この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

美容専門学校の実習室は何を満たすべきか?

養成施設の指定規則と、校内サロンにかかる美容所の基準

美容の学科を新設する、あるいは実習室を増やす。計画が動き出したときに最初に確認すべきは、面積と設備の基準です。

美容専門学校の実習室には、二つの系統の基準がかかる場合があります。ひとつは美容師養成施設指定規則。もうひとつは、校内にサロンを設けて一般の客に施術を行う場合の、美容所としての構造設備基準です。

前者だけを見て計画すると、校内サロンの届出の段階で設備が足りないことが分かります。後者は保健所の所管で、学校の所管課とは別の窓口です。両方を同時に見ておかないと、工事のやり直しが発生します。

この記事では、それぞれが何を求めているかを整理し、建築側で押さえるべき給排水と電気の条件をまとめます。

この記事の要点

美容師養成施設指定規則第3条では、普通教室と実習室のいずれも生徒1人当たり1.65平方メートル以上を確保することとされています。

実習室は専用であることが求められ、普通教室は同時に授業を行う学級の数を下らない数が必要です。あわせて教員室、事務室、図書室を備えることとされています。

東京都の遵守要項では、実習室に同時に授業を行う生徒数の2分の1以上の美容用椅子、顕微鏡1台以上、人体模型1台以上を備えることとされ、消毒用医薬品の専用保管場所も必要です。

校内サロンで一般の客に施術を行う場合は美容所にあたり、待合場所と洗場を除いた作業場の床面積が9.9平方メートル以上、流水式の洗髪設備、消毒設備が必要になります。

美容所では美容師が直接作業する場所の作業面の照度を100ルクス以上とし、室内の空気1リットル当たりの炭酸ガス量を5立方センチメートル以下に保つこととされています。

美容専門学校の実習室とは何か?

美容師の受験資格を得るための養成課程で、実技の授業を行う専用の室のことです。

美容師法にもとづく美容師養成施設の指定を受けた学校でなければ、卒業生は美容師国家試験の受験資格を得られません。その指定の条件のひとつが、実習室を含む施設の基準です。

ここで押さえておきたいのは、実習室が「専用」であることが条件になっている点です。普通教室と兼用する、他の学科と共用するといった運用は認められません。学科を増やせば実習室も増えるという構造になっています。

指定規則は何を求めているか?

室の構成と、生徒1人当たりの面積です。

美容師養成施設指定規則第3条第1項第1号では、昼間課程について次のように定めています。

項目基準
備えるべき室教員室、事務室、図書室、専用の実習室
普通教室専用で、同時に授業を行う学級の数を下らない数
普通教室の面積生徒1人当たり1.65平方メートル以上
実習室の面積生徒1人当たり1.65平方メートル以上
建物の配置・構造設備学習上、保健衛生上、管理上適切であること
機械器具等学習上必要な機械器具、標本・模型、図書その他の備品

夜間課程についても、教員数に関する規定を除いて同じ要件が適用されます。通信課程には面積や室構成の要件は置かれていません。

40人の学級であれば、実習室は66平方メートル以上。これは什器や通路を含んだ確保面積の下限です。

第3条第2項の例外

特殊な地域の事情などがある場合、面積などについて厚生労働大臣が特別の基準を設定することがあるとされています。離島や過疎地での設置を想定した規定で、都市部の学校では適用の余地は小さいと考えられます。

都道府県の遵守要項

国の指定規則に加えて、都道府県が遵守要項などで細目を定めている場合があります。

東京都の美容師養成施設遵守要項では、1室に収容する生徒を原則40人以下とし、実習室1室あたりに次のものを備えることとしています。

項目必要数
美容用椅子同時に授業を行う生徒数の2分の1以上
実験器具一式
視聴覚機器一式
顕微鏡1台以上
人体模型1台以上

美容用椅子が生徒数の2分の1以上というのは、2人1組で実習することを前提にした数です。40人なら20台以上。この台数が給排水と電気の計画を決めます。

標準とされる実験器具には、テスター、積算電力計、実験用ヘアドライヤー、pHメーター、ブンゼンバーナー、蒸留水製造器などが挙げられています。火を使う器具が含まれるため、換気の計画が変わります。

消毒用医薬品等を安全かつ適切に保管・管理するための専用の場所も必要です。面積は小さくても必ず確保すべき室なので、平面計画の初期に位置を決めてください。

校内サロンを作る場合は何が変わるか?

一般の客に施術を行うなら、美容所としての届出と構造設備基準が加わります。

実習の一環として学外の客を受け入れる校内サロンは、美容師法上の美容所にあたります。保健所への開設届が必要で、構造設備基準を満たさなければなりません。

福岡市の基準を例にとると、次のように定められています。

項目基準
作業場の床面積待合場所と洗場を除いて9.9平方メートル以上
美容用椅子1脚のみの場合6平方メートル以上
椅子の数9.9平方メートルで4脚まで。超える部分は2平方メートルごとに1脚追加
洗場流水装置とすること
洗髪設備流水式のものを設けること
消毒設備設けること
照度美容師が直接作業する場所の作業面で100ルクス以上
換気室内の空気1リットル当たりの炭酸ガス量5立方センチメートル以下

椅子の数が面積で決まるという点が、計画上は効きます。8脚置きたければ、9.9平方メートルに加えて8平方メートル、合計17.9平方メートル以上の作業場が必要という計算です。待合と洗場は別に確保します。

基準は自治体によって異なる

美容所の構造設備基準は、各自治体の条例や要綱で定められています。数値の考え方は概ね共通していますが、細部は異なります。

計画の段階で、所在地の保健所に確認してください。学校の所管課とは別の窓口なので、両方に同時に相談しておくと手戻りがありません。

二つの基準が重なる場所

校内サロンを実習室としても使う場合、養成施設の基準と美容所の基準の両方がかかります。

換気の扱いが分かりやすい例です。美容所の基準では炭酸ガスを5,000ppm以下としていますが、学校環境衛生基準では教室等の二酸化炭素濃度は1,500ppm以下であることが望ましいとされています。両方がかかる室では、厳しいほうに合わせて設計することになります。

照度も同様です。美容所の基準は作業面100ルクス以上ですが、学校環境衛生基準では教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値が300ルクス、教室及び黒板は500ルクス以上が望ましいとされています。

建築側で押さえるべき条件は何か?

給排水、給湯、電気容量、床の防水の4点です。

給排水と給湯

シャンプー台の台数が、そのまま給排水の負荷になります。洗髪設備は流水式が求められるため、同時使用を前提にした給水量の計算が必要です。

給湯も見落としやすい部分です。20台のシャンプー台を同時に使えば、相当量の湯が必要になります。既存の給湯設備の能力で足りるとは限りません。

既存のビルを使う場合、配管の口径と状態を先に調べてください。学校の給排水設備改修|受水槽・給水管・排水管の更新で扱っているとおり、既存配管の更新が必要になれば工事の規模が変わります。

排水には毛髪が混ざります。排水口にヘアキャッチャーを設け、点検と清掃ができる計画にしておかないと、数年で詰まります。

電気容量

ドライヤー、アイロン、パーマ機器。いずれも消費電力が大きく、実習では同時に使われます。

20席の実習室でドライヤーを一斉に使えば、相当の容量になります。既存の受電容量で足りない場合、キュービクルの更新や幹線の引き直しが必要です。学校施設の受変電・電気設備の更新とは?目的・工法・進め方で扱っているとおり、受変電設備の更新は停電を伴う工事で、工期にも影響します。

コンセントの配置も実務的な論点です。各席に十分な口数を確保し、床や壁からの引き回しで通路を横切らないようにします。

床の防水と清掃性

水と薬剤を扱うため、床は防水と耐薬品性が必要です。毛髪の清掃がしやすい仕上げであることも条件になります。

目地の多い仕上げは、毛髪と薬剤が溜まります。長尺シートのように継ぎ目の少ない材料が実務的です。

換気

パーマ液やカラー剤の臭気があります。一般的な教室の換気量では不足するため、局所排気を含めた計画が必要です。

実習室が校舎の中層階にある場合、排気のルートをどう取るかが設計上の課題になります。既存ビルでは、排気ダクトを立ち上げる経路が確保できるかを早めに確認してください。

既存の校舎を改修する場合の注意点は?

室の用途や収容人数が変わると、指定の変更手続きが必要になることがあります。

実習室を増やす、定員を増やす、室の位置を変える。いずれも指定を受けた内容からの変更にあたる可能性があります。工事の内容が固まってから所管課に相談すると、計画の作り直しになります。

専門学校の校舎改修|実習室整備と用途変更の進め方で扱っているとおり、建築基準法上の用途変更が必要になる場合もあります。学校は特殊建築物にあたるため、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるときは確認申請が必要です。

工事の時期

実習室の工事は設備工事の比重が大きく、工期が読みにくい部分があります。

既存配管の状態は解体してみないと分からないことがあり、想定外の更新が必要になれば工期が延びます。長期休暇に収める計画では、余裕を見ておいてください。

募集との関係はどう考えるか?

実習室の設備は、オープンキャンパスで直接見られます。

美容分野の志願者は、シャンプー台やセット面の新しさを見ます。体験授業で実際に触るため、設備が古いと技術が学べるかどうかの疑念につながります。

私立学校の経営改善と施設戦略で整理しているとおり、施設投資は単発の支出ではなく募集と結びつけて説明できるかどうかで、理事会での扱いが変わります。

実習室の更新は、募集への効果が説明しやすい投資です。設備の台数と更新時期を記録しておくと、次の計画のときに根拠が揃います。

よくある質問

Q. 実習室を普通教室と兼用できますか。

A. 美容師養成施設指定規則では実習室は専用であることとされています。兼用は認められません。普通教室についても専用で、同時に授業を行う学級の数を下らない数が必要です。

Q. 校内サロンを作らなければ美容所の基準は関係ありませんか。

A. 一般の客に施術を行わないのであれば、美容所の開設届は不要です。ただし実習の形態によって判断が分かれる場合があるため、保健所に確認してください。

Q. シャンプー台は何台必要ですか。

A. 指定規則に台数の定めはありません。東京都の遵守要項では美容用椅子について同時に授業を行う生徒数の2分の1以上とされており、シャンプー台の台数はカリキュラムと運用に応じて決めることになります。

Q. 既存のテナントビルでも美容の実習室を作れますか。

A. 給排水と電気容量が確保できれば可能です。ただし排水の経路、給湯能力、換気ダクトの立ち上げが制約になることがあります。物件を決める前に設備の調査を行ってください。

Q. 照度はどの基準に合わせればよいですか。

A. 美容所の基準は作業面100ルクス以上、学校環境衛生基準は教室及びそれに準ずる場所で下限値300ルクス、教室及び黒板は500ルクス以上が望ましいとされています。両方がかかる室では厳しいほうに合わせます。

Q. 指定の変更手続きにはどのくらいかかりますか。

A. 都道府県によって異なります。工事の完了後に確認が行われる場合もあるため、授業の開始時期から逆算してスケジュールを組んでください。所管課に早めに相談するのが確実です。

まとめ

美容専門学校の実習室には、美容師養成施設指定規則による基準がかかります。普通教室と実習室のいずれも生徒1人当たり1.65平方メートル以上、実習室は専用、普通教室は同時に授業を行う学級の数を下らない数。教員室、事務室、図書室も必要です。

校内サロンで一般の客に施術を行う場合は、美容所としての構造設備基準が加わります。作業場は待合場所と洗場を除いて9.9平方メートル以上、椅子は4脚まで、超える分は2平方メートルごとに1脚。流水式の洗髪設備と消毒設備が必要です。

二つの基準が重なる室では、厳しいほうに合わせます。換気は美容所の5,000ppmではなく学校環境衛生基準の1,500ppm、照度は100ルクスではなく300ルクスを下限として設計することになります。

建築側で効くのは給排水、給湯、電気容量、床の防水です。シャンプー台の台数とドライヤーの同時使用が、設備容量を決めます。既存のビルを使う場合、この容量が確保できるかを物件の決定前に調べてください。

基準を先に確認し、設備容量を確かめてから平面を描く。この順序を守れば、計画のやり直しはかなり減ります。

参考・出典

本記事は公表時点の基準にもとづいて作成しています。美容所の構造設備基準は自治体によって異なり、養成施設の運用も都道府県で差があるため、実際の計画にあたっては所管の保健所および私学主管課にご確認ください。

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