目次
遮音・電源・搬入動線
廃校は、ロケ地として需要があります。
学校を舞台にした映像作品は多く、現役の学校では撮影の許可が取りにくい。授業があり、児童生徒が写り、関係者の同意が必要になる。閉校した校舎なら、教室、廊下、階段、体育館、保健室、グラウンドが撮影のためだけに使えます。
ただし「ロケ地として貸す」と「撮影スタジオとして整備する」は別の話です。前者は建物をほぼそのまま使い、後者は遮音と電源と空調を整えることになります。
収入の性質も違います。ロケ地の貸出しは単発で波があり、スタジオ運営は稼働率で決まります。
この記事では、①2つの形の違い、②用途変更と消防法、③遮音、④電源と空調、⑤搬入動線と運営、の5点を整理します。
この記事の要点
- ロケ地としての貸出しと、撮影スタジオとしての整備は、工事費も収入の性質も異なる
- 映画スタジオ、テレビスタジオは建築基準法施行令第137条の18第11号の区分だが、学校は11区分のいずれにも含まれない
- 工場、作業場、映画スタジオは消防法施行令別表第一の(12)項で、特定防火対象物には該当しない
- 遮音は暗騒音と遮音性能の両方の問題で、学校の単板ガラスと木製建具では足りない
- 照明用の電源容量と搬入経路が、スタジオとして使えるかを決める
2つの形はどう違うのか?
工事の量が違います。
| 項目 | ロケ地貸出し | 撮影スタジオ |
|---|---|---|
| 工事 | 最小限。安全確保が中心 | 遮音、電源、空調の整備 |
| 使う範囲 | 作品によって変わる | 固定した室を整える |
| 収入 | 単発。波が大きい | 稼働率で決まる |
| 営業 | 作品ごとに相談 | 継続的な顧客 |
| 管理 | 撮影のたびに立会い | 常駐または予約制 |
| 残す状態 | 学校のまま。それが価値 | 用途に合わせて改修 |
ロケ地としての価値は「学校に見えること」です。改修して現代的にすると、その価値が下がります。これは他の転用と逆の性質です。
ロケ地として貸すなら改修を抑える
黒板、ロッカー、木製の建具、床の傷。これらが撮影では価値になります。改修で新しくすると、学校らしさが失われます。
したがって工事は、安全の確保と最低限の設備に絞ります。落下の危険がある箇所、床の損傷、電気設備の安全。これだけを直して貸す形です。
スタジオとして整備するなら用途を絞る
撮影用のスタジオとして整備するなら、使う室を絞り、遮音と電源と空調を入れます。校舎全体を整備すると費用が合いません。
部分活用の考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。
両方を組み合わせる
1棟をロケ地として学校のまま残し、別の棟または体育館をスタジオとして整備する形があります。収入の柱を2つ持てます。
ただし管理と空調の範囲が分かれるため、区画の計画が必要です。
用途変更と消防法はどうなるのか?
映画スタジオへの変更は類似の用途に当たりません。
建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めており、第11号が映画スタジオ、テレビスタジオです。
ただし学校はこの11区分のいずれにも含まれていません。したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 計画 | 確認申請 |
|---|---|
| 校舎をスタジオにする | 必要 |
| 200平方メートル以下に収める | 不要(実体規定は守る) |
| 学校のまま一時的に貸す | 用途を変更しないなら対象外 |
一時的な貸出しで、建物の用途を変更しない形であれば、用途変更の手続きは論点になりません。この点はロケ地貸出しの利点です。
既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。
消防法では非特定のまま
学校は消防法施行令別表第一の(7)項、工場・作業場・映画スタジオは(12)項です。どちらも特定防火対象物には該当しません。
このため消防用設備等の遡及適用の負担は、福祉施設や宿泊施設への転用より小さく収まる可能性があります。ただし消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。
古い校舎では、誘導灯や消火器の配置が現行の基準に合っていないことがあります。貸出しを始める前に確認してください。
火気の使用と特殊効果
撮影では火気や煙を使う場合があります。火災予防条例に基づく届出や制限が関わるため、消防本部への確認が必要です。
撮影のたびに手続きが必要になる場合があるため、運営の手順に組み込んでください。
遮音はどこまで必要なのか?
暗騒音と遮音性能の両方です。
録音を伴う撮影では、室内の静けさが品質を決めます。学校の校舎は、自然換気と採光を優先した構成で、遮音を意図していません。
| 要因 | 学校の状態 |
|---|---|
| 窓 | 単板ガラス、アルミサッシ。遮音性能が低い |
| 建具 | 木製、ガラス入り。隙間がある |
| 間仕切り | 天井裏でつながっていることがある |
| 空調 | 運転音が入る |
| 外部の音 | 道路、農機、鳥、雨音 |
| 配管 | 排水音が伝わる |
まず確認するのは、立地の暗騒音です。幹線道路に面している、近くに工場がある、上空に航路がある。こうした立地では、建物の遮音を上げても限界があります。
既存の窓では足りない
単板ガラスのアルミサッシは遮音性能が低く、撮影には足りません。内窓を設けて二重にする、または窓を塞いで壁にする方法があります。
窓を塞げば遮音と遮光が同時に改善しますが、自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部の算定にも関わります。
天井裏のつながりを切る
教室の間仕切り壁が天井までで止まっており、天井裏でつながっている校舎があります。この場合、隣室の音が天井裏を通って回り込みます。
間仕切りを天井裏まで立ち上げる工事が必要になります。工事費の大きい項目ではありませんが、見落とすと遮音が成立しません。
空調の運転音
録音中に空調を止める運用もありますが、夏季は室温が上がります。低騒音の機器を選ぶか、機械室を離すかの検討が必要です。
体育館は暗騒音と残響の両方が課題
体育館は天井が高く容積が大きいため、残響が長くなります。吸音の処理が必要です。
一方、屋根が金属板であれば雨音が大きく入ります。雨天時に録音ができないことがあります。
電源と空調はどうするのか?
照明の容量です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 照明用の電源 | 撮影用照明の同時使用 |
| 幹線と分電盤 | 容量と配線の経路 |
| 床または壁のコンセント | 配線を這わせない構成 |
| 空調 | 照明の発熱を処理する |
| 発電機の持込み | 屋外に置く場所と騒音 |
| 既存の受電容量 | 不足すれば更新が必要 |
撮影用の照明は消費電力が大きく、複数台を同時に使います。学校の教室のコンセント回路では容量が足りません。
設備の更新の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。受電容量と幹線の確認が先に来ます。
発電機の持込みで対応する場合
撮影の現場では発電機を持ち込むことがあります。この場合、屋外に置く場所、電源ケーブルの引込み経路、騒音への配慮が必要です。
近隣に住宅がある立地では、発電機の騒音が論点になります。
照明の発熱で室温が上がる
撮影用照明を使うと室温が上がります。空調を止めて録音する運用では、短時間で室温が上がり、撮影の中断につながります。
断熱があれば室温の上昇が緩やかになり、空調を止めている時間を長く取れます。壁に断熱材のない校舎では、夏季の最上階は撮影に使えないことがあります。
搬入動線と運営はどう組むのか?
機材が入るかで決まります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 車両の進入 | 大型車がグラウンドまで入れるか |
| 寄付け | 建物の近くに停められるか |
| 開口の寸法 | 昇降口、建具の幅と高さ |
| 階段 | 大型機材を上げられるか |
| 控室・待機場所 | スタッフと出演者の人数分 |
| 電源と通信 | 控室にも必要 |
| トイレ | 使える数と位置 |
| 駐車場 | 車両と関係者の台数 |
撮影の現場は人と機材が集まります。グラウンドが駐車場として使えることは利点です。
控室が必要になる
撮影には出演者とスタッフの待機場所が必要です。教室をそのまま使えますが、空調とトイレが機能している必要があります。
使う範囲を絞る計画では、控室として使う室も範囲に含めてください。
2階以上は搬入が制約になる
大型の機材は階段を上げられません。エレベーターのない校舎では、2階以上の撮影に制約が出ます。
1階と体育館を主な撮影の場とし、2階以上は軽い機材で撮る前提にするのが現実的です。
稼働率が収支を決める
スタジオとして整備する場合、稼働率が収支を決めます。立地が都市から遠いと、移動の負担で選ばれにくくなります。
収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。整備費を抑えてロケ地貸出しから始める判断もあります。
窓口を1つにする
撮影の相談は、日程、使用範囲、火気、立会い、料金と、確認事項が多くなります。窓口が分かれていると対応が遅れ、次の依頼が来なくなります。
受付の窓口と判断の権限を1つにまとめてください。
よくある質問
Q. ロケ地として貸すのに工事は必要ですか。
A. 安全の確保と最低限の設備に絞れます。学校らしさが撮影での価値になるため、改修で新しくすると価値が下がります。
Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。
A. スタジオとして整備するなら、200平方メートルを超えれば必要です。学校のまま一時的に貸す形で用途を変更しないなら、論点になりません。
Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。
A. 工場、作業場、映画スタジオは消防法施行令別表第一の(12)項で特定防火対象物には該当しません。ただし消火器や誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。
Q. 遮音で最初に確認することは何ですか。
A. 立地の暗騒音です。幹線道路や工場が近い立地では、建物の遮音を上げても限界があります。
Q. 教室の間仕切りで遮音できますか。
A. 天井裏でつながっている校舎では、隣室の音が回り込みます。間仕切りを天井裏まで立ち上げる工事が必要です。
Q. 電源は足りますか。
A. 撮影用照明は消費電力が大きく、教室のコンセント回路では足りません。受電容量と幹線の確認が先に来ます。発電機の持込みで対応する場合は、置き場所と騒音への配慮が必要です。
まとめ
廃校は、現役の学校では撮影が難しいという事情から、ロケ地として需要があります。ただしロケ地として貸すことと、撮影スタジオとして整備することは別の話です。
ロケ地としての価値は学校に見えることです。黒板、ロッカー、木製の建具。これらを改修で新しくすると価値が下がります。工事は安全の確保と最低限の設備に絞り、学校のまま貸す。用途を変更しないなら、用途変更の手続きも論点になりません。
スタジオとして整備するなら、使う室を絞ってください。校舎全体の整備は費用が合いません。学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。消防法では(7)項から(12)項への変更で、どちらも特定防火対象物には該当しません。
遮音は、まず立地の暗騒音を確認してください。幹線道路や工場が近ければ限界があります。建物では、単板ガラスのアルミサッシが足りず、天井裏で間仕切りがつながっている校舎では隣室の音が回り込みます。
電源は撮影用照明の容量です。教室のコンセント回路では足りず、受電容量と幹線の確認が先に来ます。照明の発熱で室温も上がるため、断熱があれば運用が楽になります。
そして搬入動線です。大型機材は階段を上げられないため、1階と体育館を主な撮影の場とする構成が現実的です。整備費を抑えてロケ地貸出しから始め、需要が見えてから設備を足す判断もあります。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000186
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
記載の法令および制度は公表時点のものです。用途変更の判定、火気の使用に関する手続きおよび消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、消防本部および設計者にご確認ください。
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