この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校の省エネ基準はどう変わったか?

建築物省エネ法と改修実務

令和7年4月から、建築物省エネ法の適合義務の対象が広がりました。それまでは一定規模以上の建物が対象でしたが、現在は原則としてすべての新築建築物が省エネ基準への適合を求められます。

学校施設にも当然に関係します。校舎の新築や増築を計画している場合、設計の条件が変わり、確認申請の手続きも変わります。一方、改修工事では扱いが異なるため、どの工事が対象になるのかを正しく押さえておく必要があります。

この記事では、①制度の概要、②何が対象か、③改修との関係、④手続き、⑤実務上の注意点、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 令和7年4月1日以後に工事に着手する建築物は、原則としてすべて省エネ基準への適合が義務
  • 10平方メートル以下の建築物は適合義務の対象外
  • 増築・改築では、増改築を行った部分が省エネ基準に適合すればよい
  • 修繕・模様替(リフォーム)は適合義務の対象外
  • 従来の届出義務制度と説明義務制度は廃止された

建築物省エネ法とは何か?

建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律です。建物の省エネ性能について基準を定め、一定の建築物にその基準への適合を求めています。

令和7年4月の改正で、適合義務の対象が原則としてすべての新築建築物に広がりました。以前は、大規模な非住宅が適合義務、中規模が届出義務、小規模が説明義務という段階がありましたが、届出義務と説明義務の制度は廃止されています。

学校の改修に関わる建築基準法の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎にまとめています。

何が対象になるのか?

工事の種類によって変わります。

工事の種類適合義務内容
新築対象原則としてすべての建築物
増築・改築対象(部分)増改築を行った部分が基準に適合すればよい
修繕・模様替対象外内装や設備の更新などのリフォーム
10平方メートル以下の建築物対象外適用除外

増築の扱いが変わった

改正前は、増築をすると建物全体で基準への適合が求められる場合がありました。改正後は、増改築を行った部分のみが省エネ基準に適合すればよいとされています。既存の校舎に教室を増築する場合、既存部分全体の断熱改修まで求められるわけではありません。増築の計画が立てやすくなった部分です。

既存不適格の扱いは、建築基準法の側でも論点になります。増築と既存不適格の関係は学校の増築と既存不適格で扱っています。

大規模改修は対象外だが

屋上防水、外壁、内装、設備の更新といった修繕・模様替は、省エネ基準の適合義務の対象外です。学校で行う改修の多くは、この区分に当たります。ただし、断熱や高効率設備を採用するかどうかは、その後の光熱費と教育環境に直結します。義務がないことと、やらなくてよいことは別です。

ZEBの水準と改修の考え方は学校のZEB化はどこまで費用に見合うか?にまとめています。

いつから適用されるのか?

工事に着手する時期で決まります。

適合義務は、令和7年4月1日以後に工事に着手するものから適用されます。札幌市の案内では、工事着手を杭打ち工事、地盤改良工事、山留め工事、根切り工事のいずれかの開始時点としています。

確認申請の時期ではなく、工事に着手する時期が基準になる点に注意が必要です。確認申請を早く出していても、着工が4月以降にずれれば新しい制度が適用されます。設計の途中で制度が切り替わる時期には、特に注意が必要でした。

手続きはどう変わるのか?

確認申請の中で、省エネ基準への適合が確認されます。

省エネ基準に適合していなければ、確認済証が交付されません。つまり、省エネの検討が設計の前提条件になります。

従来は、省エネは「できれば配慮する」項目として扱われることもありました。現在は、適合しなければ着工できない条件です。設計の初期段階から、断熱と設備の仕様を決めていく必要があります。

規模や用途によっては、省エネ適合性判定(省エネ適判)の手続きが必要です。対象になるかどうかは、建物の用途と床面積によって判断されます。設計者を通じて、所管行政庁や登録省エネ判定機関に確認してください。

適判が必要な場合、確認申請と並行して手続きを進めることになります。適合判定通知書がないと確認済証が交付されないため、日程の管理が重要になります。

完了検査でも、省エネ基準への適合が確認されます。工事中に仕様を変更した場合は、変更の手続きが必要になることがあります。断熱材の種類や厚さ、設備の機器を現場で変更する際は、設計者に確認してから進めます。

学校ではどんな点に注意するか?

5つあります。

設計の期間が延びる

省エネの計算と、必要に応じた適判の手続きが加わります。設計から着工までの期間が、従来より長くなることを工程に織り込みます。補助金の申請時期と重なる場合は、余裕を持った計画が必要です。夏休みの着工を予定するなら、前年度のうちに設計を終えておきます。

仕様の変更に手続きが伴う

入札の結果や資材の納期の都合で、断熱材や設備の機器を変更することがあります。省エネ性能に影響する変更は、手続きが必要になる場合があります。現場の判断で進めず、設計者に確認します。完了検査で適合が確認できないと、検査済証が交付されません。

断熱と設備は一体で考える

外皮の断熱を上げれば、空調の負荷が下がります。設備の容量を小さくできれば、初期費用と更新費の両方が下がります。断熱と設備を別々に検討すると、この関係が生かせません。建物の寿命に対して設備の更新周期は短いため、先に断熱を固める方が長期では有利になります。

教室の使い方との整合

断熱性能を上げると、室温が安定する一方で、換気の計画が重要になります。学校では在室人数が多く、二酸化炭素濃度が上がりやすいため、換気の量と方法を設計で確認します。窓を開ける前提の換気だけでは、冬季に室温が下がり、断熱に投じた費用が生きません。学校環境衛生基準の値も踏まえ、機械換気と熱交換の採否を含めて計画します。

増築部分と既存部分の差

増築部分だけが高い性能になると、既存部分との温熱環境の差が大きくなります。同じ校舎の中で、暑い教室と快適な教室が並ぶことになります。教室の割り当てにも影響するため、既存部分の改修の時期をあわせて検討しておきます。

省エネ基準とは何を求めるものか?

建物のエネルギー消費性能について、2つの側面から基準が定められています。

側面内容学校での主な対応
一次エネルギー消費量空調、換気、照明、給湯、昇降機などで消費するエネルギーの量高効率な設備、制御、再生可能エネルギーの導入
外皮の性能屋根、外壁、窓からの熱の出入り断熱材、複層ガラス、日射遮蔽

設計した建物の一次エネルギー消費量が、基準となる消費量以下であることが求められます。この比率は、ZEBの水準を判断するときにも使われる指標です。計算の方法には、部屋ごとに詳細に入力する方法と、建物の用途ごとに簡易に評価する方法があります。どちらを使うかで、必要な情報の量と計算の手間が変わります。

学校には、教室、体育館、給食施設、事務室など、使い方の異なる空間が混在します。どの空間をどう評価するかによって結果が変わるため、設計の早い段階で計算の方針を決めておきます。計算の根拠となる図面と仕様は、後の手続きでも使うので整理して残します。

何から手をつけるべきか?

新築と改修で、考え方が変わります。

新築・増築の場合

適合が前提なので、基準を満たすことは出発点です。問題は、基準をどれだけ上回るかです。断熱と設備の仕様を上げれば初期費用は増えますが、光熱費と設備の更新費は下がります。

30年、40年という期間で費用を比べ、どの水準を目指すかを決めます。学校の校舎は長く使う建物なので、初期費用の差よりも運用期間の総額で判断する方が実態に合います。補助制度の要件と合わせて検討すると、上乗せ分の負担を抑えられる場合があります。設計者には、複数の水準で概算を出してもらいます。

改修の場合

義務の対象外なので、どこまでやるかは設置者の判断です。優先順位は、屋根と窓の断熱、空調の高効率化、照明のLED化の順に効果が出やすくなります。建物の形や方位によって変わるため、設計者に検討してもらいます。

外壁や屋上防水の改修、空調の更新の時期に合わせて断熱を行うと、足場や仮設の費用を重複させずに済みます。工事の機会は限られるので、その時に何をやるかを決めておくことが重要です。

公立と私立で違いはあるか?

法令の適用は同じですが、進め方が違います。

公立学校

設計から工事までを単年度または複数年度の予算で進めます。省エネの検討に時間がかかる分、予算要求の段階で設計期間を長めに見込む必要があります。

公共施設として、自治体が定める環境の方針や、脱炭素に関する計画の対象になることもあります。市町村の環境部局が所管する計画に、学校施設が位置づけられている場合は、その水準も確認します。

私立学校

理事会の決定と補助金の時期に、省エネの検討期間を組み込みます。基準を上回る仕様を採用する場合は、初期費用の増加と、光熱費の削減、補助制度の活用を合わせて理事会に説明します。

学校法人では、光熱費は経常的な支出です。在籍者数が減っても大きくは減らないため、長期の収支に効いてきます。

よくある質問

Q. 体育館も省エネ基準の対象ですか。

A. 建築物として新築・増築するのであれば対象です。ただし、空調のない体育館など、評価の対象となる設備が限られる建物では、計算の方法が変わります。設計者に確認してください。

Q. 校舎の大規模改修でも省エネ基準への適合が必要ですか。

A. 修繕・模様替は適合義務の対象外です。ただし、増築や改築に当たる工事が含まれる場合は、その部分が対象になります。工事の区分は設計者に確認してください。

Q. プレハブの仮設校舎も対象ですか。

A. 建築物に当たるかどうか、仮設建築物としての扱いを受けるかどうかによります。改築や長寿命化改修の工事中に使う仮設校舎は、設置する期間や構造によって扱いが分かれます。所管行政庁に確認が必要です。

Q. 増築部分が小さい場合も対象ですか。

A. 10平方メートル以下の建築物は適合義務の対象外とされています。増築の扱いは規模と内容によるため、設計者を通じて確認します。

Q. 省エネ基準に適合しているかは誰が判断しますか。

A. 確認申請の審査の中で確認されます。規模や用途によっては、省エネ適合性判定の手続きが必要です。

Q. 既存の校舎の省エネ性能を上げる義務はありますか。

A. 現行の制度では、既存建築物に遡って適合を求める仕組みにはなっていません。ただし、光熱費の削減と教育環境の改善のために、改修の機会に断熱と設備の更新を検討する価値があります。補助制度では、省エネ性能を要件とするものもあります。

まとめ

令和7年4月1日以後に工事に着手する建築物は、原則としてすべて省エネ基準への適合が義務となりました。10平方メートル以下は対象外です。従来の届出義務制度と説明義務制度は廃止されています。

増築・改築では、増改築を行った部分が基準に適合すればよく、既存部分全体の適合は求められません。修繕・模様替は適合義務の対象外です。適用の判断は工事に着手する時期で決まります。

学校では、設計の期間が延びること、仕様の変更に手続きが伴うこと、断熱と設備を一体で検討すること、換気の計画を確認すること、増築部分と既存部分の性能差を踏まえることが実務上の要点になります。義務の有無にかかわらず、改修の機会に断熱と設備を見直すことが、光熱費と教育環境の両方に効いてきます。

参考・出典

記載の制度は公表時点のものです。個別の適用は、設計者を通じて所管行政庁にご確認ください。

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