目次
養成施設の指定基準と建築の与条件を突き合わせる
新しい学科を立ち上げる、あるいは既存の実習室を作り変える。専門学校の施設計画は、たいていここから始まります。
このとき、設計者に「こういう実習室にしたい」と伝えるところから入ると、あとで手戻りが出ます。専門学校の実習室は、デザインの前に満たすべき条件が決まっているからです。
国家資格の養成課程を置く学校は、所管の官庁から養成施設としての指定を受けています。その指定には施設と設備の基準があり、1室に入れられる生徒の数、備えなければならない機器、専用で確保すべき室が定められています。図面を描く前に、この基準を満たせるかどうかが決まります。
基準を外した設計は、きれいにできていても指定の変更申請で止まります。逆に、基準を先に押さえておけば、残りの部分は自由に作れます。この記事では、主な養成施設の指定基準が何を求めているかと、それを建築側の条件とどう突き合わせるかを整理します。
この記事の要点
養成施設の指定基準は、室の面積ではなく「1室に収容する生徒数」と「専用であること」を軸に定められていることが多く、面積は生徒数から逆算されます。
東京都の美容師養成施設遵守要項では、1室に収容する生徒は原則40人以下、同時授業を行う場合は生徒1人当たり1.65平方メートル以上を確保することとされています。
美容実習室には同時授業を行う生徒数の2分の1以上の美容用椅子、顕微鏡1台以上、人体模型1台以上が求められ、消毒用医薬品の専用保管場所も必要です。
調理師養成施設では、普通教室と調理実習室は同時に授業を行う学級数を下らない数を専用で確保し、ロッカーは生徒1人に1個、更衣室には2床以上のベッドを備えることとされています。
指定保育士養成施設では、教室のほかに研究室、図書室、保健室が必要で、研究室は専任教員に対して必ず備えることとされています。
専門学校の実習室とは何か?
国家資格の養成課程で、実技の授業を行うために指定基準に適合させた室のことです。
一般の教室との違いは、満たすべき条件が法令と通知で具体的に決まっている点にあります。美容師なら美容師養成施設指定規則、調理師なら調理師養成施設指導要領、保育士なら指定保育士養成施設指定基準。資格ごとに所管の官庁が異なり、基準の書きぶりも違います。
重要なのは、これらが「学校設置の基準」とは別物だということです。専修学校としての設置基準を満たしていても、養成施設の指定基準を満たしていなければ、その課程の卒業生は受験資格を得られません。
既存校舎を直す場合も同じ
新設だけの話ではありません。既存の実習室を改修して機器を入れ替える、学科を増やして室の用途を変える、といった場合も、指定の変更手続きが必要になることがあります。
工事の内容が決まってから所管課に相談すると、作り直しになります。計画の初期に確認しておくべき部分です。
なぜ図面より先に指定基準を見るのか?
基準が面積ではなく収容人数で書かれているため、学科の定員が決まらないと室の広さが決まらないからです。
東京都の美容師養成施設遵守要項を例にとります。1室に収容する生徒は原則40人以下とされ、同時に入所させる定員が40人未満の場合はその定員数となります。そのうえで、同時授業を行う場合に「教育上支障のないとき」とは、生徒1人当たり1.65平方メートル以上を確保できる場合とされています。
つまり40人の実習室なら、66平方メートル以上が最低線になります。これは什器や通路を含んだ数字ではなく、確保すべき面積の下限です。実際には美容用椅子の間隔、シャンプー台への動線、教員が回る通路を考えると、これより広く取ることになります。
定員を先に決める、あるいは使える面積から定員の上限を逆算する。この順序を飛ばすと、設計の途中で定員を減らすか、別の室を潰して広げるかの選択を迫られます。
美容師養成施設は何を求めているか?
室の広さに加えて、備えるべき機器が品目と数量で指定されています。
東京都の遵守要項の別表では、実習室1室あたりに次のものを求めています。
| 項目 | 必要数 |
|---|---|
| 美容用椅子 | 同時に授業を行う生徒数の2分の1以上 |
| 実験器具 | 一式 |
| 視聴覚機器 | 一式 |
| 顕微鏡 | 1台以上 |
| 人体模型 | 1台以上 |
美容用椅子が生徒数の2分の1以上というのは、2人1組で実習することを前提にした数です。40人の学科なら20台以上。この台数が、室の面積と給排水の計画を決めます。
実験器具として挙げられているものを見ると、設計に効くものが混ざっています。香粧品化学や美容技術理論の実習用としてテスター、積算電力計、実験用ヘアドライヤー、pHメーター、ブンゼンバーナー、蒸留水製造器が標準とされています。ブンゼンバーナーがあるということは火を使うということで、換気の計画が変わります。
消毒用医薬品の保管場所
遵守要項には、消毒用医薬品等を安全かつ適切に保管・管理するための専用の場所を設けることという条件もあります。
専用の場所ですから、棚の一角では足りません。面積としては小さくても、必ず確保しなければならない室です。平面計画の初期に場所を決めておかないと、あとから廊下の一部を囲うような苦しい解決になります。
夜間課程の照度
夜間の課程を置く場合、教室の机上面と黒板面の照度を150ルクス以上とすることとされています。
なお学校環境衛生基準では、教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300ルクス、教室及び黒板は500ルクス以上が望ましいとされています。養成施設の基準は下限であり、実際の設計は学校環境衛生基準に合わせることになります。
施設は設立者の所有が原則
遵守要項では、施設・設備は原則として設立者が所有することとされています。
テナントビルに入居して校舎とする場合、この条件が問題になることがあります。賃借でも認められる場合はありますが、所管課への確認が要ります。物件を決める前に押さえておくべき点です。
調理師養成施設は何を求めているか?
専用であることと、学級数に応じた室数の確保が中心です。
調理師養成施設の指導要領にもとづく基準では、普通教室と調理実習室について、同時に授業を行う学級数を下らない数を、専用で確保することとされています。
専用というのは、他の用途と兼ねられないという意味です。調理実習室を講義にも使う、といった運用は認められません。学級数が2なら調理実習室も2室。この条件が、必要な延床面積を大きく左右します。
同時に授業を行う生徒数は40人以下とされています(経過措置の適用を受ける学校では50人と読み替える扱いがあります)。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 同時授業の生徒数 | 40人以下 |
| 普通教室・調理実習室 | 同時に授業を行う学級数を下らない数、専用 |
| ロッカー | 生徒1人に1個 |
| 更衣室のベッド | 2床以上、掛け布団と枕を備える |
| 教員の机・椅子 | 専任教員数に相当する数 |
ロッカーが1人1個というのは、定員40名なら40個ということです。更衣室の面積がここで決まります。ベッド2床以上という条件も、更衣室に休養できる場所を設ける前提になっています。
面積は数値で決まっていない
教室の面積については「同時に授業を行う生徒の数及び教育内容に応じ、適当な広さであること」という表現で、生徒1人当たりの平方メートル数は示されていません。
数値がないぶん、所管課との協議で決まる部分が大きくなります。既存の同規模校の実例を踏まえて計画し、早い段階で相談するのが実務的です。
調理実習室は建築側の負荷が大きい
火を使い、水を大量に使い、排気量が大きい。調理実習室は、専門学校の中で最も建築側の条件が厳しい室です。
ガスの容量、給排水の口径、グリスフィルター付きの排気フード、床の防水と排水勾配。これらは既存ビルの設備容量で足りるとは限りません。学校の給排水設備改修|受水槽・給水管・排水管の更新で扱っているとおり、既存配管の口径と状態を先に調べておく必要があります。
保育士養成施設は何を求めているか?
実習室だけでなく、研究室や図書室を含めた諸室の構成が指定されています。
指定保育士養成施設の指定基準では、校舎に設けるべき室として次のものが挙げられています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 教室 | 講義室、演習室、実験室、実習室など。教科目の種類と学生数に応じた種類と数 |
| 管理諸室 | 所長室、会議室、事務室、研究室 |
| その他 | 図書室、保健室 |
| 望ましい室 | 学生自習室、クラブ室、更衣室 |
研究室は専任教員に対して必ず備えることとされています。教員が増えれば研究室も増えるということで、人員計画と施設計画が連動します。
図書室には、学生が閲覧するための閲覧席と、図書を格納する設備が必要です。保健室には医務と静養に必要な設備が求められます。
校地についても、校舎と敷地のほかに、学生が休息や運動に使える適当な空地があることとされています。ビル型の校舎でこの条件をどう満たすかは、物件選定の段階で検討しておく論点です。
建築側の与条件はどこで効くか?
用途変更、電気容量、給排水、換気の4つです。
既存のビルや事務所を校舎に変える場合、学校は建築基準法上の特殊建築物に当たるため、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるときは、用途変更の確認申請が必要になります。根拠は法第87条第1項です。
用途変更の確認申請は200㎡から|数え方が行政庁で違うという落とし穴で扱っているとおり、この200平方メートルの数え方は行政庁によって解釈が分かれます。フロア単位で見るのか建物全体で見るのかで、申請の要否が変わります。
電気容量は、実習の分野によって必要量が大きく変わります。美容のドライヤーとアイロン、調理の電気機器、CGや映像の編集機材。いずれも既存ビルの受電容量で足りない場合があり、受変電設備の更新が必要になることがあります。
換気は、火を使う室と薬品を使う室で条件が変わります。学校環境衛生基準では、教室等の二酸化炭素の濃度は1,500ppm以下であることが望ましいとされ、温度は18度以上28度以下が望ましいとされています。実習室は在室者の発熱量と機器の発熱量が普通教室より大きく、普通教室と同じ設計では満たせません。
分野ごとの違いは大きい
同じ「実習室」でも、分野が違えば別の建物のような条件になります。専門学校の校舎改修|実習室整備と用途変更の進め方で分野別の要点を整理していますが、計画の初期にこの違いを把握しておかないと、見積が大きく外れます。
実習室の計画はどの順で進めるか?
指定基準の確認、物件と容量の確認、平面計画、設備設計の順です。
まず学科の定員を決め、所管官庁の指定基準で必要な室と収容人数の上限を確認します。この段階で、必要な延床面積のおおよそが出ます。
次に、その面積と設備容量を既存の建物が満たせるかを確認します。足りなければ、受変電設備や給排水の更新を工事に含める必要があり、工事費の構成が変わります。
平面計画は、そのあとです。基準で専用が求められる室を先に配置し、残った面積で共用部やデザイン性を持たせる部分を組み立てます。逆の順序で進めると、基準に合わないことが後から分かって作り直しになります。
設備設計は平面と並行して進めますが、容量の確認だけは先に済ませておきます。
補助金との関係
工事費の一部に補助金を使う場合、申請の時期が工程を縛ります。専門学校・専修学校で使える教育環境整備の補助金で扱っているとおり、交付内定を受けてから契約するという順序が原則です。
指定の変更手続きと補助金の申請が並行する場合、どちらのスケジュールも工事の着手時期に影響します。年度内に完了させる前提で逆算してください。
よくある質問
Q. 指定基準は全国共通ですか。
A. 指定規則や指導要領は国が定めていますが、運用の細目は都道府県が要項などで定めている場合があります。この記事で挙げた美容師養成施設の数値は東京都の遵守要項によるものです。所在地の所管課で確認してください。
Q. 既存の実習室を改修するだけでも手続きが必要ですか。
A. 室の用途や収容人数、設備の構成が変わる場合は、指定の変更手続きが必要になることがあります。内装の仕上げを変えるだけなのか、室の性格が変わるのかで扱いが異なります。計画の段階で所管課に確認してください。
Q. 賃借したビルでも養成施設の指定を受けられますか。
A. 美容師養成施設の遵守要項では、施設・設備は原則として設立者が所有することとされています。賃借で認められるかは所管課の判断になります。物件の契約前に確認が必要です。
Q. 面積の基準がない資格の場合、何を根拠に広さを決めればよいですか。
A. 収容人数の上限と、必要な機器の数量から逆算します。調理師養成施設のように面積の数値がない場合でも、専用室の数や設備の数量は決まっているため、そこから必要な面積が導けます。
Q. 実習室の照度はどの基準に合わせればよいですか。
A. 養成施設の基準は下限を定めているものが多く、学校環境衛生基準のほうが高い水準です。教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300ルクス、教室及び黒板は500ルクス以上が望ましいとされています。実務では後者に合わせます。
Q. 複数の学科の実習室を同じ室で兼用できますか。
A. 調理師養成施設では普通教室と調理実習室を専用で確保することとされており、兼用は認められません。資格によって扱いが異なるため、各指定基準で確認してください。
まとめ
専門学校の実習室は、デザインを決める前に満たすべき条件が法令で決まっています。養成施設の指定基準がそれです。
基準の多くは面積ではなく収容人数と専用性で書かれています。東京都の美容師養成施設遵守要項では1室40人以下、同時授業で生徒1人当たり1.65平方メートル以上。調理師養成施設では普通教室と調理実習室を学級数を下らない数だけ専用で確保。指定保育士養成施設では研究室を専任教員に対して必ず備える。
これらは設計の制約であると同時に、必要な面積と工事費を早く見積もるための手がかりでもあります。定員が決まれば必要な室数が決まり、室数が決まれば延床面積の見当がつきます。
建築側で効いてくるのは、用途変更の確認申請、受電容量、給排水、換気の4点です。既存のビルを校舎にする場合、これらの容量が足りるかどうかで工事の規模が変わります。
図面を描く前に、指定基準と建物の容量を突き合わせる。この順序を守るだけで、計画のやり直しはかなり減ります。
参考・出典
- 東京都「美容師養成施設遵守要項」 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/biyou-youkou
- 厚生労働省「指定保育士養成施設の指定及び運営の基準について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000640869.pdf
- 岐阜県「調理師養成施設自己点検表」(調理師養成施設指導要領にもとづくもの) https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/461909.pdf
- 建築基準法第87条第1項(用途変更に対する準用)
- 学校環境衛生基準(文部科学省告示)
本記事は公表時点の基準にもとづいて作成しています。指定基準の運用は都道府県によって異なる場合があるため、実際の計画にあたっては所管の官庁にご確認ください。
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