この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

音楽室の防音はどこまで必要なのか?

3つの対策を分けて考えます。

遮音、防振、吸音。この3つは別のもので、効く相手が違います。音が壁を通って隣の教室に届くのを止めるのが遮音、床や躯体を伝わる振動を止めるのが防振、室内の響きを整えるのが吸音です。

「防音したい」という要望に対して、どれが必要かを切り分けないまま工事をすると、費用をかけても効果が出ません。壁を厚くしても、建具の隙間から音が漏れていれば変わりません。

学校環境衛生基準では、教室内の騒音レベルが窓を閉じているときLAeq50dB以下、窓を開けているときLAeq55dB以下であることが望ましいとされています。

この記事では、①3つの対策の違い、②遮音の弱点、③防振、④吸音、⑤どこまでやるか、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校環境衛生基準では、騒音レベルについて窓を閉じているときLAeq50dB以下、窓を開けているときLAeq55dB以下であることが望ましいとされている
  • 遮音、防振、吸音は別の対策で、効く相手が違う
  • 遮音は最も弱い部分で決まるため、建具、換気口、配管の貫通部が弱点になる
  • 太鼓やコントラバスなどの低音は床を伝わるため、遮音だけでは止まらず防振が必要
  • どこまでやるかは、隣室の用途と使う楽器から決める

3つの対策はどう違うのか?

効く相手が違います。

対策 止めるもの 方法
遮音 空気を伝わる音 質量のある材料、気密、二重構造
防振 床や躯体を伝わる振動 浮き床、防振材
吸音 室内の反射音 吸音材、形状

遮音は外に漏らさないため

隣の教室、上下の階、廊下、屋外。これらに音が漏れるのを止めるのが遮音です。

壁、床、天井、建具、開口部。これらの構成で決まります。

防振は低音のため

太鼓、コントラバス、ピアノ、ドラム。低音と打撃音は、床を通じて躯体を伝わります。空気を伝わる音を止めても、振動は止まりません。

振動を止めるには、音源と躯体の間に緩衝を設けます。浮き床や防振の架台です。

吸音は室内のため

吸音は、室内の響きを整えるものです。外への漏れを減らす効果は限られます。

残響が長すぎると音が濁り、短すぎると響きがなく演奏しにくくなります。用途に応じた調整が必要です。

混同すると効果が出ない

吸音材を壁に貼って「防音した」とする例があります。室内の響きは変わりますが、隣室への漏れはほとんど変わりません。

何を止めたいのかを先に決めてください。内装改修の基本的な考え方は学校の内装改修の基本とは何か?で扱っています。

遮音の弱点はどこか?

最も弱い部分で決まります。

遮音の性能は、壁の性能ではなく、全体の中で最も音を通す部分で決まります。壁を厚くしても、建具に隙間があれば効果が出ません。

弱点 内容
建具 隙間、戸当たりの構造、ガラスの厚さ
換気口 直接つながっていると音が通る
配管・配線の貫通部 隙間が残っていると音が通る
天井裏 間仕切りが天井までで止まっている
床下 配管スペースがつながっている
窓 単板ガラスのアルミサッシは性能が低い
コンセントボックス 壁の両面で背中合わせになっている

建具が最大の弱点

学校の建具は、木製で隙間があるものが多くあります。音は隙間から通ります。

遮音の建具に交換し、戸当たりとパッキンで気密を確保する。これが効果の大きい対策です。

天井裏のつながりを切る

教室の間仕切り壁が天井までで止まっており、天井裏でつながっている校舎があります。この場合、隣室の音が天井裏を通って回り込みます。

間仕切りを天井裏まで立ち上げる工事が必要です。費用は大きくありませんが、これを見落とすと遮音が成立しません。

換気口の処理

換気口が隣室や廊下に直接つながっていると、音が通ります。消音のためのダクトを設けるか、換気の方式を変える必要があります。

ただし換気を止めることはできません。学校環境衛生基準では、換気について二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされています。遮音と換気を両立させる計画が必要です。理科室でも同じ論点があり、理科室の改修で気をつけることは何か?で扱っています。

窓の性能

単板ガラスのアルミサッシは遮音の性能が低く、外部への漏れと外部からの騒音の両方で弱点になります。

内窓を設けて二重にする方法が、工事が室内で済み足場も不要なため取りやすくなります。窓とサッシの改修は窓とサッシはどう改修するのか?で扱っています。

貫通部を塞ぐ

配管と配線が壁を貫通する部分に隙間が残っていると、音が通ります。工事の際に充填材で塞いでください。

改修で新たに配管を通す場合も、同じ処理が必要です。

防振はどうするのか?

床から切り離します。

対策 内容
浮き床 床を躯体から浮かせる
防振の架台 ピアノや打楽器の下に設ける
防振のマット 簡易な対応
配置の工夫 低音の楽器を1階に置く

浮き床は費用が大きい

床全体を躯体から浮かせる工事は、費用が大きくなります。また床が上がるため、天井高が下がり、出入口との段差が生じます。

既存の校舎では、構造の検討と建具の調整を伴います。

部分的な対応から始める

床全体を浮かせるのではなく、打楽器やピアノの位置に防振の架台を設ける方法があります。費用が抑えられます。

効果は限定的ですが、低音の伝わりを減らせます。

配置で解く

低音の楽器を1階に置き、上階には影響しない構成にする方法があります。

音楽室の位置そのものを見直す判断です。改修で音楽室を移す選択もあります。

上下階の用途を確認する

音楽室の真下が普通教室であれば、振動の影響が出ます。真下が廊下や倉庫であれば、影響は小さくなります。

既存の配置を確認し、必要な対策の水準を決めてください。

吸音はどうするのか?

残響を調整します。

項目 内容
残響の長さ 用途に応じた調整
吸音材の配置 壁面、天井面
反射面を残す すべて吸音すると響きがなくなる
形状 平行な面を避ける
使う楽器 合唱、吹奏楽、個人練習で要求が違う

吸音しすぎない

壁と天井のすべてに吸音材を貼ると、響きがなくなり演奏しにくくなります。反射する面を残すバランスが必要です。

合唱には適度な残響が、吹奏楽には短めの残響が適するとされます。使う用途を確認してください。

平行な面を避ける

向かい合った平行な壁面の間では、音が往復して特定の響きが生じます。

既存の教室の形は変えられませんが、吸音材を片面に寄せる、拡散する形状を設けるなどの対応があります。

天井の処理

学校の教室の天井は吸音板が使われていることが多く、ある程度の吸音性能があります。

ただし経年で変色し、脱落するおそれがあります。改修の機会に張り替える判断があります。

防音室との違い

個人練習用の防音室を室内に置く方法があります。既存の建物に手を入れず、箱を置く形です。

遮音の性能は製品によりますが、工事を伴わないため導入が容易です。

どこまでやるかはどう決めるのか?

隣室の用途と楽器から決めます。

確認項目 内容
隣室の用途 普通教室か、廊下か、倉庫か
上下階の用途 真下と真上に何があるか
使う楽器 低音と打撃音があるか
使う時間帯 授業中か、放課後か
近隣との距離 屋外への漏れ
予算 どこまで費用をかけられるか

隣室が廊下なら要求は下がる

音楽室の隣が廊下や倉庫であれば、遮音の要求は下がります。普通教室が隣接していれば、要求が上がります。

既存の配置を確認し、必要な水準を決めてください。

優先順位

優先 対策
1 建具の交換と気密の確保
2 天井裏のつながりを切る
3 貫通部を塞ぐ
4 窓に内窓を設ける
5 吸音の調整
6 防振(浮き床など)

1から3は費用が小さく、効果が大きい対策です。浮き床は費用が大きいため、他の対策で足りるかを先に検討してください。

近隣への配慮

屋外への漏れは、近隣との関係に影響します。窓を閉めて使う前提にすれば、漏れは減ります。

ただし窓を閉めれば換気と室温の問題が出ます。空調の設置が前提になることがあります。空調の考え方は学校の空調設置はどう進めるのか?で扱っています。

測定して確認する

工事の前後で騒音レベルを測定すれば、効果を確認できます。学校環境衛生基準では、窓を閉じているときLAeq50dB以下、窓を開けているときLAeq55dB以下であることが望ましいとされています。

これは教室内の騒音の基準ですが、測定の方法として参考になります。

工事の範囲を区画で考える

音楽室1室だけを改修しても、隣室との間仕切りが弱ければ効果が限られます。音楽室と隣室の境界、上下階の床。対策は「室」ではなく「境界」に対して行うものです。

境界 対策
隣室との間仕切り 天井裏まで立ち上げ、建具を交換
廊下との境界 建具と換気口
上階との床 防振
下階への床 防振
外壁と窓 内窓

どの境界に問題があるかを特定してから、工事の範囲を決めてください。すべての境界に同じ対策を行うと、費用が膨らみます。

よくある質問

Q. 音楽室の防音はどこまで必要ですか。

A. 隣室と上下階の用途、使う楽器から決めます。隣が廊下や倉庫なら要求は下がり、普通教室が隣接していれば上がります。

Q. 遮音と吸音は違うのですか。

A. 違います。遮音は外に漏れるのを止めるもの、吸音は室内の響きを整えるものです。吸音材を貼っても隣室への漏れはほとんど変わりません。

Q. 壁を厚くすれば効果が出ますか。

A. 出ないことがあります。遮音は最も弱い部分で決まります。建具の隙間、換気口、貫通部、天井裏のつながりが弱点になります。

Q. 太鼓の音が下の階に響きます。どうすればよいですか。

A. 低音と打撃音は床を伝わるため、遮音では止まりません。防振の架台を設けるか、低音の楽器を1階に置く配置にしてください。

Q. 費用を抑えて効果を出す順序はありますか。

A. 建具の交換と気密の確保、天井裏のつながりを切る、貫通部を塞ぐ。この3つが費用が小さく効果が大きい対策です。

Q. 基準となる数値はありますか。

A. 学校環境衛生基準では、騒音レベルについて窓を閉じているときLAeq50dB以下、窓を開けているときLAeq55dB以下であることが望ましいとされています。

まとめ

音楽室の防音では、遮音、防振、吸音の3つを分けて考えてください。効く相手が違います。遮音は空気を伝わる音を外に漏らさないため、防振は床や躯体を伝わる振動を止めるため、吸音は室内の響きを整えるためのものです。

遮音は最も弱い部分で決まります。壁を厚くしても、建具に隙間があれば効果が出ません。学校の建具は木製で隙間があるものが多く、ここが最大の弱点です。あわせて換気口、配管と配線の貫通部、天井裏のつながりを確認してください。

低音と打撃音は床を伝わるため、遮音では止まりません。床全体を浮かせる工事は費用が大きく、天井高も下がります。打楽器やピアノの位置に防振の架台を設ける、低音の楽器を1階に置くといった部分的な対応から検討してください。

吸音はしすぎないことです。壁と天井のすべてに吸音材を貼ると響きがなくなり、演奏しにくくなります。反射する面を残すバランスが必要です。

優先順位は、建具の交換と気密の確保、天井裏のつながりを切る、貫通部を塞ぐ、窓に内窓を設ける、吸音の調整、防振の順です。最初の3つは費用が小さく効果が大きい対策です。

そして窓を閉めて使う前提にすれば屋外への漏れは減りますが、換気と室温の問題が出ます。学校環境衛生基準では換気について二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされており、空調の設置が前提になることがあります。

参考・出典

記載の基準および制度は公表時点のものです。必要な遮音の水準は隣室の用途、使用する楽器および建物の構造により異なります。個別の判断は設計者および音響の専門家にご確認ください。

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