この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校の財産処分手続きとは?

国庫納付の要否と無償化の条件

廃校を活用しようとして、最初につまずくのがこの手続きです。校舎は国の補助金を受けて建てられています。補助金をもらった目的は「学校として使うこと」でした。その目的と違う使い方をするなら、国の手続きが必要になります。

ここを飛ばして民間事業者と話を進めてしまうと、後で止まります。公募をかけた後に国庫納付が必要だと分かり、条件を組み替えることになった例もあります。

判断の分かれ目は2つだけです。補助事業の完了から10年以上経っているか。そして、無償で渡すのか有償で渡すのか。この2つで手続きの重さが決まります。

この記事では、①財産処分とは何か、②10年という基準、③国庫納付の要否、④承認が不要な場合、⑤処分制限期間、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 根拠は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第22条
  • 補助事業完了後10年以上経過した建物等の無償による財産処分は、報告のみで済む
  • 有償による財産処分では国庫納付が必要になるが、国庫補助金相当額以上を学校施設整備費の基金に積み立てる場合は納付が不要
  • 耐震補強事業、大規模改造事業(法令適合)、防災機能強化事業の無償処分は、10年未満でも承認が不要
  • 処分制限期間は、平成13年度以降の取得で鉄筋コンクリート造47年、木造22年

財産処分とは何か?

補助金を受けて整備した施設を、補助の目的に反して処分することです。

具体的には、他の用途に転用する、他者に譲渡する、他者に貸し付ける、取り壊す、担保に供する、という行為が該当します。廃校を民間に売る、企業に貸す、福祉施設に変える。どれも財産処分です。

学校として使い続けている限り、この手続きは出てきません。学校をやめた時点で初めて問題になります。

廃校活用の全体像は廃校活用の事例と進め方は?にまとめています。

補助金を受けていない施設はどうなるか

国の補助を受けずに自治体の単独費で建てた建物であれば、この手続きは不要です。ただし公立学校の校舎で単独費のみというのは多くありません。

増築や改修の一部に補助が入っている場合もあります。どの工事にどの補助が入ったかを、過去の台帳で確認する作業が最初の仕事になります。

なぜ承認が必要なのか?

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第22条が根拠です。

同条は、補助事業者が補助金等の交付の目的に反して財産を処分する場合、各省各庁の長の承認を受けなければならないと定めています。公立学校施設については文部科学大臣の承認です。

国の税金で建てた施設を、国の了解なく別の目的に使うことはできないという考え方です。承認を受けずに処分すると、補助金の返還を求められる可能性があります。

誰が手続きをするのか

補助事業者である自治体です。教育委員会が窓口になることが多いですが、財産の所管が総務部門や財政部門に移っている場合は庁内の調整が先に必要になります。

廃校の売却や貸付の手順は廃校の売却・貸付と公募はどう進めるか?で扱っています。

統合して校舎を使い続ける場合はどうなるのか?

財産処分には当たりません。

学校統廃合では、旧校名は廃止されても建物を統合校の校舎として使い続けることがあります。学校としての使用が続いているため、補助の目的に反した処分ではありません。

文部科学省の廃校施設活用状況実態調査(令和3年5月1日現在)では、活用されている廃校施設の用途として「学校(大学を除く)」が3,948校と最も多く挙げられています。統計上は廃校でも、校舎としては生き続けているという状態です。

この場合、手続きが必要になるのは校舎を使わなくなった時点です。統合の検討段階では、どの棟を残しどの棟を手放すかを決めるときに論点として出てきます。

10年という基準は何を分けるのか?

手続きが「承認」で済むか「報告」で済むかを分けます。

文部科学省の財産処分手続ハンドブックでは、補助事業完了後10年以上経過した建物等の無償による財産処分は、報告のみで足りるとされています。

経過年数無償の場合有償の場合
10年以上報告のみ承認が必要。国庫納付の論点が発生
10年未満承認が必要承認が必要。国庫納付の論点が発生

10年の起算点は建物の完成ではなく、補助事業の完了です。複数回の改修に補助が入っている建物では、工事ごとに経過年数が違います。

新しい工事が混ざっている場合

校舎本体は30年前の補助事業でも、5年前にトイレ改修の補助を受けていることがあります。この場合、トイレ改修分は10年未満です。

ハンドブックでは、10年以上経過した建物と併行して実施された10年未満の事業の無償処分について、包括承認事項として整理されています。個別の承認申請を要しない扱いです。

ただし運用の細部は年度の通知で変わります。所管の都道府県教育委員会を通じて文部科学省に確認してください。

国庫納付はどんなときに必要なのか?

有償で処分し、かつ基金に積み立てない場合です。

ハンドブックでは、有償による財産処分について、国庫補助金相当額以上を学校施設整備費に充てるための基金に積み立てない場合に国庫納付が必要とされています。

条件国庫納付
無償で譲渡・貸付・転用(10年以上経過)不要
有償で処分し、国庫納付相当額以上を学校施設整備費の基金に積み立てる不要
有償で処分し、基金に積み立てない必要

ここが実務上もっとも重要な分岐です。売却益を一般財源に入れてしまうと国庫納付が発生し、手元に残る額が減ります。学校施設整備費の基金に積むなら納付が要りません。

公募の条件設計に影響する

売却か貸付か、有償か無償か。この選択が国庫納付の要否を決めます。

地域振興を目的に無償貸付で民間に使わせる方式を選ぶ自治体が多いのは、手続きが報告で済み、国庫納付も発生しないためです。賃料収入は得られませんが、維持管理費の負担がなくなり、雇用や交流人口の効果を狙えます。

逆に、更地にして売却益を得る方針なら、基金の設置を先に庁内で決めておく必要があります。解体費用の構造は廃校の解体費用はいくらかかるのか?で扱っています。

承認が要らない場合はあるのか?

あります。包括承認事項として整理されている処分です。

ハンドブックでは、耐震補強事業、大規模改造事業のうち法令適合に係るもの、防災機能強化事業について、無償による処分であれば10年未満でも承認を要しないとされています。

区分内容
耐震補強事業無償処分は10年未満でも承認不要
大規模改造事業(法令適合)同上
防災機能強化事業同上
10年以上経過建物と併行する10年未満の事業無償処分は包括承認の対象

これらは安全確保のための工事であり、転用後も建物の安全性として引き継がれるという整理です。

包括承認でも報告は要る

承認が不要であることと、何もしなくてよいことは別です。報告の手続きは残ります。提出の時期や様式は年度ごとの通知で定められているため、都道府県教育委員会に確認してください。

処分制限期間は何年なのか?

建物の構造で決まります。

ハンドブックでは、平成13年度以降の取得について、鉄筋コンクリート造47年、木造22年とされています。減価償却資産の耐用年数に合わせた期間です。

構造処分制限期間
鉄筋コンクリート造47年
木造22年

この期間を過ぎれば、補助金の目的に拘束されないという考え方です。昭和40年代、50年代に建てた鉄筋コンクリート造の校舎は、まだこの期間内にあるものが残っています。

ただし10年以上経過していれば無償処分は報告で済むため、処分制限期間が実務の障害になる場面は限られます。期間が問題になるのは有償処分や担保設定を検討する場合です。

起債の償還が残っている場合

補助金の手続きとは別に、地方債の論点があります。償還期間中の施設を処分する場合、起債の条件に基づいて繰上償還を求められることがあります。

補助の経過年数と起債の償還期間は別の制度です。10年以上経過していて補助の手続きが報告で済んでも、起債が残っていれば財政部門との調整が必要になります。処分方法を決める前に、償還の残高と残期間を確認してください。

手続きはどう進めるのか?

補助履歴の調査から始めます。

段階内容
1. 補助履歴の調査どの工事にどの補助が入ったか。完了年度を特定する
2. 経過年数の判定工事ごとに10年以上か10年未満かを整理する
3. 処分方法の決定無償か有償か。譲渡・貸付・転用・取壊しのどれか
4. 庁内調整基金設置の要否、財産所管部門との協議
5. 都道府県への相談承認か報告か、様式と時期を確認する
6. 申請・報告文部科学省への手続き

1の補助履歴の調査に時間がかかります。古い台帳が紙で残っているだけの自治体もあります。民間への公募を考えるより先に、ここを終わらせておくほうが安全です。

公募の前に終わらせる

公募要項に「国の承認を前提とする」と書いて逃げる方法はありますが、応募者にとっては不確実性です。手続きの見通しを示せないと、良い提案が集まりません。

転用に伴う改修の技術的な論点は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?にまとめています。

よくある質問

Q. 財産処分の承認を受けずに転用した場合どうなりますか。

A. 補助金の返還を求められる可能性があります。気づいた時点で都道府県教育委員会に相談してください。

Q. 10年の起算点はいつですか。

A. 建物の完成ではなく補助事業の完了です。複数回の補助がある建物では工事ごとに判定します。

Q. 貸付も財産処分に当たりますか。

A. 当たります。他者に使用させる行為は補助の目的と異なる使用に該当します。

Q. 売却益を一般財源に入れることはできますか。

A. 可能ですが、その場合は国庫納付が必要になります。学校施設整備費の基金に積み立てる場合は納付が不要です。

Q. 一部だけを転用する場合はどうなりますか。

A. 転用する部分について手続きが必要です。面積按分で補助金相当額を算定する扱いになります。

Q. 取り壊す場合も手続きが必要ですか。

A. 必要です。取壊しも財産処分に含まれます。

Q. 統合して校舎を使い続ける場合も手続きが必要ですか。

A. 学校として使い続けるなら財産処分には当たりません。使わなくなった時点で手続きが必要になります。

まとめ

廃校の財産処分は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第22条に基づく手続きです。補助金を受けて建てた校舎を学校以外の用途に使う、譲渡する、貸す、取り壊す。いずれも対象になります。

判断の分かれ目は2つです。補助事業完了後10年以上経過しているか。無償か有償か。10年以上経過した建物等の無償による財産処分は、報告のみで済みます。

有償による処分では国庫納付の論点が生じます。国庫補助金相当額以上を学校施設整備費に充てるための基金に積み立てる場合は、納付が不要です。売却益の使い道を先に庁内で決めておく必要があります。

耐震補強事業、大規模改造事業(法令適合)、防災機能強化事業の無償処分は、10年未満でも承認が不要です。処分制限期間は平成13年度以降の取得で鉄筋コンクリート造47年、木造22年です。

実務では補助履歴の調査に時間がかかります。公募をかける前にここを終わらせ、承認か報告かの見通しを立ててから民間と話を始めるほうが、手戻りが少なくなります。

参考・出典

記載の制度・手続きは公表時点のものです。承認か報告かの区分、様式および提出時期は年度の通知により変わります。個別の適用は所管の都道府県教育委員会および文部科学省にご確認ください。

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