この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

長寿命化とは何か?【2026年版】建築物の長寿命化の意味と公共施設での使われ方

長寿命化とは、建物や設備を適切に手入れして使える期間を延ばすことです。

建物は放置すれば劣化します。劣化が進んでから建て替えるのではなく、計画的に手を入れて使える期間を延ばす。この考え方が長寿命化です。

公共施設で広く使われるようになった起点は、平成25年11月にインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議で決定されたインフラ長寿命化基本計画です。全国のあらゆるインフラについて、各インフラの管理者等がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成することが規定されました。

学校施設では、目標使用年数80年を前提とした改修のサイクルが示されています。

この記事では、①言葉の意味、②制度としての長寿命化、③学校施設での使われ方、④長寿命化改修の内容、⑤進め方、の5点を整理します。

目次

この記事の要点

  • 長寿命化とは建物や設備を適切に手入れして使える期間を延ばすこと
  • 公共施設での起点は平成25年11月のインフラ長寿命化基本計画
  • 各インフラの管理者等がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成する
  • 個別施設計画は令和2年度までに策定することとされた
  • 学校施設では目標使用年数80年を前提に、築20年・40年・60年で改修するサイクルが示されている

長寿命化とはどういう意味か?

使える期間を延ばすことです。

用語 意味
長寿命化 建物や設備を手入れして使える期間を延ばすこと
予防保全 不具合が出る前に手を入れること
事後保全 不具合が出てから直すこと
ライフサイクルコスト 建設から解体までにかかる総費用
目標使用年数 何年使うことを目標とするか

予防保全が前提になる

雨漏りしてから屋根を直すのが事後保全、漏る前に防水を更新するのが予防保全です。

長寿命化は予防保全を前提とします。壊れてから直す方式では、建物の寿命は延びません。

総費用で判断する

改修には費用がかかります。一見すると、放置して建て替える方が安く見えます。

しかし建設から解体までの総費用で見ると、計画的に改修した方が安くなるという考え方です。これがライフサイクルコストの発想です。

建て替えないという選択ではない

長寿命化は建て替えを否定するものではありません。いずれ建て替える前提で、その時期を延ばすという考え方です。

したがって長寿命化改修を行った建物も、最終的には改築します。

設備は建物より寿命が短い

建物の構造体は数十年使えますが、空調、給排水、電気設備の寿命は短いです。したがって長寿命化は、構造体を長く使いながら設備を更新していく形になります。

修繕と更新の周期については「平成31年版 建物のライフサイクルコスト」(国土交通省大臣官房官庁営繕部監修、建築保全センター発行)の中規模事務庁舎モデルが参照されます。屋根・屋上は修繕20年・更新30年、外壁は修繕10年・更新50年、空調は修繕10年・更新20年という目安です。

耐震性とは別の話

長寿命化と耐震化は目的が異なります。耐震化は地震に対する安全性、長寿命化は使える期間の延長です。

ただし実際の工事では同時に行う場合があります。

「長寿命化」と「大規模改修」の違い

大規模改修は工事の規模を指す言い方です。長寿命化は目的を指します。

長寿命化のために大規模改修を行う、という関係です。

制度としての長寿命化はどうなっているのか?

インフラ長寿命化基本計画が起点です。

計画 内容
インフラ長寿命化基本計画 平成25年11月、インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議で決定
インフラ長寿命化計画(行動計画) 各インフラの管理者等が作成
個別施設計画 メンテナンスサイクルの核。令和2年度までに策定

平成25年に始まった

インフラ長寿命化基本計画は平成25年11月に決定されました。全国のあらゆるインフラについて、着実に老朽化対策を実施するためのものです。

この計画により、各インフラの管理者等がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成することが規定されました。

3層の計画構造になっている

基本計画が国全体の方針、行動計画が管理者ごとの計画、個別施設計画が施設ごとの計画です。

自治体では、公共施設等総合管理計画が行動計画に相当し、その下に施設種別ごとの個別施設計画が置かれます。

個別施設計画が核になる

各社会資本の管理者は、メンテナンスサイクルの核となる個別施設計画を令和2年度までに策定し、これに基づき戦略的な維持管理・更新等を推進することとされました。

学校施設の個別施設計画は、学校施設の長寿命化計画として策定されています。内容は学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)とはで扱っています。

計画がないと起債に影響する

公共施設等適正管理推進事業債は、公共施設等総合管理計画等への位置づけを前提とします。個別施設計画は令和4年度までに策定が要請され、令和7年3月末時点で99.4パーセントの団体が見直しを完了しています。

つまり計画の策定が財源の前提になっています。

計画は見直すもの

一度作れば終わりではありません。施設の状況が変わり、児童生徒数の推計が変わると、計画の内容も変わります。

定期的な見直しが前提です。

中長期の修繕計画と連動する

個別施設計画は施設ごとの方針を示します。実際の工事は、中長期の修繕計画に落とし込みます。

計画の作り方は施設整備の中長期修繕計画の作り方で扱っています。

学校施設ではどう使われているのか?

目標使用年数80年が前提です。

時期 工事
築20年 大規模改造
築40年 大規模改修(長寿命化改修)
築60年 大規模改造
築80年 改築

80年使う前提で計画する

文部科学省の方針を受けた自治体の計画では、目標使用年数を80年とし、上記のサイクルが示されています。

従来は築40年前後で改築する考え方でしたが、80年使う前提に変わりました。

築40年の改修が分岐点になる

築40年の大規模改修が長寿命化改修に相当します。ここで躯体の状態を調べ、80年使えるかを判断します。

使えないと判断されれば改築に方針を変えます。

国の補助がある

長寿命化改良事業として、学校施設環境改善交付金の対象になります。算定割合は3分の1から2分の1です。

制度の内容は長寿命化改良事業(補助)の対象と進め方で扱っています。

改築と比べた判断

改築は3分の1から2分の1、長寿命化改良も3分の1から2分の1です。したがって補助の算定割合では大きな差がありません。

判断は躯体の状態と総費用で行います。長寿命化改修の内容は学校の長寿命化改良事業とはで扱っています。

児童生徒数の推計と合わせる

80年使う前提で改修しても、20年後に統廃合で廃校になれば投資が無駄になります。

したがって長寿命化の判断は、児童生徒数の推計と統廃合の方針と一体で行う必要があります。

全校を長寿命化できるとは限らない

校舎の数が多い団体では、全校を80年使う計画を立てても財政が持ちません。

残す学校と統合する学校を分け、残す学校に投資を集中させる形になります。

長寿命化改修では何をするのか?

躯体を残して内外装と設備を更新します。

部位 工事の内容
構造体 劣化の調査、必要に応じた補修・補強
屋根・屋上 防水の更新
外壁 改修、塗装、タイルの補修
外部建具 サッシの更新、断熱性能の向上
内装 床、壁、天井の更新
設備 空調、給排水、電気、換気の更新
機能向上 バリアフリー化、ICT対応、断熱

躯体の調査が出発点になる

コンクリートの中性化、鉄筋の腐食、ひび割れ。これらを調査して、あと何年使えるかを判断します。

調査の結果が悪ければ、長寿命化の方針そのものを見直します。

設備の更新が費用の大きな部分を占める

空調、給排水、電気。これらの更新費用は、工事費のかなりの割合を占めます。

とくに配管は壁や床の中にあるため、更新には内装の解体が伴います。

機能向上を同時に行う

躯体を残して内外装を更新する機会に、バリアフリー化、断熱性能の向上、ICT対応を同時に行います。

別々に工事すると、養生と仮設の費用が重複します。

工事中の授業への影響

長寿命化改修は規模が大きいため、工事中の授業への影響が大きくなります。

夏休みに集中させる、棟ごとに分けて施工する、仮設校舎を建てる。いずれも工期と費用に影響します。

法令の遡及が論点になる

既存の建物に手を入れると、現行の法令への適合が求められる部分が出ます。大規模の修繕・模様替は建築確認の対象です。

令和7年4月1日施行の改正で、2階建て又は延べ面積200平方メートル超の建築物は構造によらず構造関係規定等の審査が必要になり、大規模な修繕・模様替も建築確認の対象となりました。

既存の図面が揃っているかを確認する

長寿命化改修には既存の図面が必要です。図面がない、現況と合っていない。こうした学校では、現況調査から始めます。

「既存建築物の現況調査ガイドライン(第5版)」が令和6年12月に策定されています。建築士が実施するものです。

進め方はどうするのか?

調査と計画が先に来ます。

手順 内容
1 施設ごとの築年数と改修の履歴を整理する
2 躯体の劣化調査を行う
3 児童生徒数の推計と統廃合の方針を確認する
4 長寿命化と改築のどちらにするかを判断する
5 個別施設計画に位置づける
6 中長期の修繕計画に落とす
7 年度ごとの予算と補助の申請を行う

履歴の整理が最初の作業

築年数だけでなく、いつどの部位を改修したかの記録が必要です。記録がないと、次に手を入れる部位が判断できません。

記録が散逸している団体では、この整理が最初の作業になります。

調査なしに方針を決めない

築年数だけで長寿命化の可否を判断すると、調査の結果と合わないことがあります。

躯体の状態は、同じ築年数でも立地と使用状況で変わります。

統廃合の方針と一体で判断する

残す学校か統合する学校かで、投資の方針が変わります。統合する学校に長寿命化の投資をしても回収できません。

したがって教育委員会の統廃合の検討と、施設部門の長寿命化の検討を同時に進めてください。

計画への位置づけが財源の前提になる

公共施設等適正管理推進事業債や学校施設環境改善交付金の長寿命化改良は、計画への位置づけを前提とします。

計画に書かれていない工事には財源が付きません。

工事の順番を決める

全校を同時に改修できないため、順番を決めます。劣化の程度、児童生徒数、通学区域の状況。

優先順位の根拠を示せるようにしてください。議会や保護者への説明で問われます。

定期的に見直す

計画は固定ではありません。調査の結果、児童生徒数の変化、財政の状況。これらに応じて見直します。

見直しの時期をあらかじめ決めておくと、計画が形骸化しません。

よくある質問

Q. 長寿命化とはどういう意味ですか。

A. 建物や設備を適切に手入れして使える期間を延ばすことです。壊れてから直す事後保全ではなく、不具合が出る前に手を入れる予防保全が前提になります。

Q. 制度としての起点はいつですか。

A. 平成25年11月です。インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議でインフラ長寿命化基本計画が決定され、各インフラの管理者等が行動計画を作成することが規定されました。

Q. 個別施設計画とは何ですか。

A. メンテナンスサイクルの核となる施設ごとの計画です。各社会資本の管理者は令和2年度までに策定し、これに基づき戦略的な維持管理・更新等を推進することとされました。

Q. 学校施設は何年使う前提ですか。

A. 文部科学省の方針を受けた計画では目標使用年数80年とされ、築20年で大規模改造、築40年で大規模改修、築60年で大規模改造、築80年で改築というサイクルが示されています。

Q. 長寿命化と耐震化は同じですか。

A. 違います。耐震化は地震に対する安全性、長寿命化は使える期間の延長が目的です。ただし実際の工事では同時に行う場合があります。

Q. 長寿命化すれば建て替えなくてよいのですか。

A. 違います。いずれ建て替える前提で、その時期を延ばす考え方です。長寿命化改修を行った建物も最終的には改築します。

まとめ

長寿命化とは、建物や設備を適切に手入れして使える期間を延ばすことです。壊れてから直す事後保全ではなく、不具合が出る前に手を入れる予防保全を前提とします。建設から解体までの総費用(ライフサイクルコスト)で見ると、計画的に改修した方が安くなるという発想です。

公共施設で広く使われるようになった起点は、平成25年11月にインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議で決定されたインフラ長寿命化基本計画です。全国のあらゆるインフラについて各管理者等がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成することが規定され、メンテナンスサイクルの核となる個別施設計画は令和2年度までに策定することとされました。

学校施設では、目標使用年数80年を前提としたサイクルが示されています。築20年で大規模改造、築40年で大規模改修、築60年で大規模改造、築80年で改築という流れです。築40年の改修が分岐点で、ここで躯体の状態を調べ、80年使えるかを判断します。使えないと判断されれば改築に方針を変えます。

工事の内容は、躯体を残して内外装と設備を更新することです。あわせてバリアフリー化、断熱性能の向上、ICT対応といった機能向上を同時に行います。別々に工事すると養生と仮設の費用が重複するため、まとめた方が総額は下がります。

注意すべきは、長寿命化の判断を児童生徒数の推計と統廃合の方針と一体で行う点です。80年使う前提で改修しても、20年後に統廃合で廃校になれば投資が回収できません。校舎の数が多い団体では全校を長寿命化する計画が財政的に持たないため、残す学校と統合する学校を分け、残す学校に投資を集中させる形になります。

参考・出典

記載の制度および年数の目安は公表時点のものです。目標使用年数および改修のサイクルは各団体の計画により異なります。個別の判断は建築士による調査および所管部署にご確認ください。

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