目次
進め方・費用・補助金
私立小学校の施設は、公立とは違う役割を負っています。授業を行う場所であると同時に、入学を検討する家庭が実際に見に来る場所です。
そして、児童は電車やバスで広域から通ってきます。放課後も学校で過ごす時間が長く、施設が生活の場に近い使われ方をします。改修の優先順位は、この条件から決まります。
この記事では、①施設の現状、②私立小学校固有の条件、③改修の優先順位、④費用と財源、⑤進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 私立学校施設(幼稚園〜高等学校)の耐震化率は94.3パーセント(令和7年4月1日現在)
- 学校種別では、小学校94.6パーセント、中学校92.9パーセント、高等学校94.3パーセント
- 旧耐震基準の建物は5,029棟(全体の33.6パーセント)、うち耐震診断実施率89.8パーセント
- 非構造部材の耐震点検実施率は80.4パーセント、耐震対策実施率は39.8パーセント
- 改修は、安全、日常の使い勝手、見学で見られる場所の順に考える
私立小学校の施設は今どうなっているのか?
耐震化は進み、非構造部材が残っています。
文部科学省の「私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園〜高等学校)」(令和7年4月1日現在)によれば、対象は14,977棟で、耐震化率は94.3パーセント、前年度比0.7ポイントの上昇です。
| 区分 | 耐震化率 |
|---|---|
| 小学校 | 94.6パーセント |
| 中学校 | 92.9パーセント |
| 高等学校 | 94.3パーセント |
| 小学校〜特別支援学校の小計 | 95.2パーセント |
旧耐震基準で建築された建物は5,029棟で、全体の33.6パーセントを占めます。このうち耐震診断を実施したのは4,518棟、実施率は89.8パーセントです。
残っているのは非構造部材
同調査では、非構造部材について、耐震点検の実施率が80.4パーセント、耐震対策の実施率が39.8パーセントとされています。
点検はしているが、対策が済んでいない。この差が現状です。落下防止対策が必要な吊り天井を有する屋内運動場等は361棟で、対策の実施率は86.4パーセントとされています。
構造体の耐震化に比べて、非構造部材への対応は遅れています。天井、照明器具、窓ガラス、外壁の仕上げ材、収納家具。地震で落下すれば人に当たる部分です。建物が倒れなくても、けがは起こります。
耐震補強の考え方は学校施設の耐震補強とは?にまとめています。
私立小学校に固有の条件は何か?
4つあります。
広域から通学する
電車やバスで1時間近くかけて通う児童がいます。そのため、朝の到着と夕方の下校が分散し、校舎が使われる時間が長くなります。
早朝の受け入れ、放課後の預かり、待機の場所。これらの空間が必要になります。既存の教室を転用している学校では、専用の場所を確保する改修が課題になります。天候が悪い日に、屋内で待てる場所があるかも確認します。
施設が入学の判断材料になる
学校説明会、体験入学、個別の見学。保護者と子どもが実際に校舎を見て、進学先を決めます。
見られる場所は限られています。門からエントランス、受付、説明会場、廊下、トイレ、教室、そして校庭。この動線上の印象が判断に影響します。
放課後の時間が長い
アフタースクールや預かりを実施する学校が多くあります。夕方以降も児童が学校にいるため、照明、空調、防犯、飲食の場所が必要になります。
授業で使う教室をそのまま使うのか、専用の場所を設けるのか。運営の形によって必要な改修が変わります。
建学の精神を示す空間がある
チャペル、講堂、記念館など、学校の歴史や理念を表す建物を持つ学校があります。これらは日常の使用頻度が低い一方、行事と広報で重要な役割を果たします。
改修の優先順位を機能だけで決めると、こうした建物が後回しになります。学校の価値を示す部分として、別の観点で位置づける必要があります。
改修の優先順位はどう決めるのか?
3つの層で考えます。
| 層 | 内容 | 判断 |
|---|---|---|
| 安全 | 耐震、非構造部材、避難、防犯 | 先送りできない |
| 日常の使い勝手 | トイレ、空調、給排水、放課後の場所 | 在校生と教職員に直結する |
| 見学で見られる場所 | エントランス、受付、説明会場、動線 | 募集に影響する |
非構造部材は費用対効果が高い
天井の落下防止、照明器具の落下防止、窓ガラスの飛散防止、書棚の転倒防止。いずれも構造体の補強に比べて費用が小さく、安全への効果が明確です。
対策の実施率が39.8パーセントにとどまっているということは、多くの学校で手つかずの部分が残っているということでもあります。まず点検の結果を確認し、未対策の箇所を洗い出します。
トイレは在校生と来訪者の両方に効く
私立小学校のトイレは、在校生が毎日使い、見学に来た保護者も使います。洋式化、乾式化、清潔感、においの対策。改修の効果が両方に及ぶ部分です。
低学年が使う階と、来訪者が使う階を分けて考える方法もあります。全館を一度に直すより費用を抑えつつ、効果を出せる進め方です。
内装が募集に与える影響は「選ばれる学校」をつくる内装デザインの基本にまとめています。
費用と財源はどうなるのか?
自己資金と補助金の組み合わせです。
私立小学校の施設整備の財源は、学校法人の自己資金、借入、寄附、補助金です。公立のように国庫負担金の枠組みがあるわけではないため、資金計画の自由度と責任が同時にあります。
私立学校施設整備費補助金では、耐震補強、エコキャンパス、教育装置など、事業の区分ごとに対象と補助率が定められています。詳しくは私立学校施設整備費補助金の全体像を参照してください。
このほか、都道府県が実施する私立学校向けの補助制度があります。耐震診断、耐震補強、アスベスト対策、防犯対策など、自治体ごとに内容が異なります。所在する都道府県の私学担当課に確認します。
寄附を使う場合
周年事業や記念事業に合わせて寄附を募る学校があります。目標額に届かない場合の対応を決めてから、工事の契約に進みます。
段階を分けて発注し、集まった額に応じて範囲を決める方法もあります。先に契約してしまうと、資金が不足したときに動けません。
複数年度で組む
大規模な改修を一度に行うと、単年度の負担が大きくなります。棟ごと、部位ごとに分けて複数年度で進める方法が現実的です。
ただし、分けるほど仮設と養生の費用が重複します。どこまでまとめ、どこで区切るかを、設計者と相談して決めます。
工事はどう進めるのか?
夏休みが中心になります。
小学校は、長期休業中でも預かりや行事で使われます。完全に空になる期間は限られます。
- 夏休みに大きな工事を集中させる
- 学期中は、区画を分けて小規模な工事を行う
- 騒音を伴う作業は、授業時間を避ける
- 工事車両の動線と、児童の通学路を分離する
保護者への説明
工事の期間、内容、安全への配慮を、事前に伝えます。私立小学校では、保護者の関心が高く、説明が不足すると問い合わせが増えます。
改修の理由と、それによって何がよくなるのかを合わせて伝えると、受け止め方が変わります。学校の投資として説明できる内容です。
在校生の安全
児童が使う動線と工事の区画を完全に分けます。仮囲いの高さ、資材の置き場、作業員の出入口。低学年の行動を前提に計画します。
小学校全般の改修の進め方は小学校の改修・リノベーション完全ガイドにまとめています。
低学年の使いやすさをどう確保するか?
体格と行動を前提に寸法を決めます。
小学校は、6歳から12歳までが同じ校舎を使います。1年生と6年生では、身長も動作も大きく違います。すべてを平均に合わせると、どちらにも合わない結果になります。
| 部位 | 低学年で確認する点 |
|---|---|
| 便器と手洗い | 高さ、足がつくか、一人で使えるか |
| 手すり | 高さ、階段の段差と踏面 |
| 扉と取手 | 重さ、開き方向、指を挟まない構造 |
| 収納 | 手が届く高さ、転倒の防止 |
| 水飲み場 | 高さと、使用が集中する時間の数 |
低学年の教室を1階に配置し、そのフロアの仕上げと寸法を低学年向けに整える方法があります。全館を作り分けるより、費用を抑えられます。
安全は設計だけでは足りない
角の丸め、床の滑りにくさ、ガラスの種類。設計で対応できる部分はあります。一方、走ってはいけない場所、使ってよい時間帯といった運用の部分も同じくらい重要です。
改修の機会に、危険が起きやすい場所を教職員と洗い出します。図面では見えない、実際の行動から出てくる課題があります。
計画はどう立てるのか?
現状の把握から始めます。
- 建物ごとの建築年、構造、耐震診断と補強の履歴を整理する
- 非構造部材の点検結果と、未対策の箇所を洗い出す
- 設備の設置年と更新時期を台帳にまとめる
- 教職員から、使いにくい場所を聞き取る
- 見学の動線を実際に歩いて確認する
そのうえで、10年程度の計画に落とします。何年度に、どの建物の、どの部分を、いくらで直すのか。これを理事会で共有しておくと、単年度の判断がぶれなくなります。計画があれば、突発の不具合が出たときも順序を組み替えるだけで済みます。
よくある質問
Q. 私立小学校の耐震化率はどれくらいですか。
A. 令和7年4月1日現在で94.6パーセントです。私立学校施設全体(幼稚園〜高等学校)では94.3パーセントとなっています。
Q. 非構造部材の対策はどの程度進んでいますか。
A. 同調査では、耐震点検の実施率が80.4パーセント、耐震対策の実施率が39.8パーセントとされています。
Q. 補助金はどこに申請しますか。
A. 国の私立学校施設整備費補助金のほか、都道府県の補助制度があります。都道府県の私学担当課に確認してください。
Q. 募集のために何を直せば効果がありますか。
A. 見学の動線上にある場所です。エントランス、受付、説明会場、トイレ、廊下が中心になります。
Q. 工事はいつ行いますか。
A. 夏休みが中心です。ただし預かりや行事で使われるため、完全に空になる期間は限られます。
Q. チャペルや講堂の改修は後回しでよいですか。
A. 使用頻度は低くても、行事と広報で役割を持つ建物です。機能だけで判断せず、別の観点で位置づけます。
Q. 非構造部材の対策は何から手をつけますか。
A. 点検の結果で指摘されている箇所からです。天井、照明器具、窓ガラス、収納家具の転倒防止が中心になります。
Q. アフタースクールの場所は専用に設けるべきですか。
A. 運営の形によります。毎日実施して人数も多いなら、専用の場所を設ける方が運営は安定します。
Q. 改修の計画は何年分作ればよいですか。
A. 10年程度が目安です。建物の更新周期と、資金計画の見通しが立つ範囲で組みます。
まとめ
私立学校施設(幼稚園〜高等学校)の耐震化率は94.3パーセント、小学校では94.6パーセントです(令和7年4月1日現在)。旧耐震基準の建物は5,029棟で全体の33.6パーセント、耐震診断の実施率は89.8パーセントです。
残る課題は非構造部材です。耐震点検の実施率80.4パーセントに対し、耐震対策の実施率は39.8パーセントにとどまっています。点検で分かっている危険が、対策されないまま残っている状態です。
私立小学校では、広域通学、放課後の時間の長さ、施設見学という条件が加わります。安全を最優先にしつつ、日常の使い勝手、見学で見られる場所という順で優先順位を決めます。
財源は、自己資金、借入、寄附、国と都道府県の補助金の組み合わせです。10年程度の計画を作り、理事会で共有しておくことが、単年度の判断をぶれさせない方法になります。
参考・出典
- 文部科学省「私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園〜高等学校)」(令和7年4月1日現在) https://www.mext.go.jp/content/20260326-mxt_sigakujo-100001477_04.pdf
- 文部科学省「私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園〜高等学校)」公表ページ https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/006/1259295.htm
- 私立学校法、私立学校振興助成法、建築基準法
記載の制度・数値は公表時点のものです。最新の内容は所管省庁および都道府県の公表資料でご確認ください。
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