できます。ただし3つの関門があります。
面積の基準、建築基準法の用途変更、消防法の設備です。教室は広く、トイレも近くにあり、校庭が使える。条件は悪くありません。しかし保育所には児童福祉施設としての設備の基準があり、それを満たす必要があります。
そして消防法では、保育所は特定防火対象物に当たります。学校のままより設備の要件が厳しくなり、ここが工事費の柱になることがあります。
さらに補助を受けて建てた校舎であれば、財産処分の手続きが関わります。
この記事では、①面積の基準、②建築基準法の扱い、③消防法の扱い、④水まわりと安全、⑤手続きの順序、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 国の基準では、2歳未満児について乳児室またはほふく室の面積が1人当たり1.65平方メートル以上とされている
- 2歳以上児については保育室または遊戯室が1人当たり1.98平方メートル以上、屋外遊戯場が1人当たり3.30平方メートル以上
- 自治体の条例で国の基準を上回る設定をしている場合がある(2歳未満児1人当たり3.30平方メートルとする例がある)
- 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、保育所への用途変更は類似の用途に当たらない
- 保育所は消防法施行令別表第一の(6)項で、特定防火対象物に該当する
面積の基準はどうなっているのか?
年齢ごとに定まります。
保育所の設備については、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準が定めています。国の基準として示されているのは次の数値です。
| 室 | 対象 | 1人当たりの面積 |
|---|---|---|
| 乳児室またはほふく室 | 2歳未満児 | 1.65平方メートル以上 |
| 保育室または遊戯室 | 2歳以上児 | 1.98平方メートル以上 |
| 屋外遊戯場 | 2歳以上児 | 3.30平方メートル以上 |
ここから、教室の面積に対して受け入れられる人数が逆算できます。
自治体の条例で上乗せがある
国の基準を上回る設定をしている自治体があります。2歳未満児について1人当たり3.30平方メートルとしている例があります。
したがって国の数値だけで計画すると、実際には入れません。所在する自治体の条例を確認してください。
定員から室を決めるのではなく、室から定員を決める
使える室の面積が決まっているため、そこから受け入れられる人数を算出する順序になります。定員を先に決めて室を探すと、合わないことがあります。
教室1室の面積は学校によって異なります。実測して計算してください。
屋外遊戯場は校庭を使える場合がある
屋外遊戯場については、校庭を使う形が検討されます。ただし保育所として使える範囲、安全の確保、学校との共用の条件が論点になります。
基準を満たす代替の場所が近隣にある場合の取扱いもあります。所管部署に確認してください。
余裕教室の活用全般
余裕教室の活用には保育所以外の選択もあります。選択肢の整理は余裕教室はどう活用するのか?で扱っています。
建築基準法ではどう扱われるのか?
類似の用途に当たりません。
建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めています。第3号が診療所(患者の収容施設があるもの)と児童福祉施設等です。
保育所は児童福祉施設等に含まれますが、学校はこの11区分のいずれにも含まれていません。したがって学校から保育所への変更は類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 計画 | 確認申請 |
|---|---|
| 校舎の複数室を保育所にする | 必要 |
| 200平方メートル以下に収める | 不要(実体規定は守る) |
| 保育所を認定こども園に変える(転用後) | 第3号の相互間かを確認 |
面積の考え方は用途変更の確認申請は200㎡からなのか?で扱っています。
200平方メートル以下に収める計画
教室1室から2室分に収めれば、200平方メートル以下になる場合があります。ただし面積の数え方は所管行政庁の運用に左右されます。
確認申請が不要になっても、防火や避難の実体規定を守る義務は残ります。
準用される規定
確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。
特に避難については、乳幼児が自力で避難できないことを前提とした検討が必要になります。防火区画の考え方は防火区画の基本とは何か?で扱っています。
階の制限
乳幼児を扱う施設では、避難の観点から階の扱いが論点になります。2階以上に保育室を設ける場合、避難の経路と階段の構造について要件が関わります。
計画の初期に所管行政庁に確認してください。1階に収める計画が、手続きと工事の両面で収まりやすくなります。
消防法ではどうなるのか?
特定防火対象物になります。
学校は消防法施行令別表第一の(7)項で、特定防火対象物には含まれません。一方、(6)項には病院、診療所、福祉施設、幼稚園、特別支援学校が入り、特定防火対象物に該当します。保育所は(6)項の扱いになります。
| 用途 | 項 | 特定防火対象物 |
|---|---|---|
| 学校 | (7)項 | 該当しない |
| 病院、診療所、福祉施設、幼稚園、特別支援学校 | (6)項 | 該当する |
| 複合用途(特定用途を含む) | (16)項イ | 該当する |
特定防火対象物に該当すると、消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。自動火災報知設備やスプリンクラー設備が必要になる場合、金額が大きく動きます。
学校と併存すると複合用途になる
校舎の一部を保育所にし、残りを学校として使い続ける場合、複合用途防火対象物として(16)項イに該当する可能性があります。
この場合、建物全体の扱いが変わることがあります。校舎の一部だけの転用でも、建物全体に設備が必要になる場合があるため、計画の初期に消防本部へ相談してください。
要件は規模と区分で変わる
必要な消防用設備等は、(6)項のどの区分に当たるか、延べ面積、階数によって変わります。
全館を使う計画と、1階の一部だけを使う計画では要件が違います。この差が、計画の範囲を決める判断材料になります。
区画で分ける検討
保育所の部分と学校の部分を防火上区画し、別の防火対象物として扱えるかという検討があります。認められるかは構造と区画の状況によります。
消防本部の判断になるため、図面を示して相談してください。
水まわりと安全はどうするのか?
乳幼児用に作り替えます。
| 項目 | 学校の状態 | 必要な整備 |
|---|---|---|
| トイレ | 児童用。和式が残る場合がある | 乳幼児用の寸法。おむつ交換の場所 |
| 手洗い | 高さが児童用 | 高さを下げる |
| 沐浴・シャワー | ない | 必要に応じて設置 |
| 調乳の設備 | ない | 給湯と手洗い |
| 給食の提供 | 給食室の形態による | 調理室の基準への適合 |
| 建具 | 木製。指挟みのおそれ | 指挟み防止、ガラスの飛散防止 |
| 床 | 硬い仕上げ | 衝撃を吸収する仕上げ |
| 段差 | 昇降口、廊下に段差 | 解消 |
| 階段・手すり | 児童用の寸法 | 転落防止 |
トイレと手洗いが工事の柱
学校のトイレと手洗いは、小学生の体格を前提にしています。乳幼児には高すぎ、寸法も合いません。
便器、手洗い、床の仕上げ、おむつ交換の場所。これらの整備が工事費の柱になります。給排水の経路を活かせる位置に計画すれば、費用を抑えられます。
給食の扱いを決める
保育所では給食の提供が関わります。自園で調理するか、外部搬入とするかで必要な設備が変わります。
自園で調理する場合、調理室の基準への適合が必要です。学校の給食室を活かせるかは、設備の状態と提供の形態によります。
転落と指挟み
乳幼児の施設では、転落と指挟みが具体的な危険になります。手すりの隙間、階段の寸法、建具の構造、窓の開き方。
学校の仕様はそのままでは使えません。設計の段階で確認してください。
保育所の改修全般
保育所としての改修の考え方は保育園の改修はどう進めるのか?で扱っています。既存の保育所の改修と共通する項目が多くあります。
手続きの順序はどうなるのか?
相談から始めます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 使う室を特定し、面積を実測する |
| 2 | 自治体の条例の面積基準を確認する |
| 3 | 受け入れられる定員を算出する |
| 4 | 保育の所管部署に相談する |
| 5 | 特定行政庁に用途変更の扱いを相談する |
| 6 | 消防本部に設備の要件を相談する |
| 7 | 財産処分の手続きの要否を確認する |
| 8 | 設計に入る |
財産処分の手続きを確認する
国の補助を受けて建てた校舎を他の用途に使う場合、財産処分の手続きが関わります。文部科学省の財産処分手続ハンドブックに、手続きの区分が示されています。
補助の完了後10年以上が経過し、かつ無償で転用する場合は報告のみで足りる扱いがあります。有償の場合は国庫納付が関わりますが、学校施設整備費の基金に積み立てる場合は不要とされる扱いもあります。
計画の段階で、建築の年度と補助の履歴を確認してください。
3つの所管に相談する
保育の所管部署、特定行政庁、消防本部。この3者に相談する必要があります。
1つの所管だけに相談して進めると、別の所管の要件で計画が変わります。同じ図面を3者に示して、それぞれの要件を確認してください。
1階に収める計画を先に検討する
避難、トイレの位置、屋外遊戯場への動線。いずれも1階が有利です。
2階以上を使う計画は、避難の検討と設備の要件が重くなります。まず1階に収まるかを検討してください。
学校と並存する運用を設計する
校舎の一部を保育所にする場合、出入口、動線、鍵の管理、屋外の利用時間を分ける必要があります。
建物の工事だけでなく、運用のルールも設計の一部です。
よくある質問
Q. 空き教室を保育所にできますか。
A. できます。ただし面積の基準、建築基準法の用途変更、消防法の設備という3つの関門があります。
Q. 何人受け入れられますか。
A. 室の面積から算出します。国の基準では2歳未満児の乳児室またはほふく室が1人当たり1.65平方メートル以上、2歳以上児の保育室または遊戯室が1.98平方メートル以上です。自治体の条例で上乗せがある場合があります。
Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。
A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれません。保育所への変更は類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば必要です。
Q. 消防設備の負担は増えますか。
A. 増える可能性があります。保育所は消防法施行令別表第一の(6)項で特定防火対象物に該当し、消防用設備等が現行基準に適用されます。
Q. 学校を続けながら一部を保育所にできますか。
A. できますが、複合用途防火対象物として(16)項イに該当する可能性があります。建物全体の扱いが変わることがあるため、消防本部に相談してください。
Q. 補助を受けた校舎でも転用できますか。
A. 財産処分の手続きが関わります。補助の完了後10年以上が経過し無償で転用する場合は報告のみで足りる扱いがあります。建築の年度と補助の履歴を確認してください。
まとめ
空き教室の保育所への転用はできます。ただし面積の基準、建築基準法の用途変更、消防法の設備という3つの関門があります。
面積では、国の基準として2歳未満児の乳児室またはほふく室が1人当たり1.65平方メートル以上、2歳以上児の保育室または遊戯室が1.98平方メートル以上、屋外遊戯場が1人当たり3.30平方メートル以上とされています。自治体の条例で2歳未満児1人当たり3.30平方メートルとする例があるため、所在する自治体の条例を確認してください。定員を先に決めるのではなく、室の面積から定員を算出する順序になります。
建築基準法では、学校が施行令第137条の18の11区分に含まれないため、保育所への変更は類似の用途に当たりません。200平方メートルを超えれば確認申請が必要で、避難については乳幼児が自力で避難できないことを前提とした検討になります。
消防法では、保育所が(6)項で特定防火対象物に該当します。学校の(7)項から変わるため設備の要件が厳しくなり、校舎の一部だけの転用でも複合用途として建物全体の扱いが変わる可能性があります。
工事ではトイレと手洗いが柱になります。学校の寸法は乳幼児に合いません。あわせて転落と指挟みの対策、床の仕上げ、段差の解消が必要です。
手続きは、保育の所管部署、特定行政庁、消防本部の3者に同じ図面を示して相談してください。そして補助を受けた校舎であれば、財産処分の手続きの要否を確認することです。
参考・出典
- e-Gov法令検索「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100063
- e-Gov法令検索「児童福祉法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000164
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- 文部科学省「財産処分手続ハンドブック(令和7年3月)」 https://www.mext.go.jp/content/20250328-mxt_sisetujo-100003148_05.pdf
- こども家庭庁 https://www.cfa.go.jp/
記載の法令および基準は公表時点のものです。面積の基準は自治体の条例により国の基準を上回る場合があり、用途変更の判定および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は保育の所管部署、所管行政庁、消防本部および設計者にご確認ください。
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