目次
床荷重と電源・給水の確保
学校は、地域の避難所として指定されてきた建物です。
体育館があり、トイレがあり、炊事のできる調理室があり、グラウンドが広い。災害時に人が集まる場所として、長く機能してきました。閉校したあとも防災の拠点として残したいという要望は、地域から必ず出ます。
ただし閉校すると、指定が外れることがあります。避難所としての指定を続けるのか、備蓄倉庫として使うのか、拠点として整備するのか。この違いで必要な工事が変わります。
そして使われない建物は劣化します。災害時に機能しない拠点では意味がありません。
この記事では、①指定の制度、②耐震と安全、③備蓄倉庫としての条件、④電源と給水、⑤維持の体制、の5点を整理します。
この記事の要点
- 災害対策基本法に基づき、市町村長は指定緊急避難場所と指定避難所を指定する
- 閉校により指定が見直される場合があるため、継続するか外すかを早い段階で決める
- 避難所として使うなら建物本体の耐震性能と非構造部材の落下対策が前提になる
- 備蓄品を置く範囲は建築基準法施行令第85条が定める積載荷重の確認が必要
- 使われない建物は劣化するため、暫定管理の体制がないと災害時に機能しない
指定の制度はどうなっているのか?
指定緊急避難場所と指定避難所です。
災害対策基本法に基づき、市町村長は、災害が発生し、または発生するおそれがある場合に住民等が緊急的に避難する場所として指定緊急避難場所を、避難した住民等が滞在する施設として指定避難所を指定します。
| 区分 | 役割 |
|---|---|
| 指定緊急避難場所 | 緊急的に避難する場所。災害の種類ごとに指定 |
| 指定避難所 | 避難した住民等が滞在する施設 |
| 福祉避難所 | 要配慮者を受け入れる施設 |
| 備蓄倉庫 | 物資を保管する場所。避難所機能は持たない |
| 一時集合場所 | 地域の運用上の集合場所 |
指定緊急避難場所は、洪水、崖崩れ、地震、津波といった災害の種類ごとに指定されます。学校のグラウンドが地震の避難場所として、体育館が指定避難所として指定されている構成が多くあります。
閉校で指定が見直される
閉校すると、建物の管理の体制が変わります。鍵を開ける人がいない、点検が続かない、設備が止まっている。こうした状態では、避難所としての指定を続けられないことがあります。
一方、地域に他の施設がなければ、指定を外すと避難先がなくなります。この判断は防災の所管部署が行います。閉校の検討と同時に進めてください。
指定を続けるなら体制を決める
指定を続ける場合、鍵を誰が開けるか、誰が運営するか、物資をどこに置くかを決める必要があります。
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| 鍵の管理 | 自治会、自治体の職員、電子錠 |
| 開設の判断 | 誰が、どの基準で開けるか |
| 運営の担い手 | 地域の自主防災組織か、職員か |
| 使う範囲 | 体育館のみか、校舎も含むか |
| 物資の保管 | 建物内か、屋外の倉庫か |
| 連絡手段 | 通信が途絶した場合の手段 |
学校が開いていた間は、職員が鍵を持ち、教職員が初動を担っていました。閉校するとその体制がなくなります。ここを埋めないまま指定を続けると、災害時に開かない避難所になります。
用途変更の扱い
備蓄倉庫や防災拠点として用途を変える場合、学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれないため、類似の用途に当たりません。用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。一方、避難所として従前のまま使い続ける場合は、用途を変更しないため論点が変わります。
耐震と安全はどう確認するのか?
建物本体と、落ちるものの両方です。
災害時に人を受け入れる施設では、建物そのものの安全が前提になります。地震で損傷する建物を避難所に指定することはできません。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 耐震診断の結果 | 構造体の性能 |
| 補強の履歴 | 耐震補強が済んでいるか |
| 天井 | 吊り天井の落下対策 |
| 照明器具 | 落下防止の措置 |
| 窓ガラス | 飛散防止 |
| バスケットゴール | 取付け部の劣化と固定 |
| 外壁 | 剥落のおそれ |
耐震性能の判断は廃校の耐震性能はどう判断するのか?で扱っています。まず診断の結果と補強の履歴を確認してください。
体育館は非構造部材が課題
体育館は天井が高く、吊り下げられたものが多い建物です。避難所として使うなら、天井、照明器具、バスケットゴールの落下対策が済んでいるかを確認してください。
対策が済んでいるかは、改修の記録で分かります。庁内に施設の改修履歴が残っているはずです。
浸水と土砂災害のリスク
建物の安全だけでなく、立地のリスクも確認が必要です。浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波の浸水想定。
学校が立地のリスクを抱えている場合、災害の種類によって使えないことがあります。指定緊急避難場所が災害の種類ごとに指定されるのは、この理由です。
バリアフリー
避難所には高齢者や障害のある人も来ます。段差、トイレ、スロープの状態を確認してください。
福祉避難所として位置づけるなら、要求される水準が上がります。
備蓄倉庫としての条件は何か?
床荷重と、搬入搬出です。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 床の積載荷重 | 設計時の値を構造計算書で確認 |
| 備蓄品の重量 | 水、食料、燃料は重い |
| 置く階 | 1階が基本 |
| 搬入搬出の経路 | トラックの寄付け、開口の寸法 |
| 湿気 | 食料と紙製品の保管に影響 |
| 温度 | 夏季の室温が保存に影響 |
| 在庫の管理 | 賞味期限と入替え |
床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めています。校舎の教室は教室としての値で設計されており、備蓄品を積み上げる前提ではありません。
水と燃料は重い
飲料水の備蓄は、重量が大きくなります。1箇所に積み上げると集中した荷重になります。
梁の近くに置く、低く広く置く、1階に置く。配置で解く方法を先に検討してください。
1階に置き、搬入経路を確保する
備蓄品は入替えのために定期的に搬出入します。2階以上に置くと、そのたびに階段で運ぶことになります。
トラックが寄り付ける位置の1階に置き、外部から直接搬入できる開口を確保する構成が基本です。
湿気と温度の管理
閉め切った校舎は湿気がこもります。食料や紙製品の保管には不向きです。
換気と通水の管理は閉校後の暫定管理はどうするのか?で扱っています。備蓄倉庫として使うなら、この管理が保管品の状態に直結します。
在庫の管理を誰が行うか
備蓄品には賞味期限があります。定期的な確認と入替えが必要で、これを行う体制がなければ、期限切れの物資が積まれた倉庫になります。
電源と給水はどう確保するのか?
災害時に使えるかが問われます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受電設備 | 停電時は使えない |
| 非常用電源 | 発電機または蓄電池 |
| 燃料の備蓄 | 消防法上の危険物に該当する |
| 給水 | 受水槽の容量、井戸の有無 |
| トイレ | 断水時の対応 |
| 通信 | 固定電話、無線、衛星 |
| 暖房・冷房 | 停電時に使えるか |
停電すると、照明、空調、給水のポンプが止まります。受水槽がある校舎では、ポンプが止まった時点で上階への給水が止まります。
非常用電源の燃料は危険物
発電機の燃料は消防法上の危険物に該当します。ガソリン(第1石油類)の指定数量は200リットル、灯油・軽油(第2石油類)は1,000リットル、重油(第3石油類)は2,000リットルです。
指定数量以上を貯蔵または取り扱う場合は消防法の規制対象となり、許可が必要です。指定数量の5分の1以上で指定数量未満の場合は、少量危険物として市町村の火災予防条例による規制の対象となり、管轄の消防署への届出が必要になります。
断水時のトイレ
断水すると水洗トイレが使えません。避難所として使うなら、仮設トイレ、簡易トイレ、マンホールトイレのいずれかを備える必要があります。
これは建物の工事ではなく、備蓄と運用の計画です。
受水槽の水を使う
受水槽がある校舎では、停電や断水の直後に受水槽の水が残っています。これを取り出せる配管と蛇口があるかを確認してください。
設備の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。
契約を止めると使えない
閉校後に電気と水道の契約を解除すると、災害時に使えません。防災拠点として位置づけるなら、最低限の契約を残す必要があります。
基本料金が毎年かかります。この費用を防災の予算として計上するか、施設の管理費とするかを決めてください。
維持の体制はどう組むのか?
使われない建物は劣化します。
| 項目 | 頻度の目安 |
|---|---|
| 屋根・樋の点検 | 年2回以上 |
| 内部の見回り | 月1回程度 |
| 消防設備の点検 | 法定の頻度 |
| 発電機の試運転 | 定期的に |
| 備蓄品の確認 | 年1回以上 |
| 除草 | 年2〜3回 |
| 開設の訓練 | 年1回 |
災害時に機能する拠点にするには、平時の維持が必要です。雨漏りで内装が落ち、設備が動かず、鍵が開かない建物では意味がありません。
開設の訓練を行う
鍵がどこにあるか、どの順番で開けるか、どこに人を入れるか。実際にやってみないと分かりません。
年に1回でも開設の訓練を行えば、建物の状態も確認できます。訓練が維持管理の点検を兼ねる形になります。
平時の用途と兼ねる
防災拠点だけのために建物を維持すると、費用に対する効果が見えにくくなります。平時は地域の集会や活動に使い、災害時に拠点に転換する構成であれば、維持の理由が立ちます。
人が出入りすれば異常に早く気づき、劣化も遅くなります。使われている建物のほうが、災害時にも機能します。
費用を可視化する
年間いくらかかっているかを、庁内と議会に示してください。使っていない建物に費用をかけ続ける判断には、根拠が必要です。
平時の用途がなく、他に避難所が確保できるなら、解体の判断も選択肢に入ります。
よくある質問
Q. 閉校後も避難所の指定は続きますか。
A. 見直される場合があります。鍵を開ける人、点検の体制、設備の状態によって、指定を続けられないことがあります。判断は防災の所管部署が行います。
Q. 指定を続けるなら何を決めますか。
A. 鍵の管理、開設の判断、運営の担い手、使う範囲、物資の保管場所です。学校が開いていた間は教職員が初動を担っていました。その体制がなくなります。
Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。
A. 備蓄倉庫や防災拠点として用途を変える場合、200平方メートルを超えれば必要です。避難所として従前のまま使い続ける場合は論点が変わります。
Q. 備蓄品はどの階に置きますか。
A. 1階です。水や燃料は重く、入替えのために定期的に搬出入します。トラックが寄り付ける位置に置き、外部から直接搬入できる開口を確保してください。
Q. 発電機の燃料に手続きは必要ですか。
A. 指定数量以上なら消防法の許可、5分の1以上で指定数量未満なら少量危険物として市町村の火災予防条例に基づく届出が必要です。軽油の指定数量は1,000リットルです。
Q. 維持のために何をしますか。
A. 屋根と樋の点検、月1回の見回り、消防設備の点検、発電機の試運転、備蓄品の確認、年1回の開設訓練です。平時の用途と兼ねると維持の理由が立ちます。
まとめ
学校は長く地域の避難所として機能してきた建物ですが、閉校すると指定が見直される場合があります。鍵を開ける人がいない、点検が続かない、設備が止まっている。この状態では指定を続けられません。
指定を続けるなら、鍵の管理、開設の判断、運営の担い手、使う範囲、物資の保管場所を決めてください。学校が開いていた間は教職員が初動を担っていました。閉校でその体制がなくなることを、早い段階で埋める必要があります。
建物の安全が前提です。耐震診断の結果と補強の履歴、そして天井、照明器具、バスケットゴールの落下対策。あわせて浸水想定区域や土砂災害警戒区域といった立地のリスクも確認してください。災害の種類によって使えない場合があります。
備蓄倉庫として使うなら、建築基準法施行令第85条の積載荷重を確認してください。水と燃料は重く、1箇所に積み上げると集中した荷重になります。入替えのために搬出入するため、トラックが寄り付ける1階に置く構成が基本です。
電源と給水は、災害時に使えるかが問われます。発電機の燃料は消防法上の危険物で、軽油の指定数量は1,000リットルです。断水時のトイレは備蓄と運用の計画になります。そして電気と水道の契約を解除すると、災害時に使えません。
最後に維持の体制です。雨漏りで内装が落ち、設備が動かず、鍵が開かない建物では意味がありません。年1回の開設訓練は、建物の点検も兼ねます。平時は地域の活動に使い、災害時に拠点へ転換する構成であれば、維持の理由が立ち、劣化も遅くなります。
参考・出典
- e-Gov法令検索「災害対策基本法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336AC0000000223
- 内閣府「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」 https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000186
- e-Gov法令検索「危険物の規制に関する政令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
記載の法令および制度は公表時点のものです。避難場所および避難所の指定は市町村長が行い、少量危険物の届出に関する規定は市町村の火災予防条例により異なります。個別の適用は市町村の防災所管部署、消防本部、所管行政庁および設計者にご確認ください。
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