |
| 自由記述 | ご意見、ご懸念をお書きください |
賛否だけを聞かない
「統合に賛成ですか、反対ですか」だけでは理由が分かりません。反対の理由が通学条件なのか手続きへの不信なのかで、打ち手が全く変わります。
通学条件、教育環境、地域機能のそれぞれについて何を重視するかを聞く形にしてください。
理由を分けて取る
反対の理由を選択肢で分けます。通学の負担、地域の衰退、母校の喪失、手続きへの不信、子どもへの影響。
複数選択を認め、主たる理由を1つ選ばせる形が集計しやすくなります。対応の仕方は学校統廃合の反対意見にはどう向き合うのか?で扱っています。
条件を示して聞く
「統合に賛成か」ではなく「通学時間が片道30分以内で、スクールバスが朝夕各2便なら、どう考えるか」と条件を示して聞きます。
条件次第で意向が変わる層が可視化されます。
誘導する設問を避ける
「児童数が減少し教育環境が悪化していますが、統合に賛成ですか」のような設問は誘導です。結果の信頼性が落ち、説明会で指摘されます。
前提の説明と設問は分けてください。
自由記述を必ず入れる
選択肢では拾えない懸念が出ます。集計の手間はかかりますが、説明会での論点を事前に把握できます。
設問数を抑える
設問が多いと回収率が落ちます。選択式10問前後、自由記述1から2問が目安です。
回収率はどう上げるのか?
配布の方法で決まります。
| 方法 | 回収率の傾向 | 注意点 |
|---|---|---|
| 学校経由(児童生徒に配布・回収) | 高い | 在校生の保護者に限られる |
| 郵送(返信用封筒) | 中程度 | 費用がかかる |
| ウェブ回答 | 層が偏る | 高齢層の回答が減る |
| 自治会回覧 | 低い | 世帯単位になる |
| 施設での配布 | 限定的 | 保育所等を通じた配布 |
学校経由が最も高い
児童生徒を通じて配布・回収すると回収率が高くなります。一方、対象が在校生の保護者に限られます。
就学前児童の保護者と地域住民には別の経路が必要です。
紙とウェブを併用する
ウェブ回答だけでは高齢層の回答が減ります。紙の回答用紙とウェブの両方を用意し、同じ設問にしてください。
集計の際に経路別の回答数も記録しておくと、偏りが分かります。
期間は2週間から3週間
短すぎると回答できない層が出ます。長すぎると忘れられます。2週間から3週間が目安です。
締切前に再度の案内を出す
締切の数日前に案内を出すと回収率が上がります。学校経由ならプリント、ウェブなら広報の媒体で。
回収率を公表する
回収率と対象別の回答数を公表してください。回収率が低い場合、結果の代表性に限界があることも書きます。
隠すと結果の信頼性が疑われます。
結果はどう公表するのか?
集計方法と限界を含めて示します。
| 公表する内容 | 理由 |
|---|---|
| 対象と配布方法 | 誰に聞いたかで結果が変わる |
| 配布数と回収数、回収率 | 代表性の判断材料 |
| 対象別の集計 | 在校生保護者と地域住民で傾向が違う |
| 設問ごとの単純集計 | 加工前の数値 |
| 自由記述の分類 | 件数と主な内容 |
| 結果の限界 | 回収率が低い場合の留保 |
対象別に集計する
在校生の保護者、就学前児童の保護者、地域住民。それぞれの傾向を分けて示してください。
全体を合計すると、層による違いが見えなくなります。
単純集計を先に出す
クロス集計や分析の前に、設問ごとの単純集計を公表してください。加工した数値だけを示すと、都合のよい切り方をしたと受け取られます。
自由記述は分類して件数を出す
すべてを掲載するのは難しいため、内容を分類して件数を示します。あわせて主な記述を抜粋して掲載してください。
抜粋の選び方が偏ると指摘されるため、反対意見も同じ比重で載せます。
結果をどう使うかを示す
アンケートは意思決定の一要素です。「賛成が多かったので統合する」という使い方は、手引の考え方と合いません。
結果をどう参考にするのかを示してください。合意形成全体の進め方は学校統廃合の合意形成はどう進めるのか?で扱っています。
説明資料に反映する
アンケートで出た懸念は、説明会の資料に反映してください。聞いただけで資料が変わらないと、「意見を言っても反映されない」という受け取りになります。
資料の作り方は学校統廃合の説明資料はどう作るのか?で扱っています。
統合後も続けるのか?
手引が継続的な実施を示しています。
| 時期 | 把握する内容 |
|---|---|
| 統合直後 | 児童生徒の不安、人間関係、通学の実態 |
| 1年後 | 学校生活への適応、保護者の評価 |
| 数年後 | 当初の懸念が現実になったか |
手引が継続実施を示している
手引は、統合後に児童生徒や保護者の不安や悩みを把握するアンケートを継続的に実施することを示しています。
統合して終わりではありません。
通学の実態を確認する
計画段階で想定した通学時間と、実際の所要時間を比べてください。想定より長い場合、経路や便数の見直しが必要です。
この確認をしないと、不満が蓄積します。
当初の懸念を検証する
計画段階で出た懸念が現実になったかを確認します。なっていれば対策、なっていなければ次の統合の説明材料になります。
次の統合の材料になる
複数の統合を順次行う団体では、先行事例の検証結果が次の説明に使えます。「前回の統合ではこうだった」という実績は、推測よりも説得力があります。
推計との照合も行う
統合後の児童生徒数が推計と合っているかを確認してください。乖離が大きければ、次の推計の方法を見直す必要があります。
推計の方法は児童生徒数の将来推計で扱っています。
よくある質問
Q. 誰にアンケートを取るべきですか。
A. 在校生の保護者だけでは足りません。手引は、学齢の児童生徒の保護者のみならず、就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向も適切に把握することを実施事例として明記しています。統合時に通うのはその層です。
Q. 賛否を聞いてはいけませんか。
A. 賛否だけでは理由が分かりません。通学条件、教育環境、地域機能のそれぞれについて何を重視するかを分けて聞いてください。反対の理由が通学条件なのか手続きへの不信なのかで打ち手が変わります。
Q. 回収率はどのくらいが目安ですか。
A. 配布の方法で大きく変わります。学校経由(児童生徒を通じた配布・回収)が最も高く、自治会回覧は低くなります。目安を示すより、回収率と対象別の回答数を公表して代表性の限界を明示する方が適切です。
Q. ウェブだけで取ってよいですか。
A. 避けてください。高齢層の回答が減り、層が偏ります。紙とウェブの両方を用意し、同じ設問にしてください。経路別の回答数を記録すると偏りが分かります。
Q. 結果はどう公表しますか。
A. 対象と配布方法、配布数と回収数、対象別の集計、設問ごとの単純集計、自由記述の分類を公表します。加工した数値だけを示すと、都合のよい切り方をしたと受け取られます。
Q. 統合後もアンケートは必要ですか。
A. 必要です。手引は統合後に児童生徒や保護者の不安や悩みを把握するアンケートを継続的に実施することを示しています。計画段階で想定した通学時間と実際の所要時間の照合も行ってください。
まとめ
学校統廃合の住民アンケートは、対象の設定と設問の分け方で結果が変わります。在校生の保護者だけに聞くと、統合が実施される時期には卒業している層の意見になります。手引は、学齢の児童生徒の保護者のみならず、就学前児童の保護者や子育てを予定している世帯の意向も適切に把握することを実施事例として明記しています。
設問では賛否だけを聞かないことが要点です。反対の理由が通学条件なのか手続きへの不信なのかで打ち手が全く変わるため、通学条件、教育環境、地域機能のそれぞれについて何を重視するかを分けて聞いてください。あわせて「通学時間が片道30分以内なら」のように条件を示して聞くと、条件次第で意向が変わる層が可視化されます。
回収率は配布の方法で決まります。学校経由が最も高い一方、対象が在校生の保護者に限られます。就学前児童の保護者には保育所や幼稚園を通じた配布、乳幼児健診の機会など複数の経路が必要です。ウェブだけでは高齢層の回答が減るため、紙との併用にしてください。
公表では、対象と配布方法、配布数と回収数、対象別の集計、設問ごとの単純集計、自由記述の分類を示します。加工した数値だけを出すと都合のよい切り方をしたと受け取られます。回収率が低い場合は結果の代表性に限界があることも書いてください。
手引は統合後も、児童生徒や保護者の不安や悩みを把握するアンケートを継続的に実施することを示しています。計画段階で想定した通学時間と実際の所要時間を比べ、乖離があれば経路や便数を見直してください。複数の統合を順次行う団体では、この検証結果が次の説明材料になります。
参考・出典
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引~少子化に対応した活力ある学校づくりに向けて~」(平成27年1月27日) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/07/24/1354768_1.pdf
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の改訂等について(通知)」(8文科初第1125号、令和8年8月5日) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tekisei/1413885_00007.htm
- 文部科学省「学校規模の適正化及び少子化に対応した学校づくり」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tekisei/index.htm
- e-Gov法令検索「学校教育法施行規則」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000080011
記載の内容は公表時点のものです。アンケートの設計および実施方法は各市町村の実情により異なります。個別の検討は文部科学省および都道府県・市町村の教育委員会にご確認ください。
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