この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

保育園は改修か建替えか?

判断基準・費用比較・長寿命化の考え方

保育園には長期休業がありません。これが、改修か建替えかの判断を他の施設と大きく分けます。

建て替えるには、園児を別の場所に移すか、敷地内に仮設を建てる必要があります。どちらも簡単ではありません。結果として、改修で対応する選択が多くなります。

この記事では、①設備基準の確認、②判断の材料、③補助制度、④費用の比べ方、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 乳児室は1人1.65平方メートル以上、ほふく室は3.3平方メートル以上
  • 保育室または遊戯室は満2歳以上の幼児1人につき1.98平方メートル以上、屋外遊戯場は3.3平方メートル以上
  • 就学前教育・保育施設整備交付金の補助率は原則、国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1
  • 待機児童対策、人口減少対策、こども誰でも通園制度の要件で、補助率が2分の1から3分の2に嵩上げされる
  • 長期休業がないため、建替えには園児の移転先が必要になる

設備基準はどうなっているのか?

児童1人あたりの面積で定められています。

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第32条は、保育所の設備について次のように定めています。

室対象1人あたりの面積
乳児室乳児または満2歳未満の幼児1.65平方メートル以上
ほふく室乳児または満2歳未満の幼児3.3平方メートル以上
保育室または遊戯室満2歳以上の幼児1.98平方メートル以上
屋外遊戯場満2歳以上の幼児3.3平方メートル以上

このほか、乳児または満2歳未満の幼児を入所させる保育所には医務室が必要です。調理室と便所は、すべての保育所に必要とされています。

間取りを変えると定員が動く

面積が1人あたりで定められているため、部屋の広さが変われば受け入れ可能な人数も変わります。改修で倉庫を設ける、事務室を広げる、廊下を付け替える。いずれも保育室の面積に影響する可能性があります。

改修の前に、現在の各室の有効面積と、定員に対する余裕を確認します。設計の途中で定員が減ることが分かると、計画そのものを見直すことになります。

設備基準の詳細は保育園の改修では何を押さえるのか?にまとめています。

判断の材料は何か?

6つあります。

材料見るもの
建物の状態躯体の劣化、耐震性能、給排水と空調の状態
園児数の見通し地域の就学前人口と、保育ニーズの動き
定員の維持改修で定員が減らないか
移転先の有無建て替える場合、園児をどこで受け入れるか
敷地の条件仮設を置けるか。屋外遊戯場を確保できるか
補助の要件待機児童対策か、人口減少対策か

移転先の有無が選択肢を決める

建替えを選ぶには、工事期間中の保育の場所が必要です。近隣に別の園がある、公共施設を借りられる、敷地に仮設を建てられる。いずれかの条件が必要になります。

条件がそろわない場合、改修で対応することになります。この判断は建物の状態より前に来ます。

屋外遊戯場の確保

敷地内に仮設を建てれば、屋外遊戯場が使えなくなります。近隣の公園を使う方法もありますが、移動の安全と職員の配置に影響します。

基準では満2歳以上の幼児1人につき3.3平方メートル以上とされています。工事中の代替について、市区町村に確認します。

判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。

補助制度はどうなっているのか?

就学前教育・保育施設整備交付金があります。

こども家庭庁の資料によれば、就学前教育・保育施設整備交付金の令和8年度予算額は230億円(前年度245億円)で、令和7年度補正予算額306億円が加わります。保育所等の新設、修理、改造、整備に要する経費を補助するものです。

補助率は、原則として国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1です。

補助率が引き上げられる3つの要件

同資料では、補助率を2分の1から3分の2に嵩上げする要件として、次のものが挙げられています。

要件内容
待機児童対策待機児童10人以上見込み、財政力指数1.0未満、20人以上の定員増加
人口減少対策過疎市町村で保育ニーズの減少見込み、施設の統廃合等に伴う整備
こども誰でも通園制度乳児等通園支援事業を実施する市区町村が総合支援システムを導入予定

注目すべきは人口減少対策です。定員を増やす整備だけでなく、施設の統廃合等に伴う整備も嵩上げの対象として示されています。縮小や再編を伴う整備にも、支援の枠組みがある形です。

補助制度の詳細は保育園・学童の施設整備にはどの補助金が使えるか?にまとめています。

申請の窓口と時期

申請の窓口は市区町村です。年度ごとの募集と内示の時期があるため、工事の計画と合わせて早い段階で相談します。内示を受けてから着工する流れになるため、設計は前年度に済ませておきます。

費用はどう比べるのか?

30年、40年の総額で並べます。

項目改築長寿命化改修
初期費用大きい改築より小さい
定員の変更自由に計画できる既存の面積に制約される
乳児の受け入れ設計に織り込める給排水と空調の追加が必要
工事中の保育移転先または仮設が必要区画を分けて段階施工できる
屋外遊戯場仮設で使えなくなる期間がある影響を小さくできる

工事費、修繕費、光熱費を同じ期間で足し合わせます。加えて、工事期間中に定員を減らす場合は、その分の収入の減少も見込みます。

長寿命化改修の内容は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。

部分改修を重ねるか、一度にやるか

小さな修繕を毎年繰り返すと、そのたびに養生と仮設の費用がかかります。開園しながらの工事では、この負担が無視できません。

数年分の修繕をまとめて1回の工事にする方が、総額では抑えられることがあります。中長期の修繕計画を作り、いつ何をやるかを決めておきます。

どの部分を優先するのか?

安全と衛生からです。

順位内容判断の理由
1構造・避難に関わる部分事故が起きたときの影響が最も大きい
2給排水・調理室の衛生食中毒や感染の要因になる
3空調・断熱乳幼児は体温の調節が未熟で影響を受けやすい
4トイレ・手洗い衛生と、職員の介助の負担に直結する
5内装・外構使い勝手と印象に関わる

1から3は、先送りすると被害が大きくなる部分です。4と5は、まとめて行う方が費用の効率がよくなります。

工事はどう進めるのか?

区画を分けて段階的に進めます。

  • 保育室を一時的に移し、空いた区画を工事する
  • 園庭に仮設を設けて保育の場所を確保する
  • 土曜日や夜間に作業を集中させる
  • 年度の切り替わりの時期を使う

いずれも、保育の運営と安全の確保が前提です。工事の区画と園児の動線を完全に分離すること、粉じんと騒音を抑えること、工事関係者の出入りを管理することが必要になります。作業の音が午睡の時間に重ならないよう、時間帯の調整も欠かせません。

保護者への説明

工事の期間、内容、安全への配慮を、事前に保護者へ伝えます。送迎の動線が変わる場合は、図を使って具体的に示します。近隣への挨拶も、着工前に済ませておきます。

給食の対応

調理室の改修中は、給食をどうするかを決めておきます。外部からの搬入、簡易な調理での対応、時期をずらす。選択肢を園と相談して決めます。

建替えを選べる条件は何か?

3つそろったときです。

保育園で建替えが成り立つのは、次の条件がそろう場合に限られます。

条件内容
移転先工事期間中、園児を受け入れる場所がある
財源自己負担分を用意できる。補助の採択見込みがある
年数建て替えた後、長期間使う見込みがある

移転先の探し方

法人が複数の園を運営している場合、近隣の園に一時的に受け入れる方法があります。定員の一時的な変更について、市区町村に確認が必要です。

公共施設の空きを借りる方法もあります。児童館、公民館、閉校した学校。用途変更や消防法の手続きが必要になる場合があるため、早い段階で相談します。

敷地内に仮設を建てる場合

仮設の園舎でも、保育室の面積、採光、換気、便所、調理室の条件を満たす必要があります。プレハブなら何でもよいわけではありません。

建築基準法上の扱いと、児童福祉施設としての基準の両方を確認します。設置の期間によって手続きが変わります。

段階的な建替え

棟が複数ある園では、一部を建て替えて移り、その後に残りを建て替える方法があります。工期は延びますが、外部への移転が不要になります。

公立と私立で違いはあるか?

判断の枠組みが違います。

公立保育園では、自治体の予算で進めます。公共施設等総合管理計画の中で、統廃合や民営化の検討が並行していることがあります。大規模な改修をする前に、その施設を何年使うのかを確認しておきます。

私立保育園では、社会福祉法人や学校法人などが設置主体になります。就学前教育・保育施設整備交付金の対象となる事業が多く、市区町村を通じた申請になります。自己負担分の資金計画と、工事期間中の運営体制を合わせて検討します。

よくある質問

Q. 保育室の面積基準は何平方メートルですか。

A. 満2歳以上の幼児1人につき1.98平方メートル以上です。乳児室は1.65平方メートル以上、ほふく室は3.3平方メートル以上です。

Q. 建替えは選択肢になりますか。

A. 工事期間中の保育の場所が確保できるかで決まります。移転先や仮設の条件がそろわない場合、改修で対応することになります。

Q. 補助率はどれくらいですか。

A. 原則として国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1です。要件を満たす場合、2分の1から3分の2に嵩上げされます。

Q. 縮小する整備にも補助はありますか。

A. 人口減少対策の要件では、過疎市町村での保育ニーズの減少見込みや施設の統廃合等に伴う整備が挙げられています。

Q. 工事中に定員を減らす必要がありますか。

A. 区画の分け方によります。減らす場合は、収入の減少も費用の比較に含めます。

Q. 屋外遊戯場が使えない期間はどうしますか。

A. 近隣の公園を使う方法がありますが、移動の安全と職員の配置に影響します。市区町村に確認します。

Q. 仮設の園舎でも基準を満たす必要がありますか。

A. 保育室の面積、採光、換気、便所、調理室の条件を満たす必要があります。設置の期間によって手続きも変わります。

Q. 近隣の園に一時的に移れますか。

A. 定員の一時的な変更について、市区町村への確認が必要です。法人が複数の園を持つ場合は検討の価値があります。

Q. 段階的に建て替えられますか。

A. 棟が複数あれば可能です。工期は延びますが、外部への移転が不要になります。

まとめ

保育園には長期休業がありません。建て替えるには工事期間中の保育の場所が必要で、移転先や仮設の条件がそろわなければ選択肢になりません。この判断が、建物の状態より前に来ます。

設備の基準は児童1人あたりの面積で定められています。乳児室1.65平方メートル、ほふく室3.3平方メートル、保育室または遊戯室1.98平方メートル、屋外遊戯場3.3平方メートル。間取りを変える改修は定員に直結するため、設計の前に有効面積を確認します。

補助制度は就学前教育・保育施設整備交付金です。補助率は原則、国2分の1、市区町村4分の1、設置主体4分の1で、待機児童対策、人口減少対策、こども誰でも通園制度の要件を満たせば2分の1から3分の2に嵩上げされます。人口減少対策では、統廃合等に伴う整備も対象として挙げられています。

優先する順序は、構造と避難、給排水と調理室の衛生、空調と断熱、トイレと手洗い、内装と外構です。小さな修繕を毎年繰り返すより、数年分をまとめる方が総額では抑えられます。

参考・出典

記載の制度は公表時点のものです。個別の適用は市区町村および所管の行政庁にご確認ください。

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