この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

長寿命化改修で何年延びるのか?

改修の範囲と構造体の状態

計画上は、築40年で改修して80年まで使う組み立てです。

文部科学省の方針を受けた自治体の長寿命化計画では、目標使用年数を80年とし、築20年で大規模改造、築40年で大規模改修、築60年で大規模改造、築80年で改築という組み立てが示されています。

つまり築40年の大規模改修が、その後40年使うための節目になります。この意味で「40年延びる」と説明されることがあります。

ただし実際に延びる年数は、改修の範囲と構造体の状態で決まります。内装と設備だけを新しくしても、構造体が傷んでいれば延びません。

この記事では、①計画上の考え方、②何を改修すると延びるのか、③延びない場合、④判断の方法、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 文部科学省の方針を受けた自治体の計画では、目標使用年数80年、築20年で大規模改造、築40年で大規模改修、築60年で大規模改造、築80年で改築という組み立てが示されている
  • 建物の使用期間を決めるのは構造体の状態で、仕上げや設備の更新では延びない
  • 構造体の劣化を抑えるには、雨水の侵入を止めることが前提になる
  • 耐震性能が確保されていなければ、長寿命化の議論より補強または改築の判断が先に来る
  • 長寿命化改良などの事業には個別施設計画への位置づけが前提になるものがある

計画上はどう考えられているのか?

築40年の改修が節目です。

築年数 整備の内容
築20年 大規模改造
築40年 大規模改修
築60年 大規模改造
築80年 改築

この組み立てでは、築40年の大規模改修で建物の性能を回復させ、その後40年使うという考え方になります。

従来は築40年から50年で建て替える流れがありました。この時点で改修に切り替えることで、建て替えの時期を後ろに送る形です。

建て替えとの比較で意味が出る

長寿命化改修の意味は、建て替えと比べたときに出ます。改修の費用が建て替えの費用より小さく、使える年数が十分に残るなら、改修のほうが有利になります。

逆に改修の費用が建て替えに近づくなら、建て替えたほうがよいという判断になります。

周期の設定は自治体ごとに異なる

20年周期とする例、15年周期とする例、部位ごとに細かく設定する例があります。所在する自治体の計画を確認してください。

修繕の周期の考え方は学校の大規模修繕の周期は何年なのか?で扱っています。

延びる年数は計画上の設定

「40年延びる」という説明は、計画上の設定に基づくものです。個々の建物について保証された年数ではありません。

実際に延びるかは、改修の範囲と構造体の状態で決まります。

何を改修すると延びるのか?

構造体を守る部分です。

建物の使用期間を決めるのは構造体です。構造体を守る部分に手を入れることが、使用期間を延ばすことにつながります。

改修の対象 使用期間への影響
屋上防水 大きい。雨水の侵入を止める
外壁の仕上げとひび割れ 大きい。水と空気の侵入を止める
建具・サッシまわり 大きい。漏水の経路になる
構造体の補修 大きい。鉄筋の腐食への対処
給排水管 中。漏水が構造体に及ぶ
内装の仕上げ 小さい。使いやすさは上がる
空調・照明 小さい。使いやすさは上がる

雨水を止めることが前提

構造体の劣化は、水の侵入が起点になります。屋上防水の切れ、外壁のひび割れ、建具まわりからの漏水。

これらを止めなければ、内装を新しくしても数年で同じ状態になります。屋上防水の考え方は屋上防水はどう改修するのか?で扱っています。

構造体の補修が必要な場合

鉄筋が腐食して膨張し、コンクリートを押し出している箇所があれば、その補修が必要です。表面を塗り替えただけでは進行が止まりません。

中性化の深さと鉄筋の腐食の状況を調査し、必要な補修を特定してください。

内装と設備は使いやすさの改善

内装の張り替え、空調の設置、照明のLED化、トイレの改修。これらは学習環境を改善しますが、建物の使用期間を延ばすものではありません。

ただし長寿命化改修の機会にまとめて行う意味はあります。足場と仮設を共有でき、授業への影響も1回で収まります。

長寿命化改修の内容

長寿命化改修として行う工事の範囲は学校の長寿命化改修とは何か?で扱っています。構造体を守る工事と、環境を改善する工事の両方が含まれます。

延びない場合はどういうときか?

4つあります。

状況 理由
耐震性能が確保されていない 補強または改築の判断が先に来る
構造体の劣化が進んでいる 補修の費用が大きくなり、改築に近づく
雨水の侵入を止めていない 改修後も劣化が続く
児童生徒数が減って統合する 建物を残しても学校として続かない

耐震性能が先に来る

文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとし、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1として改築が望ましいとしています。

Is値0.3未満の建物に長寿命化改修を行っても、安全性が確保されません。この場合は補強または改築の判断が先に来ます。

構造体の劣化が大きい場合

中性化が鉄筋の位置まで進み、広範囲で鉄筋が腐食している場合、補修の範囲が大きくなります。

費用が改築に近づけば、改築のほうが有利になります。どこで線を引くかは、調査の結果と費用の見積りで判断します。

雨水を止めない改修

内装と設備だけを新しくした改修では、構造体の劣化が続きます。数年で天井に雨染みが出て、同じ議論に戻ります。

優先順位は、屋上防水と外壁が先、内装と設備が後です。

学校として続かない場合

建物として80年使えるとしても、児童生徒数が減って統合すれば学校としては終わります。

寿命の考え方は老朽化した校舎の寿命は何年なのか?で扱っています。児童生徒数の見通しを重ねて判断してください。

判断はどう行うのか?

調査と費用の比較です。

手順 内容
1 耐震性能を確認する
2 構造体の劣化を調査する(中性化、鉄筋の腐食、ひび割れ)
3 雨水の侵入の状況を確認する
4 必要な改修の範囲を特定する
5 改修の費用を算出する
6 改築の費用と比較する
7 児童生徒数の見通しを重ねる

調査を先に行う

改修の範囲を決めるには、構造体の状態を知る必要があります。調査なしに「長寿命化改修をする」と決めると、工事中に想定外の劣化が見つかって費用が膨らみます。

改築の費用と比較する

改修の費用が改築の費用の何割に当たるかを出してください。この比率が判断の材料になります。

比率が高ければ改築、低ければ改修。どこで線を引くかは、残す年数と地域の事情によります。

残す年数を決める

その建物を何年使うかを先に決めてください。40年使うなら構造体を守る工事が必要で、10年なら安全の確保と雨漏りの対策に絞る判断になります。

残す年数が決まれば、必要な工事と不要な工事が分かれます。この切り分けが費用を抑える要になります。

補助の事業区分を確認する

長寿命化改良などの事業には、個別施設計画への位置づけが前提になるものがあります。計画がなければ申請できません。

また大規模改造と長寿命化改良では算定割合が異なります。同じ工事でも区分が変われば自治体の負担も変わるため、計画の段階で所管部署に確認してください。

年あたりのコストで比べる

改修と改築を比べるとき、工事費の総額だけを見ると改修が有利に見えます。使える年数で割った値で比べてください。

比較の項目 内容
工事費の総額 改修と改築のそれぞれ
延びる年数 改修後に使える年数
年あたりの工事費 総額を年数で割る
その後の維持費 改修後の維持管理費
光熱費 断熱と設備の性能による差

改修で40年延び、改築で80年使えるなら、年あたりの額では差が縮まります。さらに改築した建物は断熱の性能が高く、光熱費が下がります。

この比較をせずに総額だけで決めると、長期では高い選択になることがあります。

どう進めるのか?

計画の位置づけから始めます。

手順 内容
1 個別施設計画に位置づける
2 調査を前年度に済ませる
3 設計者を選定する
4 補助の申請を行う
5 実施設計、入札、契約
6 工事
7 実績報告

調査は前年度に済ませる

調査の結果が出ないと、工事の範囲と事業費が決まりません。年度が替わってから調査を始めると、その年度の申請に間に合いません。

工事中の授業への影響を設計に織り込む

長寿命化改修は工事の範囲が広く、期間も長くなります。在校中に工事を行う場合、工区を分けて進める計画が必要です。

夏休みと冬休みに合わせた工程では、1年では終わらないことがあります。複数年度にわたる計画になります。

まとめて行う工事を決める

足場を組む機会に、外壁、屋上防水、建具をまとめて行ってください。別の年度に分けると足場が2回必要になります。

内装と設備も、同じ工区で行えば仮設を共有できます。

説明できる形にする

長寿命化改修は、建て替えと比べて費用が小さいという説明で進められます。この比較を数字で示せる形にしておいてください。

改修の費用、改築の費用、延びる年数、年あたりのコスト。この4つを並べれば、議会にも地域にも説明できます。

よくある質問

Q. 改修のほうが安いのではないですか。

A. 工事費の総額では改修が小さくなりますが、使える年数で割った額で比べてください。改築した建物は断熱の性能が高く、光熱費も下がります。

Q. 長寿命化改修で何年延びますか。

A. 計画上は、築40年で大規模改修を行い目標使用年数80年まで使う組み立てです。ただし実際に延びる年数は、改修の範囲と構造体の状態で決まります。

Q. 内装と設備を新しくすれば延びますか。

A. 延びません。建物の使用期間を決めるのは構造体です。優先順位は屋上防水と外壁が先、内装と設備が後です。

Q. どの工事が効きますか。

A. 構造体を守る工事です。屋上防水、外壁の仕上げとひび割れ、建具まわり、構造体の補修。これらが雨水の侵入を止め、劣化を抑えます。

Q. 耐震性能が低い建物でも長寿命化改修できますか。

A. Is値0.3未満またはq値0.5未満であれば、学校施設耐震化推進指針では改築が望ましいとされています。補強または改築の判断が先に来ます。

Q. 改修と改築はどう比べますか。

A. 改修の費用が改築の費用の何割に当たるかを出してください。この比率と残す年数を並べて判断します。

Q. 何から始めますか。

A. 調査です。耐震性能、構造体の劣化、雨水の侵入の状況を確認してから、必要な改修の範囲を特定してください。調査は前年度に済ませる段取りが必要です。

まとめ

長寿命化改修で延びる年数は、計画上は築40年の大規模改修からその後40年という組み立てです。文部科学省の方針を受けた自治体の計画では、目標使用年数80年、築20年で大規模改造、築40年で大規模改修、築60年で大規模改造、築80年で改築という例が示されています。

ただしこれは計画上の設定で、個々の建物について保証された年数ではありません。実際に延びるかは、改修の範囲と構造体の状態で決まります。

効くのは構造体を守る工事です。屋上防水、外壁の仕上げとひび割れ、建具まわり、構造体の補修。構造体の劣化は水の侵入が起点になるため、これを止めることが前提になります。内装の張り替えや空調の設置は学習環境を改善しますが、使用期間を延ばすものではありません。

延びない場合が4つあります。耐震性能が確保されていない、構造体の劣化が大きい、雨水の侵入を止めていない、児童生徒数が減って統合する。Is値0.3未満であれば、学校施設耐震化推進指針では改築が望ましいとされています。

判断は調査と費用の比較です。耐震性能、構造体の劣化、雨水の侵入を調査し、必要な改修の範囲を特定して費用を出し、改築の費用と比較する。そして残す年数を先に決めてください。

進め方では、調査を前年度に済ませることと、足場を組む機会に外壁・屋上防水・建具をまとめることです。そして改修の費用、改築の費用、延びる年数、年あたりのコストを並べて、説明できる形にしておいてください。

参考・出典

記載の方針および年数の設定は公表時点のものです。目標使用年数、改修の周期および事業の区分は自治体の計画と補助の制度により異なります。個別の判断は所管部署および設計者にご確認ください。

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