この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を植物工場にできるのか?

電力・空調・床荷重の制約

廃校の植物工場への転用は、提案が多く、撤退も多い用途です。

校舎は使える条件が揃っているように見えます。区画された部屋が並び、天井が高く、水道と電気が来ている。グラウンドには出荷用の車が入り、地域の雇用にもつながる。自治体としては歓迎したい提案です。

しかし人工光で栽培する施設は、電力を大量に使います。学校の受電設備は照明と教室の空調を前提にしており、栽培用の照明と空調を入れると容量が足りません。受電設備の更新は金額が大きく、ここで計画が止まります。

そして収支です。栽培の設備投資と電気代に対して、作物の単価で回収できるかという問題が残ります。

この記事では、①立地と用途の確認、②受電容量、③空調と環境、④床荷重と防水、⑤収支と撤退、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、工場等への用途変更は類似の用途に当たらない
  • 用途地域によって工場の建築が制限される地域があり、立地の確認が建築の検討より先に来る
  • 人工光で栽培する施設は受電容量が制約になり、学校の受電設備では足りないことが多い
  • 床の積載荷重は建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めており、栽培棚とかん水の重量は確認が必要
  • 廃校の植物工場は撤退の事例もあるため、撤退時の原状回復と設備の処分を契約に書く

立地と用途はどう確認するのか?

用途地域が先に来ます。

学校は多くの用途地域で建築できます。一方、工場に当たる用途は、住居系の用途地域で制限されます。校舎を栽培施設にする計画が、用途地域の段階で成立しないことがあります。

確認項目 内容
用途地域 工場に当たる用途が建築可能か
市街化調整区域 都市計画法の開発許可の論点
特別用途地区・地区計画 上乗せの制限
前面道路 出荷用の車両が通行できるか
近隣との距離 換気の排気、設備の騒音
電力の供給 周辺の配電設備の容量

郊外の小規模校は市街化調整区域に立地していることがあります。この場合、転用の可否は都市計画法の論点になり、建築基準法の検討より前の確認になります。

用途変更は類似の用途に当たらない

建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めています。学校はこの11区分のいずれにも含まれていません。

したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要です。確認申請を出すと、第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。

既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

用途の呼び方ではなく実態で判定される

「農業施設」という呼び方では、建築基準法上の用途は決まりません。何を行う建物かで判定されます。

栽培と包装を行うなら工場に近い扱いになり、収穫物を保管するだけなら倉庫に近い扱いになります。計画の内容を特定行政庁に示して確認してください。

栽培の方式で要求が変わる

太陽光を利用する方式と、人工光だけで栽培する方式では、建物への要求が大きく変わります。人工光型は電力と空調の負荷が集中し、太陽光利用型は採光と温度の制御が課題になります。

校舎を使う場合、教室の窓を活かすか塞ぐかという判断がここで決まります。

受電容量はなぜ問題になるのか?

栽培用の照明と空調が同時に動くからです。

学校の受電設備は、照明、コンセント、教室の空調を前提に容量が決められています。人工光型の栽培施設では、栽培棚ごとに照明が常時点灯し、その発熱を空調で処理します。

項目 内容
栽培用照明 栽培面積に比例して増える
空調 照明の発熱を処理する分が加わる
かん水・循環のポンプ 常時または間欠運転
冷蔵・予冷 収穫物の保管
包装の機械 工程によって異なる
受電設備 容量を超えれば更新が必要

照明と空調は、互いに増やし合う関係にあります。照明を増やせば発熱が増え、空調の容量も増える。この積み上げが受電容量の上限に当たります。

受電設備の更新は金額が大きい

キュービクルの更新、幹線の引替え、電力会社との協議。受電容量を上げる工事は、建築工事とは別に大きな金額が必要になります。

設備の更新の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。計画の初期に既存の受電容量を確認し、必要な容量と比べてください。

周辺の配電設備も確認する

敷地内の受電設備を更新しても、周辺の配電設備の容量が足りないことがあります。郊外では、電力会社側の設備の増強が必要になり、期間と費用がかかります。

事業者が計画を持ち込む段階で、電力会社への事前相談を済ませているかを確認してください。

電気代が収支を決める

人工光型では、電気代が運営費の大きな部分を占めます。栽培する作物の単価と収量に対して、電気代を含めた原価が見合うかという問題です。

この見通しが甘い計画が、数年で撤退しています。

空調と環境はどうするのか?

発熱の処理と断熱です。

項目 内容
冷房の負荷 照明の発熱が主な要因
断熱 外気の影響を抑える
気密 外気の侵入は温湿度の変動要因
湿度の管理 蒸散と結露の処理
換気 二酸化炭素の管理
防虫 開口部の処理

学校の校舎は壁に断熱材がなく、単板ガラスのアルミサッシです。この状態で室内の温湿度を一定に保とうとすると、空調が常時高負荷で動きます。

断熱改修の考え方は廃校の断熱改修はどこまでやるのか?で扱っています。人工光型では、断熱と気密が運転費に直結します。

窓を塞ぐ判断

人工光型では、外光を遮断するため窓を塞ぐ構成になります。これにより断熱と遮光が同時に改善します。

ただし窓を塞ぐと自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部として算定されている場合は避難の検討をやり直すことになります。

結露の処理

湿度の高い環境を外気温の低い季節に保つと、外壁と窓の室内側で結露します。断熱していない校舎では、結露が内装の劣化とカビの原因になります。

結露の対策は、断熱と換気の両方で考える項目です。

床荷重と防水はどう確認するのか?

栽培棚と水の重量です。

床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めています。校舎の教室は教室としての値で設計されており、栽培棚を並べる前提ではありません。

確認項目 内容
設計時の積載荷重 構造計算書で室種別の値を確認
栽培棚の重量 段数、培地、水を含めた重量
水の重量 かん水の貯留槽、循環のタンク
梁と柱の位置 重量物を置ける位置
床の防水 水を使う範囲の防水と排水
漏水時の影響 階下への影響

栽培棚は多段にすると面積あたりの重量が増えます。さらに培地と水が加わります。貯留槽やタンクは、1箇所に集中した重量になります。

1階に集約する

重量のある設備、水を使う工程、搬入搬出。これらを考えると1階に集約する構成になります。

2階以上に水を使う設備を置くと、床の防水と漏水時の影響が課題になります。学校の床は、水をこぼす前提の防水になっていません。

排水の確認

かん水の排水、洗浄の排水、空調のドレン。これらの排水先を確認してください。郊外の校舎では浄化槽で処理していることがあり、排水の増加が能力を超えることがあります。

肥料成分を含む排水は、放流先によって処理が必要になる場合があります。公共下水道に放流する場合は下水道法に基づく水質の基準があり、基準を超えるときは除害施設を設けて処理します。放流先の条件を計画の初期に確認してください。

収支と撤退はどう考えるのか?

撤退を前提に契約を書きます。

廃校の植物工場は、全国に事例がある一方で、撤退した案件もあります。設備投資が大きく、電気代が高く、作物の単価が上がりにくいという構造があります。

契約に書くこと 内容
原状回復の範囲 どこまで戻すか
設備の処分 栽培設備、受電設備の扱い
撤退時の通知期間 何か月前に通知するか
違約金 期間内の撤退の場合
残置物の責任 置いて出た場合の処理
原状回復の費用の担保 保証金、保険

最も困るのは、設備を残して撤退されることです。栽培棚、配管、受電設備が残り、次の活用の障害になります。処分には費用がかかり、自治体の負担になります。

受電設備の更新費用の負担

受電容量を上げる工事を自治体が負担するか、事業者が負担するかは、契約で決める項目です。

自治体が負担すると、撤退された場合に過大な設備が残ります。事業者が負担すると、撤退時に撤去を求めるか、残置を受け入れるかの判断が必要になります。

収支は電気代から逆算する

栽培面積と照明の消費電力から電気代を算出し、作物の単価と収量で賄えるかを確認してください。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。事業者が提出した計画の電気代の前提を、必ず確認してください。

よくある質問

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれません。200平方メートルを超えれば必要です。まず用途地域で工場に当たる用途が建築可能かを確認してください。

Q. 受電容量はなぜ問題になりますか。

A. 人工光型では栽培用照明が常時点灯し、その発熱を空調で処理します。学校の受電設備は照明と教室の空調を前提にしており、容量が足りません。

Q. 周辺の電力設備も確認が必要ですか。

A. 必要です。敷地内の受電設備を更新しても、電力会社側の設備の増強が必要になる場合があります。期間と費用がかかります。

Q. 2階以上に栽培設備を置けますか。

A. 床の積載荷重と防水が課題になります。重量のある設備と水を使う工程は1階に集約する構成が基本です。

Q. 窓は塞いだほうがよいですか。

A. 人工光型では遮光と断熱の両方で有利です。ただし自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部の算定にも関わります。

Q. 契約で何を決めておきますか。

A. 原状回復の範囲、設備の処分、撤退時の通知期間、残置物の責任です。設備を残して撤退されると次の活用の障害になります。

まとめ

廃校の植物工場への転用は提案が多く、同時に撤退も起きている用途です。校舎は区画された部屋が並び、電気と水道が来ているため使えそうに見えますが、人工光型の栽培は電力を大量に使います。

まず用途地域です。工場に当たる用途は住居系の用途地域で制限され、市街化調整区域なら都市計画法の論点になります。建築基準法の検討より前の確認です。

次に受電容量です。栽培用照明が常時点灯し、その発熱を空調で処理するため、照明と空調が互いに増やし合います。学校の受電設備では足りず、更新には大きな金額がかかります。周辺の配電設備の容量も確認が必要で、電力会社側の増強が必要になれば期間も延びます。

断熱と気密は運転費に直結します。壁に断熱材のない校舎で室内環境を一定に保とうとすると、空調が常時高負荷で動きます。窓を塞げば遮光と断熱が同時に改善しますが、換気と避難の検討をやり直すことになります。

床については建築基準法施行令第85条の積載荷重を確認してください。栽培棚は多段で面積あたりの重量が増え、培地と水が加わります。重量のある設備と水を使う工程は1階に集約するのが基本です。

そして撤退を前提に契約を書くことです。原状回復の範囲、設備の処分、通知期間、残置物の責任。設備を残して撤退されると、処分の費用が自治体の負担になり、次の活用の障害になります。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。用途の判定、積載荷重の適用および受電容量の条件は建物の状況、計画の内容および電力会社の設備により異なります。個別の適用は所管行政庁、電力会社および設計者にご確認ください。

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