この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

理科室の改修で気をつけることは何か?

換気・薬品・排水

換気と薬品の保管が中心です。

理科室は、他の教室と違う条件を抱えています。実験で発生するガスと粉じん、薬品の保管、排水に流せない物質、電気と水とガスが同じ台に集まる構成。

学校環境衛生基準では、教室等の環境について換気の二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされ、浮遊粉じんは0.10mg/m3以下であることとされています。理科室では、これに加えて実験で生じる物質への対応が必要になります。

そして薬品は、毒物及び劇物取締法と消防法の両方が関わります。

この記事では、①換気、②薬品の保管、③実験台と設備、④排水、⑤改修の進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校環境衛生基準では、換気について二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされている
  • 同基準では浮遊粉じんが0.10mg/m3以下、一酸化炭素が6ppm以下、ホルムアルデヒドが100マイクログラム毎立方メートル(0.08ppm)以下であることとされている
  • 薬品の保管は、毒物及び劇物取締法に基づく表示と盗難・紛失の防止が関わる
  • 引火性の薬品は消防法上の危険物に該当し、指定数量の5分の1以上であれば少量危険物として市町村の火災予防条例に基づく届出が必要になる
  • 実験の排水は、下水道法または水質汚濁防止法の基準が関わる

換気はどう考えるのか?

実験で生じる物質を室外に出します。

学校環境衛生基準では、教室等の環境に係る基準として次の数値が示されています。

項目 基準
換気(二酸化炭素) 1500ppm以下であることが望ましい
温度 18度以上、28度以下であることが望ましい
相対湿度 30パーセント以上、80パーセント以下であることが望ましい
浮遊粉じん 0.10mg/m3以下であること
気流 0.5m毎秒以下であることが望ましい
一酸化炭素 6ppm以下であること
ホルムアルデヒド 100マイクログラム毎立方メートル(0.08ppm)以下であること

全体換気と局所排気を分ける

理科室の換気は、2つに分かれます。室全体の空気を入れ替える全体換気と、発生源の近くで捕集する局所排気です。

方式 役割
全体換気 室全体の空気を入れ替える
局所排気(ドラフトチャンバー等) 発生源で捕集し室内に拡散させない
自然換気 窓の開放

実験で有害なガスが発生する場合、全体換気だけでは足りません。発生源で捕集する設備が必要になります。

局所排気の設備

ドラフトチャンバーや局所排気のフードを設ける場合、排気のダクトの経路と排気口の位置が問題になります。

既存の校舎では、ダクトを通す経路が確保できないことがあります。外壁を貫通させるか、天井裏を通すか。構造と防火区画の検討を伴います。

気流の方向

局所排気を設けると、室内の空気が排気側に流れます。この流れが廊下から室内に向かう方向になっていないと、臭気が廊下に流れます。

給気と排気のバランスを設計で確認してください。

実験室と準備室

理科室には準備室が併設されるのが通例です。準備室に薬品を保管する場合、ここの換気も必要になります。

密閉された準備室に薬品を置くと、揮発した成分が滞留します。換気の計画に含めてください。

空調と換気の両立

換気量を増やすと、空調の負荷が上がります。夏季と冬季に室温を保ちながら必要な換気量を確保するには、熱交換を伴う換気の設備を検討することになります。

空調の考え方は学校の空調設置はどう進めるのか?で扱っています。理科室は換気量が大きいため、他の教室と同じ設計では室温が保てません。

薬品の保管はどうするのか?

2つの法律が関わります。

法律 関わる内容
毒物及び劇物取締法 表示、保管、盗難・紛失の防止
消防法 引火性の薬品の危険物としての扱い

毒物及び劇物取締法

毒物または劇物を取り扱う場合、容器への表示、保管の方法、盗難と紛失の防止が求められます。学校は業務上取扱者に当たる場合があります。

対応 内容
保管の場所 施錠できる薬品庫
表示 容器と保管場所への表示
台帳 品目と数量の記録
盗難・紛失の防止 施錠と管理の体制
廃棄 専門の処理業者に委託

薬品庫は施錠できる構造とし、鍵の管理を決めてください。改修の機会に、薬品庫の位置と仕様を見直すことができます。

消防法上の危険物

引火性の薬品は、消防法上の危険物に該当します。指定数量以上を貯蔵または取り扱う場合は消防法の規制対象となり、許可が必要です。

指定数量の5分の1以上で指定数量未満の場合は、少量危険物として市町村の火災予防条例による規制の対象となり、管轄の消防署への届出が必要になります。

品名 指定数量 5分の1
ガソリン(第1石油類) 200リットル 40リットル
灯油・軽油(第2石油類) 1,000リットル 200リットル
重油(第3石油類) 2,000リットル 400リットル
消毒用アルコール 400リットル 80リットル

学校の理科室で扱う量は多くありませんが、複数の品目を合わせた倍数で判断される場合があります。消防本部に確認してください。

台帳にない薬品が出てくる

改修のために薬品庫を整理すると、台帳にない薬品が見つかることがあります。何年も前に購入され、記録が引き継がれていないものです。

この場合、品目の特定と適切な処分が必要になります。学校の職員が判断して廃棄するものではありません。専門の処理業者に相談してください。

改修の機会に整理する

改修で薬品を一時的に移すとき、整理の機会になります。使っていない薬品の処分、台帳の更新、保管方法の見直し。

工事の計画に、この作業の期間を含めてください。

実験台と設備はどうするのか?

水、電気、ガスが1つの台に集まります。

項目 確認すること
実験台の天板 薬品に耐える材質、傷と腐食
給水 蛇口の数と位置、止水栓
排水 配管の材質、トラップ
ガス 配管の状態、元栓の位置
電気 コンセントの数と防水
照明 手元の明るさ
床 薬品がこぼれたときの対応

配管の劣化を確認する

実験台の下の配管は、薬品の影響で腐食していることがあります。目視で確認できない部分が多く、改修の際に開けて初めて分かることがあります。

給排水設備の更新は給排水設備はどう更新するのか?で扱っています。

ガスを残すか撤去するか

実験でガスバーナーを使う機会が減り、電気式の加熱器に替える学校があります。この場合、ガスの配管を撤去する判断があります。

ガスを残すなら配管の点検と元栓の管理、撤去するなら電気の容量の確認が必要です。

電気の容量

電気式の実験機器を増やすと、回路の容量が足りなくなります。実験台ごとの回路の構成を確認してください。

電気設備の更新は電気設備はどう更新するのか?で扱っています。

床の仕上げ

薬品がこぼれたときに、床材が傷まない仕上げが望まれます。また掃除しやすい仕上げであること。

既存の床が木やビニルの場合、薬品の跡が残っていることがあります。改修で材質を見直してください。

什器の固定

薬品棚、戸棚、実験台。地震で転倒すると、薬品が飛散します。

固定の状況を確認し、不足していれば改修の機会に対応してください。

排水はどう扱うのか?

流せないものがあります。

実験の排水には、重金属、酸、アルカリ、有機溶剤が含まれることがあります。これらをそのまま流すと、下水道法または水質汚濁防止法の基準に関わります。

確認項目 内容
放流先 公共下水道か、河川等か
下水道の場合 下水道法に基づく水質の基準
河川等の場合 水質汚濁防止法の排水基準
中和の設備 酸とアルカリの処理
回収の運用 流さずに回収して処理する
浄化槽の場合 処理に影響する物質がある

流さずに回収する運用

実験で生じた廃液を排水に流さず、容器に回収して専門の処理業者に委託する運用が基本です。

この運用を前提にすれば、排水の設備への要求は小さくなります。回収容器の置き場所と、一時保管の場所を計画に含めてください。

浄化槽の校舎

郊外の学校では浄化槽で処理していることがあります。薬品を流すと浄化槽の微生物に影響し、処理能力が落ちます。

浄化槽の校舎では、回収の運用がより重要になります。

中和の設備

酸とアルカリを中和する設備を設ける方法があります。ただし設備の維持管理が必要で、使われなくなると機能しません。

回収の運用で対応できるなら、そちらが現実的です。

排水の配管の材質

薬品が流れる配管は、材質によって腐食します。既存の配管が何でできているかを確認してください。

鋳鉄管や鋼管では腐食が進んでいることがあります。

改修はどう進めるのか?

薬品の整理が先に来ます。

手順 内容
1 薬品の台帳と現物を照合する
2 不要な薬品を処分する
3 既存の設備と配管の状態を調査する
4 換気の方式を決める
5 薬品庫の位置と仕様を決める
6 実験台と配管を計画する
7 工事の時期を決める

薬品の整理に時間がかかる

台帳と現物の照合、品目の特定、処分の手配。この作業に時間がかかります。工事の前年度から始めてください。

台帳にない薬品が出てくる可能性を前提に、期間を見込んでください。

調査で配管の状態を確認する

実験台の下、床下、壁の中。配管の状態は開けないと分かりません。

調査の種類は学校改修の現地調査は何をするのか?で扱っています。部分的に開けて確認する調査が必要になります。

工事の時期

理科室の改修は、理科の授業に影響します。長期休業に寄せる計画が基本です。

ただし配管と換気の工事は期間が必要で、夏季休業に収まらないことがあります。別の教室を理科の授業に使う期間を設ける判断になります。

消防本部と保健所への相談

薬品の保管と危険物の扱いについて、消防本部に相談してください。また排水について、下水道の管理者または環境の所管部署に確認してください。

設計を進める前に、これらの相談を済ませてください。

よくある質問

Q. 理科室の改修で最も重要なのは何ですか。

A. 換気と薬品の保管です。実験で生じるガスと粉じんを室外に出す計画と、薬品を適切に保管する設備が中心になります。

Q. 換気の基準はありますか。

A. 学校環境衛生基準では、換気について二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされ、浮遊粉じんは0.10mg/m3以下であることとされています。

Q. 全体換気だけで足りますか。

A. 足りない場合があります。有害なガスが発生する実験では、発生源で捕集する局所排気の設備が必要になります。

Q. 薬品の保管に手続きは必要ですか。

A. 毒物及び劇物取締法に基づく表示と盗難・紛失の防止が関わります。引火性の薬品は消防法上の危険物に該当し、指定数量の5分の1以上であれば少量危険物として市町村の火災予防条例に基づく届出が必要になります。

Q. 実験の廃液は排水に流せますか。

A. 流さずに回収して専門の処理業者に委託する運用が基本です。重金属、酸、アルカリ、有機溶剤を含む排水は下水道法または水質汚濁防止法の基準に関わります。

Q. 何から始めますか。

A. 薬品の台帳と現物の照合です。台帳にない薬品が見つかることがあり、品目の特定と処分に時間がかかります。工事の前年度から始めてください。

まとめ

理科室の改修では、換気と薬品の保管が中心になります。

学校環境衛生基準では、換気について二酸化炭素が1500ppm以下であることが望ましいとされ、浮遊粉じんは0.10mg/m3以下、一酸化炭素は6ppm以下、ホルムアルデヒドは100マイクログラム毎立方メートル以下であることとされています。理科室では、これに加えて実験で生じる物質への対応が必要です。

換気は全体換気と局所排気に分かれます。有害なガスが発生する実験では、発生源で捕集する設備が必要です。ただし既存の校舎ではダクトの経路が確保できないことがあり、構造と防火区画の検討を伴います。給気と排気のバランスで、臭気が廊下に流れない気流にしてください。

薬品の保管は、毒物及び劇物取締法に基づく表示と盗難・紛失の防止、そして消防法上の危険物の扱いが関わります。引火性の薬品は指定数量の5分の1以上であれば、少量危険物として市町村の火災予防条例に基づく届出が必要になります。

実験台では、水、電気、ガスが1つの台に集まります。配管は薬品の影響で腐食していることがあり、開けないと分かりません。ガスを残すか撤去するか、電気の容量が足りるかを確認してください。

排水は、流さずに回収して専門の処理業者に委託する運用が基本です。浄化槽の校舎では、薬品が処理能力に影響するため、この運用がより重要になります。

進め方では、薬品の台帳と現物の照合が先に来ます。台帳にない薬品が見つかることがあり、品目の特定と処分に時間がかかります。工事の前年度から始めてください。

参考・出典

記載の法令および基準は公表時点のものです。少量危険物の届出に関する規定は市町村の火災予防条例により異なり、排水の基準は放流先により異なります。個別の適用は消防本部、保健所、下水道管理者および設計者にご確認ください。

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