この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

保育園の改修では何を押さえるのか?

設備基準と補助制度・進め方

築20年を過ぎた保育園では、空調の能力不足、給排水の劣化、トイレの使いにくさが同時に出てきます。一方で、定員や年齢構成が開園当初と変わり、部屋の使い方が合わなくなっている園も多くあります。

保育園の改修が学校と違うのは、面積の基準が児童1人あたりで定められている点です。間取りを変えれば、受け入れられる人数が変わります。設計の前に、基準と定員の関係を確認しておく必要があります。

この記事では、①制度上の位置づけ、②設備の基準、③改修で多い工事、④補助制度、⑤開園しながらの進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 乳児室は乳児または満2歳未満の幼児1人につき1.65平方メートル以上
  • ほふく室は同じく1人につき3.3平方メートル以上
  • 保育室または遊戯室は満2歳以上の幼児1人につき1.98平方メートル以上
  • 屋外遊戯場は満2歳以上の幼児1人につき3.3平方メートル以上
  • 就学前教育・保育施設整備交付金の補助率は原則、国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1

保育園は制度上どう位置づけられるのか?

児童福祉法に基づく児童福祉施設です。

学校教育法に基づく学校である幼稚園とは、根拠となる法律が異なります。施設の基準は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)に定められています。

このため、改修で確認する基準も学校とは別のものになります。幼稚園の改修については幼稚園の改修・リノベーション完全ガイドにまとめています。

一方、建築基準法や消防法の適用は、建物の用途と規模に応じて受けます。防火や避難の考え方は学校に関わる消防法と防火・避難の基礎が参考になります。

設備の基準はどうなっているのか?

児童1人あたりの面積で定められています。

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第32条は、保育所の設備について次のように定めています。

室対象1人あたりの面積
乳児室乳児または満2歳未満の幼児1.65平方メートル以上
ほふく室乳児または満2歳未満の幼児3.3平方メートル以上
保育室または遊戯室満2歳以上の幼児1.98平方メートル以上
屋外遊戯場満2歳以上の幼児3.3平方メートル以上

このほか、乳児または満2歳未満の幼児を入所させる保育所には医務室が必要です。調理室と便所は、すべての保育所に必要とされています。調理室は耐火構造で区画し、防火設備等を設けることが求められます。

間取りを変えると定員に影響する

面積が1人あたりで定められているため、部屋の広さが変われば受け入れ可能な人数も変わります。倉庫を設ける、事務室を広げる、廊下を付け替える。いずれも保育室の面積に影響する可能性があります。

改修の前に、現在の各室の有効面積と、定員に対する余裕を確認します。設計の途中で定員が減ることが分かると、計画そのものを見直すことになります。認可の内容と実際の面積が一致しているかも、この機会に確かめておきます。

職員の配置基準もあわせて見る

同基準第33条は、保育士の数について定めています。

年齢保育士の数
乳児おおむね3人につき1人以上
満1歳以上満3歳未満おおむね6人につき1人以上
満3歳以上満4歳未満おおむね15人につき1人以上
満4歳以上おおむね25人につき1人以上

保育所1か所につき2人を下ることはできないとされています。年齢構成が変われば必要な職員数も変わるため、休憩室や更衣室、事務スペースの広さにも影響します。改修の機会に、職員のための空間を見直す園もあります。

2階以上に保育室を設けるときは何が必要か?

避難に関する要件が加わります。

同基準第32条は、乳児室、ほふく室、保育室または遊戯室を2階以上に設ける場合について、建物の耐火性能、階段、防火区画などの要件を定めています。

2階に設ける場合であれば、常用として屋内階段または屋外階段、避難用として一定の構造の屋内階段、バルコニー、屋外傾斜路または屋外階段のいずれかが必要とされています。

増築や用途の変更で保育室を上階に移す計画では、この要件が成り立つかを先に確認します。建築基準法の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。

改修ではどんな工事が多いのか?

7つに分かれます。

  • 空調の更新。乳児室は温度の管理がより重要で、能力不足が出やすい部分です
  • 給排水の更新。給湯の配管、厨房まわり、手洗いの増設
  • トイレの改修。年齢に合った便器の高さ、職員が介助できる広さ、におい対策
  • 床の改修。転倒時の衝撃、清掃のしやすさ、衛生面
  • 調理室の改修。動線の分離、設備の更新、区画の確認
  • 外構の改修。園庭の排水、遊具の安全、送迎時の動線と駐輪スペース
  • 防犯の強化。出入口の管理、カメラ、施錠の方法

給排水設備の考え方は学校施設の給排水設備の更新とは?にまとめています。

音への対応

保育園では、園児の声が近隣との関係で問題になることがあります。窓の仕様、外壁の開口の位置、園庭と隣地の関係。改修の機会に見直す価値のある部分です。

同時に、室内の音環境も課題になります。硬い仕上げの部屋では、声が反響して保育士が声を張ることになります。天井や壁の仕上げを変えることで、改善できる場合があります。

補助制度はどうなっているのか?

就学前教育・保育施設整備交付金があります。

こども家庭庁の資料によれば、令和8年度予算額は230億円(前年度245億円)で、令和7年度補正予算額306億円が加わります。保育所等の新設、修理、改造、整備に要する経費を補助するものです。

対象となる事業には、次のものが挙げられています。

事業対象
保育所整備事業私立
幼保連携型認定こども園整備事業私立
認定こども園整備事業保育所型、幼稚園型
公立認定こども園整備事業教育部分に限る
小規模保育整備事業対象
防音壁整備事業対象
防犯対策強化整備事業対象

補助率は、原則として国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1です。

補助率が引き上げられる場合

同資料では、補助率を2分の1から3分の2に嵩上げする要件として、待機児童対策、人口減少対策、こども誰でも通園制度に関するものが挙げられています。

人口減少対策では、過疎市町村で保育ニーズの減少が見込まれる場合や、施設の統廃合等に伴う整備が対象として示されています。園児数が減っている地域での再編にも、支援の枠組みがある形です。

申請の窓口は市区町村です。年度ごとの募集と内示の時期があるため、工事の計画と合わせて早い段階で相談します。内示を受けてから着工する流れになるため、設計は前年度に済ませておきます。

開園しながらどう工事するのか?

区画を分けて段階的に進めます。

保育園は、長期休業がありません。学校のように夏休みにまとめて工事をする方法が取れないため、開園しながら進めることになります。

  • 保育室を一時的に移し、空いた区画を工事する
  • 園庭に仮設を設けて保育の場所を確保する
  • 土曜日や夜間に作業を集中させる
  • 年度の切り替わりの時期を使う

いずれも、保育の運営と安全の確保が前提です。工事の区画と園児の動線を完全に分離すること、粉じんと騒音を抑えること、工事関係者の出入りを管理することが必要になります。作業の音が午睡の時間に重ならないよう、時間帯の調整も欠かせません。

保護者への説明

工事の期間、内容、安全への配慮を、事前に保護者へ伝えます。送迎の動線が変わる場合は、図を使って具体的に示します。説明が不足すると、工事そのものより苦情の対応に時間がかかります。近隣への挨拶も、着工前に済ませておきます。

衛生と食事

調理室の改修中は、給食をどうするかを決めておきます。外部からの搬入、簡易な調理での対応、時期をずらすなど、選択肢を園と相談して決めます。

老朽化した園舎で優先するのはどこか?

安全と衛生に関わる部分からです。

改修の要望は現場から多く上がりますが、予算は限られます。優先順位の考え方は次のようになります。

順位内容判断の理由
1構造・避難に関わる部分事故が起きたときの影響が最も大きい
2給排水・調理室の衛生食中毒や感染の要因になる
3空調・断熱乳幼児は体温の調節が未熟で影響を受けやすい
4トイレ・手洗い衛生と、職員の介助の負担に直結する
5内装・外構使い勝手と印象に関わる

1から3は、先送りすると被害が大きくなる部分です。4と5は、まとめて行う方が費用の効率がよくなります。

部分改修を重ねるか、一度にやるか

小さな修繕を毎年繰り返すと、そのたびに養生と仮設の費用がかかります。開園しながらの工事では、この負担が無視できません。

数年分の修繕をまとめて1回の工事にする方が、総額では抑えられることがあります。中長期の修繕計画を作り、いつ何をやるかを決めておきます。

公立と私立で違いはあるか?

財源と手続きが違います。

公立保育園

自治体の予算で進めます。公共施設等総合管理計画の中で、統廃合や民営化の検討が並行していることがあります。大規模な改修をする前に、その施設を何年使うのかを確認しておきます。

私立保育園

社会福祉法人や学校法人などが設置主体になります。就学前教育・保育施設整備交付金の対象となる事業が多く、市区町村を通じた申請になります。

自己負担分の資金計画と、工事期間中の運営体制を合わせて検討します。定員を一時的に減らす場合は、収入への影響も見込みます。

よくある質問

Q. 保育室の面積基準は何平方メートルですか。

A. 満2歳以上の幼児1人につき1.98平方メートル以上です。乳児室は1人につき1.65平方メートル以上、ほふく室は3.3平方メートル以上です。

Q. 屋外遊戯場がない場合はどうなりますか。

A. 基準では満2歳以上の幼児1人につき3.3平方メートル以上とされています。代替となる場所の扱いは、自治体の運用によります。市区町村に確認してください。

Q. 2階に保育室を設けられますか。

A. 建物の耐火性能や階段、防火区画などの要件を満たす必要があります。設計者を通じて確認します。

Q. 補助金の補助率はどれくらいですか。

A. 就学前教育・保育施設整備交付金では、原則として国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1です。要件を満たす場合に嵩上げがあります。

Q. 工事中は休園しなければなりませんか。

A. 区画を分けて段階的に進める方法があります。保育の場所と工事の区画を分離できるかが判断の分かれ目です。

Q. 定員を増やす改修もできますか。

A. 面積の基準と職員の配置が満たせるかによります。あわせて、自治体の認可の手続きが必要です。

まとめ

保育園は児童福祉施設であり、設備の基準は児童福祉施設の設備及び運営に関する基準に定められています。乳児室は1人につき1.65平方メートル以上、ほふく室は3.3平方メートル以上、保育室または遊戯室は1.98平方メートル以上、屋外遊戯場は3.3平方メートル以上です。

面積が1人あたりで定められているため、間取りを変える改修は定員に直結します。設計に入る前に、各室の有効面積と定員の関係を確認しておく必要があります。

補助制度としては、就学前教育・保育施設整備交付金があります。令和8年度予算額は230億円で、補助率は原則、国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1です。要件を満たす場合には3分の2への嵩上げがあります。

保育園には長期休業がありません。開園しながら区画を分けて進めることが前提になります。保育の安全を確保できる工程を組めるかどうかが、計画の成否を決めます。

参考・出典

記載の制度は公表時点のものです。個別の適用は市区町村および所管の行政庁にご確認ください。

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