目次
活用前に必要な調査と費用の構造
廃校活用の概算が出せない理由の多くは、ここにあります。アスベストとPCBです。
昭和の校舎には石綿を含む建材が広く使われています。吹付け材、保温材、天井や壁の成形板。どこに何があるかは、調べるまで分かりません。そして除去の工法は、石綿の種類と使われ方で変わります。工法が変われば費用も変わります。
つまり調査が終わるまで、解体費も改修費も確定しません。公募要項に概算を書きたくても書けない、という状態が生まれます。
PCBも同じです。古い蛍光灯の安定器やトランス、コンデンサに含まれている可能性があります。こちらは処分期限が制度で定められているため、見つけた後の対応が急ぎになります。
この記事では、①調査が義務になる条件、②石綿の調査の進め方、③PCBの扱い、④費用の構造、⑤工程への影響、の5点を整理します。
この記事の要点
- 大気汚染防止法により、令和4年4月1日から石綿の事前調査結果の報告が義務づけられた
- 報告が必要なのは、解体作業の対象となる床面積の合計80平方メートル以上の建築物の解体工事
- 改修工事は請負代金の合計額100万円以上(税込)が対象
- 報告は都道府県等と労働基準監督署の両方に行う。電子システムで1回の操作で両方に報告できる
- 調査結果が出るまで除去の工法が決まらないため、工事費は確定しない
事前調査はいつ義務になるのか?
工事の規模で決まります。
環境省の公表資料によれば、令和4年4月1日から、建築物等の解体・改修工事を行う施工業者は、大気汚染防止法に基づき石綿含有建材の有無の事前調査結果を都道府県等に報告することが義務づけられました。
| 工事の種類 | 報告が必要になる規模 |
|---|---|
| 建築物の解体工事 | 解体作業の対象となる床面積の合計が80平方メートル以上 |
| 建築物の改修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) |
| 工作物の解体・改修工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) |
校舎の解体も、転用のための改修も、まず間違いなくこの規模を超えます。報告は必要という前提で工程を組んでください。
報告先は2か所ある
都道府県等と労働基準監督署の両方です。大気汚染防止法に基づく報告と、石綿障害予防規則に基づく報告が別々にあります。
環境省の資料では、電子システムにより1回の操作で両方に報告できるとされています。実務上は施工業者が行う手続きですが、発注者として工程に織り込んでおく必要があります。
石綿調査の制度は学校のアスベスト調査とは何か?で詳しく扱っています。
石綿の調査はどう進むのか?
書面調査から始まります。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 書面調査 | 設計図書、過去の改修記録、建材のメーカー資料を確認する |
| 2. 現地調査 | 目視で建材を確認し、石綿含有の可能性がある部位を特定する |
| 3. 分析調査 | 含有の有無が書面と目視で判断できない建材について試料を採取し分析する |
| 4. 報告 | 調査結果を都道府県等と労働基準監督署に報告する |
| 5. 工法の決定 | 石綿のレベルと使われ方に応じて除去の工法を決める |
時間がかかるのは3の分析です。試料の採取から結果が出るまで日数を要します。棟数が多ければ、その分だけ試料も増えます。
有資格者による調査が必要
事前調査は、建築物石綿含有建材調査者などの資格を持つ者が行うこととされています。誰でもできる作業ではありません。
調査会社の手配にも時間がかかるため、活用の検討を始めた段階で見積りを取っておくと、後の工程が読みやすくなります。
平成18年以前の建物は全棟が対象になる
石綿含有建材の製造・使用は段階的に規制され、最終的に禁止されました。それ以前に建てられた校舎は、どの棟も調査の対象になると考えてください。
昭和40年代、50年代の校舎が中心となる廃校では、ほぼ全棟が該当します。
どこに使われているのか?
部位によってレベルが分かれます。
| 想定される部位 | 建材の例 |
|---|---|
| 機械室・ボイラー室 | 吹付け材、保温材 |
| 配管 | 保温材、パッキン |
| 天井・壁 | 成形板、けい酸カルシウム板 |
| 床 | ビニル床タイル、接着剤 |
| 屋根 | スレート板 |
| 煙突 | 断熱材 |
飛散性の高い吹付け材は、除去の際に厳重な隔離養生と負圧除じん装置が必要になります。成形板のように飛散性が低いものは、比較的簡易な方法で撤去できます。
同じ面積でも、どのレベルの建材かで費用が大きく変わります。これが概算を出せない理由です。
床材の扱いについては別の論点もあります。既存の床の上に新しい床を重ねることで、撤去そのものを避ける判断が取られることもあります。
PCBはどう扱うのか?
照明器具と電気設備が中心です。
古い蛍光灯の安定器、トランス、コンデンサにPCBが含まれている可能性があります。ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法により、保管と処分が規制されています。
| 確認する機器 | 場所 |
|---|---|
| 照明器具の安定器 | 教室、廊下、体育館 |
| 変圧器・コンデンサ | 受変電設備、機械室 |
| 整流器 | 電気室 |
重要なのは、処分の期限が定められている点です。期限を過ぎると処理の受け皿が限られるため、見つかった時点で早急に所管に相談する必要があります。
廃校を長く放置していると、この問題が後から表面化します。閉校した時点で電気設備の点検記録を確認し、PCB含有の有無を把握しておくのが安全です。
PCBと有害物質の扱いはPCB・有害物質と古い校舎の改修はどう進めるか?にまとめています。
費用はどういう構造になるのか?
調査費と除去費は別です。
| 費用の種類 | 内容 |
|---|---|
| 調査費 | 書面調査、現地調査、分析調査。棟数と試料の点数で決まる |
| 除去費 | 石綿のレベル、面積、養生の範囲、仮設の規模で決まる |
| 処分費 | 廃石綿等としての処理。産業廃棄物の処理費用 |
| PCBの処分費 | 機器の種類と濃度、処理施設までの運搬 |
調査費は比較的小さく、除去費と処分費が大きくなります。そして除去費は調査結果が出るまで積算できません。
概算を出す順番
公募の前に概算を示したい場合、次の順序になります。
- 書面調査で、石綿がありそうな部位を推定する
- 現地調査と分析で、含有の有無を確定する
- 工法を決め、数量を拾って積算する
1だけで概算を出すと幅が大きくなりすぎます。民間事業者に提案を求めるなら、2まで自治体側で済ませておくほうが、提案の精度が上がります。
解体費のうち、石綿の除去が占める割合は小さくありません。棟によっては除去費が躯体の解体費を上回ることもあります。
除去以外の方法はあるのか?
封じ込めと囲い込みがあります。
石綿含有建材への対応は、除去だけではありません。建材の表面を固化材で覆う封じ込めと、板などで覆って隔離する囲い込みという方法があります。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 除去 | 建材そのものを撤去する | 解体する場合。恒久的に解決したい場合 |
| 封じ込め | 薬剤で固化し飛散を防ぐ | 建材の劣化が進んでいない場合 |
| 囲い込み | 板等で覆い空間から隔離する | 天井裏など、通常は人が立ち入らない部位 |
封じ込めと囲い込みは、費用を抑えられる一方で建材が残ります。将来その部位を改修するときや、最終的に解体するときに、改めて除去が必要になります。
転用の期間で判断する
20年、30年使う前提なら、除去して恒久的に解決しておくほうが結果的に安くなります。10年程度の暫定利用なら、封じ込めや囲い込みで足りる場合があります。
転用の計画期間を先に決めると、この判断ができます。民間に貸し付ける場合は、契約期間が判断の基準になります。
残す場合は記録を残す
封じ込めや囲い込みを選んだ場合、どこに何が残っているかを図面と台帳に残してください。数年後に別の担当者が改修するとき、記録がなければ同じ調査をやり直すことになります。
工程にどう影響するのか?
調査期間を先に確保する必要があります。
| 項目 | 工程への影響 |
|---|---|
| 分析調査 | 試料の採取から結果まで日数を要する |
| 工法の検討 | 結果を受けて除去の計画を立てる |
| 届出・報告 | 着手前の手続きが必要 |
| 除去工事 | 隔離養生を伴う場合、他の工事と並行できない |
| 近隣への説明 | 飛散性の高い建材がある場合に必要になることがある |
除去工事が他の工事と並行できないのが効きます。隔離養生をしている間、その区画では他の作業ができません。棟全体を止めることもあります。
解体前に必要な調査と届出は学校の解体前調査は何をするのか?で一覧にしています。
活用の判断そのものが変わることがある
調査の結果、吹付け材が広範囲に使われていると分かった場合、除去費が活用で得られる価値を上回ることがあります。
その場合は、活用をやめて解体するか、その棟を使わずに他の棟だけ活用するかの判断になります。調査を先に済ませておけば、この判断を早い段階でできます。
転用に伴う改修全体の論点は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?にまとめています。
よくある質問
Q. 事前調査はいつから義務になりましたか。
A. 令和4年4月1日からです。大気汚染防止法に基づき、事前調査結果の報告が義務づけられました。
Q. 小さな改修でも報告が必要ですか。
A. 請負代金の合計額が100万円以上(税込)の改修工事が対象です。解体工事は床面積の合計80平方メートル以上が対象です。
Q. 報告は誰が行いますか。
A. 工事を行う施工業者です。ただし発注者として工程と費用に織り込んでおく必要があります。
Q. 調査にはどれくらい期間がかかりますか。
A. 棟数と試料の点数によります。分析に日数を要するため、活用の検討を始めた段階で見積りを取っておくと安全です。
Q. 石綿があると活用できませんか。
A. 除去または封じ込めにより活用できます。ただし飛散性の高い建材が広範囲にある場合、費用が活用の価値を上回ることがあります。
Q. PCBはどこを見ればよいですか。
A. 古い蛍光灯の安定器、変圧器、コンデンサです。処分の期限が定められているため、見つかった時点で所管に相談してください。
Q. 除去しかありませんか。
A. 封じ込めと囲い込みという方法もあります。ただし建材は残るため、将来の改修や解体のときに改めて除去が必要になります。
Q. 調査結果はどう保管しますか。
A. 図面と台帳に、どこに何があるかを残してください。記録がないと、次の改修で同じ調査をやり直すことになります。
まとめ
廃校活用の概算が出せない原因の多くは、アスベストとPCBです。調査結果が出るまで除去の工法が決まらず、工法が決まらなければ費用も確定しません。
大気汚染防止法により、令和4年4月1日から石綿の事前調査結果の報告が義務づけられています。対象は、解体作業の対象となる床面積の合計が80平方メートル以上の建築物の解体工事と、請負代金の合計額が100万円以上(税込)の改修工事です。校舎の解体も転用の改修も、この規模を超えます。
報告先は都道府県等と労働基準監督署の2か所です。電子システムにより1回の操作で両方に報告できるとされています。調査は建築物石綿含有建材調査者などの有資格者が行います。
費用で大きいのは除去費と処分費で、石綿のレベルと使われ方で大きく変わります。吹付け材が広範囲にあると、除去費が活用で得られる価値を上回ることがあります。
公募をかける前に、分析調査まで自治体側で済ませておくことを勧めます。提案の精度が上がり、事業者が条件を読み切れないまま撤退する事態を避けられます。
参考・出典
- 環境省「4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします」 https://www.env.go.jp/press/110648.html
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
- e-Gov法令検索「大気汚染防止法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097
- e-Gov法令検索「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000065
- 石綿障害予防規則
記載の制度・基準は公表時点のものです。報告の様式、提出先および処分期限の運用は所管の自治体により異なります。個別の適用は所管の都道府県等、労働基準監督署および産業廃棄物担当部署にご確認ください。
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